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65 悪役令嬢 2

第3者視点です。

「ダンジョンに潜りたいのですけれど、許可はここでとりますの?」


 昼間の迷宮都市側の冒険者ギルドに場違いな声が響く。

 モミアゲから伸びた金のドリルが地を突く。ロングヘアーをまとめた金髪の縦ロール群は顔よりも大きなボリュームを誇る。黄色を主体としたドレスはこれから冒険に出ようというものをあざ笑う。そう! 何を隠そうアリシア・ショコラ・メープルローズ伯爵令嬢である。

 

 この姿を見た皆は思うだろう。「黄色い」と


「あの~、ダンジョンへの入場許可はダンジョンの入り口で行っていただきたく……あの、失礼ですが、貴族の方ですよね?」

「ええ、私こそメープルローズ伯爵の娘、アリシア・ショコラ・メープルローズですわ!」

「ええと、すいません。ダンジョンに行きたいのですが、冒険者の方に護衛を頼みたくてですね――」


 何がしたいのか分からないアリシアに代わり、侍女のカーマインが要件を告げる。

 アリシア、カーマイン共にレベルはさほど高くない。ダンジョンに潜るには、浅い階層ならともかく一獲千金を狙うには少々どころか非常に力不足だ。


「ちょっと、カーマイン!」


 アリシアは名乗りを無視されて声を上げるが、カーマインと受付嬢は話を進めていく。


「あ、はい護衛ですね。どの程度のご予算でどの階層までを予定していらっしゃるのでしょうか?」

「できれば他の貴族が欲しがるような品が出る階層がいいのですが、どのぐらいまで潜ればいいですか? 報酬についてはその階層の適正額をお支払いしますので。」

「そうですね。貴族が欲しがるようなものとなると30階層以下となりますが……」


 貴族がダンジョンに潜ることはまれにではあるが存在する。大体は箔をつけるためだったりするのだが、どうやら違うようだと受付嬢は思った。そう言った輩は大体ダンジョンに潜ったといっても浅い階層に1回潜るだけである。それをさも自分は他の者が行くことができないような場所に自分の力で行ったのだと自慢するのだ。

 では何か、迷宮で産出される宝が欲しいのか。しかしそこは貴族、金で買えばいいのだ。わざわざ自分で潜って取ってこようなどとする貴族などいない。


「あの失礼ですが目的は……産出する宝が目的でしたら、護衛を依頼するよりも買い取った方が早いと思いますが……30階層以下となりますとかなりの危険を伴いますので」

「あら、私を誰と心得ていますの。あのメープル――

「はいはい、いいですから。いえ、買い取るのではなく同行してもらいたいのですが」


 これはいよいよまずいことになってきた。ダンジョン内とはいえ貴族、しかも伯爵令嬢が死ぬのは問題がある。ギルドは国を跨いだ大きな組織ではあるが、ある程度はその国の意向に左右されるし、そうでなくても無茶な依頼などされたら大勢が死ぬかもしれない。

 例えば深階層に行って貴族令嬢の遺品を拾ってこいなど。大金を積めば大勢が志願するだろう。そして死ぬのだ。


「……あの、いきなり深階層に潜るのはお勧めいたしかねます。一度少し潜られてどの程度が適正かを見極めるのはいかがでしょう?」


 そう言ってやんわりと深階層をあきらめさせようとする受付嬢。間違っても貴族相手に「オメー無理だから」とは言わない。


「浅い階層でしても、数日潜ることがございます。深階層になってくると数週間、場合によっては一か月以上という長期に及ぶことがございますし一度潜られて感覚を確かめておくのも必要かと」


 そうした目論見が成功し、カーマインが受付嬢の提案を受け入れた。


「そうですね、ではそれで。最初としてはどの程度が適当ですか?」

「そうですねまずは往復4日ほどで挑戦してみてはどうでしょうか、その程度でしたら――――」


 そうして、カーマインと受付嬢との間でどんどんと話が進んで行く。一人置いてきぼりを食らったアリシアは少し寂しそうにしている。


 結果として『伯爵令嬢及びその侍女、2名の護衛/依頼内容:ダンジョンに潜る/期間:往復4日/報酬:50000フラム/追記:今回手に入れた魔石及びドロップ品は護衛側が受け取る』という依頼がギルドに張り出された。



「終わりましたわね。では私のギルド登録を行いなさい」

「え、お嬢様何言ってるんですか? 冒険者になるんですか」


 アリシアとて多少考え足らずで勝気ではあるが、別に馬鹿ではない。カーマインと受付嬢が話している際に、周囲の言葉に耳を傾けていたのだ。そうして得られた情報が冒険者カード。レベルが表記されるらしい。そして偽造はほぼ不可能だとか。ならば見せびらかすのに使えるのではないか。アリシアは貴族ということで冒険者カードとは別に身分を証明する手段はあるし、鑑定の魔道具もわりと身近にあるものだ。騎士や武に秀でた貴族などは鑑定の魔道具で表示された自身のレベルを自慢げに語る時もある。

 ダンジョンでは魔物が出るという。そしてそれを倒せばもちろんレベルが上がる。ならばこのダンジョンの依頼でレベルが一気に上がることもあるのではないか。そうしてあの王子に言ってやるのだ「あらあら、まだそんなレベルなのかしら? 私のレベルは○○でしてよ」と言いながら冒険者カードをちらりと見せるのだ。

(フフフ、悪くないわね。)

 アリシアはそう思った。


「はい、貴族の方でもなれますが、えっと…………こちらが記入用紙になります。名前のみ必須となります。それ以外については、記載する、しないは自由ですので」


 良い言い訳が思い浮かばなかったのだろう。何かをあきらめたように、登録用の用紙を差し出す受付嬢。もう何を言っても無理だとも思ったのだろう。

 貴族とはこういうものだ。自分の意見を通すものだ。と思いあきらめたのだ。


「あ、すみませんでは私も、」


 そう言ってカーマインも冒険者登録を行う。さすがに主人が冒険者に登録するのに、自身が登録しないわけにはいかない。アリシアなら勝手に依頼を受けてしまう可能性すらある。



 名前:アリシア・ショコラ・メープルローズ

 レベル:9

 ランク:F



 名前:カーマイン

 レベル:16

 ランク:F



「あら、カーマイン。結構レベル高いのね」

「一応お嬢様の簡単な護衛程度は出来るようにしていますので」


◇◇◇



 翌日早速、依頼を受けるパーティーが現れた。ギルド側からも特に問題のないパーティーだとカーマインは聞いている。ただしCランクが中心で往復4日なので行けても5階層程度までだろうとも。


「あー、私たちが依頼を受けた『ハウンドドッグ』というパーティーとなります。私はこのパーティーでリーダーを務めているダフィットと申します。」


 ダフィットはいつも一人称は俺で、もっと砕けた口調なのだが、さすがに貴族の前でまでその口調を維持することはなく丁寧な口調であいさつする。


「あら、ご丁寧に。アリシア・ショコラ・メープルローズですわ。」

「私は侍女のカーマインと申します。」

「えっと、こちらが私のパーティーメンバーとなります。」


 そう言ってダフィットが順にパーティーメンバーを紹介していく。パーティーは男2人に女2人、ポーターの少年が1人、これに護衛対象兼依頼人である2人を合わせた計7人で迷宮に潜ることになる。

 カーマインは女性2人がいることに安堵した。しかもそのうち1人は比較的容姿の整っているカーマインから見ても美しいと思う。もしこれが男性4人組みとかだったら断るつもりだった。いくらギルド側も問題ないとした護衛とはいえカーマインたちは女性である。ダンジョン内で『何か』あっては取り返しがつかない。


「その、貴族様にこんなことを言うのはあれなんですが……その恰好で潜るんですか? 武器や防具などは……」


 何を思ってか、アリシアはギルドに来た際と同じ黄色を基調としたドレスを着ており、またカーマインもメイド服姿であった。


「そう言えばそうですわね。では、武器や防具を先に買いに行きましょうか。案内してくださる。」


 アリシアは今気づいたようにそう言い、武器や防具を揃えに行こうとする。


「あ、はい」


 そうしてアリシア一行はまず武器防具をそろえるためにダンジョンとは反対方向に向かった。

ダンジョン入口で声をかけてきたダフィットさん再登場。でも時系列では主人公たちと出会う前の話です。

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