15 帰るまでが冒険です 2
いきなり失礼な言葉で呼び止められた。
「まだ何か?」
足を止めて振り返る。すると、
「いや、あんたは金を請求しないのか?」
「オークの討伐証明部位とかはどうするんだ?」
「あんたは命の恩人っす。姉さん。惚れたっす。」
惚れただと? こいつホモか? ……いや私は女だったな。なら健全なのか? だがそれ以前に私は今は18歳だ。姉さんなどと呼ばれる歳ではない。ノリーカーとかいうやつだったか? 殴ってやろうか。
それに金の請求? 何のことだろう?
「おい、君たちに聞きたいことが1つ。言いたいことが2つある。」
「え? ああ、なんだ?」
「まずオークの討伐証明部位その他は必要ない。そちらの取り分にしてもらっていい」
「は? いいのか?」
茶髪の斧を持った奴が言うが構わない。オーク9匹くらいまた狩ればいいしな。それにゴブリン百匹超の魔石とかとってきたところなんだ。またオークの心臓に手を突っ込むとか勘弁願いたい。服も汚れるしな……もう汚れているが。
あと、この辺水場がないから血とかついたら洗えない。
「構わない。あと金を請求とはなんだ?」
今度は赤髪の剣を持った奴に問いかける。いかにもリーダーっぽいな。赤いし。
「いや、命を助けてもらった上に回復までしてもらったんだ。冒険者ならこういう場合金を請求するもんだろ?」
「そうなのか? ちなみに相場は?」
「え? あ、いや、俺たちも聞いただけだからよく知らないけど、金貨から身ぐるみ全部ってのまであるらしい……」
「そうか、では街へ帰った後、この汚れた服の代金を払ってもらおう。」
「は? そんなんでいいのか?」
「そんなんだと、君たちを助けるために汚れたんだ。それくらいは払ってくれ。」
「いや、あんたがそれでいいなら、いいんだけど……」
なんだ、服ぐらい安いだろう。それくらいは払ってくれよ。
冒険者3人組は困惑している。まあ、別の意味でだが。
「あとそこの金髪!」
ノリーカーとか言われていたやつを指す。
「私はまだ18歳だ。決して姉さんなどと呼ばれる歳ではない!」
「え、あ、はい……」
その後、3人ともこのまま街へ帰るというので同行することにした。しかし、オークの討伐部位と魔石を取った後、腕など一部だけ担いで、ほとんどの死体は放置するという。なぜだ? オークは肉が売れるのではなかったのか?
「え? こんな大量のオークなんて運べませんよ。」
「はあ? おい、アイテムボックス持ちはいないのか?」
「は? いませんよ。あんな珍しい能力持ってるわけないじゃないですか。」
こいつらはなぜオークを狩ろうと思ったんだ? せめて荷車なり運ぶための手段を持ってくるべきじゃないのか。……もしかして
「オークの肉というのは安いのか?」
「いえ、一体分丸ごとあれば魔石よりは高いと思いますよ。」
……もう一度言おう。こいつらはなぜ運搬手段もなくオークを狩ろうと思ったんだ? バカなの死ぬの
「分け前はもらうぞ。」
そういうと、14匹のオークの死体を自分のアイテムボックスに突っ込んでいく。
「「「は?」」」
「よし。帰るぞ。」
「いやいやいや、お嬢ちゃんアイテムボックス持ちだったのかよ」
茶髪の奴が言ってきた。お嬢ちゃんという歳でもないような気もするのだが。じゃあどう呼べというのかというと困るところ……普通に名前を呼べばいいじゃん。
「私はノワールだ。お嬢ちゃんでもない。」
「え? ああ、俺はゴトランドという。」
茶髪で斧を持った歳上っぽいガタイのいい男が言ってきた。
「あ、俺はデュロックだ。」
「俺はノリーカーっす。」
赤髪で剣を持った奴がデュロックで、金髪で弓を担いだ一番年下っぽい奴がノリーカーな。金髪はもう知ってるよ。
「えと、お嬢――ノワールは猫人族か?」
「いや、狐人族だが。」
「「「え」」」
3人とも驚いた顔になる。いつもこうだな。なぜだろう?
「おい、少し聞きたい。なぜ君たちは驚いているんだ?」
「え? ああ、だって狐人族で黒髪なんて……」
「黒髪の狐人族なんて初めて見たっすよ」
うむ、そうなのか。やっぱりこっちの世界でも黒い狐は珍しいのか。とにかく驚いていたのはそれか。……これはどうしようもないな。
「そうか、では帰るぞ。」
「「「あ、はい」」」
◇◇◇
その後は何事もなく街まで帰ってきた。まあ、私が先導して魔物の気配を感じたら、迂回とかしてきたんだがな。感謝しろよ。……あ、おととい受けたキノコの採集依頼を忘れていた……
街に戻ってきたら、またいつもの門番がいた。なんでいっつもこの人なんだろう。門番は休みとか無いのか?
「おう、戻ってきたのか、ってどういう組み合わせだ?」
「ああ、ヤバイ所をこのお嬢ちゃんに助けられてな。」
ゴトランドは年上みたいなので、もうお嬢ちゃんでいいや。
「いやぁ、すごかったっすよ。」
「ああ、すごかったな。なんせ命を助けられたんだからな。」
「へぇ」
「あー、ギルドへ行きたいのだが、もう通っていいか」
そう言いつつギルドカードを見せる。
「ああ、呼び止めて悪かったな。もう顔も知ってるしな。通っていいぞ。」
その後ギルドへとやってきた私と、冒険者三人組……『燃える刃』とかいうパーティ名があるらしい。刃が燃えるってなんだ。魔法の剣みたいなものか?
並ぶのはもちろんサレールさんの受付だ。あと『燃える刃』の三人組も同じ列に並んだ。くそ、こいつらもサレールさん狙いか! と思ったけど違った。どうやら、オークの件を助けてもらったことを含めちゃんと報告するから一緒に並んだだけのようだ。
「お帰りなさい。昨日戻ってこないから心配していたんですよ。血だらけじゃないですか?どうしたんですか? ってどういう組み合わせですか?」
質問は一個ずつしようよ。
「それよりも報告したいことがあるんですが、」
デュロック君が進み出る。やっぱりこいつがリーダーか。
「あ、はい、なんでしょう。」
「取り合えず、ノワールさんのこれは返り血で本人が怪我をしているわけじゃないんですよ。」
「ああ、そうだったんですか。よかった。」
「それで、報告のほうなのだが、オーク14匹と遭遇しまして……」
「じゅ、14匹ですか。それは御三方には荷が重いのでは? よく無事でしたね。」
「ああ、それが――」
オーク14匹に囲まれて命の危機に陥ったこと。そこにノワールが通りかかりオークの排除を助け、また回復魔法にて手当してくれたことを伝える。
その後、助けてもらっているとはいえ、依頼自体は達成しているので討伐証明部位と魔石を渡して報酬を受け取っていた。ただ、それをこっちに渡そうとするのはなぜだ?
「なんだ? 服の代金か?」
「いや、それはまた別に払うよ。ノワールさんが助けてくれなかったら俺たちは死んでいたんだ。これはノワールさんが受け取るべきだよ。」
「服の代金以外必要ないといったが?」
「いや、しかし――」
「デュロック、いいんじゃないか? 本人がこう言っているんだし。それに……頑固そうだ。」
ゴトランドが苦笑しながらそう言う。失敬な、頭は柔らかいほうだぞ。むしろプルンプルンといってもいい。
「……わかった。本当にありがとう。」
そう言って列を譲ってくれる。今度は私の報告だな。
ルビは作者が読みにくいと思った漢字に結構適当に振っています。もっとちゃんと振ってくれと思われたならすいません。