141 魔王戦
第三者視点
【eco光】。その技名を叫んだ魔王が移動したと思った瞬間、最も早く反応したのはノワールである。その不明な技名と共にイヤな気配を感じ、何も考える暇も無くヤマモトの位置に移動し押して位置取りを変えた……次の瞬間、魔王が目の前にいた。
ノワールでさえ目視困難なほどの高速移動……いや、移動かどうかも分からないほど一瞬で魔王が目の前に現れたのだ。
そして攻撃のモーションをとるのが見えたノワールは即座に身をひねって躱そうとするが、それよりも早く魔王の腕がノワールのなびいている黒髪をつかむ。
「ほう、アレに反応したのか、見事だ!」
そう言いながら魔王は足を地面につき……いや地面に根を張り大地の重量を持って殴りかかってきた。
瞬時に躱せないと判断したノワールはせめて威力を殺すために剣で捕まれた髪を切断し後ろに飛ぶ。しかし魔王の方が一瞬早く攻撃を決め、その拳が腹部に命中。重量差によりノワールは軽々と吹き飛ばされた。
「「「ノワール(殿)(様)!!」」」
その吹き飛ばされる様子を見た皆が声を上げる。
吹き飛ばされたノワールは木の葉のように宙を舞い地面に叩きつけられた。
「貴様ー!」
その光景に激怒したソレイユが矢を射、フェン子が殴りかかる。
しかし次の瞬間、又魔王の姿がかき消えた。そのまま何も無い中を通り過ぎる弓矢と拳。
「やれやれ、せっかちだな」
魔王の声がする。その声を勇者達がたどると全く別のところに魔王が立っていた。
「何だ、今のは……」
「瞬間移動? ……いや、転移?」
その素早い動きは、勇者パーティーの誰も目で追えないほどであり何が起こったのか誰も分からない。
◇◇◇
「ゴホッ!」
吹き飛ばされたノワールであるが勿論生きている。地面に叩きつけられてから数秒と立たずに起き上がった。
しかし、腹部を殴られたせいが少し咳き込んでしまい、さらに胸の圧迫感を感じ何かと思って見ると、鎧の腹部が大きく抉れ、変形していた。さらに殴られた時か叩きつけられた時かは不明だが、左腕部分の装甲が吹き飛び、スカート部まで破れたり変形したりという、見た目ボロボロの格好になってしまった。既にこの鎧――ダンジョン攻略時から愛用していた物なのだが、もう修理と言うより買い直した方がよい状態だ。
「気に入ってたのになー……」
そう言いながら鎧を外していくノワール。そうして全て外し終えてインナーのみになった後、髪を触ってみる。
先ほど攻撃を躱すためとはいえ何のためらいも無く切ってしまった髪であるが、もうちょっとやりようがあったのでは無いかと後悔する。とはいえ、あのまま殴られていたら髪がちぎれてハゲになっていたかも知れないし、とっさの判断としてはよかったと納得することにした。
ロングの髪は適当に切断したため切断面がバラバラでセミロング程度の長さにまでなってしまった。後でティーア辺りに整えて貰おうと思いつつ、吹き飛ばされた方――勇者と魔王が戦っている方に目を向けた。
◇◇◇
「くっ! 何でござるかこの速さは!」
勇者が何度も剣を振るうが魔王にかすりもしない。
「行きますわよ!」
「はい、お嬢様!」
アリシアとカーマインが両脇からそのレベルをフルに使い斬りかかる。
それは空気を裂き、大地を抉るがやはり魔王を捉えられないでいた。
だが一瞬の隙を見て、死角からソレイユが矢を射る。死角からの攻撃は効果があったようで矢が深く突き刺さる……が、魔王はそれに気付くとソレイユの方にも警戒し始めやがて矢は当たらなくなった。
さらに最初に当たった矢を、魔王は何でも無いように引き抜くと瞬時にその部分が再生されていく。
「何だ、あれは!?」
その光景は奇妙だ。木の成長を早送りで見ているかのように傷口が塞がっていくのだから。
「植物性の魔物は回復力があると聞いていましたが、これほどとは……」
アリシアがその超回復に驚き口にする。
だが皆、重要な箇所が抜けている。それは未だ解析できていない魔王の移動力である。レベルは300代と強い方ではあるものの、知覚できないほどの速さで移動するのだ。
レベルに関してはアリシアが魔王を上回っており、ティーアも魔王に肉薄するレベルだ。他の皆も決して低いわけでは無い。しかし誰一人として、魔王に追いつけないでいた。
後ろから殴りかかろうと、ちょろちょろと動き回るダン子。
「くっ! 何じゃ! あの速さは!」
その速度に翻弄されるヤマモト達一行
魔王の攻撃は一撃一撃の重さもそれなりのモノである。現状、何とか受け止めることは出来ているものの、確実にダメージを蓄積させてゆく。
数十度目の魔王の一撃をヤマモトが両足を踏ん張り受け止めた際に背後に回ったアリシアが斬りかかる。しかしすぐに魔王の姿はかき消え、同じように空振りをしてしまう。
ならばと、フェン子とカーマインにより両側からの挟撃。そして逃げ場を無くしたところへとヤマモトが斬りかかる。後方へと移動した場合に備えてソレイユが矢をつがえる。
「その程度でどうにかなるわけが無い! 【eco光】!」
又、魔王の姿がかき消える。全方位から攻撃を仕掛けていたため誰かが打ち合うだろうという期待は虚しく又魔王を見失う――
だが勇者は諦めない。
「ならば吾輩がそれを破って見せよう! 【星を追う者】!」
技名を叫ぶと共に勇者ヤマモトの力が発揮される。勇者は光となり魔王を追撃する。……まあ、実際は音速程度であるがその衝撃波が魔王を撃つ。
「グワァァァ!! ――……なんちゃって」
「何ぃっ!」
その追撃が光となり魔王の上半身が消し飛ぶ。
しかしすぐに、その下半身からニョキニョキと植物のツタのようなものが伸び絡まり合うと、又、魔王を形成した。そうしてどこからともなく発せられる言葉。
その事象に混乱するヤマモト達。
それもそうだ。たとえ植物系の魔物であっても体の半分を失いながらも生きている魔物などごくわずかであるし(有名なのはスライム等)、そこからの修復にはかなりの時間を要する。
「フンッ、そんなありきたりな攻撃で私が倒れるとでも思っていたのか!」
「ならば! 貴様が死ぬまでやるのみ! 【星を追う者】!!」
再度同じ技名を放ち、魔王に突撃する勇者。魔王はその技は見たと言わんばかりに余裕の表情でその場を移動する。
「その油断が命取りでござる! 【星に成るもの】!!」
まさに光速。ヤマモトがさらに加速する。……まあ、音速の3倍程度であるが。
その衝撃波は(略
とりあえず直線において非常に大きな威力を誇るこの技。たとえ何者であろうとも直撃すればただではすまない。
「無駄だと言うことが分からないのか。残念だよ勇者。」
又、別の位置に現れ、あきれたように頭を振る魔王。勇者の攻撃は捉えたと思った魔王にかすりもせずに見当違いの方向に向かっていく。そうして死角から入れられる攻撃。
ヤマモトは蓄積したダメージと自らの技の連続使用によりかなり疲弊していた。
「ぜぇぜぇ……この技すらも……魔王……」
地面は衝撃波により大きく抉れ、砂塵が舞い、草木は吹き飛ばされた地面。
そこに立つ勇者と魔王。その構図は皆が望むものとは全くの逆の物となっていた。
ボロボロのマントとズボンではあるが体には全く傷が無く、余裕の表情で佇む魔王。
剣を杖代わりに、片膝をつき荒い息をする勇者。
それを見守る見目麗しい女性達……(一応パーティメンバーですが構図的に)
戦いの趨勢は今決まろうとしていた!!
Q:迫力のある戦闘シーンが書きたいです。
A:無理です。
登場人物紹介とかあった方がいいんだろうか? でもステータスとか服装とかコロコロ変わるから書きにくい。今回も主人公さんの髪型が変わっちゃったし。