32 遺跡 2
「本当にいいのか?」
「ああ、構わんよやってくれ」
さっき学者殿から地下を掘れないかと提案が来た。ただ地面を掘るような装備は誰も持っていない。
遺跡の中の床が石なのでもしかしたら割れるかもしれないと、いま3人組がそれぞれの武器で叩いたりしている。
遺跡を壊したりして問題ないのか心配だったが、こういうのはこの世界では早い者勝ちらしい。この遺跡を壊してでも中に何があるのか確認できれば大手柄なのだろう。
それ以前に、これくらいの遺跡ならそこまで珍しいものでもないらしい。学者さんも全員フォルオレンの街にいる人たちらしく、他の街から人材を引っ張ってくるほどでもないそうだ。
なんだ、珍しいものではないのか。ちょっとがっかりだ。
「私もやってみよう」
そう言って、私も金棒で地面をつついてみる。ゴンゴン! 音がするだけで特に何かあるわけでもないな。まあ、力入れていないし当然か。ちょっと力入れてみよう。ゴッッ!!
ビシッィ!!
お、床に亀裂が入った。これはいけるか……その前に他の人を避難させておいた方がいいかな。
「おい、少し離れておい――て、く、れ?」
「――ここは?」
「あれここどこっすか?」
「え? どうなってんだ」
「ノ、ノワール様……」
いきなり地面が光ったと思ったら、視界が暗転、すぐ周りが見えるようになったのだが……洞窟の中? に居た。
「……ここは? 確かさっき、床が光ったと思ったが何かあったのか?」
周りを見ると、ソレイユちゃんに、学者の人、あと『燃える刃』の3人組がいる。さっき周りにいた全員がいるようだ。
「ここはどこなんだ? 先生、何か知っているか?」
「……あー、ワシの推測じゃが、床の転移魔法陣が起動したのかもしれんな」
「はぁ? 転移魔法陣?」
「床にそんなもんあったんすか」
全員驚いている。
あれって、ワープポイントだったのか。半分近く消えていたよな。いしのなかにいるみたいにならなくてよかった。
「いや、ワシもあれはもう起動せんと思っておったんじゃが……床が光ったのが見えたから……起動したんじゃろうか……」
「おいおい、しっかりしてくれよ先生……」
「ワシもこういったことは初めてじゃからな。」
「ところで……どうやって帰るんっすか?」
「わからん」
「は?」
「……わからんといったんじゃ」
「いやいやいや、ちょっと」
「わからんて、こんなところで……」
周りを見てみる。さっき言ったように周りは石壁に囲まれて、一方に通路が伸びている。天井の高さは3メートルといったところか。壁がうっすらと光っているので周りは、多少薄暗いものの一応見える。
天井が無ければ、テーマパークの迷路の突き当りみたいな感じだな。
「じゃが、これはチャンスじゃ! これで遺跡の謎が解明できれば、ワシが有名人じゃ!」
この学者先生はなかなか肝が据わっているようだ。
「いや、有名人じゃ! じゃなくて出口探さないと……」
「そうっすね。俺らは遺跡とか興味ないっすし」
「何を言っとるんじゃ。ここがあの遺跡とつながっているとしたら、調べる価値はある。財宝とかも眠っとるかもしれんぞ」
「財宝っすか!?」
「マジか!?」
「ならちょっとやる気出てきたな。」
「じゃあ少し探してみるか……」
「……いや、探すといっても……道1本しかないだろ……」
「ちょっと不気味っすね。ここを行くんすか?」
「ダンジョンとかこんな感じだよな」
財宝と聞いて上がっていたテンションがまた少し落ちた。それにダンジョンなんて言葉も飛び出してきた。ダンジョンってあれだよなよく物語とかである地下迷宮みたいなやつ。
ちなみに、こういう遺跡で宝物などを見つけた場合は発見者のものになるらしい。もし歴史的なものだったりした場合でも学者などが相応の値段で買い取るそうだ。
まあ、結局、財宝を見つけても出口がないとどうしようもないためここから離れることになった。
先は、うっすらと見えるとはいえ、隅っこや陰になっている部分も多い。松明に火を灯して行くことになった。ちなみに松明は3人組の持ち物だ。そのまま臨時の武器にもなるしランタンより使いやすいらしい。こんな閉鎖空間で火とかたいて大丈夫かな。
先頭は『燃える刃』の3人組だ。ノリーカーの奴が斥候だとか。その後ろに学者先生とソレイユちゃんが続き、殿に私がいる隊列となった。
しばらくは一本道をただ歩いていくだけで罠とかも無かったんだが、
「おい、何か来るぞ」
〈気配察知〉に引っかかったので教えてやる。
「何かってなんだよ?」
「わからんが人間より小さい気配が2つ」
そう言うと、デュロックとゴトランドがそれぞれの武器を構える。
そして何とか目で確認できる距離まで気配が接近したとき、奥から現れたのは――
「スライムか」
それはゲル状の――スライムだそうだ。スライムって言うと水滴みたいなザコモンスターが思い浮かぶが、そういや本来はこんなんだとか言われていたな。
後、3人組の雰囲気が一気に弛緩したものになる。どうやらそこまで強い奴ではないようだ。
どうやって倒すのか見ていたら、松明を押し付けると、ゲル状になった部分が炎を避けるように移動していった。そして何か体内にあった色の違う球形のものが露出した。それをデュロックが叩き割る。すると「ピギュ!」とかいう音? ……声がして動かなくなった。……あれ核だったのか。あんな見つけやすいものが核ってどうなんだ?
同じように2匹目も討伐……駆除された。
スライムはこっちでもザコモンスターだったようだ。
またしばらく歩いていると今度は丁字路に行き当たった。私たちが来たのはTの縦棒の方の道だ。
「どうする? 左右どっちへ行く?」
「うーん、……先生はどっちだと思います?」
「ワシも初めて来たんじゃ、知るわけなかろう」
「ですよねー」
うーん、右の方から何やら結構大きな気配があるのだが……避けるように教えるべきだろうか。ただ、ここが迷路状になっていて左から行ったほうが相手に近づいていたというのもあるかもしれない。そもそもこの大きな気配が何かもわからない。ちょっと詳しく〈気配察知〉を使ってみたが、こっちを見つけていないため敵か味方か分からない。大きさは人間大だ。移動はしていない。ずっと一点に留まっている。
「ちょっといいか?」
「なんだお嬢ちゃん」
「右の方に気配がある。大きさは人間大。ただ、人間かどうか、敵かどうかが不明だ。」
とりあえず教えてみると、学者先生と3人組が意見を交わし始める。
「そうなのか……どうする」
「それは行ってみるべきじゃろう」
「もし敵だったら危ないっすよ」
「何を怖気づいておるんじゃ。こういったところに危険はつきものなんじゃ。」
「いやいや先生。もし敵なら戦うの俺らっすよ」
「うーん。俺も行ってみるべきだと思う。他の冒険者がいるなら出口があるのかもしれない。敵なら……最悪逃げたらいいだろう。」
「そうだなとりあえず警戒しながら行ってみるか……」
結局、デュロック、ゴトランド、学者先生が右に行く。ノリーカー左に行くということで右に行くことになった。私とソレイユちゃんは別に意見する気はない。
少し歩いて行ったのだが、道はまっすぐだった。気配に着実に近づいているな。
「人間より大きな方の気配が近いぞ」
「全員警戒しろ」
「おう」
「了解っす」
さらに少し行くと大きな扉が見えた。しかも無駄に豪華だ。その前に甲冑を付けた人間だろうか? を模った石像が両側に立っているこれも無駄に豪華だ。と思った次の瞬間
ブォン
石造の目が光って動き出した。