149 世界観の崩壊 2
帰路につくこと1週間程度。行程は約半分と言ったところ。馬車って何気に速度が出ないんだよね。来るときも半月ほどかかったし。
心配していた魔族や魔物の襲撃だが、来るときと同じように知能の低い魔物が散発的に襲撃してくる程度であり、ティーアやダン子の遠距離魔法攻撃により簡単に退治出来ていた。
魔王が倒れたからかどうかは知らないが、組織的な襲撃は無かった。盗賊などがいない分、人間領よりも平和なんじゃ無いだろうかとすら思ってしまう。勿論襲撃してくる魔物の多くはかなり強い部類なのだが、正直今のこのパーティーのレベル帯なら誤差の範囲だ。
おかげで私は馬車の中でじっくりとプラウラーさんの遺品の分析を行うことが出来た。コンピューターを私の支配下におければコレは非常に魅力的なお宝であった。
ところでこのヘルメット型宇宙服だがもう少しこう、何とかならないものだろうか。メッチャ奇妙だし。誰も装着していないのに目の部分がランランと輝いている。くちばしの部分にどういった機能があるのか不明だし。……確か鑑定した際に武器ランクが表示されたはずだ。なら宇宙人が作ったコレもこの世界の法則とかに則っているのだろう。ならば武器関係と同じ事が出来るのでは無いだろうか。やってみよう。
そう思って魔力を流してみる。
魔法はイメージだ! 想像を具現化する! 私は世界の深淵を覗くもの!
「スキル〈世界創造〉! ON!」
イメージをより具現化、スキルを併用することにより方向性のある魔力を流した。以前に剣と盾にしたように。そうこの世界は今や私の制御下にあるのだ! 私に出来ないことは無い!
むぅん!
テレッテレッテェェェ!! 称号〈神代の鍛冶師〉によりギガ進化します。
鳥頭型ヘルメットは光に包まれグニャグニャとスライムのように形状を変化させる。そうして出来上がったのが――
ポトッ!
「え!?」
出来上がったのは少し大きめでシンプルな銀の髪留めだった。……あれ? 重さ数㎏はあるかという高性能コンピューター内蔵の宇宙服がこんなに小さくなってしまった。これ、宇宙服の機能とかどうなったんだ? 内蔵コンピューターも……これってスマホより小さくない?
スキル〈鑑定眼〉始動
名称:ラプラス
種類:髪留め型多機能端末
武器ランク:A+
装備者:ノワール(譲渡不可)
能力:生命維持、身体能力上昇 、自動翻訳、各種分析、他多数
説明:オシャレなシルバーアクセサリー風。謎魔力エネルギー場により装備者の表面にシールドの層を形成し、あらゆる環境下での活動を支援。アクシオンセルによる高次元コンピューターを搭載。元の量子コンピューターと比較不可能なほどの高い性能を誇る。これほどのアイテムはこの星はおろか宇宙中を探しても存在しない一品に仕上がっています。
なんかよく分からないが、凄いものになっているだろう事は分かった。
とりあえず髪に留めてみる。これで装備できたことになるのだろうか。
『対応する所有者の身体に装備されました。生体同期を開始します。――』
「おっ、おっ、おぅ……」
『――終了しました。今後は“ノワール”のサポートユニットとして活動します。』
眩暈のようなものに1秒ほど襲われた。それと何か頭に声が響いてきたような気もする。一応、自分に〈鑑定眼〉をかけてみるが状態異常の類いは見られなかった。何だったのだろうか。立ちくらみかな? ……呪いのアイテムとかでは無いよな? スキル〈全状態異常無効化〉も持っているし大丈夫だよね?
とりあえず、ヘルメット型宇宙服の方はどうにかなったので、今度はプラウラーさんが乗ってきた宇宙船の方だな。一応、乗組員はおらず搭載されているAIも命令以上のことはしないサポートタイプなので、時間をかけても問題ない。さて、どうやって操縦するのだろうか。入手できればかなり便利なことになるのだが。
『宇宙船〈シルトクレーテ〉にリンク、制圧開始、終了。宇宙船〈シルトクレーテ〉はノワールの指揮下に入りました。』
「ん? ……だれ?」
何かまた変な音声が聞こえた……いや、響いたような気がする。
『〈ラプラス〉です。』
「うぉう!」
今度はよりはっきり聞こえた。何だ!? ラプラス……えーと…………ああ、この髪留めの銘だったかな……ん?
「喋れるの?」
『否定。音声ガイド機能はありません』
「いや、喋ってるじゃん!」
なんか大声を出してしまい、馬車の中にいた皆を驚かせてしまった。あとキャラが若干ブれた。
「ノワール様、どうしたんですか?」
「どうしたんじゃ、大声など出して」
「あ、いや、何でも無い……です」
何か独り言を言っている風に聞こえたらしい。……恥ずかしい。聞こえないようにこそっと話そう。
『同期しているため不要です』
……なんか考えを読まれている気がする。あと喋っていると思ったが、どうも頭の中に直接響いているようだ。テレパシーとかこんな感じなのだろうか。
『肯定。〈ラプラス〉は思考による操作が可能です。発声は不要です。』
そうですか。で、えーと〈ラプラス〉さん? は、この髪留めだよな?
『肯定』
「こんな機能あったのか?」
『肯定』
そうか、宇宙人の技術パねぇな。
『〈ラプラス〉はノワールによるギガ進化の結果です。ジャシン星人にこの技術はありません』
そ、そう。で、えーと何していたんだっけ?
『宇宙船〈シルトクレーテ〉の制圧が完了しました。現在位置に呼び寄せます。馬車を停止させてください。』
宇宙船〈シルトクレーテ〉って……プラウラーさんの宇宙船か! え! ここに来るの?
『肯定』
ヤバい、いつの間にか事態がかなり進行していた。慌てて皆に指示を出す。
「ソレイユちゃん馬車止めて! あと私降りるから、皆一応ついてきて!」
「は、はい!」
「どうしたんですの?」
皆は事態が飲み込めていないようだが、宇宙船がここに来るらしい。“宇宙船”と言って通じるのだろうか?
ソレイユちゃんが慌てた様子で馬車を止める。止まったと同時に私は馬車から降りた。
「何があるんですの?」
その後、皆が馬車から降りてきた。野原のまっただ中。周囲は平地で遠目に森や山が見えるような所だ。一応近くに魔物の気配は無い。
『視覚に補助情報を記載』
「ウァッチャァ!!」
いきなり視界にAR画像のような情報類が浮かび上がった。そのビックリ声にまたしてもビックリする私以外。
「どうしたんじゃ、さっきから? せわしない」
「どこか悪いのですか?」
「いや、大丈夫。うん、大丈夫。」
止めて! こういう事いきなりやるの!
『了承』
視界にあった情報類(何の情報かはビックリしていて見ていなかった)が消えた。
『南南西より接近。合流まで12秒』
「あ、あっちから来るらしい」
そう言って南南西の空を指す私だが、勿論圧倒的説明不足だ。
「あっちって何が来るんじゃ?」
「魔物が来るんですか?」
そうしてやってきたのは50m以上はあるであろう宇宙船であった。
ようやくプラウラーさんからパクった宇宙船が登場。進化後のダン子にも役割が出来るかも。