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04 初めての狩り 1

 森の中から出てきたのは、人間より多少小柄で緑色の皮膚をもっていた。身につけているものは腰に巻いたぼろぼろの布きれと、あと手に棍棒のようなものを持っている。ファンタジーでおなじみゴブリンだ。


ゴブリン2匹はこちらに気付いた様子もなく湖の(ふち)へ行くと水を飲みだした。


「あいつらは、このあたりに住処があるのか? ゴブリンといえば初心者相手のザコ敵として有名なんだが。狩ってしまっても問題ないんだろうか?」


 …………ナチュラルに狩るという考えが出たのにびっくりした。どうしてこんな考えが出たのだろうか? 前世ではゴキブリや蚊なんかは普通に殺してたが、それ以上の動物――小動物すら殺したことはない。というか大多数の日本人がそうではなかろうか。それに、言ってはなんだが運動神経のある方ではなかった。社会人になってからもデスクワーク中心だ。なのになぜいきなり、人間のような手足があり二足歩行している生き物に対して狩る=殺すなんて考えが浮かんだのだろうか? さっき確認した脳筋スキルが関係しているのか? それとも、ファンタジー世界ということで、ああいったものを殺して経験値を手に入れることが普通だと考えてしまったのか? それに、多分〈気配察知〉や見た目からそれほど強くないと考えてしまっているからだろうか? しかし待ってほしい、ああ見えて実は言葉が通じて、話してみると結構紳士なのかもしれないぞ。人を見た目で判断するなと子供のころに……さすがにあれはないか。というか多少なりとも嫌悪感(けんおかん)すら覚える。初めて見たにもかかわらずだ。この体のせいか? 確か、この体はこちらの世界で作られたといっていた。ならば、こちらの世界の感覚を体が覚えこんでいるということもあるのであろうか。


 そもそも狩るといっても、どうやって狩るんだ? 武器とか何も持ってないのに。〈腕力強化〉のスキルがあるから殴ればいけるか? しかし、だめだったら手詰まりだ。分からないのであればやり過ごす方が賢明か?

 そういえば〈鑑定眼〉を使用するか。ちなみのこのスキル、対象を視界に収めてスキルを起動という手順を踏まなければならないため、戦闘中などにはよほど余裕がない限り使えないだろう。そうなると、戦闘とは関係ないところで使用するか、こうやって隠れて使用するしかないわけだが。とりあえず微妙に背の高い方を鑑定してみる。



 名称:ゴブリン

 種族:魔物

 レベル:3

 装備:棍棒(こんぼう)

 説明:魔物としては弱い部類に入るが、繁殖力が高く害獣の一種として討伐が推奨される。他の人間種の女性をさらって子を産ませる他、食料等も狩り又は、略奪等により入手する。また、人間種を襲った際持ち物を戦利品として持ち帰り住処(すみか)に貯めこむ習性がある。



 レベルは3か。俺より上だが、なぜか自分より弱いんだろうなとわかる。

 ……それにしても最低限の情報しか表示されないな。これは、俺がスキルに慣れていないせいか。それともこのスキルの限界なのか。これだけではよくわからない。やはり、人のいる所で何回か使用してみないとダメか。あと、自分のステータスと違い『説明』という項目があるが、討伐が推奨されるとか、完全に人間側から見た情報じゃないのか? どういう基準で書かれているんだろうか? ……ああ、もしかして〈鑑定眼〉スキル使用者から見た情報という意味かな?


 そうこうしているうちに、水を飲み終わったのだろう、ゴブリンたちは元来た方向へ帰って行こうとしている。


 どうしよう、害獣に討伐推奨とまであるのだから殺しても問題ないということだろう。しかし狩ろうにも武器とかないしな。そこら辺の石で殴ればいけるか? て、これさっきも考えなかったか? ちょっと焦っているみたいだな。落ち着こう。深呼吸だ。


「ひー ふー ひー」


 落ち着いたか。

 さて、たしか住処に物を貯めこむ習性があるとあったな。なら、狩るんじゃなくて、つけて行って住処で狩った後、何か使えそうなものをいただくというのはどうだろう。

 なにせ、何度も言うようだが、自分、一張羅(いっちょうら)の無一文である。

 なんだかその方がよさそうな気がしてきたな。うん、そうしよう。


「とりあえず、あとをつけてみるか。」


 小声でそう言うと、あとをつけるべく木陰から出て行った。

 とりあえず気配察知のスキルがあるので、付かず離れずといった適当な距離で尾行しよう。相手は依然こちらには気づいていないようで、どこかのんびりと森の中を歩いていく。

 

 ゆっくりと少し距離を開けついていくのだが、非常に歩きにくい。なぜならば、今現在身につけているのはワンピースの服一枚。つまり裸足だ。小石やら小枝を踏んで歩くと足の裏がチクチクする。くそー、あいつら靴とか持ってないかな……

 

 ガササッ!

 

「ッ!!」


 今頭の上で音がしたので非常にビビった。気づかれてないだろうな。ゴブリンの方を観察するが特に動きに変化はない。どうやら気づかれなかったようだ。しかし、


「……どうも感覚が違うな。」


 さっき、音が鳴ったのは自分の耳が木の枝にぶつかったからだ。そういえば忘れていたが、今の自分は狐耳がついている。頭頂部よりも高い位置に耳が出っ張っているのだ。シッポもあるので、体を動かした際に触れる範囲が人間とは違う。あと女性の体のため胸もあるし、骨盤の位置も違う? ため歩き方も少し異なっているようだ。そもそも身長が違う。どうもまだ慣れていないため、以前の『人間の男性』と同じ感覚で動いてしまう。いま枝に耳をぶつけたのもそのためだ。視線の高さが違うから身長の違いはすぐ慣れてしまったし、男性女性の違いは少し動いていれば慣れそうだが、人間と狐人族の違いについては少しかかりそうだ。そもそも、狐耳やシッポなんて知識にすらないものがあるわけだし。


「もう少し注意して歩こう」


 一応相手はそこまで早く移動しているわけではないので、もう少し注意して尾行することにした。


 途中、何かの木の前で立ち止まったと思ったら登って木の実らしきものを取ってきたり、何かの花の前で少し立ち止まっていたりと多少時間を食ったが、ようやく住処らしきところについたらしい。


 茂みから少し身を出し確認してみると、少し小さめの洞窟があるようだ。中がどうなっているのかわからないが、外にはつけていたゴブリン以外のゴブリンが1匹いた。

 あの洞窟は、寝床か物資を保存する倉庫のような役割でもあるのか。……後者だったらいいな。


 一応、〈気配察知〉を使用してみるがその3匹だけのようだ。他に付近には反応がない。


「さて、どうするか?」


 今、3匹のゴブリンは洞窟の前で座り込んでたむろしている。何か話し合っているのだろうか? どこかへ行く様子も洞窟へ入っていく様子もない。

 〈鑑定眼〉を使用してみるが、先ほど湖で見た際のものと同じだ。あと、他2匹もレベル3だった。

 先ほども感じたことだが、おそらくこれらのゴブリンは自分より弱い。ただ3匹いる。この数の差でどうなるかわからない。3匹に囲まれてボコにされたりとか笑えないしな。


 そういえば、尾行してきてみたが、別に狩らなければいけないわけではない。気づかれていないため、このままこの場を去ってしまうというのも一つの手だろう。ここがどこかわからないが、ゴブリンとて何か食べ物がなければ生きていけないわけだ。ステータスの説明欄に『食料は狩り又は略奪』とあった、後者ならこの付近に人間がいるか人間の通る道があるのだろう。多分。

 ただ、何度も言うようだが一文無しだ。第一村人と会う前にせめてお金か衣服類を手に入れておきたい。


 周囲を見渡してみると、洞窟のある崖になったような場所とその出口に少し広めの土がむき出しの空間。そしてそれを囲むように森の木々。

俺はちょうど洞窟の真正面の茂みの中にいるわけだが、向かって右手に少し茂みがかき分けられているところがある。


「ん~」


 少し身を乗り出して見てみると、獣道のような地面が踏み固められた場所がある。おそらくゴブリンが使う道だろう。獣道といったがゴブリン道ということだろうか。

 となると、あそこを辿っていくとどこか人間のいるところに出る可能性があるな。

 よし、とりあえず目の前のゴブリンを何とかして洞窟の中に使えそうなもがあればそれをいただいた後にあそこをたどって行ってみよう。


 ……あれ? これって俺の方が盗賊みたいなんじゃね? いや、違うんだ。考えるな。ゴブリンさんは俺が生き延びるための貴重な経験値となっていただくんだ。あの天使さんだって言ってたじゃないか『魔物は人間の天敵』みたいなことを。

 

「とりあえずは目の前の3匹をどうするかだな」


 ゴブリンたちはいまだこっちに気付いた様子はなく談笑している? のだろうか。よくわからん。とりあえずひとかたまりとなっている。

 足元に拳より少し大きい石があったので拾い上げる。スキルに〈肉体強化〉や〈腕力強化〉があったから、これをまずはどいつかの頭にでもぶつければ1匹は行動不能にできるだろう。当たり所が悪ければそのまま死ぬかもしれない。そして後の2匹を相手に……どうすんだ?

 やっぱり素手だとまずいよな。太めの木の枝とか落ちてないだろうか。周囲を見渡してみるがないな。

 となると、そこら辺の木の枝を折って使うか。……折れるか? 忘れがちだが今の俺は18歳女性の体だぞ。スキルに〈腕力強化〉があるが、これがどの程度役に立つかって所か。

 

 少し手頃な木を探してみる。

 いい太さの木があった。枝というか幹が俺の腕の2倍近い太さがある。このぐらいあれば多分武器になるだろう。

 

「さてと、スキルさん頼みますよ~っと」

 

 右手を添えて、


 メキメキメキッ!!


 簡単に折れた。……ものすごい音もした。

 あわててゴブリンの方を見るとどうやら気づかれたようだ。こっちをガン見している。当たり前だ。あんな音をさせてさらに木が大きく揺れたんだから。

 

 やばい、気づかれた!


「ゲキョキョ」

「ギャギャ」


 何か叫びながらこっちを指さしている。ゴブリン語はわからん。

 あ、棍棒を手に取って振りかぶりながらこっちに走ってきた。ああ、これは殺る気ですわ。


 俺は、あわてて左手に持ったままだった石を投げつけた。


とりあえず王道通り弱い敵から出でてきます。

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