53 さまざまな者たち
他者視点の話となります。
「ちょっとーエネルギー部から苦情が来たわよ」
スーツ姿の30歳ぐらいのメガネをかけた「ザマス」とか言いそうな女性が自分のデスクで端末画面をにらみながら周りに言う。
「何てー?」
返事をしたのは対面のデスクにいたスーツ姿の女性だ。
「なんかこの部署のエネルギー使用量が急に跳ね上がったんだって、すでに容量オーバーして他の部署に影響が出てるらしいよー」
「はぁー? そんなわけないしー」
「だれか何かしてるの?」
「してませーん」
「私もー」
周りのデスクに座った女性たちが口々に言う。
「もしもーし、こっち心当たりないんですけど……え? 間違いない、でも……第2会議室? そこってたしか誰も使ってないですよ。一応確認してきます。」
スーツ姿の女性が席を立つ。
「あーあ、ちょっと第2会議室行ってみてくるわ」
「おつかれー」
「がんばー」
メガネのアラサーOLみたいな女性が部屋を出て、第2会議室に歩いていく。
「ここってたしか、廃棄予定の端末を集めているところよね」
扉を開け、部屋の中に入ると、人気は無く薄暗い。
こわいなー
部屋を回って異常がないか確認していくが、特に異常があるようには思えない……
あ、1つだけ電源が入ったままの端末がある。
これは確か異世界転生用のユニット作成端末よね。
「誰よ、つけっぱなしにしたの」
まあ、課長に端末の交換を頼むことを優先して、電源を切り忘れた本人がここにいるのだが。気付く様子はないようだ。
画面に目を落とし、驚愕する。
「何よこれ!? 閉鎖空間世界でも創造してるのっ!?」
画面に映っているのはあり得ないほど大容量のデータを転送している表記だった。
「ちょっと中止中止!」
カチカチカチカチとNOボタンをクリックしてみるけれど反応がない。
くそ、これだからポンコツは。
「仕方ない、強制シャットダウンを、」
電源ボタンを長押しして強制シャットダウンを実行する。
バヒュゥゥン――
止まった。念のため内臓バッテリーも抜いておく。
「まったく、誰よ、電源つけっぱなしにしたの」
お前だよ!! と突っ込む者はいない。
◇◇◇
暗い会議室に数名の人間がいた。シルエットから細いヤツ、太ったヤツ、女性と思しきものまで様々だ。
「どういう事だ!!」
一人の人間が大きな声を上げる。声から男であろうと推測できる。
「せっかく手に入れたグランドドラゴンなんだぞ!」
「みすみす逃がしてしまうなんてねぇ」
「あの1体を罠にはめるためにどれだけかけたと思っている!」
次々と声が上がる。
「それにつきましては、想定外としか……」
中でもヒョロいシルエットの男がおどおどとした声を上げる。
「想定外で済むと思っているのか! ドラゴンを戦力と出来ると聞いたから出資したのだぞ!」
別の所から声が上がる。
「まぁまぁ、制御は失敗したにしても王国には向かったのでしょう」
「それはもちろん。確認しています」
「そう、ならいいんじゃないかしら? 思い通りには動かせなかったけれどある程度は混乱させられるのではなくて?」
「確かにドラゴンが人の近くに出たとあれば、まず間違いないでしょう」
「ならば、結果オーライと考えてもいいんじゃないかしら」
その言葉にヒョロいシルエットの男が明らかにほっとしたように肩を下す。
「でも、罰は必要よね。あなたにはそのドラゴンのその後の動向を報告してもらえるかしら」
「は、はい!」
ヒョロいシルエットの男は返事をすると、すぐに部屋から駆け出して行った。
「まったく、役に立たんな」
「まぁまぁ、そもそもドラゴンを使役するなど前代未聞のことをやったのです。最低限の目的が達成できただけでもよしとすべきでは?」
「貴様は、金があるからそう言っていられるのだ」
「確かに、私も今回は痛い出費でしたね」
「でもそこから発生する利益のことを思えば致し方ない出費では」
「そうそう、そう怒りなさんな」
「くっ」
「すべては我らのさらなる利益のためだ。それを忘れるな」
「分かっている!」
「では、」
一人が前に置かれていたグラスを持ち、掲げる。すると周りの人たちも同じようにグラスを掲げた。
「我らに繁栄を」
「「「繁栄を!!」」」
その掛け声と共に全員がグラスの中身を飲み干した。
こんな伏線作っちゃって大丈夫か!?