63 お金について
「いらっしゃいませ~。3名様ですか? こちらのお席へどうぞ。」
「おうおう、姉ちゃん別嬪さんだな」
「こっちでお酌してくれよ」
「もう、いやだ~」(ガンッ!
「ぐぇぇ!」
調子に乗った酔っ払いが、トレイで頭を殴打される。結構勢いが乗っていたのか、殴打された男性は頭を抱えながらうずくまった。
「おう、今日も容赦ないな姉ちゃん」
それを見て他の常連客が笑い声をあげる。
さて私たちは現在酒場にてウエイトレス…………なんてやっていない。酒場にて話し合いの最中だ。
え? さっきのウエイトレスさん誰だって? 美人のウエイトレスさんAだよ。名前は知らないよ。
さてダンジョン攻略であるが全く進んでいない。いまだ3階層にすら行けていない有様である。
おいおい、私のチートで最下層記録更新しちゃうよ。フヒヒ。とか、ダンジョンから帰ってきて「おお、あなたは一体何者ですか!?」とか言う問いに「やれやれ、大したことじゃないさ」とか答えてやろうとか思っていた頃が懐かしい。
現在の我々は赤字経営である。自転車操業よりひどい状態だ。残ったお金もこの分だと早々に食いつぶしてしまうだろう。
そこでだ、女3人寄れば何とやらで、酒場にて夕食と一緒に作戦会議をしているわけだが、
「今あるお金で、ありったけの保存食を買って、深部階層に挑むとか、あとは冒険者ギルドで他の依頼を受けるとか」
「私はご主人様についていくからどっちでもいいわよぉ」
「そう言えば、まだご主人様呼びなのか? 従魔契約は解除されたというのに?」
「そう言えばそうねぇ。まぁ、慣れちゃったんだしぃ良いんじゃないかしらぁ」
「わ、私もノワール様でいいと思います……」
まあ、慣れているというならば無理に変える必要はないのか? というか今更何て呼ぶんだ。ノワールちゃんとかノワールさんとか……まあいいか。て、名前の話じゃないんだよ。
「とりあえず明日、冒険者ギルドへ行ってみるか? 何か割のよさそうな依頼があればそれを受ければいいし……もしかしたらギルドが融資とかしているかもしれない」
「「はーい」」
結局、明日ギルドへ行くことが決まったのだが、あれ? 意見出したの私だけ? ティーアとソレイユちゃんの主体性はどこへ行ってしまったのだろう。
◇◇◇
翌日、冒険者ギルドに来たのだが、やはり融資などはやっていないらしい。冒険者なんて結構不安定な職業だ。金銭を定期的に返せる見込みもない者も多いし、それに途中で死んでしまうというのもざらである。
冒険者ギルドは冒険者のための組織であるが、回収できる見込みの少ない金貸しなどというものにまでは手を出していない。
「何かダンジョン以外で割のいい依頼は無いだろうか……」
「そう言った依頼は王都の方ですね。こちらはダンジョン関連の依頼が主となりますので、……そうですね、一番割のいいのは貴族などの護衛ですかね。」
「ダンジョンで貴族の護衛?」
「ええ、たまに箔付のためにダンジョンに潜られる貴族の方もいらっしゃいますのでその護衛はわりと報酬がもらえるんですよ。ただ本当にたまにな上に、大体が高位の冒険者を指名されますが。」
「ちなみに今そのような依頼は、」
「無いですね。本当にまれなことですので」
受付嬢さんに聞いてみたが、まあ早々都合のいいことなんて無いよな。
「ところで、お金に困った冒険者などはどうしているのだろうか?」
ちょっと違った切り口で攻めてみる。
「……うーん、そう言った場合は街の金貸しなどに借りるか、あとは自身の武器などを売ってしのいだりもするそうですが。あとは仲のいい冒険者に報酬分を前借するとかですかね」
なるほど参考にならんな。街の金貸しなんて結構な利子がつく。この世界に最低金利などというものは無い。返せないからと夜逃げやら奴隷落ちなんてこともあるしな。武器はそもそも持っていないし。仲のいい冒険者? いないよ。そもそも迷宮都市へ来てからそんなに経っていないし。
「あ、でもランクの高い冒険者などはパトロンがつくこともありますよ」
「パトロン?」
「ええ、ここは迷宮都市ですのでダンジョンから出る珍しい物などを優先的に譲ってもらったりしたい貴族や、あとは武器防具などで自身の店をアピールしたい商人などが出資してくれるんですよ」
ほうほう、パトロンか。いいかもしれんな。私たちでもパトロンがつく可能性はあるのか聞いてみる。
「今の所、迷宮都市ギルドでパトロンがついているのはBかAランクの冒険者のみですから。えーと、ノワール様たちは…………DランクとFランクですよね。これではちょっと難しいかと……一応、パトロン募集の張り紙をしてみますか?」
「え? そんなことできるのか?」
「パーティー募集の張り紙がある掲示板があるでしょう。あそこに張り出すんですよ。ただあまり期待しない方がいいかと……」
そう受付嬢に言われたのだが、一応ダメもとで張り出してみるために文面を考えようとギルドに併設してある酒場の席に移動する。
「うーん『パトロン募集中/迷宮にて見つけた価値のある物の優先権』とかかな」
「普通ですね」
おう、ソレイユちゃんがなんか容赦ないぜ。あれか、奴隷から解放されたからか。ソレイユちゃんにはぜひ今後とも癒しキャラでいてほしいのだが。
「女性3人組の冒険者というのをアピールしたらいいじゃないかしらぁ? ほらぁ、男ってそう言うのに弱いしぃ」
「いや、それもいいんだろうけど、面倒事が増えないか?」
「そこは面談形式にしたらいいんじゃないかしらぁ」
そう言いながらティーアがケーキのようなものを食べている。え、一人だけ頼んだの?
「あら、ご主人様? もう、しょうがないわねぇ。はい、あーん」
そう言ってスプーンを差し出してくる。違うよ。欲しかったから見ていたわけじゃないよ。
ワイワイ言いながらそうやって内容を決めて行ってようやく決まった。
そうして紙を貼ろうとしたときに見知った声が聞こえてきた。