07 町に入ろう
馬車に揺られること4時間と少し、その間に色々と教えてもらった。
あ、ちなみに〈鑑定眼〉でテリアのステータスを少しのぞいてみたんだが、
名前:テリア
種族:人間
年齢:25歳
性別:男性
職業:行商人
レベル:11
といった感じだ。自分のステータスと比較すると、スキルの欄がなくなって代わりに職業が追加されていた。人によって表示される情報に差が出ているな。スキルは持って無いから表示されていないのか。自分も今は職業がないから表示されていなかっただけで何かしら職に就けば職業欄が追加されるのだろうか。あれ、でも名前は最初無しだったのに表示されていたよな……うーんこの辺ももう少しデータ集めが必要か? ただ、正直わざわざステータスを見る必要のない情報ばっかりだよな。種族と性別は見ればわかるし、名前と職業は教えてもらった。年齢なんかは正直知りたいとは思わない。となると人間に〈鑑定眼〉をかける意味がなくなってくるな。面倒だし今後もあまり人間相手には使わないようにしようか。
ただ、レベルが11もあったのには驚いた。ちなみに今の俺――私のレベルは3だ。たぶんゴブリンとオークを倒したので上がったんだろう。それでもテリアのほうが8も上だ。行商人なんて戦いとは無縁の職業っぽいのに。あと、名前欄が『無し』から『ノワール』に変わっていた。あと、装備欄が増えていた。こんな感じに↓
名前:ノワール
種族:狐人族
年齢:18歳
性別:女性
レベル:3
装備:ショートソード
スキル:鑑定眼Lv.10
全状態異常無効化Lv.10
気配察知Lv.10
回復魔法Lv.10
肉体強化Lv.10
腕力強化Lv.10
脚力強化Lv.10
剣技Lv.10
アイテムボックスLv.10
「いやー、助かったよ。」
「このあたりは、魔物がよく出るのか? そこを1人で?」
「いや、いつもは――」
聞くところによると、いつもはちゃんと護衛の冒険者を雇っているらしい。あ、冒険者とかいるんだ。ただ今回は護衛をお願いしていた人たちが怪我で当日キャンセルされたとか。急遽護衛を集めようとしても、当日いきなりだったため集まらなかった。そして、自分でもゴブリン2~3匹程度なら追い払えると思っていたため、多少迷ったものの1人で出発したらしい。
話している感じ、気のいい兄ちゃんといった感じだ。特にこちらに対して悪意とかそういったものはないようだ。少なくとも盗賊みたいに『げへへ、1人でこんなところに? とんだカモじゃねぇか』みたいなことは考えていないだろう。
とりあえず田舎から出てきたばかりで何も知らないという設定で色々と聞くことにした。とりあえずまず目指すところとしては、先ほど出てきた冒険者というものか。確か、こういう場合には1番なりやすい職業だろう。というか、他に身元不明の不審者が付ける職が思いつかない。
「先ほどの話で、冒険者という言葉が出てきたが、冒険者とは誰でもなれるのか?」
「え、ああ、特に制限とかは無かったはずだよ。まあ、犯罪者とかは無理だけど。」
「やはり、ランクなどがあるのか?」
「え? ランク? そうだね――」
聞いてみると、
AAランク:強さの次元が違う。世界的有名人。
Aランク:トップクラス。超強い。その国では有名人。
Bランク:一流と言われる。強い。大きな町で有名人。
Cランク:ベテラン。このあたりが凡人の限界。村とかでいばれる。
Dランク:一人前。パーティーとか組んで依頼とかガンガン受ける。
Eランク:駆け出し。討伐依頼なども受けられるようになる。成人ならFランクからすぐ上がれる。
Fランク:見習い。雑用多め。成人前の子供でもなることができる。
Gランク:研究者専門の特別ランク。筆記試験によって認められる。取得後はギルドで魔物の生態や薬草の効果などの研究や講師などを務める。
となっているらしい。そしてそれをまとめているところが冒険者ギルドという所らしい。今から行くフォルオレンの町にもちゃんとあるとのこと。なるほど。
「ノワールさんは結構強いし、すぐDランクぐらいにはなれるんじゃないかな。」
「だといいな。そういえば聞きたいんだがテリアさんのレベルはいくつだ?」
知ってはいるが、一応聞いておく。覗き見がマナー違反とかあるかもしれないしね。
「え、僕かい?僕はレベル11なんだよ。」
ちょっと得意そうだな。
「……えっと、それは高いのか?」
「いや、特別高いというわけじゃないんだけどね。冒険者とか魔物と戦う人なんかはもっと高いし。ただ、行商人という職業なら結構高いはずだよ。」
さらに聞いていくと、成人した人間のレベルが5~10程度だとのこと。ちなみにこの世界は15歳で成人らしい。あと、レベルには経験や勘、精神面の強さといったものは含まれないため必ずしもレベルが上だからと言って強いというわけでもないらしい。貴族なんかにはそれこそレベルだけ上げて中身が伴っていないなんてこともあるらしい。
うーん、ということはLv10のムキムキマッチョマンとLv15のモヤシ文官なら前者のほうが強いということだろうか。
「うーん、難しい所だね。単に1対1の決闘ならその通りなんだろうけど、搦め手とかさまざまな技術面も考慮するとレベルが高いほうがやっぱり有利だね。」
そうなのか……よく分からんな。考えても仕方ないし、とりあえずレベルは高いほうがいいということにしておこう。ただそうなると、私はLv3のザコということだろうか。
「そういえばさっきのオークの死体、そのままにしていたけどよかったのかい?」
「ん? どういうことだ?」
「いや、魔石とかとらなくて良かったのかと思って。あと、今更だけどオークは冒険者ギルドで、常時討伐依頼があったはずだから討伐証明部位を持っていけば報酬が出たはずだけど。」
「……確かに今更だな。あと、魔石というのはなんだ?」
「え、えーとって、そんなことも知らないのかい?ずいぶんと田舎から出てきたんだね」
そうなんっすよー。田舎っていうか違う世界ですけどねー。
ちなみに、魔石というのは魔物の体内にある魔力の塊のようなものらしい。これは魔物なら大なり小なり持っているもので、色々な魔道具のエネルギー源になるため普通に取引とかされているとか。魔道具、……またよく分からない言葉が出てきたな。とりあえず保留だ。あとは……そうだ、スキルについても聞いておこう。
「あと、スキルについて聞きたいんだが。」
「え、スキルかい。スキルっていうと一部の人が持っている才能みたいなものだね。」
「……そうなのか」
「そうだと思うけど。僕はもっていないけど、スキルがあるとすごく便利らしいね。なんでも能力段違いに上がるらしいし。あ、そうだ、知っている? これから行くフォルオレンの町の冒険者ギルドのマスターはトリプル――スキルを3つも持っているらしいんだよ。」
「すまないがスキルについての説明から頼む。」
「あ、スキルってのもわからないのか。スキルっていうのは――」
話によるとスキルっていうのは神様の恩恵や天から与えられる才能みたいな感じらしい。持っているのといないのとでは習熟速度や対象の能力に明確な差が出るらしい。たとえば、これから行くフォルオレンのギルドマスターは風魔法のスキルを持っているらしいが、別に風魔法のスキルを持っていなくても風魔法自体は学べば使用できる。ただ、スキルとして持っていればその成長速度と魔法使用時の威力がけた違いにすごいそうだ。
さらにそのスキルをギルドマスターとやらは3つも持っていると。……スキル3つ持っているというだけで結構自信ありげに話すし、すごいんだろうけど……じゃあ、スキル9個ってすごいのか? やっぱり1人だけじゃなく複数人に聞いてから判断したほうがいいか?
「あ、街が見えてきたね。」
「あ、ほんとだな。」
前を見ると、壁に囲まれた結構大きな街が見えてきていた。
「そういえば、街に入るのに何か必要なのか? 身分証とかお金とか?」
「ああ、必要だけど……ノワールさんはもってるの?」
「身分証などはないな。お金なら多少はもっているが。」
「そう、なら、門で入街税を払えば入れてもらえるよ。……そうだ、冒険者ギルドに行くんなら、フードはかぶっておいたほうがいいよ。」
「ん、なぜだ?」
「女性だからね。色々絡まれやすいと思うんだよ。」
「ああ、なるほど、忠告ありがとう」
「どういたしまして」
そうこうしているうちに、町の外壁の外に並んだ人の列にぶつかった。これは、町に入る人の列か。とりあえず、フードをかぶっておく。
「じゃあ、馬車の列はあっちだからここまでだね。」
「そうなのか、送ってくれてありがとう。」
「いや、お礼を言うのはこっちのほうだよ。……その、また会えるかな」
「テリアさんは行商人なんだろ。なら運次第じゃないか?」
「ははは、そうだね。じゃまた。ほんとにありがとう。」
そこで、テリアさんとは別れて(多分)徒歩の人の列に並ぶ。結構スムーズに進んでいくな。これなら1時間もしないうちに町に入れるだろう。
ここまでくる際にテリアさんから聞けたのは冒険者ギルドと冒険者のランク、レベル、スキルについてと、魔石についてか。まさにチュートリアルさんだったな。できればこの世界に着いたときに聞いておきたかったぜ。
それから人の列がゆっくりと進んで行くこと1時間強といったところか。そのくらいで、自分の番が回ってきた。
「次の人、身分証はあるか? 無いなら入街税200フラムだ。」
「…………」
やばい。肝心なことを忘れていた。200フラムっていくらだ? 腰にある財布代わりの革袋の中には大小、大きさの違う銅貨と銀貨がいくらかと、あと金貨が1枚だけ入っていた。え? フラムってこっちの通貨単位だよな多分。それって銅貨? 銀貨? 何枚分?
「ん? どうした? 金持ってないのか?」
門番のおっちゃんが少しいぶかしげに聞いてくる。どうする? とりあえず2番目に価値のありそうな大きいほうの銀貨を出してみるか? 足りていればお釣りをくれるだろうし、足りなければ「冗談だ」とかかっこつけて金貨を出せばいい。金貨で足りなかったら……どうしよう。他に街に入れる方法がないか聞いてみるか。
「いや、」
とりあえず大きいほうの銀貨を1枚手渡す。
「大銀貨か、ちょっと待ってな。」
そう言いながら、もう1人いた門番のおっちゃんに渡すとそのおっちゃんが脇の壁沿いに置いてある木箱の中身をごそごそとやり始めると、すぐにこちらに向き直った。
「ほら釣りだ、ようこそフォルオレンへ」
門番のおっちゃん2が釣りを渡したらおっちゃん1はすぐに道を開けてくれた。
よかった。足りたみたいだ。お釣りは小さいほうの銀貨が8枚。つまり小さいほうの銀貨が100フラム。大きいほうの銀貨が大銀貨といい1000フラムか。
あとは、銅貨と金貨の価値だな。銅貨は銀貨より価値が低いはずだから、1枚100フラム以下だろう。金貨は……使うことがあれば考えよう。
ようやく街に入ることができた。さて冒険者ギルドはどこだろう?
前話からでしたが主人公の口調が変わります。今後この口調でやっていく予定です。