46 お貴族様のレベル上げ 3
「どうだね、息子の様子は」
午前中、メリノ君と剣の稽古をしていると、領主様がやってきた。まだ午前中だが、領主の仕事とかはいいのだろうか
話しかけてきたので、とりあえず手を止める。
「まあ、最初から比べればそこそこにはなったんじゃないですか」
「そうか、レベルの方はどうだね」
「一応、魔物を狩って上げましたけど、貴族様の平均レベルというものを知りませんので、適当かどうかは分かりません」
「そうか。ところで、君は回復魔法以外の魔法を使えるかね」
「まあ、多少は使えますね。領主様がどの程度を指して使えるといっているのかは知りませんが」
領主様の屋敷にあった魔法関連書物を読んで、更に暇な時間にそれらを実戦で試してみたので色々と使えるようになった。ちなみに今のステータスは↓
名前:ノワール
種族:狐人族
年齢:18歳
性別:女性
職業:Dランク冒険者
レベル:35
装備:木剣
スキル:鑑定眼Lv10、全状態異常無効化Lv10、気配察知Lv.10、光魔法Lv8、肉体強化Lv10、腕力強化Lv10、脚力強化Lv10、剣技Lv10、棒技Lv4、アイテムボックスLv10、火魔法:Lv3、水魔法Lv1、風魔法Lv2、土魔法Lv1
称号:レベルアクセル、スキルコレクター
これを見た際には、なんじゃこりゃぁあ!!(○田○作風)な状態だった。だってスキル増えすぎだろ! そんなポンポン増えていいもんじゃないだろスキルって! 魔法とかいっぱい使ったけどさあ! それに称号ってなんだよ、初めて見たよ! え? マジで? バグじゃないのこれ? とか思っちゃったよ!
次の日、その次の日とステータスを確認したがこのままだった。
あと、気になる点は〈回復魔法Lv10〉が消えていたが〈光魔法Lv8〉が増えていた。多分統合されたのだろう。称号はよく分からないので保留中。装備は現在メリノ君の稽古中で木剣を持っているからだ。
話を戻そう。
領主様が魔法が使えると回答したことに対して追加のお願いをしてきた。
「では息子に魔法の方も教えてやってくれないかね」
「……いいですが、剣と同時にとなると覚える量が増えるので、両方とも中途半端となるかもしれませんよ、と、それ以前にメリノ様は魔法を使えるのですか?」
魔法については先日教えてくれと本人から言われていた際は、剣の稽古の合間にちょっとというつもりだったのだが、ニュアンスからして領主様は本格的に教えてやってほしいのだろうか。
貴族の息子さんの教育を一介の冒険者に丸投げってどうなんだ。マズイだろ普通
「魔法は……使えないはずだ。学院の方では適正が無いと言われていたのだが、まぁ、君の方でも確認してやってくれ。教えるのは、適正があったらで構わない。今は初級の魔法も使えないからな。使えた方が何かと便利だろう。」
「はあ、分かりました。けど、いいんですか? 自分でいうのもなんですが、よく知りもしない冒険者に息子さんの教育をさせるって」
「私はこれでも人を見る目はある方だと思っている」
さいですか。
まあ、貴族っていうと腹芸とか陰謀とか、真顔でできなきゃいけないみたいなことも前世の小説とかだと書いてあったような気もするが、メリノ君には無理だろうな。そうすると他の所で多芸になっておいた方がいいってことかな。でも、学院で魔法適正無しって言われたんだろ。適正無しっていうのがどの程度を指すのかは知らないが。全然魔法がつかえないのか、使えても初歩程度なのか。
これって追加依頼扱いになるのか? まあ、期間内だし、そもそも最初は確かレベル上げの際の回復役だったのが剣を教えることになって更に魔法まで教えることになると……どんどん要求が増えて行っていないか?
多分報酬は増えないだろうなあ。
「ところで……なぜ君はメイド服のままなんだね」
はい、着替えるのが面倒だったからです。メリノ君が稽古相手ならメイド服でも問題なく行えるしね
◇◇◇
「メリノ様は魔法が使えるのですか?」
とりあえず魔法を教えることになったので、一応本人にも魔法が使用できるか聞いてみたのだが、メリノ君魔法は全然だそうだ。魔法関係の本は何度か読んだことがあるらしく、知識はあるのだが、実践としてはうまくいかないらしい。
まず、魔力という抽象的なものを感知できないらしい。これは魔法が使えるほど魔力はあるが感知できないだけなのか、魔法が使えないほど魔力が少なくて感知できないのかのどちらかだが。前者ならばまだ見込みはあるのだが、後者なら『あなたには才能が有りません』だ。
こうなると、魔法学院で言われた適正無しがどういう判断基準で行われたのか聞いておけばよかった。いや、本人が目の前にいるんだから本人に聞けばいいのか。
聞いてみた結果、魔力を図る計測用の魔道具があるらしいのだが、それの数値が低かったらしい。まあ、本人は魔力がよく分からないといっているし、それを魔道具に対して放出しろと言っても無茶な話だろう。
少し考えてみた結果、メリノ君と両手をそれぞれつないで片方の手から片方の手へ魔力を流せないかと思った。
まず、私の繋いだ右手から魔力を押し出す感じをイメージする。そして左手からは魔力を吸い取る感じをイメージ。それで、右手から左手へメリノ君の体を伝って魔力が流れないかと考えた。
これは半分上手くいった。(私から見て)右手から左手へ魔力が流れているような気がするのだが、
「あ、あの……」
「メリノ様、分かりますか? 今、左手から右手へと流れているのが魔力です」
「う、うん、……何かが動いているのは……わかる……」
「うまく感じ取れるようになってください。」
ちょっと何かに引っかかっているような感じがする。私の右手から流しているのだが、強めに押し出すようにしないとうまく流れて行かない。同じく左手も強く引っ張るようにしないとうまく吸い出せないような感じだ。
魔力の流れる場所にも、血管の血栓みたいなものができるのだろうか。
あと魔力の流れる流路の幅自体も狭いような気がする。一気に流せないのだ。
まずは、流れる量を微妙に調節しながら引っかかっている部分が何とかならないかとやってみる。あれだ、川の流れで岸が削られていくような、こう流れに強弱をつけて、引っ掛かりをゴリゴリ削ってスムーズになるように……
あとは、本来流せる量よりも少し多めに魔力を流して流路自体を広げる感じで……
うーん、すごくゆっくりではあるが、少しずつ何とかなってはいる……のか。これは長期戦になるか。
とりあえず1時間ほど魔力を流して、流れをスムーズにしようとしてみたが、まだまだ先は長い。
しかし、1時間手をつないだままじっとしているってめっちゃ暇だな。もっとスイスイできないものか。
「どうです? 魔力の流れを感じられますか?」
「うんと、何となくですけど……集中しないと無理みたいです」
「そうですか、あと、魔力の放出ですが、先ほどメリノ様の右手から魔力が出て行ったと思いますが、これと同じようなものですので合わせて覚えておいてください。」
手を離してみてから、聞いてみるが答えは芳しくない。
何とか1人でも魔力の流れは感じられるようになったみたいだが、非常に集中しないと無理みたいだ。
まあ、血液と同じで体内を巡っているので、血をイメージするといいだろうと言っておいた。……本当かどうか知らないが、とりあえず、私はそのようなものだと思っているのでまあいいんじゃないだろうか。実際私は使えているし。ただ、自己流になってしまうかもしれないが。
まあ、魔法の訓練は、魔力の動きをちゃんと感じられるところになるまで続けるつもりだ。魔法を使う適正があるなら、さらにその後、魔力を適当な濃度にして体外へ放出、物理現象に変換まであると考えれば先は長い。
◇◇◇
その後、何日か同じようなスケジュールで剣と魔力感知の稽古を行った。剣の方はもう結構安定してきていると思う。無論まだ子供なので体の方は小さく軽い。なので、攻撃自体も軽いし、腕が短いのでその分リーチも短い。剣もあまり重いものを持たせると剣に振り回されることになる。なので、どちらかというと技術やスピードの方を重視して教えている。もう少し体ができてきたなら、先ほど言った不足している部分も鍛えられるんだが。
まあ、同年代に比べれば結構いい線言ってるんじゃないかな。他の人がどの程度か知らないけど。
ただ実戦はまだ数度しか行っていないため、依頼期間が終わる前に後1回は行っておきたいとは思っている。
魔法の方は、魔力を感知できるようになって、それを体外へ放出できるようにもなったらしい。ただ、必要濃度まで上昇できているかどうかが問題だ。
なお、魔力の量だが一応適正有り程度の魔力は持っているだろうという(私基準の)判断だ。これは、手をつないで魔力の流れを調べている際に、魔力量はどうやって調べるんだろうと考えた結果、一回全部吸い取ってやればいいんじゃね? と思ったのが発端だ。そのため、一度吸い取ったら、魔力自体はそれなりにあることが分かった。吸い取った結果、メリノ君の脚がガクガクしていたが。たぶんこのまま吸い取り続けたら、倒れたりするのだろう。となるとやっぱり、学院で適正無しと言われたのは、魔力をうまく体外へ放出できなかったからだろう。
ちなみに、本人は分かっていないがこれは【マジックドレイン】と呼ばれる対象から魔力を奪う魔法である。
とりあえず、残りの期間は魔法の方に重点を置いてもいいだろう。
少し片手をつないで、魔力の放出を行ってもらった。私の方にどの程度の魔力が流れてくるか試してみる。
「では、始めてください」
「は、はい」
うーん、魔力は流れてくるんだが、なんというか濃度が薄いというか流れが緩やかというか、とにかく魔法発動は多分無理だろといった感じだ。
なので、手の平に貯める感じで勢いよくと指示を出したら、ちゃんと理解してくれたようで、魔力の塊のようなものが一瞬だけであるがこちらに流れてきた。うん、初歩の魔法ならこれで問題ないだろう。
もう少し訓練すれば、光や闇、空間といった希少な魔法でない限り使えるんじゃないだろうか。まあ、魔法でよく耳にする火や水と言った属性の魔法である。
ちなみに使える魔法の判断は私の独断と偏見である。一応教えるにあたって、魔法関連の本もちゃんと読んだし、それぞれの魔法にどの程度の魔力を籠めないといけないかとか、どの程度明確なイメージを思い浮かべないといけないかとかも本に書いてあった。さらには自己流ではあるが調べてもおいた。といっても光、闇、空間の魔法は資料が少なく初歩の魔法しか調べられなかったが、それでも他の魔法よりも魔力もイメージ力も必要なことが知識としても実体験としても分かった。
今更だがこういう魔法とかってちゃんとした講師とかに習わなくてもいいんだろうか? ほら、某有名な魔法使い小説には、魔法学院なるものが存在していたし。それとも基本は本に書いてあるから後は自己流でどうにかしろという事なんだろうか? そのあたりも知らないな。ティーアにも聞いてみたが自分は人に教えたことも教わったこともないと言われた。改めて、この世界の知識不足がうかがえるな。
まあ、領主が教えろって言ったんだし教えていいんだろう。だめだったら逃げよう。こういう時根無し草なのは便利だな。
さてと、次は魔法の実践だな。
そろそろマンネリ化してきた感が……