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54 さまざまな者たち 2

ティーア視点です。

 ソレイユちゃんが馬車から落ちたのを確認したご主人様が馬車から飛び降りる。

 さすがに主人を見捨てるわけにはいかないと、私も翼を広げ馬車から飛び上がり、ご主人様たちの落下地点に向かう。


 ご主人様たちが立ち上がろうとしているが、その動きが非常に緩慢なものに見える。

 すでにドラゴンは追い付いてしまっている。


「ご主人様っ! 逃げて! 早くっ!」


 ご主人様たちに向かって声を上げたがどうにもならないでしょう。

 あのドラゴンは強い。魔族の中でも非常に高レベルであり並ぶものも一握りしかいないと自負している私でさえ竜種には及ばないのよ。

 相対してみれば嫌でも差を感じられる。なんとか、私はご主人様たちだけでも逃がせればと思ったのですが。


「ご主人様、私が相手をしますので隙を見て逃げてください」


 ご主人様たちと合流した後、何とか私が時間を稼いでご主人様たちを逃がそうと試みる。


「さすがにそれは無いかな……」


 ご主人様が私の武器を構えてそばに来る。

 ああ、こういうご主人様だったわね。


 ソレイユちゃんだけでも逃がそうと声をかけたようだが、ソレイユちゃんがそれを拒否した。

 そうこうしているうちにすぐにドラゴンの攻撃が開始された。


「くっそっ! ティーア! 空を飛んで攻撃! 私は前から! ソレイユは側面!」


 ご主人様の指示通り私は翼を使って空に飛びあがりドラゴンの斜め後方から鞭を振るったが、1発で鞭の方が壊れた。それならと、闇魔法で拘束して攻撃してみたが全く効かない上に、拘束もすぐに解かれてしまった。


 そんなことをしていると、ご主人様がドラゴンの攻撃を食らった。

 あっという暇もなく、地面にたたきつけられたご主人様。だがまだ生きているようで、苦しそうな表情をしている。

 ご主人様は高位の回復魔法を使える。

 思ったとおり、すぐにご主人様の体が回復魔法の光に包まれる。


 だが、その直後ソレイユちゃんが、ドラゴンの尻尾に吹き飛ばされた。ソレイユちゃんはレベルが低かったはずなので、あれでかなりのダメージを食らったようで起き上がる気配がない。逃げるにしても戦線復帰するにしてもご主人様が回復魔法をかけなければ無理だろう。


 私が後方から攻撃して気をそらすか?


 少しでも攻撃の手を緩めたのがいけなかったのだろうか、ドラゴンが溜めを作っている。おそらくブレスの予備動作だ。

 その射線上にいるのはご主人様。


「ご主人様!! 避けてっ!!」


 声を張り上げるが、ご主人様はソレイユちゃんに気を取られていて、すぐに行動を起こせなかった。結果、ドラゴンの口から出たレーザーのようなブレスがご主人様を焼失させた。


「ああ――っ!!」


 ご主人様がドラゴンのブレスの直撃を受けた。あの威力だ。直撃なら即死だろうが……いやご主人様の事だ、もしかすると生きているかもしれない


 だがそんな都合のいいことは起こらない。

 次の瞬間、パキン! という音と共に自分の首にあった、従魔の首輪が外れた。これは主人が死んだことを意味する。


「ああぁぁ…………」


 主人が死んだ時点で従魔である自分は自由だ。この場から逃げることもできなくはないだろう。しかし自然とそんな気は起きなかった。


 ご主人様が死んだ。

 そう理解した瞬間、大きな喪失感に包まれた。


 …………ああ、最初は無理やり従魔契約を結ばれたとはいえ、どうやら思ったよりもご主人様に入れ込んでいたようね。

 今思い返してみればあの時間はそこまで悪くなかった。楽しかったとさえいえるだろう。せめて死体を弔うぐらいはしてあげないとね。


「そのためにもまずは――」


 目の前のドラゴンを凝視する。すでにご主人様が死んだことを理解したのだろう。死体には目もくれずこちらに向き直る。


 ソレイユちゃんの方も動く気配がない。そのためか、ドラゴンの注意がそちらに向かわなかっただけでも良かった。


「【ウォータランス】」


 頭に向かって水魔法を放つが、全く気にした様子がなく食らいつこうとしてくる。

 私の方は飛べるため多少有利に……はならなくてもある程度持ちこたえることぐらいはできるだろう。

 あとは、誘導しご主人様の死体からある程度離したところで飛んでここに戻れば何とかならないだろうか。

 そんなことを考えていると、突然ご主人様の死体が青い光に包まれた。さらにそのまま宙に浮かび上がっていく。

 それだけではない、視界の端にとらえていると、みるみるご主人様の体が治っていくのが見えた。

 再生している?

 もしそうだとしたら、何らかのスキルだろうか? 分からない。ただし分かることもある。ご主人様がもしかしたら生きているかもしれないということだ。


 となると、あれがどういった物かは知らないが、ドラゴンをご主人様の方に向かわせるわけにはいかない。

 ドラゴンの注意をこちらに向けておかなければ。

 竜種は知能が高いのだが、あれからは何というか知性というものが感じられない。それならば空を飛んで、時折魔法を撃って、この繰り返しで何とかなるかもしれない。


 ドラゴンが体を沈めたと思ったら、飛び上がってきた。間一髪でかわすが、飛び上がった状態から首をひねって噛みついてくる攻撃はかわせなかった。

 結果として片腕と片翼を持っていかれた。


 片翼を失った私はそのまま地上に落下する。



「くぅぅ――」


 痛みでふらふらする。立ち上がろうとするがうまく力が入らない。

 ドラゴンがブレスの予備動作をする。

 ああ、私も死ぬのか。せめてソレイユちゃんを逃がしてあげたかった。


ドラゴンの口からブレスが放たれる。


 最後にと思ってご主人様の方を見る。

 ああ、やっぱりもう少しでも一緒に居たかった。


 そう思っていたら変化があった。

 ご主人様がまとっていた青い光が突然消え、ご主人様が落ちた。

 ゴツッ! という音と共に、


「いでぇ!」


 ご主人様の声がした。


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