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143 悪巧み

第三者視点

 教会内を小走りで進む少女。その姿を見咎めた神官が注意するがそれを無視して進む。そうして一際大きな扉の前に立つとその扉を勢いよく開いた。

 扉を開ける大きな音が静寂な室内に鳴り響いた。


「何ですか、騒々しい。アンジェ、聖女たる物もう少し慎みを――」


 室内にいた白くそれでいて豪華な服を着た老人が彼女――聖女アンジェをたしなめるように言うが彼女はその言葉を遮り話し出す。


「教皇様、魔王が、魔王が倒れました!」

「何ですって!」


 聖女の大声にそしてその内容に驚愕の声をもらす老人、いや教会のトップに君臨する人物である教皇。


「魔王が倒されたのです。先ほど神託が下りました。勇者様がやってくださったのです!」


 興奮気味に矢継ぎ早に自身の知り得る情報を声に出す聖女。


「そ、そうですか。では後で私の方から皆に伝えるとしましょう。国王や民衆にも周知する必要がありそうですね。その辺りは私がやっておきます。連絡ご苦労でした。」

「はいっ!」


 そう言って、聖女は満面の笑みで自室へと戻って行った。

 そうして教皇の部屋の中に静寂が戻る。


「ふう……まったく、聖女と言ってもまだまだ幼いですね。……それにしても魔王が倒されましたか。コレは少々……いや言ったとおり皆に伝えなければいけませんね。」


 そう言って教皇は自室の扉を閉め、さらに鍵をかける。その後、窓のカーテンも閉めて薄暗くなった室内。

 教皇は本棚の一部を操作し始めた。すると重そうな本棚が横へとずれて行く。その向こうには暗く湿った地下へと続く階段が隠されていた。


「そう、皆にね」


 教皇は何の迷いも無くその階段をランタンで照らしながら降りていった。



◇◇◇



 薄暗い室内、円卓にいつものメンバーが並ぶ。


「バカなっ! 魔王が倒れただと」


 全く、いつも五月蠅い男だと教皇は思う。

 怒鳴っているのは一際太っている男だ。政府の要職に就いており資産も潤沢であるため、この計画には一際入れ込んでいたのであろう。勿論投資した金額も馬鹿にはならない。だからといって彼のように感情的に怒鳴っても何もならない。


「落ち着きなさい。そのように怒鳴っても何も解決しないわ」


 対面に座る初老の女性が太った男をたしなめる。彼女はいつも落ち着いている。このような場がとても似合わないようにいつも落ち着いている。……気持ち悪ほどに。


「それで、魔王が倒されたというのは本当なのね?」

「ああ、聖女が神託により確認した。間違いないだろう」


 女性の確認の言葉に教皇が応える。


「そう……今代の勇者のレベルは低かったから問題ないと思ったのだけれど、やはり魔王は勇者に倒される役割なのね」


 そう言いつつ、はぁと息を吐くように落胆の表情とチラッと覗かせる女性。

 それもそのはずで、彼等は魔王との極秘の取引によりある約束を取り付けていた。その約束を魔王が守るのかどうかは彼等にとってどうでも良かった。魔王による恐怖と破壊、そして混乱。その隙に乗じて彼等は目的を達成するつもりであったのだから。


「まあまあ、終わってしまったことをどうこう言っても仕方ないですよ。それよりも今後の事を考えましょう。」


 声を上げたのはこの中では最も若く、そして最も後に加わったメンバーだ。青年は自身の立ち位置を正確に理解しており、皆をたしなめる役割に徹している。外に出れば教皇と同い年のベテランに指示を飛ばす人物と同一だとはとても思えない。


「分かっています。それで、ここのところ失敗続きだけれど、どう挽回するのかしら?」

「そうだ! 今度こそ失敗は許されんぞっ!」


 女性の言葉に太った男がまたも怒鳴り声を上げ呼応する。


「分かっていますよ。勇者達は今、魔王退治のため北の大地にいます。ならば同時に潰すチャンスです。」

「同時に潰すだと……北の大地……ハッ!」


 教皇の言葉に何かに思い至った男が声をもらす。

 教皇はその声を無視して自身の言葉を述べていく。


「ウロボロスを起動させます。」


 教皇はそう言い切る。ウロボロス。我が教会の切り札にして大いなる災厄。その言葉に皆が驚愕の表情を浮かべる。


「ウロボロス……聞いたことはあります。北の大地に封印されている邪神。実在したのですか?」


 青年の疑問ももっともだ。アレは本来教会にのみ伝わるおとぎ話。限られた人物しか知らない。


「正気ですか? そもそもアレは何者にも制御できないはず」

「なるほど! アレなら確かに誰が相手でも敵にはならんだろう。しかし大丈夫なのか? ワシも制御など出来んと聞いておるぞ」


 男と女性も疑問の声を上げる。そう、アレは邪神。我ら人類では相手にすらならない。何者にも制御できず過去に神々によって封印された邪神。だからこそ――


「ええ、その通りです。しかし問題ありません。アレは別に我々の思い通りに動く必要はありません。ただ目的を果たせばまた封印すれば良いのです。」

「封印だと? 出来るのか?」

「私も初耳ですわ」


 皆が教皇の言葉に疑問を呈してくる。しかし大丈夫だと彼は言う。その方法は伝わっているのだと。


「では、皆さん。その方法で良いですね」

「ああ」

「問題ありません」

「私もです」


 教皇の再度の確認に皆が疑問を持ちながらも最終的には賛同の声をあげる。


「では皆さん、ウロボロスが暴れるのです。下手をして巻き込まれた、等という間抜けなことはなさらないでくださいよ」

「フンッ! 分かっておる!」

「そんな間抜けはむしろいなくなって貰った方がいいですけどね」


 円卓に向かい合って座る皆が教皇の冗談にのる。

こうして邪神ウロボロスは解き放たれることになった。


「我ら教会の真の人類救済のために!」

「「「乾杯!!」」」

閑話みたいなモノですので短め。本編は一応明日更新予定。

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