17 休暇
昨日、あの3人組と別れた後、鍛冶屋に行って剣の手入れをしてもらった。前回店番をしていたおじいさんは鍛冶仕事を引退しており今は息子さんが鍛冶仕事を行っているらしい。剣の手入れをする際、結構な業物だと言われた。この世界に来てすぐゴブリンの洞窟で拾ったものだったのだが良いものだったらしい。あの白骨死体の人に感謝だな。放置してしまったがお墓でも作ってやればよかった。
あと、ステータスに書いてあったし、全長が少し短かったのでショートソード、ショートソードといっていたがおそらく柄の長さから片手剣だと思う。ちなみにロングソードとショートソードの違いは長さではなく、騎兵が使うのがロングソード、歩兵が使うのがショートソードなので間違いではないのだが。そんなうんちくを、手入れ中に店番をしていたおじいちゃんから聞いた。別に銘とかは彫っていなかったので呼び方はどうでもいいや。
今日は依頼は受けないことにした。理由? 二度寝したら昼近かったからだよ。
今から依頼を受けると日をまたぐことになりそうなので、きょうは街をぶらぶらとしてみることにする。
「もうたしか、こっちに来てから6日がたつのか。」
そんなことを呟きながら、街をうろつく、こっちに来てから街を見て回る機会なんかなかったしな。
そういや、宿屋の宿泊を延長しておかないとな。
とりあえずは、昼飯を食べようと何か食べられるところを探す。
「……今日は街の散策だし、屋台で何か買って食べながら見て回るか。」
そんなことを言っているが、実はすぐ近くからいい匂いをさせている屋台があるから今決めたことだったりもする。
「おっちゃん、1つもらおう」
「あいよ、40フラムね。」
大銅貨4枚を渡し、商品を受け取る。結構ボリュームのあるホットドッグのようなものだ。というかこれはソーセージか? こっちにもあるんだな。
そう思いつつかじる。おおうめぇ。マスタードやケッチャップはないみたいだが何か独特のソースをかけているみたいだ。
しばらく食べながらぶらぶらとしていた。
「この辺は食料品などを売っているな。商品の種類ごとにエリアがまとまっているのだろうか?」
今いるのは商業区画である。この街には、住宅街や、工房の集中しているところなどわりと区画整理がちゃんとしている。ただ、そっちは特に用がない限り見ても面白くなさそうなので除外した。何より、昼飯を食べるところがないしな。
あと、街の中心にはこのあたりの領主の館があるらしいのだが、それこそ行く機会などない。
ふむ、屋台のほか路上に商品を並べて売っている奴もいるな。日本にもアクセサリーなんかを路上販売しているのを見たことがあるが、こっちはさすがに無いな。アクセサリーなんかは結構値がするので、ちゃんとした店でしか取り扱っていない。
路上で売っている奴は……なんだあれ、動物の死体……ではないな。解体前の食肉用の動物か。あとは、ガラクタみたいなのを売っている奴もいるな。用途がわからない。
おや、あれは行商人かな? 馬車を止めて荷台の品をよく見えるようにして売っている奴がいる。
「そういえば、あいつは元気かな?」
あいつというのは、この街に来る時にお世話になったチュートリアルさん、もといテリアさんだ。あれ以来会っていないな。まだこの街にいるのか、それとももうほかの街に行ったのか。まあ、縁があれば会えるだろう。
それよりも、今目の前にいる行商人が面白いものを出している。他は日用品だったり、壺に入った……塩とか味噌みたいなものかな? を売っているのだが、なぜか、1本だけ場違いな品がある。剣だ。しかも結構綺麗な見た目をしている。実用的なものではなく、飾っておくためのものだろうか?
「すまない、これは剣だろう? なぜこんなところで扱っているんだ?」
「あ、いらっしゃいお姉さん。――これですか? これは別に扱う予定じゃなかったんだけどね。」
「ん?」
「いや、半月ほど前だったかな。仕入れのために立ち寄った街で賭け試合で借金していた男がいてさ、そいつがこれを担保に金を貸してくれって言ってきたんだよ。」
「ほう」
こっちの世界にもいるんだな。ギャンブルで身持ちを崩す奴。
「それでさ、金を貸したんだけど負けちゃって、結局この剣を受け取ることになったんだよ。今思えば胡散臭い奴だったよ。これはドラゴンをも屠れる凄い剣だ。とか言ってさ。いざ負けたら、それは天使様からもらった大切なチートアイテムなんだ返してくれって泣きついてきてさ。金も無いのに返せるわけないだろと言ったら、突然、僕は天使様に選ばれたんだ。この世界を救うためこの剣が必要なんだ。とか言って暴れ出して。それで、警備兵に連れていかれたんだよ。」
「…………ん?」
天使からもらったチートアイテム? それってあれじゃないか、転生管理事務所の……
〈鑑定眼〉って物にも使えたっけ? ちょっと試してみよう。
銘:エクスカリバー(量産品)
種類:両手剣
武器ランク:A
装備者:山本 圭太郎
能力:剣技スキル譲渡(ロック中)
切れ味上昇(ロック中)
速度強化(ロック中)
硬度上昇(ロック中)
光属性魔法付与(ロック中)
闇属性魔法耐性(ロック中)
おい山本! 何やってるんだ!
「結局、担保にもらっていたこの剣も見た目は綺麗だけど普通の剣だったしさ。」
装備者がいないから、剣の能力がロックされてるんだよ。しかも量産品。なんだこれ。
「そ、そうか、話を聞かせてくれてありがとう。――じゃあ」
「いや、今度来るときは何か買っていってくれよ」
「ああ、今度な」
そう言ってその場を立ち去った。同じ転生者として山本君の行方が気になるが、……気にしたところでどうなるものでもない。忘れよう。
外壁に突き当たってしまったので、今度は反対側――中心に向かって歩いていく。少し歩いていると何か大きな建物があった。白一色の綺麗な建物だ。
「あれは……何の建物だ?――すまない、あれは何の建物だ?」
近くを歩いていた人を呼び止めて聞いてみた。
「はあ? あんた何言ってんだ? ありゃ教会だよ。」
「ああ、教会か。すまない田舎から出てきたばかりでね。」
教会だったらしい。そう言われればそう見えなくもない。ただ地球のように、てっぺんに十字架があるわけではないが。
少し近づいてみると何やら行列のようなものができているのが見えた。なんだ? 礼拝か何かだろうか? それとも教会の仕事というと……炊き出しとか?
さらに近づいてみると何やら怪我をしている人がいっぱいいた。怪我をしている人がいっぱいいるということは、ここは病院のような役割もあるのだろうか?
「すまない、おばあさん少しいいかな?」
列に並んでいたおばあさんに声をかける。情報収集は大事だ。
「はい。なんですか?」
「ここは教会だそうだが、治療行為なんかもやっているのだろうか?」
「お嬢さんは教会は初めてかい? ここの神官様が回復魔法の使い手でね。私たちみたいに怪我や病気をした人を治療してくださるんですよ。」
やはり、治療施設という認識であっていたようだ。
「ほう、これだけの人数を治療するとなると結構すごい人なのだな。」
「いえいえ、中に何人も神官様がいらっしゃって交代で見てくれるんですよ。」
「なるほど。ちなみに、治療費などは取られるんだろうか?」
「ええ、治療代は高いですが、怪我や病気をしたままでは働いたり生活したりするのは厳しいですからね。」
「確かにそうだな。」
「私もこの年になると足腰が痛くてたまらなくてね。」
「そうなのか、大変そうだな。」
なるほど、確かに杖をついているし、話している途中にも少し顔をしかめていたな。私が変な質問をしているせいかとも思ったが、痛かったからかな。
一瞬、私が回復魔法をかけてもいいかと思ったが、治療行為を行いその費用を請求している人がいるなら、その人の仕事を奪ってしまうことになると思いやめておいた。このおばあさんも治療してもらうからこの列に並んでいるんだしな。
「次の人ー」
「あ、はーい」
おばあさんの番のようだ。さて私は……あ、話に夢中で教会の中に入ってしまっていた。しまったどうしよう。
「す、すまない。おばあさん。ちょっと治療行為を見学させてほしいのだが、いいだろうか」
「いいですよ。ふふふ、若い人と一緒にいると自分まで若返る気がしますからね。」
許可が出た。とりあえず、こう、付き添いで来た娘的なポジションで見ていよう。
入った部屋は質素な部屋だった。向かい合うように椅子が2つあり。1つに神官服というのだろうか? 何か普通とは違う動きにくそうな服を着た男の人が座っていた。
もう一つの椅子におばあさんが腰かける。
「神官様お願いします。」
「はい、どこが悪いんですか?」
「足と腰が痛くて痛くて」
「なるほど――ヒール」
神官の人がヒールをかけると、私の時と同じようにおばあさんの下半身がぽわぁんと光った。
「おお、ありがとうございます。痛みが引いていくようです。」
「それは良かった。では800フラムですね。」
「え、あの、……以前は600フラムだったと思うのですが?」
「え? ああ、少し値上がりしましてね。」
「そ、そうなんですか? でも、」
「もしかしてお金を持ってきていないのですか?」
「いえ、以前と同じだと思ったもので、600フラムしか……」
「それは困りましたねぇ」
どうやらお金が足りないようだ。しかし、どういうことだろう? ヒールって回復魔法で一番簡単な魔法だよな? それで800フラムとかぼったくりかよ。と思ってしまう。これ、私が個人治療院でも開いたら左団扇の生活とかできるんじゃないのか?
ちなみにこの値段、日本だと医療保険があるので高く感じるかもしれないが、実は必ずしもぼったくりというわけではない。
あと、神官の男性がこちらを見ながらニヤニヤしだしたんだがなんだろう?
「あの、次回来た時に必ず払いますので……」
「いや、そういうわけには……」
「……不足分は私が出そう」
「……娘さんか何かですか?」
「え、いえ、この――「そのようなものだ」
そう言って、足りない200フラム分を渡す。
「……はい、確かに、ではまた痛みが出てきたら来てくださいね」
また? 完治させたわけではないのか? あとさっきまでニヤニヤしていたのが微妙な表情に変わった。だからなんでだ?
「あ、あの……」
おばあさんがオロオロしている。とりあえず腕をつかんでゆっくりと引っ張って一緒に教会から出て行った。
「あれは、今回見学させてもらったお礼ですから。」
「いえ、しかしそういうわけにも」
「他人の好意は素直に受けておくべきだ。おばあさん」
「…………ありがとうございます。」
「いや、私もよい経験だった。」
そう言って、教会の前で別れた。
辺りはもう暗くなり始めている。街の散策はもうお終いかな。
日常回みたいなものを書いてみました。
投稿時間をミスりました。