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06 第一現地人との接触

 目が覚める。周りが明るい。ゆっくり目を開けると、


「知らないてんじ――あ、空だった……て、そのネタもういいよ。」


 セルフつっこみを入れつつ、ゆっくり立ち上がり、伸びをする。


「うーーん。」


 気持ちのいい朝だ。……腹さえ減っていなければ。

 とりあえず今日は、森を抜けるのが目標かな。できれば人里とか見つかるといいんだが。


 フードを目深(まぶか)にかぶり、昨日見つけたゴブリン道に入ってゆく。おお、やっぱり靴があると歩きやすい。ちなみにフードをかぶった理由は頭に葉っぱとかがつくのが嫌だったからだ。しかしフードをかぶっちゃうと耳が覆われてしまってちょっと周りの音とかが聞こえにくいな。

 しばらくは昨日と同じ森の中を進んでいたのだが、2~3時間ぐらい経った頃だろうか急に目の前が開けてきた。


「おっ」


 道だ。幅は5メートル程度。舗装はされていないがしっかりと土が踏み固められており、(わだち)がある。これをたどっていけばおそらく人里があるだろう。問題はそこまでの距離だが……。

 道は東西に延びている。え? なぜ方角がわかるかって、太陽の方向からの推測だ。あまり気にするな。


「これはどっちに行くべきか」


 まあ、考えたところで結局何も知らないから、あてずっぽうで行くしかないんですけどね。


「よし、西に行こう。」


 特に意味はない。勘だ。

 そうして進もうとした際、


 ヒヒィーン!


 何か聞こえた。東側から


「…………」


 〈気配察知〉を使ってみると何かいるな。人間みたいな気配に、馬か? あと人間より大きな気配が4つ。こちらはおそらく魔物か? 気配察知ももう少しちゃんと使えるようにならないとな。とりあえず様子を見てみるか? 厄介そうなら逃げればいいし。

 そう思い気配のする方向へ走って行ってみると、いました。


「一頭引きの馬車に御者が一人、あと周りを囲んでいるのは――オークか?」


 二足歩行する豚? 豚のお面をかぶったメタボなおっさん? ――のような魔物? でいいんだろうか。多分、異世界でおなじみエロモンスターのオークだろう。が、4匹で馬車を取り囲んでいる。これが女騎士ならこの後の「くっ、殺せ!」みたいな展開になるのだろうが、御者台に乗っているのは二十代半ばと思しき男性だ。


「くそっ!どっか行けよ!」

「ゴフッ」

「ブヒャッ」


 男性の方は短剣を振って威嚇しているみたいだがあまり効果はなさそうだ。

 これは助けて恩を売るべきでは。何せこっちに来てから初めての人間だ。この世界のこととかもいろいろ聞けるだろう。幸いオークの方はそれほど強そうな気配はない。こっちはスキルもあるし問題なく倒せるだろう。……うん、決まりだな。


「でも反撃されたら怖いよな、奇襲で行くか。」


 そう言うと相手の後ろからゆっくりと近づいてゆく。幸い、4匹とも馬車の方に注意が向いていてこっちに気付いていない。チャンスだ。

 腰のショートソードに手をかけつつ、ある程度近づいて、一気にダッシュで距離を詰める。ショートソードを抜くと同時に、


 ザシュッ!


 1匹目を撃破。身長差があるので背後からジャンプして相手の脊髄あたりを狙ったのだが、勢い余って首チョンパしてしまった。どうやらうまく間合いが測れていないようだ。まあ、結果オーライとしておこう。

 間髪入れずに着地して無理やり方向転換、明らかに変な姿勢からの方向転換なのに特に問題なく行えている。さすがスキルさん。マジパネェっす。

 ちなみに、周りはいまだ状況を理解していないようだ。

 

 ジャッ!


 2匹目。今度は胸のあたりを横一文字に。体がでかいので切断とまではいかなかったが、確実に心臓は切り裂いただろう。あと2匹。

 このあたりでようやく何か異変に気付いたのだろう残ったオークの視線が移動し始めるが、遅い。


 ザスッ! ズッ!


 3匹目の喉を切り裂いて、そして4匹目の心臓と思われるところに剣を突き立てた。


 ドサッ!


 ここでようやく1匹目の頭が地面に落ちる。


 ズッ!ドッ!ドドッ!ドサッ!


 その後、連続して4匹のオークの体が倒れてゆく。


「ふー、よし奇襲成功。」


 4匹とも倒せたようだ。気配がなくなったので確実に死んだのだろう。

 周りを見渡すと、助けた男性がこちらを見てポカンとしていた。


「おい、大丈夫か?」


 返事がないただのしかば――いいや。まだ呆けているようだ。何が起こったのかわかっていないような顔だな。


「おいっ!」

「あっ、は、はい。」


 ちょっと強めに声をかけてみた。ようやく我に返ったようだ。


「大丈夫か? 怪我とかしてないか?」

「あ、……はい、大丈夫です。」

「そうか、よかった。」

「あの、君が助けてくれたんだよね?」

「ん? オークを倒したという意味ではそうだが。」

「ああ、ありがとう。」

「いや、別に礼はいいんだが、……少し聞きたいことがあるんだが。」

「え、あ、はい、なにかな?」

「ここから一番近い町か村はどこにある?」

「……え?」

「だから、ここから一番近い町はどこかと聞いているんだが。」

「あ、ああ、ここから一番近い町ならフォルオレンという町がこの先に」


 そういって西を指さす男性。

 なんだ、最初の判断で間違ってなかったんじゃないか。


「そこまでどの程度かかるか分かるか?」

「えっと、たぶん馬車で4時間程度だけど……」


 4時間か。しかも馬車で。結構遠いな。……これは助けたお礼に一緒に乗せて行ってもらうか。そのくらい要求しても別にかまわないだろう。


「あー、悪いけど、そこまで乗せて行ってもらえないだろうか?」

「へ、ああ、いいよ。」

「助かる。」


 案外スムーズにいったな。あれか、まだオークに襲われたショックから完全に立ち直れていないとかかな? あと、普通に言葉が通じるな。話しかけた後、やべ、言葉が通じなかったらどうしようとか思ったが取り越し苦労だったようだ。……だとしたら、この世界の文字も読み書きできるのだろうか? そっちは街に行ってから確認だな。


「あ、じゃあここに座ってよ。」


 そう言いながら御者席の自分の隣を指す。


「ああ、わかった。」


 とりあえず、指定された席に座ってと、


「えっと……、ああ、自己紹介がまだだったね。僕はテリア。行商人をやっているんだ。」

「あ、ああ、俺は斉藤――」


 ちょっと待て、今普通に斉藤太陽って名乗ろうとしたけど、この名前ここじゃ変だよな。というか、森の中でマント羽織った男が――女がいきなりオーク4匹倒してヒッチハイク。怪しすぎだろ。

何とか無理のない設定を考えねば……唸れわが脳細胞よ。一応、前世で大学卒業までした頭脳を見せてみろ。うぉー


 「――私はノワールという。田舎から出てきたばっかりで道に迷っていたんだ。」


 なかなかいい設定ではないだろうか。ちなみにノワールとはフランス語で黒のことである。ドイツ語やフランス語のかっこいい単語は任せろ。色々調べたからな。主に中二ぐらいのとき。髪とか耳とかシッポとかの毛が黒かったのでそれにした。安直? いやカッコいいだろ?

 あと、女性の体のため一人称を私にしておいた。まあ、日本のリーマン時代、上司なんかと話す際は、私と言っていたしすぐ慣れるだろう。あと口調も少し偉そうにしておく。なめられたりしないように、できる女のイメージだ。


「そうだったのか。あ、えと、女の子だよね?」


 ん? こいつは何を言っているんだ。一応だが見た目は女のはずだ。内面は男だし、女の子と言ってもいい年齢か? と聞かれると微妙なところではあるが、……ああ、フードを結構目深にかぶったままだった。

 とりあえず森は抜けたのでフードを下しておいてもいいだろう。


「……」

「ん? どうした。」


 助けた男性(テリアとか言ったな)は、こっちを見たまま固まっている。


「おーい、どうしたんだ。」

「はっ!いや、なんでもないよ。あははは」


 心なしか顔が赤いような気がするが……熱でもあるのか?

 そんなことを考えているうちに、テリアは前を向いて馬を進め始めた。


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