140 魔王討伐戦
第三者視点
(ふむ、魔王軍が全滅するとは……思った以上だ。16将軍までやられるとは予想外であったが……)
魔王はテラス席から勇者達の戦闘を眺めながら自身の考えが少し甘かった事を知る。16将軍からの情報では勇者は未だレベル100代半ばであり、勇者のパーティーメンバーはそれよりもいくらか弱い可能性が高く、楽観的な考えであれば勇者のワンマンパーティーである可能性すらあると考えていた。
見る限りではあの金色の人間などおそらく勇者などよりよほどレベルが高いようだ。他のメンバーも総じて高レベルにあるようだと予想する。
なるほど少々見くびっていたようだ。さすがは人類の最高戦力だと考えを改める。
その魔王の見ている前で、最後の16将軍が今、勇者によって討取られた。
「私自らが出る羽目になったな。全く、無能な部下を持つと上が苦労する。」
そう呟き魔王は勇者との戦闘のために立ち上がった。
◇◇◇
「ライトニングブレードォォ!!」
ヤマモトの必殺技の一つ、刀身に魔力を纏わせ圧倒的な切断力を生み出す技が16将軍の最後の一人――ファットマンを捉える。
ファットマンは身をひねって躱そうとするがそのデブボディーは躱すだけの移動量には足りず、腕を切り飛ばされてしまう。
「くっ! 小癪なぁ!!」
既にヤマモトとファットマンの戦闘は終わりが見えている。優勢なのはヤマモトで多少スタミナが切れかけているようであるが、攻撃によるダメージはほとんど無い。対するファットマンはヤマモトの攻撃により少しずつではあるがダメージを蓄積しており、さらに片腕を切り飛ばされた事により、さらに劣勢な状況へと追い込まれた。
「ダンジョンキック! ダンジョンキック!」
ガスッ! ガスッ! とダン子がファットマンの周りをウロチョロしながら膝の裏側に蹴りを入れているが体格差により全く効果が無い。
しかし、今、片腕を切り飛ばされたファットマンの集中が緩んだ隙にクリーンヒットを決め、ファットマンが膝カックンされた。
ガクッ! と体勢を崩したファットマンを見逃さず追撃に移るヤマモト。
「クソがぁぁぁぁ!!」
そう叫びながらゴロゴロと転がって躱すファットマン。しかしヤマモトはこれを読んでいた。ヤマモトの剣から伸びる魔力の刃。
「これで終わりでござる! サンシャインブレェェードォォ!!」
「グワーーー!!」
ヤマモトの剣から伸びた魔力の刃は一気にファットマンに突き刺さりその巨体を両断した。ファットマンの断末魔を残しここに決着はついたのだ。
「ふう、手強い相手でござった。」
その最期を見届けたヤマモトは剣を納め額を拭う。
周囲も満面の笑みだ(アリシアさんとか)。しかし忘れてはいけない。ラスボスは未だ健在だと言うことに。
「フフフ、見事だ勇者よ。まさか16将軍が敗れるとはな」
「何やつ!」
戦いが終わって一息ついたところに声をかけられ、警戒するヤマモト。
いや、だから魔王はまだ倒していないんだから気を抜くなよと言いたい。
そうそれは魔王城からこちらに向かって歩いてくる一つの影。魔王しげるであった。
◇◇◇
「いやいや、見事だよ勇者クン。レベル100台半ばと聞いていたが、まさかこれほどとは」
パチパチと手を叩きながら勇者を褒め称える魔王しげる。しかしその眼光の鋭さは一分の油断も無い。
相変わらず魔王は上半身裸でキラキラさせたマントを羽織っている。武器らしき物を持っておらず、又あの肉体と言うことは肉弾戦をするのであろうかと皆が考える。
「魔王……人類の平和のために打ち倒してくれようでござる」
対するヤマモトも剣を構え魔王を隙無く伺っている。
勇者パーティーの皆もそれぞれに武器を構える。
「フフフ、君に勝てるのかな? これでも私は――」
「吾輩には吾輩よりも高レベルな仲間達が、そして正義があるでござる。魔王ごときに負ける事は――」
「いいことを教えてやろう勇者。私にはレベル差等関係のない特殊なスキルがあるのだよ」
「何?」
訝しんだヤマモトを尻目に、魔王はその場を動こうとはしないそして、
「見せてやろう! 我がスキル【木製人】!!」
むぅん! と魔王が力むと魔王の浅黒い――否、茶色い肌はそのままに、肌質が徐々に変化していく。
ビキビキッ! という音と共に魔王の外観が硬質化するのがヤマモト達には確認できた。
「何が……」
「あれが……本来の姿?」
そうして変質した魔王は、外見や肌の色はそのままに皮膚の質感だけが変化していた。いやこの分であれば内部も変化しているであろう。
その見た目は、
「……木?」
「魔王は植物系の魔族でしたの?」
勇者とアリシアがそうもらす。そう、魔王の外観はそのままに体の構成が大きく様変わりしていた。それは岩や金属では無く木。
魔王の肌はさながら木の表皮のようになっていた。ムキムキのガタイの大きさは変わってはいないがそれでも大きく印象が違って見える。
着ていたズボンはなぜか破れ短パンのようになっている。ドラ○ンボール的無敵パンツである。マントは相変わらずだ。
「それがおぬしの正体でござるか、魔王」
ヤマモトは何か仰々しい変化が現れたと思ったら案外大したことなかったと安心していた。しかし勿論これだけでは終わらない。
「なにか勘違いしているようだな。確かに私の正体云々はそうだが、弱いとでも思っているのか?」
魔王の正体を現したせいか、先ほどとは変り少しくぐもったような声が響く。木という動かないことが前提の物がなめらかに動いて声を発している光景は少々奇妙なものがある。
「いや、魔王のレベルは300と聞いているでござる。弱いなどとは思っていないでござる。しかしそれでも吾輩達は勝つでござるよ!」
ヤマモトは油断など微塵も感じさせぬ視線で魔王を睨む。戦闘態勢も全く変化が無く魔王に対して隙など見せないという構えだ。
「フン! 先ほども言ったがこの私にレベル差など何の意味も無いのだよ。見せてやろう、魔王の力という物を!」
「皆、来るでござる!」
魔王がファイティングポーズをとると同時に、ヤマモト達も体に力を入れ、どのような攻撃が来ても動けるように準備をする。
「魔王の力に震えるがよい! 【eco光】ッ!!」
魔王が技名を叫んだ瞬間、その姿がかき消えた。
そして轟音。
そこにいたのは、一瞬にして距離を詰めた魔王、よろけるヤマモト、そして吹き飛ばされるノワールであった。