148 世界観の崩壊
馬車の壁に背を預け座ると、さて作業だ。
やることはこの鳥頭型ヘルメットの調査だ。
先ほどアクセスできたのでもっと詳しく調べることにする。とりあえずこのコンピューターにあったセキュリティー関係は全てOFFにする。電算機すら存在しないこの世界でサイバー攻撃を受ける訳でも無いしね。
「お、見つけた」
幸先の良いスタートだ。電子の世界を巡っていたら、このヘルメットの登録情報を見つけた。勿論登録者はプラウラーさんだ。登録されている情報はほとんど人間と変わらないようであった。
登録されているアバターを見るとどうやら30歳ぐらいの白人男性のような見た目だった。なぜか銀色のボディータイツに身を包み触覚が2本伸びたカチューシャをしているが……昭和臭漂う宇宙人スタイルであるが、ジャシン星人はこんな格好をしているのだろうか。
とりあえずここを書き換えておこう。
ピコピコと暗号化された電子データを私のデータに書き換える。外見から性別、年齢……遺伝子データ?
「遺伝子データとかどうすんの? ……あ、ここか」
ヘルメットの首の辺りにスマホの指紋認証部分のようなメカがあった。そこに指を付けるとペコーン! と電子世界で音がして私の遺伝子情報が出てきた。これをプラウラーさんのデータに上書き保存してと。情報の書き換えが終了。
とここまで簡単に説明しているが何気に時間がかかっている。具体的には夕食休憩を挟んでその後皆が思い思いに過ごす中、私は黙々と作業をすること6時間程度。既に辺りは暗くなっておりたき火が焚かれ、今晩の不寝番の順番も調整済みとなっている。
で、私だが、所有者を私に登録し直したことで様々なアクセス権が手に入った。これでこのヘルメットの情報を自由に見ることが出来る。さらに何かこのコンピューターから一本の電子的な線が伸びておりどこかにつながっているようだ。そこも確認しておこう。
とりあえずこの鳥頭型ヘルメットは鑑定の通り宇宙服とパワードスーツの役割をしていると言う事で間違いないようだ。その他翻訳機能や分析――〈鑑定眼〉に似た機能――もあるようだ。
私にも使えるようになったが、これをかぶることには抵抗がある。プラウラーさんが死ぬまでかぶっていて洗濯などされていない。他人のかぶった剣道の面とかって、使うのに抵抗があるよね的なものだ。臭いし。
鼻を近づけてみると、ヘルメットから独特のスメルがしてくる。特別臭いというわけでは無いが……何というか匂いが移ったらイヤだなとは思う。そもそもこの鳥頭型ヘルメット……ダサいし。
ところでこのヘルメットから電子的に延びている線であるが、要は通信回線である。この世界というかこの星にデジタル通信が出来る技術など無いので他にもジャシン星人がいるのだろうか。と思いその通信回線をたどってみる。すると衛星軌道上につながっていることが分かった。まあつまりプラウラーさんが乗ってきた宇宙船だと思われるものとの通信回線が生きていたのだ。
その線を逆にたどり、軌道上の宇宙船のメインコンピューターにアクセスする。
「あ、ヤッベッ――!」
いきなりセキュリティーに引っかかった。さすがに宇宙船のコンピューターとなると、宇宙服の端末より高性能であった。幸いなことに逆ハックはかけられなかったのでそこまで高度なAIは積んでいないのかも知れない。ただ、宇宙船内にアラームが鳴り響いているだけだ(と思われる)。おそらく乗組員がこれに気付いて何かしらの対策をするのだろうが、今のところその兆候は見られない。
ゆっくりと確実にセキュリティー関係を解除していく。プラウラーさんが封印されてからかなりの年月が経っており乗組員がいるのかは不明だが、もしいた場合不味いことになる。
具体的に言えば敵対行動と判断され星間戦争の引き金に……
ヤバいな、私がその引き金を引くとか後味が悪いどころじゃない。ここは申し訳ないが苦渋の決断を行い、力業に頼った。許容量を超えるデータを流し込んでフリーズさせる。コレにより再起動まで宇宙船のコンピューターが停止することになる。
勿論知っているとは思うが人間は生身のまま宇宙で生きられるはずは無いのだ。プラウラーさんからして宇宙服を着ていたので間違いないだろう。
コンピューターが停止すれば再起動までの間、宇宙船のあらゆる機能が停止する。生命維持装置やら空気循環、電気系統。まあつまり乗組員が残っていた場合、不味いので殺したのだ。人間てすごいよね。遠くの出来事なら殺したという感覚が薄れるのだから。
結果、再起動――通信が再開するまで10分程度かかった。これで死んでいてくれれば良いのだが……
再度、宇宙船のコンピューターに侵入する。今度は慎重にセキュリティー関係を外して、変なところは踏まないようにと。
結果、朝方までかかった。
精神的にかなり疲弊したが、一部を除き情報を読み取れるようになった。その後確認するが、どうやらこの宇宙船にはプラウラーさん1人しか乗っていなかったようだ。それが分かったのでより慎重に時間をかけて調査していく。
気付けば日が昇っていた。
「おはようございます。ノワール様……あの寝ていないのですか?」
「ああ、うん……あ、朝食?」
「ええ、もう出来ていますよ。食べたら出発だそうです。」
宇宙船に誰もいない――何かあっても対処する人間がいないことが分かったので時間をかけても良いだろうと思い、いったん作業を止めて朝食を取りに行った。
「ふぁぁぁ……おはよう」
「おはようございます。ささ、王よ、こちら朝食です」
一足先に集まっていたフェン子が私の分を渡してくれる。私はそれをのろのろと受け取った。いや、ただ徹夜していただけじゃ無くて色々作業していたからね。精神的にかなり疲れている。
「ご主人様、寝ていないんですってぇ。不規則な生活は美容の敵よぉ」
そんな声を右から左に流しながらモソモソと朝食を口に運んでいった。
そして、その後は予定通り出発。王国への帰路へとついた。魔王がいなくなった今、魔物達の動きがどうなっているのか分からないため警戒は怠らない。一応、魔王城に集まっていた魔物は全滅させたが、あれが魔物全てというわけでは無いだろう。もしかしたら、統率がとれなくなったことで襲撃率が往路より上がるかもしれない。
ただ私は精神的にかなり疲弊していたようで……お休み~ぐぅ
結果、夜起きて昼寝るという不規則な生活になってしまった。うーん帰りも同じぐらい――具体的には馬車で半月程度の工程を移動するのだから、夜はちゃんと寝よう。で、昼に作業しよう。そう心に誓った。
説明不足にならないように詳しく書こうと思ったらダラダラ感がハンパないことに。