表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
157/166

146 誰だテメェ

 踏み出した先……大きな扉の先の室内は非常に明るかった。これまでの石造りの廊下に光る石が壁に設置されているような地下では無く、真っ白な空間全体が光っているようなそんなある意味異様な光景であった。そして室内は半球状になっており、結構な広さがあった。直径100m以上あるんじゃ無いだろうか。シミ一つ無い真っ白な壁は距離感が狂いそうになる。


 しかし肝心の物が無かった。


「……何だ、この部屋?」


 その空間には何も無かった。いや一応あるにはある。室内、その中心部分に何かがポツンと鎮座していた。

 入り口からでは遠くて見えづらかったので、私はそれに近づいていった。

 少し入っていったところで、後ろから突如として音が聞こえた。慌てて振り返ると、開いたときとは全く違う機敏な動作で扉が閉まったのだ。

 あれ? 私閉じ込められた?


 とっさに右手でホルスターから拳銃を抜き、左手を腰の刀に添える。そして警戒しつつ周囲を見回す。

相変わらず白い部屋だ。見る限りでは中心部にある何か(・・)以外は何も無い。

 ゆっくりと警戒しつつ、部屋の中心部に向かっていく。


 そうしてたどり着いた中心部、そこにあったのは小さめの石製の塔であった。

 たしかオベリスクだっけ……それって何の意味があったっけ? と記憶を探りながら表面を見てみると文字が彫ってあった。あ、これオベリスクじゃ無くて石碑か何かだったのかな?


 文字を読んで……んん?


「何で日本語が書いてあるんだ?」


 そこに書かれていたのは日本語であった。

 ちなみに私はこの世界用に体を改造されて、この世界の文字の読み書きが出来るようになっているが、日本語も忘れているわけでは無い。バイリンガルと言うヤツだね。

 内容を読んでみると、どうやらこの真下に『邪神』が封印されているらしい。名前は……


「う……ウロウロス?」


 達筆なのか下手くそなのか分からないような文字だったので読むのに苦労したが大体そんな内容であった。そして最後のサイン。どうやらこれを記載したのはケイ・コバヤシという何代か前の勇者らしい。


 この部屋全体を封印装置として制作し、人類による監視の目を絶やさないようにと言う事が(たぶん)書かれていた。

 ……いや、ここ魔王城になっていましたが?


 まあとにかく、何かヤバい物が封印されているらしいのは分かった。


「残念、お宝じゃ無いのか。」


 ため息をつき、その場を去ろうとした時、目の前の石碑が光り出した。


『よくここへとたどり着きました。勇者よ』


 そこに現れたのは10代半ばぐらいの女性だった。それは立体映像のように石碑から投影されているようで、薄く後ろが透けて見える。彼女は誰か……その前に


「私は勇者じゃ無い」

『私はケイ・コバヤシ、初代勇者です。この場所は私達が(いにしえ)の邪神を封印するために作った専用の場所です。いつの日かあれを倒せる存在が訪れた際に備えこれを残します。私達は全力を持ってしてもあれを封印することしか出来ませんでした。――』


 その映像は私の声を無視して話し始めた。多分記録再生機能しか無いのだろう。私が話しかけたりジェスチャーをしても何も反応せずにただ自分たちのことを話し続ける。一応扉が閉まってこの部屋に閉じ込められた私はその言葉を黙って聞くことにした。


『――これを聞いている後代の勇者よ。どうかお願いします。あの邪神を倒してください。そしてこの世界を救ってください。』


 さてその話を聞いた結果分かったことがある。以下に纏めると

・この部屋の地下には“ウロウロする者(プラウラー)”という邪神の一柱が封印されている。

・今見ている映像はその“プラウラー”を倒せるであろう後代の勇者の侵入により起動する。

・意図的に“プラウラー”を解放するので倒してね

・この部屋は勇者の力を持って最高の強度で作ってある。外に出ると大変なことになるのでこの部屋の中で倒すことを強く推奨する。

以上だ。


 個人的にはガッカリだ。ここは宝の在りかでは無かった。それどころかただの厄介事が詰まった部屋だったのだ。

 さて、どうしたものかと考えていると、目の前の立体映像が消えた。記録されていることを言い終わったのだろう。

 しかしあれが最初の勇者か……黒髪黒目の典型的なアジア顔だった。着ていた鎧の下はセーラー服っぽかったし、石碑の文とも合わせて、まあ日本人で間違いないだろう。

 何だろう。勇者って日本人がなる者なのか?


 所で先ほど言っていた邪神“プラウラー”とやらはどうなったのだろう。立体映像が消えてから少し待ってみたが特に変化が無い。

 これ無視して出て行っちゃダメかな? そんなことを思い始めていたとき、不意に石碑が光り始めその周囲の床にも円形の光が出現する。


「これが……古の邪神“プラウラー”」


 ゴクリと喉を鳴らしその行方を見守る。ただの雰囲気作りで物々しい顔芸などをやりつつその邪神とやらが現れるのを待つ。


 その光の円は境界がはっきりしており、そこだけ切り取ったように床がせり上がってゆく。そうしてせり上がった床は妙な真っ白い円筒形が鎮座する。その高さは3m程度だろうか。

 それがウィーン! ガシャン! とか機械チックな音と共に開いた。中にいたのは――


「うぉっ!」


 ビックリして声を上げてしまう。中に入っていたのは奇妙な物体であった。体は人間なのだが頭がどう見ても鳥類、猛禽類だ。身長は180㎝程度だろうか。瞳がランランと光っており顔は今にも動き出しそうなほど生気に満ちているのに対して体は骨と皮だけのようなガリガリでしかもミイラ化していた。

 これが邪神? ……これは生きているのか? 死んでいるのか?


 確かに顔だけ見ると動き出しそうだが、体は死者のそれで、先ほどからピクリとも動かない。

 ゆっくりと近づいてみる。やはりピクリとも動かないし呼吸もしていないように見える。

 恐る恐る触れてみると、ちょっと触れただけでボロっと腕が落ちた……


「うわぁ……」


 それを皮切りにミイラ化していた体がドミノのようにボロボロと崩れだした。私はただそれを眺めていることしか出来ない。数秒で目の前のミイラは完全に崩れて足下にはボロボロの何かの破片のような物が山積みになった。そしてその一番上に鎮座するのは頭部だ。ここだけはなぜか崩れずに原形をとどめていた。

 相変わらず気味の悪いほど生気に満ちている。目も開いたままだし。


 なんだこれ? 鑑定眼を使用してみる。


 【死体】と出た。いや、それは下の破片の方だよね。もっと違う情報が欲しいんだ。

 【宇宙人の死体】と出た。ちょっと詳しくなった。でもやっぱり鳥頭の方じゃ無い。ところで宇宙人?


 もっと意識して〈鑑定眼〉を使用し見る。伊達にスキルレベルMAXじゃない!



プラウラーの死体:ジャシン星からやってきた調査員。コードネーム〈プラウラー〉。この惑星に不時着の後、現地人と突発的な戦闘が発生し封印された。死亡原因、餓死。



「おぅ、いぇ…………邪神じゃねーじゃねーか!」


 なんと、〈邪神〉では無くジャシン星人という宇宙人であった。別に神でも何でも無いただの生物じゃねぇか、人違いどころじゃねぇ!

 あの初代勇者、あんな真剣に語っておきながら宇宙人を捕獲しただけだった。じゃあこの鳥頭は何なのだろう? ここだけメッチャ綺麗に残っているのだが……〈鑑定眼〉再始動!



種類:ヘルメット型宇宙服兼パワードスーツ

武器ランク:B

装備者:プラウラー

能力:生命維持、身体能力上昇 、自動翻訳



 ……宇宙服だったのか。と言う事は――


 私はその宇宙服とやら――頭部を持ち上げてみる。すると中からボロボロと中身(・・)がこぼれてきた。

 頭部を裏返してみると中は空洞であった。なるほど、確かにヘルメットだな。


 つまりこのジャシン星人とか言う宇宙人は勘違いで封印されて餓死したわけだ。……もうなんと言っていいのやら。て言うかこの世界でも宇宙人とかいるんだな。


 不意にブォンと立体映像が浮かんだ。


『ありがとうございます。勇者よ――』


 ケイ・コバヤシさんだ。なにか邪神を倒してくれてありがとう的なことを言っている。


「いや、ただの勘違いですよ」


 そんな私の言葉に勿論反応しない。先ほどと同じように一方的に言葉を述べている。


『――これはただの記録なので私が平和になったこの世界を見ることが出来ないのは残念です。ではこの世界に再び平和が戻った事を感謝します、勇者よ。願わくばこの平和が未来永劫続かんことを――』


 とかなんとか一方的に言って、やがて映像は途切れた。


 ……どうすんの、これ?

ウロボロス戦終わり

プラウラー → うろつく者 → ウロウロする者 → ウロウロする → ウロボロス

まあ、間違って伝わっていたというだけです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ