38 厄介ごとはいっぺんに
「ご主人様ぁ、私も食事をとりたいのですがぁ」
「食事ならいつもとっているだろう?」
「いえ、そうではなくてぇ、人間の精気というかぁ」
「性器?」
「精気ですよぉ、ご主人様ぁ。わたし、リリスですから」
……そう言えばサキュバスって人間の精気を吸うんだっけ。どのぐらい吸うんだ、それ? あと、こいつのこの色っぽくしようとして失敗したみたいな喋り方は固定なんだろうか?
「どの程度必要なんだ? 人死にが出るようなら許可できんぞ」
「大丈夫ですよ。リリスに進化した時点で嗜好品扱いですからぁ」
「なら必要ないな。」
「そんなぁ、ご主人様、ちょっとでもぉ」
「…………まあ、死なない程度ならいいぞ、で? 誰からどうやって吸うんだ?」
まあ、多少の娯楽は必要か。これから働いてもらうんだし……嫌でも一緒にいるわけだし。でもこいつショタ&ロリ属性だろ……
で、どうやって吸うんだ? やっぱりエロいことするのか? このビッチめ!
「本来は性交が1番効率がいいんですけど、女性同士なので別の方法でしますぅ、で、ご主人様か、ソレイユっていう子から頂けたらなぁって」
「私か…………性行為は遠慮するが、別の方法? まあ、明日に支障が出ない程度ならいいぞ」
「ありがとうございますぅ。では――」
性行為めっちゃ興味ある! でも相手がこいつとか……ないわー……しかも私、女だし……ムスコが健在ならばグラッと来たかもしれない。
と思っていると、首に腕を回して、唇が近づいてきてブチューっと、って、おい! 何やってんじゃ! 私のファーストキスだぞ! (童貞はキスもまだなのだ)あ、でもやわらけー 女の人の唇ってこんなんなんだ……相手がこいつじゃなかったらなー……
「んっ! ん――――」
あ、やばいっ、体から力が抜けていく……異性とのキスというのは好みの相手でなくともこんな感じになるのか、すげぇ、人体の神秘! ……違うよね、分かってるよ! 何か吸い取られてるよっ! おいっ! どの程度吸うんだよっ! ……あれ? 何かよく分からないが、こいつ勝手に痙攣し始めやがった…………
そして、しばらくすると崩れ落ちた。
「おい、どうした?」
返事がない……
「おい!」
頬をペチペチ叩く。
「ふぁ~、ごしゅじんしゃまぁ~ しゅごい~~」
頬が紅潮して目の焦点が合っていない。何かヤバイ薬キメたみたいになってるぞ。もしくはアヘ顔。……大丈夫かこれ?
結局、その日はティーアは使い物にならなかった。あと私もかなり体がだるい……
そう言えばお前ショタ&ロリ好きじゃなかったのか? 私はロリに入るのか? いや、年齢的には年下だろうけど見た目的に。そう思い質問した回答は簡潔だった。このサキュバス(リリスだが)別にショタ&ロリコンではなくショタ&レズだったのだ。守備範囲は少年少女に女の子、女の人とわりと広い。アウトは男は青年以上、女はおばさん以上だそうだ。……青年は守備範囲外なのでバイではないらしいが、この場合なんと言うんだ……
こういうグイグイくる特殊性癖のビッチは少し苦手だな。後腐れのない一夜限りのお付き合いならともかく、一生面倒見るのか? はぁ……
◇◇◇
今回はティーアも加わったので北の森に行くことにした。
高レベルな魔物が出てくるので、最初にソレイユちゃんが不意打ちで一撃を加えて、ダッシュで離脱、その後、私がとどめを刺す。ティーアはソレイユちゃんの護衛と万が一のためのバックアップという形式で行こうと思う。
ソレイユちゃんを抱えてダッシュで森の奥の方に行ったのだが……ティーアが空を飛んで追いついてきた。その羽、大きさ変えられるのか。便利だな。
オーガを見つけたので、ソレイユちゃんGO!
「やぁ!」
グサッと刺さることは刺さるんだが、レベル差と皮膚の固さで非常に刺さりが浅い。オーガの方もびっくりした様子もなくゆっくりと振り返っている。
ここで選手交代。ソレイユちゃんが下がり、私が前に出る。
ゴシャ!
ジャンプしつつ脳天唐竹割ぃみたいなことをやってみる……簡単に頭がつぶれた。
うむ、オーガ1匹なら問題ないな。死体をアイテムボックスにしまいながら――
「よし、次行くぞ!」
「はい」
「はいぃ」
オーガは群れる習性がないのか、多くても2匹までだった。
ティーアのレベル94というのがどの程度なのかも知りたかったので、試しに攻撃させてみたのだが、はっきり言って攻撃が見えなかった。大きな音と共にオーガの頭が粉々に吹き飛んでいた。おい! すごいけど、それやっちゃうと討伐証明部位取れないだろ! ……めっちゃ期待する目で見てくるな……まさかわざとやったのか
「討伐証明部位って説明しただろ。頭を吹き飛ばすんじゃねぇ」
「あっ、あっ、ご主人様ぁ、気持ちいぃ」
何を期待しているのかわからなかったので、頭をぐりぐりしてやったんだが……エロい声出すんじゃねぇよ!
とりあえずティーアはしばらく攻撃には参加させないでおこう。
「気持ちいいと言えば、ご主人様ぁ、また精気を吸わせてくださいねぇ」
「嗜好品なんだろ? 慣れると怖いぞ?」
「大丈夫、大丈夫ですからぁ、週一くらいでぇ」
「…………分かった分かった」
分かったから縋り付くんじゃない! おっぱいとかあたってるだろ! やわらけー
やっぱりあれ依存性のある薬みたいなものじゃないのか?
おっと、そんなことをやっていたら出てきました。ロックリザードだ。なんでこんなところにいるんだよ! レベル31とアイアンリザード程じゃないとしても、1匹いたら普通に集団討伐依頼の出るやつだろ、こいつ。
だが、アイアンリザードを倒した私にはザコよ…………すいません。言い過ぎました。あのときは30人ぐらいで囲んで倒したもんね。
「よし、相手は気づいていないので、ソレイユが奇襲したらダッシュで離れる。その後、私が関節をつぶす。そのままいけそうならとどめまで持っていく。無理そうならティーア……頼めるな」
「は、はい!」
「分かりましたぁ」
よし行こう!
ソレイユちゃんがダッシュで相手に近づきガンッ! と一撃加える。やっぱり刺さらなかったか。一撃は皮膚にはじかれたので、その後は走って離れる。で、私が前へ。
以前と同じ轍は踏まない。今の武器は金属塊だ。
「おらっ!」
ゴシュァン!!
大きな音と共に、脚が変な方向へ曲がる。
「グギャァァァァン!!」
さすが金棒、なんともないぜ。これならいけるだろう。
もう関節狙いはやめて、首の横につく。
ゴギャッ!!
首を思いっきり殴って折ってやったら、口から泡を吐いて、静かになった。
あれ? 結構簡単なんじゃね?
レベル31とは思えないあっけなさだった…………これ30人も必要だったのか?
とりあえず今日はここで切り上げよう…………と思っていました。
バキッベキッ!!
ハイ、ロックリザードの追加入りましたー。
森の奥から2匹のロックリザードが現れた。今倒した奴の連れだろうか? 2匹は大きな鳴き声を上げるとこちらを見て突進してきた。さながら重戦車といったところだろうか……ただ、
「遅い……」
動きがすごく遅いのだ。おそらく、防御力がすごすぎて敵の攻撃をかわしたりする必要がないからだろう。もしくは装甲が重いのだろうか。人の全力疾走以上の速度はあるが、体格を考慮すると非常に動きが遅い。
それに、もう私の武器は剣ではないのだよ。
結局、こちらの速度に付いてこれず、同じように骨を砕いて倒すまで時間はかからなかった。
数十体のオーガに加えロックリザードも3匹狩ったので、私のレベルは35にまで上がっていた。ちなみにソレイユちゃんはレベル17だった。すげぇ!! レベル上がりすぎじゃね? いや、格上の相手を数十体ボコッたからこんなものなのか。やっぱりロックリザードの経験値がおいしかったのだろうか。
……ちょっとテンションあがっていたが、冷静になって考えてみるとやっぱり私のレベルの上がり方が速いような気がする。まあ、これはこの前考えても答え出なかったしな。レベルが上がる分にはいいだろう。
ただ、レベルが35にもなってくると、適当な相手がいなくなってくる。レベルが極端に下の相手――ゴブリンやらオークやらはおそらくもういくら倒しても微々たる経験値しかもらえないだろう。ロックリザードももうそろそろ格下になってくる。もう少し森の奥の方に行けばもっと強い奴がいるのだろうか。ただ、北の森は広大でどこが奥かもわからないが。
とりあえずロックリザードは素材を売るためアイテムボックスへ。
ちなみにオーガの中にグランドオーガというオーガの上位種がいたことも経験値を上げた一因となっているのだが、それは冒険者ギルドに素材を納品した際に明らかになる。ただ本人はちょっと強い奴がいるなぁ程度に思っていただけで、倒してしまうことに変わりはなかった。
「ご主人様のぉアイテムボックスは凄いですねぇ」
「そういや、以前にもそんなことを言われたな」
「そうですよぉ、普通そんなに入りませんからぁ」
やっぱり327年生きていても珍しいのだろうか。
「さて今日は帰るか」
「はい」
「はぁい」
街に帰って、冒険者ギルドへ。
ちょうど依頼ボードに『オーガの素材求む』との依頼があったのでこれを受注して、その場で達成扱いにしてもらおう。
「あら、ノワールさんお久しぶりです。」
「ああ、サレールさんも元気そうで……ところで、この依頼の件と、オーガとロックリザードの素材売却をしたいのだが」
「はい、この依頼ですね。あとは、オーガとロ……なんですって?」
「このオーガの素材採集の依頼と、それ以上狩った分のオーガの素材と、ロックリザードの素材を――」
「ロ、ロックリザードを……どこで狩ったんですか?」
「北の森だが……」
「あ、いたいた、ノワールさん」
おや、こんなところにギルドマスターが……初めて見たな。
「ノワールさん、ちょっと明日、領主様に会ってきてくれないか?」
「え? 嫌ですよ」
「返事速いね……そんなこと言わずにさぁ」
「面倒事の匂いしかしないんですが……聞くが、権力を笠に着る貴族丸出しの人ではないだろうな」
「いやいや、そんなことはないよ。仕事に関してはデキる人だし、人としても結構好感を持てると思うな。はいこれ。招待の手紙」
「拒否したら?」
「回復魔法の件では領主様に借りがあると思うんだけどね」
「……分かった」
くそ! この野郎、分かってて使っていいとか言いやがったな。
「あ、ギルドマスターちょっと待ってくださいよ」
すぐに帰ろうとしたギルドマスターをサレールさんが呼び止めている。
「ん? 何かねサレール君。夕食のお誘いかな?」
「ノワールさんがロックリザードを狩ってきたというんですけど……」
「ほう、どこでだね?」
「北の森だという話です」
「すごいね、……3人で狩ったのかな」
「まあ、そうだな」
そう言えなくもないな
「そうか、じゃあ、いつもの倉庫にみんな集まってね」
そう言うと何人かのギルド職員が準備しだした。みんな自分のやること分かってるんだな。
「じゃあ、ノワールさん、前と同じ所に行って出してくれるかい?」
「分かった」
そう言って前にゴブリンを出した倉庫に私とギルド職員数名で向かっていくのであった。
あ、そうそう、ロックリザードは素材としても優秀で高値で売れた。経験値的にもお金的にもおいしい、一粒で二度おいしい奴だった。
この後の展開は何となく考えてはいるのですが、まったく文章化できておりません。
なので次回更新まで間があきます。