152 凱旋
その日、王城は震撼した。
魔族の住まう土地――北の方角からものすごい速さで何かがやってきたのだ。非常に巨大で黒く空を飛ぶ。古の魔獣であろうか。人々は恐怖した。
つい最近教会から魔王が倒れたという報告があったばかりだ。国王や国民は勇者達が帰ってくるのを今か今かと心待ちにした。パーティーやパレードの用意までしてあったところに来た凶報であった。
それは城下町には目もくれずまっすぐに王城に向かってきているようであった。国の中枢である王城を真っ先に落とそうというのか。知能のある魔物に違いない。それを目撃した兵士達はそう考えた。
まあノワール達の乗った宇宙船なワケだが。
予定時刻ぴったりに王城に着いた。最後の着陸は私がコックピットに乗ってマニュアルで行った。全く揺れないのでシミュレーターみたいだった。
私のナイスなドラテクで無事、王城の中庭に着陸。さあ、主役の登場だ。と言う所で周りが騒がしいことに気付いた。
なにこれ、怖い……
宇宙船のハッチが開いて、私達が顔を出すといつの間にか宇宙船を中心に武装した兵士が武器を向けながら取り囲んでいた。
「あー……」
「……」
しばらくお見合いが続いた。その後先に再起動したのは私であった。
「おい、ヤマモト、何か声かけろよ」
脇にいたヤマモトを小突く。ヤマモトはハッと思い出したように声を上げた。
「皆の者、出迎えご苦労でござる! 魔王は倒れ吾輩達はこうして戦利品と共に戻ってきたでござる!」
ヤマモトが拳を突き上げそう宣言した。周囲を固めていた兵士達はあっけにとられていたものの一拍開けて「ウオォォォ!!」と大勢の歓声が上がった。
「何事だ! ……おお! 勇者殿ではありませんか!」
そうしてしばらくすると、人垣を割って出てきたのは宰相さんであった。ここまで急いできたのか汗がにじんで呼吸も荒い。
「宰相殿、今戻ったでござる。多少驚かせるようなことになったのは申し訳なかったでござるが、魔王討伐は無事成功したでござる。報告のため国王に謁見をしたいのでござるが可能でござろうか?」
「はっ! 勿論でございます! 至急場を整えますが故少々お待ちください。――おい、勇者様方を案内しろ。私は国王へ報告に行く」
兵士達に私達の案内をさせ、宰相は国王へ報告に行くために走り去っていった。
「で、ではご案内します」
近くにいた兵士の中で一番偉そうな人が寄ってきて私達を王城内へと案内してくれた。
「あの……あの魔物のようなモノは何なのでしょうか?」
「あれは乗り物の一種でござる。仲間であるノワール殿の戦利品でござるよ。」
「そうでございましたか、なるほど、あのような乗り物があるのですね!」
案内役の兵士は心なしか興奮しているようだ。まあ勇者と言葉を交わしているからだろうと推測する。
そうして王城の内の一室に案内されるとここでしばらく待つように言われる。その後すぐにメイドさんがやってきてお茶とお菓子を用意してくれた。
「うむ、美味いでござるな(ボリボリ)」
「まあ、菓子とか久しぶりだからな」
「甘いですね」
旅中はお菓子など食べなかったからな。別に持って行っても良かったのだが。
それにしてもこのお菓子……クッキーの類いだが甘い。メッチャ甘い。砂糖入れすぎじゃないかってくらい甘い。こういう味付けが流行っているのだろうか?
そうして皿にのった菓子を平らげる頃に部屋の扉がノックされた。入ってきたのはさっき報告に行った宰相……では無くその部下の人(何度も見たことのある執事っぽい人)であった。
「確認して参りました。陛下もすぐにでも会いたいとのことです。ご案内します。」
「よろしくお願いするでござる。」
そうして案内されたのは旅立ちの前にも訪れた謁見の間である。
「勇者様ご一行、ご入場~!」
とか言われて入っていく。
「おお、勇者殿、皆も良く戻ってきた!」
そう言うのは旅立ち前と同じように王座に座った王様である。脇には将軍と宰相が並んでいた。今日は貴族達は集まっていない。急な帰還であったので今現在、文官や兵士達が報告に走り回っているそうだ。
「まずはお礼を。勇者殿、魔王を倒してくれたこと感謝する」
「はっ! 世界の平和を思えば当然のことでござる。」
「うむ……ノワールはその……少々イメージが変わったかな?」
「はい、魔王により髪と装備品を失いまして。さすがは魔王と名乗るだけはあったかと」
「そうであったか、困難な任務ご苦労であった」
「ありがとうございます。」
「ソレイユ、ティーア、フェン子、ダン子は変わりないようであるな。良く戻ってきてくれた。」
「「「「はっ!」」」」
「メープルローズ子爵とレッドアップル男爵は……勇者殿と一緒だったのか?」
「はっ! この国の貴族として自分たちも何か出来ないかと考え、途中より勇者様とご一緒させて頂きました。」
「そ、そうだったのか。ご苦労であった。」
「ありがとうございます。」
そういえばアリシアさん達も一緒にここに来ているんだけれど、彼女たちは当初のパーティーでは無かったんだったな。途中参加だが魔王討伐戦には参加したしアガバンサス攻略も彼女たちの力による物だ。
「全員欠けること無く任務を達成し戻ってきてくれた事を嬉しく思う。今はこのぐらいにしておこう。また今夜にでも貴族達が集まるであろうからパーティーを開く予定だ。凱旋パレードなども予定しておるがそれは日程が決まっておらん。帰還の詳細が分からなかったからな。」
「ありがとうございます。」
「国王陛下、誠に残念ながら、アリシア様は自領の政務を中断し勇者様の元に駆けつけました。そのためすぐに戻らなければなりません。」
「なっ、カーマイン何を言うの!」
「アリシア様、これ以上業務を滞らせるわけにはいきません。ですので、陛下、申し訳ありませんが私とアリシア様は一足先に自領に戻りたいのですが……」
「そうであったのか。忙しい中申し訳ないことをしたな。アリシア子爵達の活躍は必ずや国民に周知しておこう」
「ありがとうございます」
「ぐぬぬ……」
アリシアさん達は自分たちの領地に戻るらしい。まあ仕事を放り出してきたって言っていたしな。アリシアさんは非常に難しい顔をしている。戻りたくなさそうな顔だ。判子を押すマシーンになっていたらしいし。
「ワシもぱれーどとやらには参加はできんのう。パーティーは美味いモノが食えるので参加するがそれが終わったらダンジョンに戻りたい。」
「ダン子殿は確かダンジョンコアであったな……パレードには参加してくれんのか?」
「チヤホヤされるのは良いのだが、ダンジョンを長期間放置するのもアレなのでの。お主等もダンジョンが無くなると困るであろう?」
「うむ、たしかに……分かった、ダン子殿の活躍も国民には周知しておこう」
「うむ、よしなに。ダンジョンの宣伝も頼むぞ」
ダン子もパーティーで飲み食いした後にはダンジョンに戻るらしい。
「ほ、他に誰か不参加の者はいるか?」
なんだか王様が恐る恐る聞いてきている。これ以上減っちゃうとパレードとか華々しさがなくなっちゃうんだろう。ヤマモトは参加するんだから最低限の事は出来ると思うのだが。
「私達は参加可能です」
私が代表して答えた。その声を聞いて王様はほっとした顔をしていた。
かくしてアリシアさんとカーマインさんは晩のパーティーにも参加すること無く、自分たちの領地に帰って行ってしまった。
「勇者様、残念ですわ。もっとお話ししたいことがございましたのに」
「申し訳ありません勇者様」
「いやいや、無理をして駆けつけてくれたのでござろう。その気持ちだけで十分でござるよ。」
「ノワール、また会いましょう! 私達の領地に来てくれても良いんですのよ!」
「それではノワール様、皆様も失礼いたします。」
一方ダンジョンに戻ったダン子は、
「ナンじゃこの高さは! ぬぉぉぉ! ワシのダンジョンがいきり立っておる!!」
次回、多分パーティーとかヤマモトとのお別れとかやる予定です。