151 自家用宇宙船ゲットだぜ!
船内は割と快適であった。宇宙船だからかコックピット以外に窓が無いので外の様子が分からないのが難点だ。アリシアさんなどはこれが飛行して移動していると言う事を実感できないのでは無いだろうか。
メーカー推奨の8名+α(予備)の個室とその他食堂や会議室などもあった。船体規模からそれほど大きな部屋では無いのだが、飛行機と考えれば上等な方だろう。
さて私であるが、皆を引き連れコックピットに移動しようとした。しかし8名が入れるほどコックピットは広くなかった。とりあえず皆には会議室かリラクゼーションルームかよく分からない部屋で待機して貰う。
「さて、これどうやって動かすんだ?」
『操作マニュアルをインプットします。』
瞬間、頭に何かが流れ込んできたような感じと共に立ちくらみが起こった。ふらついて壁に手をつくとすぐに収まったのだが、
ねえ、止めてよ! こういうこと、いきなりやるの!
『善処します。』
その一瞬の後、私は宇宙船を動かせる知識を得た。……と言っても基本はオートパイロットで良いようだ。ジャシン星の航空法だかではコックピットにパイロットが常駐しなければならないとか言う決まりがあるようだが、別にここはジャシン星じゃないしね。
とりあえずコックピット席に座ってコンピューター類を起動、オートパイロットの設定をする。目的地はエドクス王国の王城広場でいいや。近くに来たら知らせるように設定する。
低高度を音速で移動するわけにも行かないので、亜音速移動する。目的地まで数時間の旅だ。
コックピット席に座り、操縦桿を握っていると、ワクワクするよね。発進までは自分でやってみるかと思い操縦桿を操ってみるのだが……
「なんか、実感が無いな。」
そう、この宇宙船。進化させた際に慣性制御だか重力制御だかが完璧になってしまい、船が全く揺れない。外の景色だけが移動しているものだからゲームでもやっている感覚だ。程なくして宇宙船は設定高度まで浮かび上がり移動を開始した。
そういえばこの宇宙船〈シルトクレーテ〉はプラウラーさんが乗ってきたらしいけれど、後でジャシン星人から返せとか言われないよね?
『問題ありません。過去の交信記録からジャシン本星は51年8ヶ月前に滅びています。』
「……え!?」
滅びた……どういうこと?
すると〈ラプラス〉が過去にこの〈シルトクレーテ〉に送られてきた通信ログを出してくれた。過去99件は同じ場所から送られてきていた。最終日は51年と9ヶ月前。そして同じく別の所から51年と9ヶ月前に1件。
それを順に開いていくと97件は役所のような所からで『連絡が取れなくなったがどうしたのか?』と言う内容だった。そして最後の3件は――
51年と11ヶ月前『クーデターにより内戦が勃発。任務を切り上げ、早急に帰還せよ。』
51年と9ヶ月前『クーデター軍により各地の反物質炉が制御を奪われた』
そして最後の51年9ヶ月前、別の場所からの通信は『これを聞いている者へ。反物質炉の暴走によりこの星は間もなく滅びるであろう。せめて私達の生きた証をここに残したい――』と何かアマチュア無線家みたいなヤツが全宇宙に向かって名演説をかましていた。
ええ……どうすんのこれ!?
『その後の交信傍受の結果によりジャシン本星の管理コンピューターは消失。ジャシン星人は植民星を起点に復興の最中であるが、辺境に派遣された本機体のデータは消失したと高確率で予測。』
良かった。完全に滅んだわけでは無かったんだ。と言うか辺境ってジャシン星ってどこにあるの?
『銀河3つ向こうです。』
その後の説明によりこの宇宙船は当時新鋭であったものの、場所としては辺境に派遣された機体であった。プラウラーさんも専門技術者ではあったが扱いは田舎の地方公務員のようなものだそうだ。
辺境の離島に海上保安庁の新鋭巡視船が調査に来たようなもの。と勝手に思っておく。
さてと、〈ラプラス〉と話している間にも周囲の景色はどんどんと流れていく。とりあえず懸案も無くなったことだし、そろそろ皆の所に行かないとな。
そう思い、皆がいる部屋に行った。
「あ、お帰りなさい」
「何をしていましたの?」
皆は席に着いてくつろいでいるようだ。武装類は壁に立てかけてあるし、鎧の類いは脱いでいた。
「この船を動かしていたんだ。数時間で王国に着くよ」
「まあ、そんなに早くですか」
「凄いですね」
この船は宇宙船なのでワープなどを使用すれば一瞬で到着もするのだが、まあその前に説明やら何やらしておかねばならない。とはいえ私だけだと上手く説明できるか分からない。そこで見つけたのがこの船にあるデータベースに残っていた映像資料類だ。その中に『宇宙について』と言う題名の教育番組のような物を見つけた。それを上映することにしようと思う。
「とりあえず皆、そっちの壁を見てくれ」
モニターのある壁を指し、皆が向いたところで映像を流しはじめた。皆最初は驚いていたが少しするとなれてきたようで、映像の内容に意識が向き始めた。
ジャシン星の教育番組なのでジャシン星を中心とした宇宙を説明しているが、特に問題ないだろう。そうして1時間程度、教育番組は流れ続けた。
こういった教育番組は前世でも見たことがあるが、改めてみるとなかなか面白かった。
「まさかこのような……」
「空の星々はあのようになっていたのですね」
「気の遠くなるような話ねぇ」
皆(私とヤマモト以外)は初めて聞く知識だろう。映像を見終わった後も余韻に浸っていた。
(ラプラス、到着まであと何分だ?)
『64分です。現地時刻1400に到着予定』
あと1時間ほどで、エドクス王国王都に到着するらしい。とりあえず皆余韻に浸っているようなのでこのまま放置して良いだろう。いきなりあれだけの知識を説明されて1時間程度で考えがまとまったりはしないだろう。
「あ、ソレイユちゃん、ちょっと」
「あ、はい」
「これ皆に配ってあげて」
そう言って壁に設置されていたドリンクメーカーを動かして飲み物を出す。使い方も説明しておく。100年以上前の物とか大丈夫かと思ったが、食料品などは特殊な加工により保存状態では腐ったりしないらしい。(ただし機械から出したら普通に腐る)
ソレイユちゃんに飲み物の用意を任せて私は向かう――トイレへ
この宇宙船、温水洗浄便座完備なのだ。この世界にない技術だ。ワクワク
トイレ前の洗面台に鏡があった。
そういえばここまで綺麗に加工された鏡も何気に見たことが無い。ビバ! 文明の利器。
そこに映った自分の姿を見る。一応、今まで水面に映ったり、歪んだ鏡で見てはいたが、ここまではっきりと見たのは初めてか?
魔王戦でバッサリと髪を切ってしまい今はショート? ミディアム? ぐらいになってしまったが普通に似合っているな。やはり顔が良いと何でも似合うのだろう。さすが私だ。
相変わらず頭頂部付近にある耳がピコピコしている。
鏡の前でポーズをとってみる。うん、可愛い。前世と違い顔面偏差値も最上級。体つきもセクシー……ティーアほどでは無いがまあ年相応じゃ無い? 美乳で腰のくびれもあるし。
……ナルシストみたいだな。次は風呂行くか。
船内の風呂は湯船が無くシャワーのみだがボディーソープ類が豊富だった。これもこの世界の物より質が段違いに良い。
いやー、さっぱりした。
「あ、何一人でさっぱりしているんですの!」
「ご主人様だけずるいわよぉ。私も最近ちゃんと入浴できてないのにぃ」
風呂から上がり皆と合流すると、先に風呂に入っていたことを突っ込まれた。仕方なく風呂場も案内して使い方などを説明すると皆嬉々として風呂に入っていく……いや、そうじゃない奴らもいる
「ワシは別に必要ないぞ」
「吾輩も行くでござる」
「ダン子はさっさと入れ。フェン子コイツ連れて行って。ヤマモトは待機だ。この船の風呂場は男女兼用だ。」
あと1,2話で魔王編は完結です。王様への報告とかパーティーとかやって終わりの予定。