26 集団討伐 2
今、馬車に揺られて移動中だ。ギルドの用意した馬車4台に冒険者28名+ソレイユちゃんを含む奴隷5名が分かれて乗車している。その後ろには教会から助っ人に呼んだ回復魔法使い4名が乗る馬車1台が続き、その後ろに、領主軍の馬車4台、30名が続いている。最後尾は食料や水などの物資を乗せた馬車が2台。計11台の馬車の列が移動している。
そういえば以前、奴隷商人を護衛していた兄妹冒険者も参加していた。
今日、冒険者ギルドの前に来たのだが20人以上いるだろう人が道をふさいでしまっていた。ほとんどが男の上、マッチョメンの比率が高い。ギルド前だけ気温が高くなっているような気がする。
さらに、冒険者ギルドの前にはごついおっさんが立っていた。全身鎧はいいとして顔が狼だった。亜人種ってああいうのもいるのか。ケモノ耳だけ生えて、他は人間と変わらないのもいれば、あんな獣寄りの人もいるとは。
少し待っていると、全員そろったのだろうか狼顔のおっさんが話し始めた。
「全員そろったようなので話を始めるぞ。俺はクライスデール。Bランク冒険者だ。今回の討伐任務でギルドマスターより討伐隊の面々をまとめるよう言われている。」
なるほど、あの人がリーダーみたいなものか。まあ、ほとんど初対面な冒険者だし、いきなり約30名が連携なんか取れるわけないもんな。だからと言って別々に攻撃とかしたら味方撃ちが怖い。大まかな指示なんかはあの人が出すのだろう。
「全員依頼表は読んできたな。今日は移動のみだ。馬車は西門で待機させている。じゃあ行くぞ。」
そう言ってクライスデールさんを先頭に、ぞろぞろと西門に歩いていき、馬車に乗る。その後はもう特に何もない。ひたすら野営地に到着するのを馬車に乗って待つだけだ。
馬車に揺られている。
ガタゴトガタゴト……
一応、兄妹冒険者がいるので挨拶しておこうかな……と思っていたら向こうから声をかけてきた。
「こんにちは、ノワールさん」
「ああ、こんにちは、……コラットさん、ソマリさんも」
ペコッ
ソマリちゃんが会釈をする。
「えっと、そこ子は……もしかしてこの間の奴隷ですか?」
「あ、ああ、そうだ。一応ソレイユと名付けた。」
「ソ、ソレイユです。よろしくお願いします。」
「あ、ああ、僕はコラットっていうんだ。こっちは妹のソマリ。以前、君をあの街に運んでいた奴隷商人の護衛をしていたんだ。……覚えてないかな?」
「す、すいません……」
「いや、いいよ、あの時は……その、意識がなかったようだしね」
「はい……」
「えっと、君も戦うのかな?」
「いや、ソレイユは馬車で待機だな。」
「はぁ! 戦わない奴隷とか連れてくんなよ!」
いきなり横から会話に割り込まれた。誰だ?
「ギルドマスターに許可はもらっている」
「そういう問題じゃねぇんだよ! 馬車が狭くなるだろ! それに1人分多く食いもんとか持って行かなきゃならなくなるしよ!」
ちょっと禿げたおっさんだった。面識はないな。というかお前の持ってるハンマーみたいな武器のほうが場所取ってるだろ。これは無視かな
「2人はあの後も、フォルオレンにいたのか?」
「え、ええ。少し休んでから出発しようと思っていたのですが、今回、この討伐依頼があったので参加したんですよ。」
「出発ということは、どこかを拠点にしているとかではないのか?」
「まあ、一応拠点と呼べる街はありますが……最近は護衛依頼とかで結構いろんなところを巡っていますね。」
「なるほど」
「おい、無視すんなよ!」
やたらと絡んでくるな。
「おい! お前らうるさいぞ! そんなに元気が有り余っているなら明日にとっとけ!」
そう言えばみんなのリーダー、クライスデールさんも一緒の馬車だった。
一応、相手の方はおとなしくなったようだが、結構睨んでくる。あと何人かは迷惑そうな顔をソレイユちゃんに向けている。やっぱり連れてきたのは失敗だったかな?
「大丈夫ですよ。彼らも今回の依頼で少しピリピリしているだけだと思うので」
「あ、ああ」
ソマリちゃんがフォローを入れてくれる。かわいいねソマリちゃん。
そんなことを話しているとどうやら今夜の野営地についたらしい。
「よーし到着だ! 全員降りろ! 今日はここで野営だ!」
みんなぞろぞろと馬車を降りだす。
木々に覆われた山のふもとの少し開けた場所みたいだ。辺りはもう暗くなり始めている。
その後はそれぞれバラバラに……というかパーティーごとかな? に分かれて野営の準備を始める。
といっても、地面に寝るのだろうか? 地面を簡単に整えて保存食をかじりだす奴もいれば、ちゃんとテントを張るやつ、森の方に行って薪を集めてきて火をおこし始める奴、様々だ。
逆に領主軍の方はちょっと離れたところにちゃんと全員がテントを張っていた。
私たちはどうしようか? ソマリちゃんとか誘っちゃう?
「ノワールさん、どうです? 一緒に野営しませんか?」
おっと、ソマリちゃんの方からお誘い入りました。
「構わないのか?」
「いいですよ。夜の番は兄がしてくれるので、」
「え!?」
お兄さんがこっちを向いてめっちゃビックリしているんだが
「さすがに、コラットさんにのみ任せるのもあれだが、まあ人数が多いほうが寝る時間も多く取れるだろう。お言葉に甘えよう。」
「そ、そうだよね。みんなで交互に番をするのがいいよね。」
「そうですか? 男なんですから女性には優しくすべきですよ?」
「いやいや、何言ってんの! 徹夜とか無理だから!」
「ま、まあ、私も変わるから問題ないさ」
「あ、ありがとう」
「まあ、ノワールさんがそう言うならいいですけど……」
「で、どうしましょう。僕らそれぞれ毛布を持ってきているんですが?」
「地面にじかに寝るのか?」
「今まではそうですね。」
「……私がテントを持ってきている。ソマリさんも一緒にどうだ? コラットさんは……無いとは思うが女性を襲った経験は?」
「な、無いですよ!」
「そうか、なら一緒でも問題ないか……」
「え? い、いや……そ、それもどうかと……」
アイテムボックスからテントを出す。4人用の結構大きい奴だ。しかも組み立て済み。面倒くさかったからな。あと4人用なのは、私がもし寝相が悪かったら小さいテントだったら支柱とか倒しちゃうんじゃ? などと不安に思ったからだ。
今のこの体なら合法的にソマリちゃんと一緒に寝れるぜ。イャッフゥ~
「え? ノワールさんアイテムボックス持ちだったんですか?」
「ああ、言ってなかったか?」
「いえ、聞いてないですけど」
「そうか、あとこっちが夕食だが、一緒にどうだ?」
そう言って、昼間に屋台で買っておいた、ホカホカの何かの焼いた肉を挟んだサンドイッチみたいな食べ物を出す。……まだ温かいな。どうやらアイテムボックス内は時間が止まっているという考えで間違いないようだ。
「え? いいんですか?」
「まあ、何か持ってきていて、そっちがいいというなら無理にとは言わないが」
「いえ、いただきます」
「いただきます」
「そうか」
自分たちの分も出して夕食タイムに入る。
その後はもうすることがないので、さっさと寝てしまうことに
不寝番は私→コラットさん→ソマリちゃんの順となった。ソレイユちゃんは「私もやります!」とか張り切っていたが、番とかできそうになかったし、年齢が低いので不寝番には組み込んでいない。
「別に一緒に寝てもいいんだぞ」
「……いえ、そういうわけには」
結局、コラットさんはテントの外で毛布にくるまって寝ることにしたみたいだ。私としては別によかったのだが、ソマリちゃんが、女性と一緒のテントとかありえないですよね~的な空気を出していた。ん? よく考えればコラットさんハーレムが出来上がっているんじゃないのか? 本当は私がハーレムとか作りたいんだが……
◇◇◇
何事もなく朝を迎えた。
本当に何もなかった。……寝ぼけてソマリちゃんの胸とか揉んだりしようとか思ったりもしなくもなかったが、そこは鉄の意志でやめておいた。そういうのはもう少し親しくなってからだよね。
「よーし、今、斥候に、ロックリザードの位置を確認させている。今のうちに準備をしておけ!」
クライスデールさんがそう言ったので、私たちは、テントをしまい、朝食を食べる。一応野営中ということもあって昨日と同じ服だ。着替えとかはしていない。ソマリちゃんの着替えとか見たかったな。あとは、剣を腰に吊るし、手甲をはめれば私の場合は準備完了だ。ソマリちゃんはローブと杖なので私よりも準備が早かった。コラットさんは装備を付けたまま寝ていたので特に準備とかは必要ないらしい……それ寝にくくないか?
「じゃあ、よろしくお願いします。」
「はいよ」
「ノワール様!頑張ってください!」
ソレイユちゃんを御者さんに預ける。人のよさそうな初老の男性だった。ギルドマスターが話を通しておいてくれたので特に問題は起きない。
馬車と御者、回復魔法使いは相手の位置にもよるが、もう少し行ったところで待機らしい。冒険者と、領主軍は、斥候が戻ってきたら、冒険者を先頭に徒歩で山の中に入るらしい。
おや、前方から人が来るな。どうやら斥候が戻ってきたらしい。