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51 ドラゴン

 私たちが通り過ぎた直後に横の森からヤツが出てきた。


「ギャアァォォォォ――――!!」


 見た目はデカいトカゲとワニを足したみたいな感じ……というかぶっちゃけ西洋風のドラゴンだな。顔なんかはまるでそのまんまだ。四本足で移動し前肢が発達している所と羽がない所、背中からごつい角のようなものが生えている所など体の方は結構差異があるが。


「なっ! グランドドラゴンだとっ!!」

「バカなっ! なぜこんな所にっ!!」


 領軍の人が叫ぶ。

 やっぱりドラゴンだったんだ。



名称:グランドドラゴン

 種族:地竜

 レベル:211

 状態:混乱、洗脳、呪縛

 説明:世界最強と言われる竜種。その中でも空を飛ぶことなく地上を移動する種類。竜種の特徴であるブレスはあらゆる盾を無効化し、鱗は鉄よりも固い。攻撃力防御力ともに非常に高く大軍でも倒せないと言われている。まさに歩く天災。



 〈鑑定眼〉で見た結果……レベルヤベェ……ティーアの倍以上あるじゃないか。ちなみに私の今のレベルは35なので6倍……どうすんのコレ? あと状態も結構おかしいが、正直そっちに気を割けない。


「はしれぇ――!!」


 領軍の人や御者たちが必死に馬に鞭を入れ速く走らせようとしている。

 ドラゴンの目がぎょろりとこちらを向く。と同時に一気に飛び上がり方向転換、ただ勢いは殺せなかったようで横向きに地面を削りながら滑っていく。

 十分スピードが緩んだところで一気に地面を蹴り方向転換し、土を巻き上げながらこちらに向かってくる。

 速いっ!!

 このままだと確実に追いつかれる。ただ、戦って勝てるとはとても思えない。相手が自主的にどこかに行かないとなると逃げるしか方法がない。


「きゃっ!」


 ガッ! と馬車が石に乗り上げて荷台が跳ねる。着地の衝撃と同時に可愛らしい悲鳴が聞こえたので、反射的に振り向くと今まさにソレイユちゃんがバランスを崩して荷台から放り出されるところだった。


「ヤバッ!!」


 とっさに手を伸ばすが届かない。さすがに考える時間はなかった。私は、荷台を蹴った。


「ご主人様!!」


 後ろでティーアが叫んでいるがその声がどんどんと小さくなってゆく。しかしそんなことは今は構っていられない。ソレイユちゃんを空中でキャッチし、胸元に抱き寄せたまま地面へ叩きつけられる。そして、そのままゴロゴロところがって行ってしばらくしてから止まった。


「い、たた……大丈夫か?」

「は、はい」


 抱きかかえたソレイユちゃんにあわてて声をかけるが、どうやら無事だったようだ。ソレイユちゃんはレベルは上がってきているが、私の〈肉体強化〉みたいなスキルが無いからあのまま放り出されていれば普通に怪我していたかもしれない。まあ今も抱きしめている状態なので怪我をしているかどうかは確認できないのだが、返事があったので意識はあるようだし、痛がっている様子もない。

 とりあえず【ヒール】をかけておいて、立ち上がろうとする。


「ご主人様っ! 逃げて! 早くっ!」


 声の方を見るとティーアがこちらに飛んできている。文字通り背中についている翼を大きくして飛んでいるのだ。そして、そのさらに向こうには遠ざかっていく馬車が。

 ……ヤバイ、置いて行かれた。と思った瞬間影が差す。

 あわてて振り返ると――


「グゥルゥゥゥ――」


 ですよねー

 ドラゴンがすぐそばまで寄ってきていた。馬車の方はもう見ておらず、私たちに視線を向けている。どうやら見逃してはくれないらしい。この大きさだと私たち3人程度では腹は膨れないと思うのだが。

だが、さっき追いかけてきた速度を考えるに、逃げるのは無理だろう。。


 一気に立ち上がりソレイユちゃんを抱えたまま飛び退る。そのままティーアと合流できたのはいいのだが……ドラゴン側の体格差から見れば1歩分程度しか移動できていない。


「ご主人様、私が相手をしますので隙を見て逃げてください」


 ティーアがそう言い、私たちをかばうように前に出る。

 ティーアって成り行きで従魔にしちゃったけど結構慕われてたんだなぁ。と平時なら感動なりしているところだが、今はそんな場合じゃない。

 さすがに女性を盾にして逃げるのは後味が悪い。これが勝てる戦いで「あとから行くから待っていろ」(死亡フラグじゃない方)的なものだとそういった選択肢もあるのかもしれないが、レベル差から言って時間稼ぎすら怪しい。


「さすがにそれは無いかな……」


 アイテムボックスから金棒を取り出してティーアの横に並ぶ。


「ソレイユは下がってうまくいけば逃げるように」

「い、嫌です!」


 後ろから、きっぱり否定の声が聞こえてきた。ちらっと見ると槍を構えている。足が震えてはいるが。


「足でまとぉいっ――」


 足手まといになるから行け! と言って逃がそうとしたんだが、言い切る前にドラゴンが動き始めた。


 ドラゴンの前足による一撃を大きく移動して躱す。


「くっそっ! ティーア! 空を飛んで攻撃! 私は前から! ソレイユは側面!」


 もはや四の五の言ってられない。死合は開始されたのだ。

 首を引き、ためを作ったら一気にこちらに向かって口を開けて向ってきた。体がでかいくせに動きは俊敏だ。一気に距離を詰められる。

 横っ飛びにかわした後、ドラゴンが頭を地面に突っ込ませる。結構アホなのかと思ったが、次の瞬間地面がえぐれた。

 おいおい、喰ったのか? 地面だろうとお構いなしか!?

 私は相手の噛み付き攻撃の届かないだろう首の下に全力で移動し前脚に狙いを定める。


 その際に、ティーアが攻撃しているのが見える。


「ハッ!!」


 ビュッ!! と見えないほどの速度でドラゴンの背に鞭が放たれる。当たって大きな音を響かせるが、ドラゴンの方は全く動かない。体を震わせすらしない。むしろ鞭の方が耐えかねて激しい音と共にバラバラに飛び散ってしまった。

 ティーアが苦い顔をし、いったん離れる。


「【シャドウバインド】!! 【影爪(えいそう)】!!」


 ティーアの指から黒い爪が伸びる。闇魔法の一種で白兵戦用のものだ。同時に地面から黒い触手のようなものが伸びてきて、ドラゴンをからめ捕る。

 飛行しながら相手の死角――斜め後ろから接近し爪を振るうが、ガヒュンッ!! という変な音が聞こえただけで、ドラゴンには傷一つついて無い。


ブチッ!


体に絡まっていた黒い触手も一瞬で引きちぎられてしまった。


 ティーアが攻撃している間に私も前脚に対して金棒をたたきつけるが同じように、ガンッ!! という硬質な音がしただけで傷一つない。

 くそっ! モ○ハンなんて嘘っぱちじゃないか! 全然攻撃通らないぞ!


「【ウォーター】!! 【サンダー】!!」


 ばちゃ! と相手の足に水魔法で生成した水がかかり、更に雷魔法がバシッ! と決まる。

 感電でもしてくれれば、そうでなくてもちょっとくらい痺れてくれればと思ったのだが、だが特に何もなかったようで蹴りを放ってきた。


「どうすれぇばぁぁ――!!」


 どういった攻撃手段が有効か考える暇すら与えられないらしい。というかセリフを言いきる暇すら与える気はならしい。

 ドラゴンは素早い動きで1歩分後ろに下がると私に噛みつこうと器用に体をくねらせてくる。さらにシッポの方でティーアへも攻撃しようとしている。かなり視野が広い。


 ソレイユちゃんも右側に回ったようだが、比較的リーチの長い槍でも、この巨体の前ではかなり接近しないといけない。

 ……やはりソレイユちゃんは逃がしておくべきだったか。クソッ!


 ドラゴンが闘牛みたいに地面を削りながら頭部を振り上げてくる。

 速すぎて躱せないっ!

 躱すのをあきらめ金棒を前に出し防ごうとするが、スピードとパワーの差で完全に跳ね上げられてしまう。

 上に飛ばされ、まずい! と思った時にはもう振られた前脚によってまるでボール遊びみたいに勢いよく地面に叩きつけられる。


「ガヒュッ!」


 悲鳴すら上げられず、口から空気が漏れる。全身が痛い。1発でこのダメージかよ。


「ノ、ノワール様!!」


 ソレイユちゃんがこちらに駆けてこようとしていた。同時に、その後ろからドラゴンのシッポが振るわれるのが見えた。


 マズイ!


 まずは自分の体に【エクスヒール】をかける。声が出せないので無詠唱で発動。本来魔法の発動には声を出す必要があるのだが、出さなくても行ける。魔法関連の書物にも無詠唱という技術があるらしいことは知っていた。

 以前練習していた際に無詠唱について自分でも可能なことは確認済みだ。ただし、完全な無詠唱はマスターできておらず、魔法の効果が格段に落ちるという欠点があるが。


 回復してすぐに、


「【アースウォール】!!」


 魔法の壁をソレイユちゃんとドラゴンが振るった尻尾の間に作成する。この土魔法は今練習中で、知識はあるが今までちゃんと発動できなかった。(といっても一応壁っぽいものは出来ていたのだが混めた魔力に対して結果が全く見合っていなかった)

 予想通り、できた壁は結構魔力を込めたのに、そこまで大きいものではなかった。


 ドラゴンは尻尾を地面すらお構いなしに、土砂を巻き上げつつ水平に振るっている。振るったドラゴンの尻尾によりやすやすと砕かれる土の壁。強度もいまいちだったようだ。


 そしてドラゴンの尻尾が目の前で、ソレイユちゃんが吹き飛ばされる。


「――――っ!!」


 だめだ、焦るな!


 すぐに〈気配察知〉でソレイユちゃんが飛ばされた方に意識を向ける。

 かなり弱くなっているが気配はある。まだ生きている。そのことに安堵する。だが、一瞬であろうと気を抜いたことがいけなかったのだろう。


「ご主人様!! 避けてっ!!」


 ティーアの切羽詰まった声が聞こえた。直後――


 ゴワアァァァ!!


 意識が途切れた。

シリアスさん「そろそろ俺の出番かな」

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