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48 お貴族様のレベル上げ 5

「【ファイア】」


 ボッ という音と共に30cm程度の小さな杖の先端にロウソクほどの炎がともる。


 明日には学院へ帰る。イコール、レべリングは今日で終わりなので領主様に成果を見せているところだ。なお、学院へ行く際には私たちも道中の護衛としてついていくことになっている。

 ちなみにメリノ君は東の森でゴブリンやオークなんかを狩った結果、レベル7になっており、ちゃんと依頼条件を満たしている。

 魔法もこういった『生活に便利な初級の魔法を杖を使えば使用できる』程度には使えるようになった。


「おお、本当に使えるようになるとは……」


 領主様は、何か目ん玉ひん剥いて驚いている。学院で適正無しと言われていたので、あまり期待していなかったのだろうか。そしてそれ以上に彼の目ん玉は大丈夫だろうか。


「杖有りで初級の魔法程度ですけれど、まあ十数日ではこれが限界ですね。」


 まあ、この世界の魔法使いの限界なんて知らないんですけどね。ここで『いや、まだイけたんですけど、サボってたんでこれくらいです。』とか言うわけもないけれどね。サボっていたわけでもないけれど。むしろ、メリノ君は結構真剣にやっていた。


 メリノ君は魔法のお披露目が終わると多少不安そうな顔をしながらこっちを見てくる。なぜだろう。普通ここは父親の方を伺うものではないだろうか。


「頑張りましたね。2週間程度でそこまで使えるのであれば、今後は期待できますよ。」


 とりあえず、当たり障りのないことを言っておく。再度言うが、この世界で2週間程度で魔法がこの程度使えるのが適当なのかどうかは知らない。



 さらにその後は剣の稽古も見せている。相手は最初に来た際に模擬戦を見せてもらった人と同じ領軍の新入りの中では筋のいい人だ。

 木剣でカンカンと打ち合っている――どっちかっていうとガンッガンッという音がしているのだが、最初に見たときに比べれば両者ともスピード技術とも向上しているように見える。躱し方などでメリノ君の方が結構ぎりぎりで避けていたりするが、これは動きが遅いというわけではなくて必要最小限の動きで避けるといった意図が見える。たぶんモンスター相手の実戦経験があったので度胸がついたのだろうか。たぶんそんなところだろう。

 領軍の人の方は体ががっしりした青年なのに対してメリノ君は華奢なので、鍔迫り合いなど、パワーでは負けているため、模擬戦自体メリノ君の方が押され気味ではあるが、このあたりは体が成長するまでは仕方がないだろう。


 模擬戦が終わると、テテテとこちらに走ってきた。だからなんでこっちにくるんだ? 父親の方へ行くもんだろ。


「ど、どうでしょうか……」

「最初と比べると見違えるようでしたよ。レベルも上がっていますし、よく頑張りましたね。」


 魔法の時と同じように、当たり障りのない言葉を述べてやると、途端に表情が明るくなった。やっぱり教えていたのは私だから、教師役の私から褒めてもらえた方がうれしいのだろうか。


 まあ、ともかく成果としては問題ないのではなかろうか。レベルも上げたし、魔法も教えた。依頼内容は満たしている。

 隣を見ると、領主の人はウンウンと頷いている。


「レベルは7になっていますし、剣術、初級魔法も教えました。これで問題ないかと思いますが……」


 領主様の方に一応伺うように聞いてみる。まあ、これで問題有りとか言われても今更どうしようもないんだけれどね。


「いやいや、思った以上だよ。ありがとう。やはり君たちに頼んでよかったよ。領軍の方も鍛えてくれたそうだしね」


 よかった。一応依頼主からはお墨付きを頂けたようだ。


「じゃあ、明日からの護衛依頼も頼むよ。一応、依頼料は今日渡しておこう。うちの執事に渡しておくので後で受け取るといい」

「ありがとうございます。」


 一応明日から数日かけて王都までの護衛依頼もあるのだが、どうやら、依頼料は今日いただけるようだ。


 ◇◇◇


 午後はいつも通り、図書室のようなところへ……ではなく、私たちに与えられた使用人用の部屋でボーっとしていた。

 メリノ君は明日の出発に備えて荷造りをしているらしい。


「ノワール様どうぞ」

「ああ、ありがとう……うーん、これはアッサムかな」

「アッサ……? 多分違うと思いますけど」

「……」


 部屋に備え付けの椅子に座っている私に、同じく備え付けのテーブルにソレイユちゃんが紅茶を入れてくれたので恰好を付けようとしてみたけど失敗した。

まあ、紅茶の銘柄なんかそれほど詳しいわけでもないし。それ以前にこの世界と地球とでは紅茶の銘柄自体異なるとかありそうだし。

 美味いことぐらいしかわからない。

 ちなみに私はストレートティーよりミルクティー派だ。


「それでぇ、ご主人様はどうしたんですかぁ? ボーっとして」


 ここには、ティーアもいる。久しぶりに3人そろった形だ。ソレイユちゃんは紅茶を入れてくれた後、私の傍らに立ったまま待機している。座ってくれていいんだよ。

 ティーアは部屋にあるベッドにぐでーっとしたまま寝そべっている。こいつ結構自由だよな。うつ伏せで寝ころんでいるのでつぶれた横乳がエロいな。


「うーん、明日から数日かけて王都に行くだろ。その後どうしようかと思ってな」

「その後ですか?」

「王都を拠点として活動してみるというのも面白そうなんだがどうだろう。」


 とりあえず、2人はどう思っているのだろうか。フォルオレンの街も住み心地はよかったが、やっぱり王都っていうからにはここより発展しているのだろう。たぶん

 今度はそこを拠点に色々やってみるのも…………マテ、そもそもこの世界に来て今までなあなあで過ごしてきたけれど私は何がしたいんだ。


「そういやあんまりそういったことは考えなかったな」


 ぼそっとそんなことを呟く。

 こっちの世界に放り出されてから、最初は生活基盤である衣食住のためにお金を稼ごうと冒険者になってみたりした。が、今はロックリザード他色々と狩って得たお金と遺跡のお宝で得た分が結構ある。おそらく日本円にして億は超えていると思う。今度ちゃんと数えよう。

 

 そのぐらいあったら家とか一括で買えるだろう。あとはこっちでどこかに就職してしまうのはどうだろうか。家を持っており職に就いている(予定)。さらに2人の美少女ソレイユちゃん美女ティーアがお知り合い。日本じゃ勝ち組だな。


 日本ではサラリーマンだった。こっちでもライン作業とかに従事ながらのんびりと今後の生活を……と思ったが、やっぱり冒険者にも魅力がある。

 せっかくスキルなんて異世界特有のものがあるのだ。生かしていきたいものだ。まあ、メインは脳筋スキルなんで就職で生かすとしたら土木作業系だろうか。


「……嫌だな」


 丸太やら石やらかついで、壁なんか作ったり。想像しても、なんだそれ? とかなる。

就職と言えば日本のサラリーマン時代もそんな充実してなかったしな。ノルマとか時間に追われて胃の痛い日々。さらに上司からの叱責。別にブラック企業というわけでもなかったんだが、やっぱりただ何となく日々を過ごしていたような気がする。

 あ、そう言えば両親は元気だろうか。一応それなりの資産はあるはずなので私が居なくなってもお金関係は問題ないだろう。両親よりも先に死んでしまったので親不孝者とか言われているかもしれないが。すいません。私をはねたトラックの運転手から慰謝料ふんだくっといてください。


 まあ、それはともかくだ、サラリーマンなんかに比べたら冒険者というのはそれなりに充実していたのではないだろうか。むろん常に怪我や死の危険があるし、怪我なんかして引退しても年金やら退職金やらがあるわけではない。自己責任だ。だが、一獲千金を狙えることもまた事実。

 形態的には日雇い労働者や派遣社員といった感じだが、この世界の冒険者の需要は非常に多く、仕事を選ばなければ『仕事がない』なんてことにはならない。むしろ需要より供給の方が上回っているレベルだ。

 レベルと言えば、異世界特有の『レベル』なんてものもある。これさえ上げておけば早々死ぬことなんてないだろう。



「ああ、それと冒険者を続けることについてもだな。冒険者より手に職を持っていた方が生活は安定するだろうし」

「わ、私は、ノワール様のおそばに居られればそれで……」

「私はぁ、別にどうでもいいわねぇ」

「……そうか」


 一途なソレイユちゃんかわいい。ラブラブちゅっちゅしたい。

まあ、それはともかく2人とも王都で活動することに関しても、冒険者をやめることについても、特に反対ではないらしい。


「うーん、じゃあ、王都に行っても冒険者は続けるということでいいか」

「はい」

「はぁーい」


 とりあえず、特にやりたいことがあるわけでもないし、冒険者を続けつつお金を貯めるということでいいだろう。日本でもこっちでもお金は大事だ。何かやりたいことができた際にお金の問題でできませんでしたということが無いようにしておこう。



 ちなみに話は変わるが、冒険者ギルドというのは国をまたいで存在する組織なのでこの街で作ったギルドカードが王都でもそのまま使える。ランクもそのままだ。さらにギルドカードは身分証としても使用できるという謎仕様となっている。



 明日から王都へ向けて出発だ。途中は一応経由する町や村で宿を借りるということになっているが、行程の遅れなどに応じて野宿も視野に入っているらしい。なので、もしかしたらこれから最悪数日間野宿なんてことが起きるかもしれない。うん、今夜はちゃんと寝ておこう。


 おやすみ~。


主人公は日本で「死んだ」ということをちゃんと認識しているため、日本への帰還願望はありません

それはそうとようやく王都へ行きます

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