19 新たな出会い 2
「兄さん、大丈夫? 今ポーションを――」
魔法使いのほう――会話から妹かな? が剣士のほうに駆け寄ってポケットをごそごそとやりだす。話からすると、ポーションを取り出そうとしているようだが、完全に攻撃の手が止まってしまっている。というか完全にオーガ2体から目を離してしまっている。
これはヤバイ。2体目はダメージが残っているため動きがノロいが、3体目が2人を攻撃しようと走り出している。
もう、声かけてる時間なんてないな。
そう思い、脚に力を入れて走り出す。
ガッ!!
一気に加速するが、力を入れていた足が少し沈んだ気がする。まあ女性の体重で地面が沈むとかどんだけエネルギー無駄にしてんだとか思わなくもないが、まあそれよりオーガの方だ。3体目の武器は棍棒だろうか――もう武器を振り上げ終っている。減速して剣で斬りかかってとやってる暇はなさそうだ……
「そのまま殴る!」
走る速さはそのままに、わき腹あたりを思いっきり殴る。
ゴッ!! グュッ!!
殴った腕がめり込んだ――あと、2人組冒険者がこっちを見た――
「「え?」」
「うぉ!」
骨を砕き肉を裂き――ってのはいいんだが、そのまま脂肪か筋肉、さらに砕いた骨らしきものにまで挟まれて抜けない……足も浮いちゃってるので踏ん張れない……
結果、3体目のオーガと一緒になって飛んで行った……
ドン!! ゴワッシャアァァァッァァァァァァ!!
まあ、飛んで行ったというほどではなかったが、一緒になって転がって行った。ようやく止まった時には、オーガの方は瀕死。
私の方は、なんとか上手くオーガの体をクッションにしようとしたためか、それともスキルのおかげか、膝に擦り傷程度しかなかったが。
「くそっ!」
とんだミスだ。
あの兄妹冒険者には、私がいきなりあらわれてオーガと一緒に飛んで行ったように見えているだろう。すごい間抜けな絵図らだ……ドヤ顔とかしていたら、指差して笑われるレベル……ってそうじゃない! 2匹目!
あわてて、起き上がり何とか踏ん張って腕を抜く。そして2匹目の奴を探す――
おしっ! 2匹目も2人組冒険者に近づこうとしていたようだが、3匹目が吹き飛ばされたのを見て、動きが止まっているようだ。しかもこっちを見ている。
とりあえず、3匹目の首を思いっきり踏む。
グキッ!
変な音がして、骨の折れる感触がする。
体重の軽い(多分)私が、いくら力んでいるとはいえ、下方向に力をかけてオーガの首を折れるなんて作用反作用の法則とかエネルギー量やらはどうなっているんだろう。などと考えるが、もう異世界なんだしなんでもいいや、とか思い始めている自分を無視し(もはやこの時点で何を言っているのかわからないが)、2体目のオーガに近づいていく。
2体目は2人組冒険者のダメージの影響か、動きがノロいうえ、こっちを見て硬直しているため楽に接近できた。
ズッ
とりあえず心臓あたりを抜いた剣で一突きする。
皮膚が厚いのか固いのかよく分からないが、少し力を必要とした。まあ、特に問題はないだろう。剣の方も折れたり曲がったりしてないし。
すぐ剣を抜くと、傷口から血が一気に吹き出て――
「うおっ!!」
とっさに横に飛びのいた。もう血で服をダメにするのは御免だ。
オーガの方はそのまま血を吹き出しながら倒れた。
これで、とりあえず片付いたな。
周辺を探ってみるが、特に問題のあるような気配は存在しない……いや待て、横転している馬車の中に人の気配があったな。
見てみるが、馬車の中から誰かが出てくるような気配はない。どうしよう……
「あの……」
「ん?」
声のした方を見ると、さっきの2人組冒険者が立っていた。剣士(多分兄)の方はもう回復したようだ。さっきの会話からするにポーションを飲んだのかな?
「助かりました。ありがとうございます。」
「ありがとう。えっとあなたは……」
「ああ、えっと……」
これは名前を聞いているのか、何者なのかを聞いているのか、それともなぜここにいたのかを聞いているのか……どれだ?
「ああ、失礼しました。僕は冒険者のコラットといいます。」
「あ、ソマリです。同じく冒険者です。」
剣士(多分兄)のほうがコラットで魔法使い(多分妹)のほうがソマリか。
ソマリちゃん可愛いな。文系美少女って感じだ。メガネとかかけてほしい。
「あ、ああ、ノワールだ。冒険者をやっていて、ここへは依頼で来ている。街道沿いにオーガの目撃例があってね。その討伐依頼だったんだが……」
多分この3匹だろう。この場合依頼はどうなるんだろうか?
「そうだったんですか。それって……」
「ああ、おそらくこの3匹のことだろうな。……えーと、コラットさん? は冒険者になって長いのか?」
「え? はい、そうですねそれなりには……」
「ふむ、では討伐依頼を受けた対象がすでに討伐されていた場合などの依頼はどうなるのか知らないか?」
「……えっと、その場合は依頼は依頼主側がキャンセルしたのと同じ扱いになり、特に冒険者側に何があるとかはなかったはずです……確か」
「ふむ」
ということは、不達成やキャンセル扱いでもないのか。まあ、冒険者側には落ち度はないんだしデメリットはないのか。あれ? でも時間は消費しているような……
「あ、で、でも、今回はそちら――ノワールさんに助けていただいた上、2匹はノワールさんが倒されたので達成扱いになると思います。」
「そうなのか?」
「えっと、詳しいことはギルド側に聞いてみないと……」
「そうか分かった……ところで2人は兄妹かな?」
「え……そうですが」
やっぱりそうだったのか。兄はややイケメンで結構強い。しかも可愛い妹がいる。こいつリア充か! オノレ!
「ちなみにコラットさん。幼馴染はいるかな?」
「は? ……一応故郷に……」
「ほう、女性かな?」
「いえ、同い年の男ですが……」
「そうかそうか」
うんうん、可愛い妹に可愛い幼馴染とかいたら殴ってるところだぞ☆
「あの……そ、それが何か??」
「あーいや……それより――」
こんなことを聞いている場合じゃないな。うん。
「――あっちはいいのか」
そう言って、いまだ地面にへたり込んでいる商人(らしき人)と御者(と思われる人)に視線を向ける。
「ああっ! そうでした――大丈夫ですか!?」
本当に忘れていたのだろう。兄妹ともに、あわてて商人に駆け寄って無事かどうか確認している。
「……あ、ああ大丈夫だよ。」
「そうですか。よかった。」
「そちらの御嬢さんもありがとう。」
「え? ああ」
いきなりこっちにも声をかけてきた。
「――いや、もう少し早く助けに入れていればよかったのだが……大丈夫か? 馬に逃げられたようだが?」
「……はい、確かに痛い損失ですが……積み荷が無事なら……ああ!つ、積み荷が――おいっ、無事か!?」
そう言ってあわてて横転している馬車に駆けて行く。みんな慌ただしいな。
それにしても、相変わらず馬車の中から8人ほどの人間種らしき気配があるのだが……積み荷って言っていたよな。なんだろうか?