58 合流そしてようやく王都へ
「ノワールさん!」
メリノ君がガバッ! と抱き着いてくる。
ふぅ~。服を着ているって素晴らしい。
コラットソマリ兄妹他護衛の人たちも寄ってきて「よかった。よかった」と言ってくれる。
「あれ? その服はどうしたんですか?」
「あ、ああ、グランドドラゴンから逃げる際に破けてしまってね。さっき買ってきたんだ。」
◇◇◇
まいった。
歩きでようやく街にたどり着いたらなぜか門が閉じている。これでは街に入れないではないか。外壁の上から門を見張っている人に対してソレイユちゃんが声を張り上げようやく、中に入れてもらったようだが、そこからすごい時間がかかった。どうやら、入る際にグランドドラゴンが出たという方向から来たことで事情を聴かれていたらしく、また出るときは、ドラゴンがまだこの辺りにいるかもしれず、今街を出ることは危険だとなかなか街を出してもらえなかったらしい。
一応ソレイユちゃんは何とかごまかしたそうだが、正直な性格が災いして、ごまかし方が非常に胡散臭くなり警備の人に怪しまれ、さらに時間をとられたらしい。
また、街の中はドラゴンが出たと騒ぎになっており、閉まっている店も多く、そんな中商売をする商魂たくましい人たちはたいてい平民相手であり、結局作りの荒い質素なものしか手に入らなかったとソレイユちゃんが言っていた。
まあ、元々少女が一人でお高い女性の服を何着も買っても怪しまれるのではと思ったため、安物でいいといっておいたので問題はないのだが。
無論下着もなしだ。
なお、この出費で所持金がほぼ底をついた。
◇◇◇
その後は特に何もなく王都までついた。
といっても所持品および所持金はすべて無く、服も安物が一着のみという状況になってしまったが。護衛の仕事が終わったら、早く依頼を受けてお金を入手しなければ。
道中の宿は食事付きでメリノ君持ちだったのは救いだった。
ただし、宿以外での食事は自前だ。
「あれ? ノワールさん昼食食べないんですか?」
「ああ、実はグランドドラゴンに追われた際に所持品を全部落としてしまってね……」
「え!? 本当ですか。大変でしたね。あれ? でもノワールさんてアイテムボックス持ちだったんじゃ――」
「あ、あれだよ。気をそらせないかと持っている物を片っ端から投げつけてしまってそれで……」
「あ、ああ。そうなんですか。でも、それで助かったんですからよかったですね。……あ、じゃあ僕たちのをどうぞ」
そう言って、コラット君が持っていた食料を分けてくれる。
「ありがとう。」
「いえいえ、こういう時はお互い様ですよ。」
くぅ~。人の優しさが身に染みるぜ。裸一貫なんてこの世界に来た時以来だもんな。
あ、ちょっと不味い……いやダメだダメだ。保存食とはいえせっかくもらったんだ。そういう事は考えちゃだめだ。
あと服も質素なフード付き外套着が一着のみという状態だ。ごわごわした繊維が肌にチクチクする。早く服も買わないとな。ティーアも「こんな野暮ったい服、リリスとしての矜持が……」とか言ってるし。
「道中の護衛ご苦労であった。途中多少問題が起こったが、メリノ様をこちらまで護衛したということで、貴君らの依頼は終了となる」
貴族ということで、入街者を門番が順に確認する列に並ばずすぐに街に入ったところで、領軍の護衛隊長さんからそう言われた。
「ではこちらが、護衛任務完了の証となる。」
そう言って依頼完了の証明書を渡してくる。護衛分は家庭教師分とは別に依頼料が出るのでこれで無一文からは脱却できる。
ただ、おそらく、服を何着かと、宿代、失った日用品類を買ったらほとんど残らないと思う。
「ありがとうございます。」
「あ、あのっ」
隊長さんから証明書を受け取っていたときに声がかかった。
何かと思い見ると、メリノ君が馬車から出てこちらに近づいてきていた。
「どうかされましたか?」
「ノワールさん、……あの、その……」
メリノ君が、何か言いたそうにしているが、なかなか言葉が出ないようだ。多少待っていると、
「このまま僕に仕える気はないですか? ち、父上は公爵だし給金もちゃんと出せると思うから……。ぼ、僕は次男だから家を継げないけど、でも、し、幸せにするから……えっと、あの、」
おっと、ヘッドハンティングがかかりましたよ。
しかしだ、貴族とかちょっと……あまり関わり合いになりたくない。メリノ君の家は普通というか結構おおらかな感じだったけど、他もそうとは限らない。この世界の貴族についてそこまで知っているわけではないけれど、もしガッチガッチの貴族社会なら「ほっほっほ、良いではないか良いではないか」「平民の分際で私に意見したな。死刑だ。」とかあるかもしれない。そう考えるとむしろメリノ君の所が少数派なんじゃないだろうか。
メリノ君は顔を真っ赤にして、まだ何か言いたそうだが、ここは丁寧にお断りだ。
「メリノ様。メリノ様はまだお若いのです。これからいろんなことを経験していくでしょう。その際に私たちのような平民、しかも冒険者がそばに居ては侮られる場合もあります。」
「そっ、そんなことはさせない」
「いえ、メリノ様がそう思っていても周りがそうは思いません。ですので、メリノ様の周りに置く者はもっと慎重に選んでください。……それに私たちは冒険者をやっている方が性に合っていますしね。」
「……そ、そうか。分かった。……では、せめてまた会うことは出来るだろうか?」
「ええ、きっと会えますよ。」
まあ、私たちも王都で資金稼ぎをしないといけないしね。会うこともあるかもしれない。……あ、でも全寮制の学校とかだと会えないのか? でも長男君は王都の街に遊びに行っているみたいな話を以前聞いたし外出位認めているだろう。
「い、今は我慢する……でも、いつかは……」
なんて小声で言っているようだが、どうやら諦めがついたらしい。「で、ではまた会おう」と言って馬車の方に戻って行った。
まあ、これで依頼完了だ。メリノ君一行の馬車はそのまま王都の中心だろうか、に向かって行ってしまった。
「じゃあ、僕たちは冒険者ギルドに行きましょうか」
コラット君が誘ってくるので、一緒に行くことにする。とりあえずは冒険者ギルドで依頼完了の報告をして、報酬をもらってそれで買い物だ。
意気揚々と冒険者ギルドを目指した。
「で? 冒険者ギルドってどこにあるんだ?」
「…………えっと、分かりません」
「ちょっと兄さん!」
「ちょ、ちょっと待って、聞いてくるから。」
コラットさんがあわてて周りの通行人に道を聞きに行った。
「はぁ~。兄さんは……すいませんノワールさん」
「いや、」
苦笑いしつつコラット君が戻ってくるまで待つことにする。
ようやく道がわかって戻ってきたので、さあ行こうとなったのだが、方向はメリノ君が向かった方向と同じだった。