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144 魔王が死んで

 チョキチョキとはさみの音が聞こえる。

 今、私は後方に置いてきた馬車の中でカーマインさんに髪を切ってもらっている。

 対魔王戦にて髪をバッサリとやってしまったからだ。戦闘中の事なので勿論切り口がそろっているわけも無く、今更になって、アリシアさんの髪の手入れなどを経験しているカーマインさんに髪を切りそろえて貰っている。


「終わりましたよ」


 カーマインさんの声が聞こえてきた。どうやらカットが終わったようだ。どれどれ……


「わぉ」


 なんと言うことでしょう。あの長かった髪が今や短く肩口少し上で切りそろえられていた。ショートとミディアムの間ぐらい? 髪型にそれほど詳しいわけでは無いので分からん。髪型のせいで少し若く見える感じがする。

 ただし、今の格好は髪型と合っているような感じがするのでいいや。スポーティー女子って感じ?

 ノースリーブのシャツにホットパンツ、ジャケット装備とやりたい放題だ。中世風異世界には全く合わない。でもいいんだ……天上天下唯我独尊を行く!

 特にいいのはスニーカーだ。今まで鎧だの革靴だの走りにくいったらありゃしない。まあ慣れてくればある程度動けるんだけれど。

 後は、帽子(cap)とガムとかあればそれっぽい(・・・・・)。まあ持ってないけど。


「ノワール様の髪が……」


 ソレイユちゃんがなぜか悲しそうな目でこちらを見ている。髪型が変わったことがそんなにショックなのだろうか?


「あらぁ、ご主人様の髪、長くて綺麗だったのだけれど」


 ティーアもちょっと残念そう。

 えー、皆この髪型不満なの? 今から伸ばす? どうやって? 毛根に回復魔法とかかけたら伸びるか? 

 うーん、……止めておこう。失敗したら怖い。ハゲたりしたらイヤだ。


「まったく、乙女の髪をなんだと思っているのかしら、あの魔王」

「王はどのようなお姿でも素敵です」

「よく分からんが、ナウいのう」

「吾輩、ショートもいけるでござるよ」


 他の皆も私の髪を見て思い思いの感想を言ってくれる。


 さて、私達は今、別に散髪のためにここにいるわけでは無い。

勇者パーティーにより魔王は倒されたわけだが、本当に死んだのかの確認が取れないからだ。そもそもどうやったら倒したとなるのだろうか。

 まあ、最後は魔王の体を再生不能なほどにバラバラにしたし、称号により直感で分かるのだが、念のためだ。

 後、一応、私は聖女の称号も持っているので間違いは無いと思うのだが。


 たまに作品によっては死後パワーアップして復活とかゾンビ化とかあるらしいし。


 念のため魔王城近くで3日ほど滞在する予定だ。その間何も無ければそのまま帰還してもいいだろう。そのために後方にいた馬車も持ってきた。


 集結していた魔王軍は殲滅しているので近辺に魔族や魔物は今のところいないだろう。目の前には無人の荒野と、同じく無人であろう魔王城が建っている。

 城だけぽつんと建っているが、集結した魔王軍の衣食住はどうするつもりだったのだろうか。目の前の魔王城は最初にいた魔王軍全軍を収容できるほど大きくは無いようだし。まあ建物としては十分大きいのだが。


 周囲に魔物がいない見通しの良い荒野と言うことで、交代で休憩と見張りをすることになった。と言っても皆馬車の中でずっと休憩しているわけでは無いので交代とは名ばかりである。死角は魔王城の後ろだがスキルとかあるし大丈夫だろう。


 私の番。見張りに立った私はすることも無く、背を馬車に預けてぼうっと魔王城の方を見ている。双眼鏡などあれば様になったのだろうか。塹壕やギリースーツで監視部隊ごっこも出来るかな?

 横ではソレイユちゃんとカーマインさんが夕食の準備をしている。火にかけた鍋がぐつぐつと言っている。今日のメニューは何だろう。この世界は魔法があるおかげで水には困らない。水関係の魔法が使えると旅も元の世界よりぐっと便利だろう。(勿論、魔法を使えない人が多数であるが)


 そうしてまた視線を魔王城の方へと戻した際に、ふと思った。魔王城の中に入っていないんだけれどお宝とか無いの?

 魔物の気配が無いので魔王城の中を調べたりはしていない。もしも魔物が残っていても、最大の目的である魔王を倒したのであれば少数を見逃してしまっても大した問題では無いし。


「なあ、ソレイユちゃん、カーマインさん。明日、日中暇?」

「え? ええ」

「そうですね。このまま何事も無ければすることはありませんし。どうしたのですか?」

「いや、魔王城の中を見てみようと思って。ほら、興味があるし、お宝? とかあるかも知れないし?」


 思ったが吉日と言うが今日はもう暗くなり始めているので、明日やろうとソレイユちゃん達を誘ってみるが


「聞かせて貰いましたわ!」

「うむ、バッチリとな!」


 なぜか馬車からアリシアさんとダン子が出てきた。


「魔王城、いかにも希少な物が眠っていそうな気配がしますわ!」


 アリシアさんがそう言うが、ならなんで今まで言い出さなかったのか。


「あの憎き魔王の城を家捜しして金目の物を全てダンジョンポイントに変えてやるわ!」


 ダン子もノリノリだった。その後ティーア達も話に合流し、結果、私とダン子、アリシアさんにお付きのカーマインさんの4名が魔王城火事場泥棒部隊として魔王城に突入することになった。

 なお他の人は、今日と変わらず魔王城及び周辺の監視である。



 ◇◇◇


 皆ぐっすりと眠った翌日……夜の見張りは気配に鋭いフェン子とヤマモトが行っていた。


 まあとにかく、今日は家捜しの日だ。

 私達はやる気満々で出発する。アリシアさんとカーマインさんは万が一を考え戦闘用の装備に身を固めている。ダン子は……まあいつもの痴女スタイルだ。私は鎧が破損したのでそのまま。


「何があるのでしょうね。私、興奮してきましたわ。」

「フフフ、魔王のヤツめ。きっちりと代金分はふんだくってやるわ。」


 先頭を歩くのはアリシアさんとダン子だ。この二人は特にやる気に満ちあふれているようだ。その後ろを私とカーマインさんが続く。

 ソレイユちゃん達は馬車に残ってこちらを監視中。見るとソレイユちゃんが手を振ってくれる。


「そういえば……」


 ふと思い出し、魔剣【レウィシア】と魔盾【ラナンキュラス】を取り出す。今の格好には合わないと思いアイテムボックスに放り込んだ奴等だ。

 どうしよう、コレ。一応武器としては非常にいい物なんだけれど、今時のナウいヤング系女子といった感じの私のコーディネイトには合わないんだよなぁ


 誰かに渡すか? 武器トレードとかゲームっぽいな。売るのは……一応、先日まで共に戦ってきたわけだしあまりやりたくは無い。


「そういえば以前、武器に魔力を流したら武器ランクが上がったり形状が変化したりしたよな、確か。これらも何か変わったりしないだろうか」


 そう思って魔力を流してみる。

 むぅん!


 そうして魔力を流すとブルブルと携帯のバイブレーションのように剣と盾が震えだした。コレは不味いか? 壊れるのか変化するのか? もう少し方向性を絞ってみよう。そう魔法は想像だ! ……誰が言ったか知らんが


 イメージだ、イメージするんだ! 想像を具現化する! 私は世界を書き換える者!


「スキル〈世界創造〉! ON!」


 イメージをより具現化、スキルを併用することにより方向性のある魔力を流していた剣と盾がペカーと光り出した。

 そして魔剣【レウィシア】はその形状を変化させていった。


「な、何ですの?」

「何をやっているのですか?」


 そういった声が周囲から聞こえてくるが、まあとりあえず

 続いて、魔盾【ラナンキュラス】もペカーと光だしジャケットに吸い込まれていった。


 

 私は光が収まったのを確認した後、それらを鑑定する。剣はSf風なんちゃって日本刀に、盾は今着ているジャケットと一体化した……みたいだ。



スキル〈鑑定眼〉


銘:ムラサメ

種類:聖剣・剣

武器ランク:A

装備者:ノワール

説明:オシャレなサイバー風片刃の剣。日本刀を模した作りながらSFっぽさにより「なんちゃって」感がある。単分子の刃による切断能力は最高の一言で魔力耐性も持つためこの世で切断できない物は無いとされる。


銘:イージス

種類:聖服・ジャケット

武器ランク: A

装備者:-

説明:オシャレな近未来風ジャケット。無駄なジッパーやポケット類がそれっぽい。物理、魔法に対する最高度の耐性を持っており防具としても一級品。元がジャケットなので動きも阻害しないと言うこと無しの一品となっています。




「お、おぉ~!」


 スゲぇ! 何とあの中世異世界風のグレートソードとタワーシールドが時間を超越した(見た目的に)!


 それを不思議そうに見ていたダン子が疑問を呈してきた。


「何じゃ、それ?」

「これ、ほら以前、ダンジョンとかで使っていた武器だよ。」

「いや、わかっとるよ。なんで形が変わったんじゃ?」

「私が凄いからだ」

「そうか、お主はやっぱり凄かったのか!」

「そうだ!」


 そんな会話をしながら、日本刀を腰に……どうやってぶら下げるんだろうかと思ったらご丁寧に鞘にスリング取り付け金具がついていたわ。さすが私。


 カチャカチャと腰に付けて……うん、これで良し。見た目的に全く違和感ないな!


「のう、のう、さっきのヤツをワシにもやってくれんかの?」


 武器を収納し悦に入っていると、ダン子が何やら言ってきた。


「うん? 今のは武器に使うスキル(やつ)だぞ。」

「分かっておる。この体は作り物(アバター)じゃからの。何ぞ進化できるかと思っての」

「ああ、……危険じゃ無いか? 魔力で作っている体といえ本体とつながっているんじゃ無いのか?」

「なに、危なそうだったら切り離せばいいのじゃ」


 そういえばダン子の体は本体では無かった。だからと言っても本体とつながっているし危険じゃ無かろうか。何かあってコンピューターウイルスのように感染とかするかも知れないし。さすがに私もここまで一緒に旅をしてきた仲間を変なことで失ったりすればそれなりに悲しい。皆も悲しむだろう。

だがダン子は興味津々で言ってくる。うーん、まあ本人がいいと言っているし切り離せる? らしいし……ウイルス感染してからネットワークケーブルを引き抜いても感染自体はしているんじゃ?


「はよう、はよう!」


 ダン子は『ヘイ! カモン!』といったジェスチャーでせかしてくる。


「危なくなったらすぐに言うんだぞ」


 それだけ言ってダン子の頭をがしっとつかんだ。


「魔力解放! スキル〈世界創造〉によりダン子を進化!」

「なぜ頭なんじじゃァアバババババ――!!」


 そのつかんだ手から魔力を流しながらスキルなどを使用。称号などもあるしコレで問題ないと思うんだが、なぜかダン子の体が小刻みに震えながら光り出した。


「大丈夫かコレ」


 そう思っている内に、ダン子の体の光がバビューン! と言う擬音付きでどこかへと飛んでいった。そうして――


「ぷしゅぅー、燃え尽きたぜ真っ白にな」


 とか言いつつ体から煙を出している真っ白なダン子が残った。


 さて、そんなことをしつつも歩みは止めていないので着実に魔王城が近づいてくる。


 近づいてくるとやはりお城とあってでかい建物だ。と言っても、私は王国の王城に招待されたこともあるので今更この程度で驚かないけど。

 城壁などは戦闘の余波で所々崩れたり焦げたりしていた。

 さて、お宝はあるのだろうか。


 なお、ダン子であるが、あの後すぐに回復した。





ノワールside


『ポーン! 称号〈神代の鍛冶師〉を入手しました。』





ダン子side


『過剰な魔力流入を確認しました。当該ダンジョンコアはその指向性を指定された位置へ。……進化します。危険です。人員は退避させてください。危険です。――進化します。“ダンジョン”から“世界樹(ユグドラシル)”へ進化 ―――― error ―――― 魔力指定値が一致しません。指定を再計算。 ―――― green ―――― “ダンジョン”は“軌道エレベーター”に進化します』


 その日、轟音と共に地揺れがエドクス王都及び迷宮都市を襲った。その揺れは非常に長い間続き市民は恐怖した。

 そして揺れが収まって冷静になった市民の目に一斉に飛び込んできたのは、迷宮都市が中心部に行くにつれて高く隆起している光景であった。そしてそれはそのまま徐々に成長を続け、結果周囲5㎞を巻き込み高く――高く(そら)へと伸びていった。

大 事 故 です!


地下迷宮だったのに上に伸びるダン子。

迷宮都市は中心へと高くなりましたが、斜めでは無く階段状なので建物への被害は最小限。ただし高低差がひどく老人や子供に厳しい都市に。最終的に宇宙にまで伸びるのは中心部数百メートルなのでそこだけは被害大。

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