05 初めての狩り 2
ゴブリンがこっちに向かってきたため、俺はあわてて左手に持ったままだった石を投げつけたんだが、
バビュン!
大 暴 投
変に力んだせいだろうか、投げた石は空の彼方へ飛んで行った。キラーン☆
「うぁっ!ちょっとタンマ!」
そんなことを言っても聞いてくれる相手じゃない。
「ゲキョ」
ゴブリン3匹は距離を詰めてきている。足が短いため遅いけど。
右手に持っている太っい枝をあわてて適当な長さに折る。
ベキョ!
あ、うまいこと先端が尖った。
いらない葉の付いた先端の方は捨てて、バット程度の長さに腕の倍程度の太さの即席棍棒を構える。
「よ、よ、よ、よーしコイやぁ」
もうゴブリンの棍棒の間合いにまで近づかれてました……
「うひゃっ!」
腕を狙ってきた様な一撃に、あわてて即席棍棒を持った腕ごと引っ込めて後ろに下がる。
その間に他2匹が横に回り込み……あかん、囲まれた。どうしよう。
とりあえず何とか囲みを突破して、各個撃破に持っていきたい。どう動くべきか……
そんなことを考えていたら、目の前の1匹が棍棒を捨ててタックルしてきた。え? 武器捨てちゃうの? なんで?
自分が有利な状況なのになんでわざわざ武器を捨てたんだろう。「来いよベ○ット、銃なんか捨ててかかってこい」などと挑発したわけでもないんだが。
とりあえず、タックルしてきたゴブリンを横にかわすと、後ろから衝撃があり地面に倒された。振り返ると、どうやらもう1匹が同じように武器を捨てて飛びかかってきたらしい。
さらにもう1匹が来て完全に地面に押し付けられる。
ここでようやく相手の意図が分かった。どうやら殺すんじゃなくて生け捕りにしようと考えているらしい。
そういえばゴブリンの説明欄に『他の人間種の女性をさらって子を産ませる』とかあったな。……え? うそ? ゴブリン相手に童貞捨てちゃうの俺? いや、今は女だから処女か。って、そんなことはどうでもいい!
「このっ!離れろー」
さすがに、初体験がゴブリンはいやなので何とか逃れようと足をばたつかせたんだが、
ゴッッ!!
何かが足に当たる感覚とともに、足の拘束がとれた。
「ゲキャ!」
よし何かしらんがチャンス! 腕もばたつかせると
メキョ!!
あ、今度は何があったのか見えた。手に離さず持っていた即席棍棒がゴブリンの横っ面にめり込んだのが見えた。そしてそのまま吹っ飛ばされて木にぶつかり動かなくなった。
よし、拘束が解けた。
あわてて立ち上がり、周囲を見回すと、ゴブリン1匹が近くで何か焦ってきょろきょろしていた。……かと思ったら、
「ギョギョー」
いきなり奇声を上げてこちらに突っ込んできた。だが、素手なので再度タックルでもして姿勢を崩そうということだろうか。……何か錯乱しているようにも見えるが。
よし、即席棍棒を正面に構えて、スイング――する暇もなく先の尖った即席棍棒に突進して自ら刺さってしまった。……え?
改めて周囲を見渡す。即席棍棒に喉のあたりを突き刺されたゴブリンが1体、近くの木の根元でぐったりしているゴブリンが1体、そして少し離れたところで口や鼻から血を流して倒れているゴブリンが1体とゴブリン軍団(といっても3匹だけだが)が全滅していた。
「……うーん。これは勝ったのか?」
とりあえず、生きていると困るので、息があるか確認する。
結果、離れたところで口や鼻から血を流して倒れているゴブリンは息があったので、そこら辺の石をつかんで撲殺した。
「これでミッションコンプリート」
とりあえず、ゴブリン3匹を倒したということでいいだろう。ちょっとよくわからない個所があったがまあいい。
「……しかし」
ゴブリンの死体を見る。
ゴブリンを見つけた時もそうだったが、あまり何も感じないな。人型の生き物(魔物ではあるが)を殺したんだからもう少しこう、何か感じるところがあってもよさそうなものだが。特に刺殺した奴と撲殺した奴に関してはいまだ手にその感触というのだろうか、肉を刺す感触や、骨を砕く感触が残っているのに特に罪悪感など生まれてこない。むしろ「やってやったぜ」という達成感の方が強いぐらいだ。まあ、変に罪悪感に駆られて躊躇→死亡の流れよりはいいんだろうけれども。どこか自分ではなくなってしまった感じだ。……今更か。確かに前世の記憶があるが、体は新品だし。それに、これがこの世界に生きるということなのだろう。
どうせ考えても答えなんか出ないんだし、無理やり納得することにしよう。ゴブリンは人間の天敵。俺はそれを狩った。それでいいじゃないか。
「まあ、考えても分からないしな。とりあえずは当初の目的を果たそう。」
とりあえず、ゴブリンの死体を洞窟から見えないあたりにかためておく。別に、お墓を作ってやろうなどという気はない。そもそもそんな親切心があるなら殺したりしない。死肉をあさりに別の動物が来たら面倒だなとか思っただけだ。
そして、いよいよ洞窟の中に、
「なんか臭いな。」
薄暗い洞窟の中歩いてみるが、すぐ行き止まりになっており、そこに色々なものが乱雑に積み上げられていた。あと、ちょっと横に人骨らしきものが……とりあえずそっちは見ないようにしよう。
「しかし何かあるかな。」
積み上げられていた木箱とかを開けてみるが、中身は腐った何かだったり、ボロボロの布だったりだ。なんというか、別に整理とかせずに戦利品を片っ端から放り込んだ感じだな。ただ、ゴブリン3匹にしては戦利品の量が多めだな。まあいいや。
「おっ、これは使えそうだな。」
木箱の箱の中に茶色っぽいフード付きのマントを見つけた。王様とかが使うやつじゃなく実用的な奴だ。特に目立った痛みもないし……臭くもない。いただきだな。
あと、こっちの木箱は……お、靴がいっぱい入っている。――あのゴブリンども人間用の靴を奪ってどうするつもりだっただろうか?
あと、いろいろ見ていると隅っこの方に袋が落ちているのを見つけた。中身は――お金かな? 金銀銅の丸い硬貨らしきものが入っていた。とりあえずこれももらっておこう。
あと、見ないようにしていた人骨だが、視界の端にちらちら映るのでもうあきらめたんだが、どうやら服をちゃんと着ている。……さすがに死体から服をはぎ取るのはやめとこう。罪悪感半端ない。……人間相手だとちゃんと感じるんだな。あ、でもすぐそばに剣が転がっているな。これはもらっておこう。
そのほかいろいろと確認していったのだが、ガラクタの方が多かった割れた壺とか……収穫としては、
茶色いフード付きマント
お金の入った革袋
少し年季の入ったショートソード(鞘付き)
少し硬めの革のブーツ
以上だった。
あまり使えるものがなかったな。本当に最低限といったところだがまあいいだろう。特に靴があったのはよかった。これで裸足で森の中を歩かなくて済む。ただ下着がなかったのは痛い……いまだノーパンである。
腰に同じく見つけた紐で財布とショートソードを下げ、ブーツを履き、マントを羽織る。
とりあえず、森を出て他の人間と接触しても問題ない程度の装備にはなったかな。ノーパンだけど。
洞窟の外に出てみるともうすでに周囲が暗くなり始めていた。思ったより時間がたっていたようだ。とりあえず今日はここで野宿した方がよさそうだ。あまりしたくはないが。だからと言って夜に知らない森をうろつくのが危険なことぐらいは分かっている。
「その前に少し気になったことを試しておくかな。本当ならゴブリンと戦う前に試しとくべきだったが……」
そう言いながら、近くの木の前に立つ。太さは今の俺の胴回りの倍といったところか。
気になったことというのは、最後まで息があったゴブリンだ。あれはアゴのあたりがぐちゃぐちゃになっていた。おそらく足を拘束していて、足をばたつかせた際に蹴ってしまったゴブリンだろう。それがアゴがぐちゃぐちゃで少し離れたところにいたということは、
「シッ!」
バギャン!!
「て、うぇっ!」
ちょっと力を入れて蹴った木が折れてこっちに倒れてきた。
ズズンッ!
木が折れるのは何となく予想していたのだが、こっちに倒れてくるとは思わなかった。だが、これではっきりしただろう。一応折れて倒れた木を殴ってみる。
バキョン!!
殴ったところがえぐれた。ちなみに殴った手は痛くない。
つぎは、クラウチングスタートの姿勢からスタートぅぉあああぁ――――
足に思いっきり力をかけてスタートを切ったと思ったら、
べちょ!バキョンッ!!
思ったよりもスピードが出てかなり離れたところにあった木にぶつかった。しかも、木の方が折れた。
とりあえず何度か繰り返してスピードを調節できるようになってきたが、かなり速いな。世界新記録とか余裕で狙えるレベル。
そのほかにもジャンプして思ったより飛んだので着地に失敗したりと……
……どんだけ~
スキルの〈肉体強化〉、〈腕力強化〉、〈脚力強化〉のおかげだろう。かなり力が強くなっているようだ。……かなりじゃないな。結構すごいぐらいに? でも、〈腕力強化〉と〈脚力強化〉は分かるが〈肉体強化〉って他の2つとかぶってないか? わざわざ違うスキルにする意味が分からない。
これは、本人は誤解しているが、〈腕力強化〉と〈脚力強化〉の際に肉体が耐えられるように〈肉体強化〉をするのであって、かぶっているわけではない。〈肉体強化〉をしないまま〈腕力強化〉や〈脚力強化〉して殴ったり蹴ったりすると骨折や筋肉断裂の恐れがあるからである。これは転生管理事務所のひっかけである。
腰に吊るしているショートソードを振ってみる。おお、面白いように思い通りに振れるな。これはスキルの〈剣技〉の影響だろう。
これはあれじゃないか。ゴブリンが向かってきたときはかなりビビっていたが、ちゃんと理解していれば普通に楽勝だったんじゃ。まあ、今更か。とにかく、
「え? 俺強くね?」
いや待て待て、いまだこっちの世界のことは何もわからないままなんだ。もしかしたら、金色のオーラをまとった超野菜人とかゴロゴロいるかもしれない。――まあ剣とかあったし、あんなステゴロ上等みたいな奴がいっぱいはいないか。しかし慢心は禁物だ。どこかの正規空母も言っていたしな。
とりあえず誰か人間に会って情報を集めないことには始まらないだろう。自分がどの程度の力があるのはとりあえず保留だな。まあ、ゴブリンぐらいなら素手で問題ないと分かったので良しとしよう。
〈気配察知〉を使って近くに大型の生き物がいないことを確認し、洞窟のあった崖になっている部分に背を預ける。
空はもう暗くなっていた。
「おぉー、すげー、異世界だな。」
空には月があった。大中小と大きさの異なるものが3つ。中の月が地球の月と同じぐらいか? ただ、全部黄色だな。異世界といえば青とか赤とかの月があったりとかするもんだと思ってた。まあいいや。
「……腹減った。」
そういや、こっちの世界に来てから何も食べてないな。まあ、1日ぐらい食べなくても死にはしないだろうがおなかは減る。もうさっさと寝てしまおう。
そうして異世界1日目は過ぎて行った。
ゴブリンさん退場です。
魔物は基本やられ役ですので鬱展開などにはなりません。というか書く能力がありません(笑)