47 お貴族様のレベル上げ 4
「うひゃっ! ……ノ、ノワール様、く、くすぐったいです」
なお、午後の暇な時に同じようにソレイユちゃんにも魔法を教えていたりする。
体内に魔力を流すとくすぐったがっていた。こちらは魔力を流すうえでメリノ君のような引っ掛かりは無かった。ただ、流せる流量はメリノ君よりちょっと多い程度だったので、同じように少しずつ広げるように魔力を流してあげた。
「あ、何か、体がポカポカしてきます。」
魔力を感じることについてはメリノ君よりも習得が速かった。その後の魔力の放出もメリノ君よりもスムーズだった。これは魔法の適正があるということなのだろうか。
「こう、先ほど感じた魔力を指先から少しずつ一定の量を出すんだ。」
「は、はい」
ただ、本人としては、私の役に立つことを第一にという感じで、初歩的な魔法などで家事の補助などできないかと考えていたようだ。
ええ子やでほんま。
なので、こいつがいればランプいらず【ライト】、種火にもなるぜ【ファイア】、水は必須だ【ウォーター】など、そこそこ便利そうな初級魔法を教えておいた。
「一定の量を同じように出せるようになったら、その後、その魔力がランプの光に変わっていくようなイメージで――」
まあ、教えたといっても目の前で使ってみて具体的なイメージが湧くようにしてあげた後、私が腕を持って魔力を放出、ソレイユちゃんの腕を一度魔力が流れてから、外に出て行き魔法として形成されるようにして魔法を使うとはどういう事かを教えてあげるというかなり力技なことをやったのだが。使いこなせるかどうかは本人の努力次第だ。
◇◇◇
「【ファイア】」
ぼっ! という音と共にろうそくの炎程度の大きさの火が小振りな杖の先にともる。
「で、できました!」
「はい、いい感じですね。あとはこれを一定の出力で持続させるようにしてください」
「持続ですか? どういう事ですか」
「まあ、要は意識した量の魔力を体から出すということを覚えるためです。魔法を使うたびに威力が変わったりするのは好ましくありませんからね。」
「は、はい……あ、消える……あ、今度は大きく――」
魔法が使えたことを非常に嬉しそうにメリノ君が言ってくるが、これで終わりではない。むしろこれが始まりである。とりあえずは、簡単な魔法を使って魔力の調整を行うことを覚えるべきだろう。放出する魔力の量を自分で調節できるようになれば、魔法の威力を自分でコントロールできる。
炎の大きさをうまくコントロールできずに消えそうになったり、大きくなったりと四苦八苦しているが、表情はどことなくうれしそうである。まあ、今まで魔法は使えなかったのだしうれしいんだろうな。
なお、別にメリノ君は魔法使いになろうとかいうわけではないので、杖を使って一部練習を簡素化している。
ちなみに今は、剣の稽古の後で、引き続き屋外で練習している。屋内だと火の魔法とか火事が怖いからね。
少し前から、剣の稽古はほどほどで切り上げて、魔法の稽古の方を重点的に行うようにしている。
以前思っていた、メリノ君の体の中を流れる魔力の流路の引っ掛かりももう結構なくなってきているし、魔力の流路? みたいなものも結構広くなって、体内を流れる魔力量も増えたように感じる。ひとえに、私のおかげである。どやぁ。
毎日数時間手をつないでじっとしていながら、魔力を流し続けた自分を自分で褒めてやりたい。あの時間は非常に暇だった。ただ単にじっとしているだけなのだ。
メリノ君は、まずは、【ファイア】で魔力の細かな制御とか覚えるといいだろう。そうすればあとが簡単だしな。
私の方は、もう少し魔法の専門書を読みこんでみることにする。なんせ、人に教えるのだ。一般的な魔法の使い方とか知っておいた方がいいだろう。一応難易度の高い魔法とかにはイメージの補完のため、呪文というものが存在する。私の場合は前世の知識とか、勝手なイメージで行うため呪文を唱えておらず、魔法発動の際の合図として魔法名を唱えるだけにしているが。まあ、結果としては本に書いてある内容とあまり変わらなかったが。
私も教えてばっかりではない。あれから色々と使えるようになっている。
ただ本を読んでいると、魔法=戦闘用というイメージがあるのか、攻撃や防御にどう役立つかなどについて書かれた本が多く、そう言った魔法が詳しく書かれているのに対して、戦闘に役に立ちそうにない魔法はあまり詳しく書かれていないか、初歩的という括りになっていた。うーん、いろいろと応用が利きそうなんだがな。
ちなみに、このあたりも、〈回復魔法〉を教会が独占している原因だったりする。つまり〈回復魔法〉を含む〈光魔法〉は戦闘ではなく後方支援、または戦闘以外という認識で、通常の魔法とはちょっと違う。みたいな認識ができているようだ。
メリノ君はさっきから、杖の先の炎を凝視している。何とか、出力を一定にしようと頑張っているのだろうが、そんなに凝視する必要はないですよ。
「後、大きさを一定にできるようになったら、今度は自分の意志で、炎を大きくしたり小さくしたりしてみてください。」
「は、はい」
魔力の感知の修行は終わったので、今後はスピーディーに進むだろう。……進んでほしいものだ。というか契約期間が後1週間ほどしかないからな。それまでに魔法を使えるようになるかどうかは、ソレイユちゃんと同じで本人の頑張り次第といったところか。
結果としては次の日にはある程度の出力調整まで可能としたのだが。
え? ソレイユちゃんの時と教え方が違うって。いいんだよ。どうせ自己流なんだ。教師などと違っていちいち教え方を統一しているわけじゃないんだ。その時々で教え方が異なるのは私が思いつきで「これ良いな」と思った方法を取っているからだよ。
◇◇◇
「【アイスランス】」
ヒュッ!
ドッンッ!
私自身も教えてばっかりではなく、自分でも色々と覚えてそれを実践で使ってみて調子を見ている。まあ、それ以前に教えられるほどの知識がないのですが。
今使ったのは水魔法の一種で、大きな氷のつららみたいなものを飛ばす魔法だ。
ちなみに、当たったオークは腹に大きな風穴があいてそのまま倒れた。
しかし魔法って便利だな、ザコモンスターなら相手に反撃の暇すら与えず、一発でカタが付く。
――などと思っていた時期が私にもありました。
あ、外れた……
比較的近くにいた2匹組のコボルト相手に同じ魔法を使ってみたのだが、1匹目を奇襲で倒した時点で、2匹目が回避のためだろうか結構素早く動き回り、狙いが定まらず、2発も外してしまっている。
相手はこちらに気付き、すでに武器の間合いまで距離を詰めてきており、もう一発撃つ余裕は無いだろう。
仕方ない。
装備していたガントレット(私物)で相手の棍棒の攻撃を防ぎ、カウンターでボディーを殴る。
ゴッ! と鈍い音がして、コボルトが吹っ飛んで行った。
そのまま、木にぶつかるとコボルトは体と首を変な方向に曲げたまま動かなくなった。
今私は一人で東の森に来ている。
うっそうと茂った木々の中、魔物を見つけては不意打ちをかましている。目的は魔法の練習だ。
ただ、いまいち動体目標に対する命中率がよろしくない。普通に殴った方が速く倒せる。
前世とかでも動いている目標に銃弾を当てるのは難しいと聞いたことがあるし、その辺の才能は私にはないのかもしれない。馬に乗りながら矢を射る流鏑馬とかあたる気がしない。
魔法スキルもあるし、結構使えるかとも思ったのだが、攻撃とかに使おうと思うなら地道に命中率を上げるように頑張っていくしかないだろう。
あとは範囲魔法攻撃とかだろうか。それなら命中率はあまり関係がないような気がする。ただそう言った魔法は威力が大きく、大体上級魔法に分類されるため、発動までの手順が面倒らしい。
「まあ、今日はこのぐらいだろう」
そう思い、帰り支度を始める。
別に1日にどのくらいとか決めているわけではないが、走ればすぐに街につくので日中の結構な時間を魔法の練習に費やせた。
まあ、結局命中率の向上はあまり果たせていないわけだが。
帰った後は、【ライト】などの魔法で魔力を使い切るというのが日課だ。魔力は寝たら次の日に回復らしいと読んだ魔法関連の本に書いてあったし、自分でも前日の倦怠感が、寝たら治っているので、多分回復しているのだろうと考え、この方法をやっている。
魔力を使い切るのは、最大魔力が伸びるんじゃないかと思ってやっている。
この世界では魔力の測り方なんて知らないので、実際に伸びているのかはわからないが、過去に読んだ小説を参考にした形だ。
これは魔法のスキルレベルが上がる日も近いな。うむ。
そろそろ王都に行こうかなと思っています。