154 おめでとう
「むごいわ、精を全て吸い尽くされているわね……」
「そんな……勇者様」
ベッドに横たわるヤマモト。その息は細く、体は小刻みに痙攣していた。
ティーアとソレイユちゃんがヤマモトに近づき声をもらす。
「一体何が……フェン子、昨日何があったんだ?」
私は後ろを走ってきたフェン子に問いただす。
まさか、フェン子が謀反を!
「交尾をしただけですが?」
…………
……
「……………………ん?」
表情を変えずにしれっと言うフェン子。
「たった数時間の交尾でこれです。少々気力が足りないのは今後に期待するべきかと、王よ」
……何だって?
「ダメね、搾り取られているわ。最後の方は多分強制的ねぇ……あ、ソレイユちゃんは下がっていてねー」
「あ、はい」
ティーアが現場検証を行いながらソレイユちゃんを下がらせる。
そしてシーツを捲り上げるとそこには――
「なっ! これは!」
そこには裸のヤマモトと明らかなる情事の後が……
「はい、撤収! ティーア、任せる。適当に回復させておいて」
そう言って、私はソレイユちゃんを担ぎ上げると朝食に戻っていった。
◇◇◇
その後、昼近くになってヤマモトがやってきた。その顔はみずみずしく精力に満ちあふれて……
……いなかった。
「ヤマモト、漢になったな」
そう言って肩に手を乗せて健闘を称えてやるのだが、
「吾輩、死ぬかと思ったでござる!」
なぜか泣いていた。
どうしたんだ? 多分、脱○貞だろ? それなら告白も成功したんだろうし良いことじゃないのか?
「ところで、フェン子と結婚するのか?」
「いやぁ……その一応責任は取るつもりでござるが……その、ついて行けない部分が――「人間は夫婦で子育てをするそうですね。ならばそれに従いましょう」――そうでござるな……」
めでたくヤマモトとフェン子の結婚が決まった瞬間である。
ところでこの二人が子育てするって言っても、生まれる子供はどんな奴なんだ? アレクサンダーは見た目普通の犬だったが。
まあ子供の心配は早いか。何時生まれるかも分からないわけだし。……そもそもフェン子の妊娠も決まったわけでは無い。そもそもフェン子の本体は――
疑問が尽きない。
「とりあえず役所に報告すればいいのか? 後、フェン子はヤマモトと一緒になると言うことは私の元を離れると言うことでいいのか?」
「はい、王よ。子を成すために少しばかりお側を離れます。」
そうか。
アリシアさんやカーマインさん、ダン子もそれぞれの家へと戻っていったし寂しくなるな。
「幸せにな」
とは言え、彼女たちにはそれぞれ向かうべき場所があるのだ。私がそれを邪魔すべきではない。気持ちよく送り出してやろうでは無いか。
「おめでとう、元気でねぇ」
「おめでとうございます。ノワール様に聞いて今知ったんですが、フェン子さんは勇者様と相思相愛だったのですね」
ソレイユちゃんとティーアもそれぞれに言葉を投げかける。
「ありがとうございます。必ずや優秀な子を産み王の期待に応えて見せましょう。」
「……ぅぅ……ありがとうでござる……」
別に期待をした訳では無いのだが。
ヤマモトが泣いていた。多少諦めの表情に見えなくも無いが……寂しさで私の目が曇っているのだろう。
まあ、ヤマモトは勇者だし今後のお金や地位には困らないだろう。
まあ、パレードまでは一緒にいるんですけどね。
◇◇◇
パレードと言っても私達はオープントップの馬車に座ってじっとしているだけだった。大勢の人間が集まる中、馬車に乗って街中をパレードする。多くの歓声が投げかけられる中、私は今後に思いをはせていた。
ちなみにヤマモトはサービス精神旺盛で周りに手を振りまくっていた。対してソレイユちゃんなどは緊張からか恥ずかしさからか頬を朱く染め俯き気味だ。
王都の主要街道を練り歩く――と言っても馬車がだが、私達は座ってニコニコしているだけで大体終わった。
王城を出発して王城に戻るコースだ。まあ他に行くところもないし。
そしてパレードは無事終了。
その後、王城にて王様達より色々と聞いたりする。
「勇者殿、改めて魔王討伐感謝する。パレードも無事に終わったことであるし、我が国での予定は終わった。この後は召喚元であるカモンヴェール王国に戻り、再度、魔王討伐について報告してもらいたい。報償についてはカモンヴェールが主体となり贈呈予定であるので希望がある場合はよく話し合ってほしい。我が国からも支援しているため、よほどのことがない限り受け入れられるであろう。」
「はっ、感謝いたしまするでござる」
ヤマモトは膝をつきその言葉を受け取る。ヤマモトはこの国(エドクス王国)ではなくカモンヴェール王国で召喚されたので褒賞の類はそちらから出ることになる。勇者召喚に関しては複数の国が支援しているため、かなり高望みしても叶えられるだろう。
対して、私たちはエドクス王国所属なのでこの国から報償をもらう。そのことについてはすでに宰相と相談済みで、折衝も終わっている。
「ノワール、ティーア、ソレイユには勇者殿を支援し魔王討伐に多大なる貢献を行ったとし、男爵位と領地を授けるものとする」
「「「はっ、ありがとうございます!」」」
私たちは貴族位と領地をもらうことになった。
男爵は貴族では一番下の位なので魔王討伐という偉業を成し遂げた対価として少なすぎるのではないかと一部(第一王子とかフラン婦人あたり)から出たらしい。しかし、そうポンポンと叙爵すると国として軽く見られるということ(建前)と、多数の貴族に取ってみればいくら勇者様と一緒に魔王討伐を成功させたと行っても平民の最底辺職である冒険者が自分たちと同じ貴族に名を連ねるというのは「あまり面白くない」(本音)という事で議論が紛糾したらしいが。
私達も金銭の類でもよかったのだが、王様個人は貴族にしたい派であり、「貴族になってほしいなー(チラッ」と事ある事にやられたので貴族になった。
あと、領地ももらうことになった。小さめの領地で私とソレイユ、ティーアの領地がそれぞれ隣りあっており、実質的には共同経営的なものである。3人の領地を足してもそこまで大きくないし、森林が大部分を占め、村が数えるほどある程度らしい。勿論私たちに領地経営の手腕などないが、今まで徴税以外はほぼ放置されていた所なので積極的に介入する必要はないとのこと。今まで他の貴族領主にいっていた村の税金が私たちに入ってくるというだけである。それどころか叙爵された以上、国に対して負う義務も発生するので全体で見た場合はプラスマイナスゼロの可能性がある。
こちらも、与える領地が小さすぎるという第一王子あたり「出世させたい派」と叙爵のうえ領地まで……という「出世させたくない派」の攻防があったようだ。
ちなみに、フラン夫人から貰っていた騎士爵であるが、国王から男爵位を貰った時点で返還される。フラン夫人としては私達が自分の派閥であり友好関係を結んでいると周知できたため目的は達成できたとして特に返還に抵抗はないそうだ。一応複数の称号を持っている人物というのは過去にいたらしいのだが、ややこしいので近年はそういった場合、自主的に返還するのがこの国では一般的らしい。
「続きこの場にはいないが、アリシア・ショコラ・メープルローズ子爵を伯爵に、カーマイン・レッドアップル男爵を子爵に昇爵するものとする。」
続けて、すでに領地に帰ってしまったアリシアさんたちの褒美――昇爵が述べられる。宣言だけして、本人たちには王宮の高位文官が彼女たちのもとに伝えるために派遣される予定。
「ダン子への褒美はその立場の特殊性から本人の希望通り金銭で支払うものとする。」
ダン子はダンジョンコアなので爵位などもらっても意味がないので金銀財宝などの現物支給だ。
「フェン子への褒美は本人の意向により勇者殿の伴侶となる際の口添えとする。」
フェン子は野生児なのでダン子以上に人間の褒章といったものに興味がない。なので一応今後、ヤマモトと結婚する際に外野(勇者に憧れる乙女たちw)にうるさく言われないような保障程度をしてもらうことになった。