139 激戦
もう何体目だろうか。突進してきたオーガっぽい魔物を切り捨てる。たまに虫みたいな見た目のヤツがいて戦意が大きくそがれる。そういったヤツは、腰に備えた銃を使用し遠距離から仕留める。大体頭を撃てば死ぬ。虫っぽいのでなかなかにしぶといのだが。
私ももっと目立ちたい。でも勇者より目立ったら不味い。
「キリがありませんわ!」
「勇者様、ジリ貧になるのは愚策です! 大技で一気に決めてはいかがです!?」
ヤマモトと一緒に最前列にいるアリシアさんとカーマインさんがそう叫ぶ。
「分かったでござる! はぁぁぁ! くらうでござる! サンシャインブレードォォッ!!」
ヤマモトが剣を上段に構え為を作ると、刀身が光り輝き、その輝きが一本の大きな剣となる。それを一気に振り下ろすヤマモト。
ドオォォォォンン!!
30m以上ある光の剣が振り下ろされたエネルギーを解放する。地面にぶつかったときに一気に周囲の魔物と土砂を巻き込み吹き飛ばす。
一気にヤマモトの前方が開けた。
しかしそこへと空から降りてくる影がある。
ズズンッ!! と土煙を上げ着地したそれは人間タイプのようだ。空を飛べるようには見えないのでおそらくジャンプしてきたのだろう。
それは全長3m越えでオークをさらにデブらせたような外見をしていた。
「グフフ、さすがは勇者だ。なかなかやるようだな。しかしこのファットマン様が来たからにはお前達もここまでだ。勇者はぶち殺して。女どもは俺様のおもちゃにしてやろう!!」
にやけ面で上から目線で語るファットマンなる者。〈鑑定眼〉で見ると魔王軍16将軍でオークロードと言う種族らしいのだが、レベルが160もある。ヤマモトと張り合えるレベルだ。ヤマモト以外とは……まあいいだろう。
「フフフ、ファットマン、早まるのはおやめなさい」
「魔王様は我々が勇者を討取ることを望んでおられる。お前だけ前に出るな。」
「私は研究専門なのですがねぇ」
その後、次々にヤマモトの前に降ってくる魔族達。全員魔王軍16将軍のようだ。
ドシンッ! ドシンッ! と全員、あの魔王城からここまでジャンプしてきたようだ。
全員――10人だが――が並ぶとなるほど強者感が出ている。
ただしレベルは低いと40台、高くても200に届いていない。ちなみに40台というのはさっき研究専門とか言っていたヤツだ。グロロバーとか言う名前だ。……どこかで聞いた名前だな。どこだったっけ?
ところで、こいつらは何を根拠にこんな強気発言をしているのだろうか?
「てめぇのことは部下から聞いているぜ。未だレベル150ぐらいなんだってな」
「1対1ならこの中でも相手になるのはファットマンを含め数名でしょうが16将軍全員を相手にしてどの程度抵抗できますかな?」
おっと、ちゃんと情報収集しているヤツがいたらしい。勇者のレベルがある程度把握されている。勇者だけだが。
あとここに居る10人が16将軍全員と言っていた。つまりこいつらを倒せば後は魔王のみである。
アリシアさん達や私達がパーティーを組む前のヤマモトが何人か16将軍を相手にしているが6人は討伐済みだったようだ。
「16将軍……これは手強いでござるな」
ヤマモトがゴクリと喉を鳴らす。
「そうですか?」
アリシアさんが小首をかしげるが、そんなものヤマモトと16将軍のシリアス空間には効かなかった。
「いくでござるぅ!!」
「かかってこいやぁ!!」
今、ヤマモトと16将軍の熾烈な戦いが始まる。
「はあぁぁぁ!!」
「どぉりゃぁぁぁ!!」
「うおぉぉぉぉ!!」
「むぅぅぅん!!」
……もう誰が誰か分からんな。
とりあえずヤマモトは分かるが、そのヤマモトと戦っている16将軍が7人。後方で3人が見物中である。いや後方支援の機会をうかがっているのだろうか。それとも回復職なのだろうか。
オークロードやらロックゴーレム等人型に近いのは攻撃の仕方など人間と似通っているが、ローパーぽい触手ウネウネのヤツとか直立歩行する魚っぽい魔法主体の攻撃をしているヤツもいるし。
「援護しますよ!」
突如、グロロバートか言う魔族が腰に差したポーション瓶のような物を投げた。それらはヤマモトに直撃はせずに周りに落ちた。
割れたポーション瓶からは液体がうごめき人型を形作る。数は4体。おっと、16将軍の援軍っぽい。鑑定するとジェミニスライムと出た。レベルは80と高め。
「……ん? ジェミニスライム? なあ、どこかで聞いたこと無いか?」
近くに来ていた、ソレイユちゃんに声をかけるとすぐに答えが返ってきた。
「アリシア様の婚約者を殺したのがそんな魔物だったかと」
「あ、あー! アイツか! と言うとグロロバーって言うと……」
なる、以前第二王子が殺されたり王城がパーティー中に襲われたりしたことがあったがアイツか! そうか、あいつかー……
「ちょっと行ってくる。」
「あ、ノワール様どちらへ!?」
シュンッ! と忍者のごとき素早さと静粛さを持って一気に移動する。
「さあ、我が優秀な下部達よ。勇者を倒……ヒッ!――
「悪いな。とりあえずお前は退場な。」
一瞬で16将軍の最後尾に居たグロロバーよりも後ろに回り込み首元に剣を当てる。それに気付いたようで一瞬短い悲鳴を上げるが遅い。一気に剣を引き首を断った。
そして落ちた首をアイテムボックスに収納する
よーしよし、これで第二王子の仇討ちは完了だ。親である王様からご褒美――お金がいいな――が貰えるかも知れない。
ちなみに勇者及び戦闘中の16将軍は誰一人として私の存在に気付いていない。まあ後ろに目がついているヤツはいないからな。
ところで、ヤマモトが一進一退の攻防を繰り広げている最中、アリシアさん達はどう加勢した物か悩んでいるようだ。とりあえずヤマモトの見せ場をとらないように周りに居るジェミニスライムを相手取っている。レベル差から余裕かと思われたが、どうもスライムという物理攻撃の通りにくい不定形生物相手に少々手間取っている。私は以前スライムを倒しているところを見ているので核を狙えばいいと分かっているのだが。……まあコアがどこにあるのかは知らないが。
「ダンジョンキーック!!」
「ヘブラッシャーァァ!!」
空気を読まないダン子はヤマモトと対峙中の16将軍エンペラーコボルトとか言う犬面のヤツを蹴り飛ばしているが。そして蹴り飛ばされた犬面だが、何事も無かったかのように起き上がった。
あーそういえば、ダン子、高度な魔法が使えるから勘違いしがちだが、レベル低かったものな。単純に威力不足だろう。
「てめぇ、よくもやりやがったな!」
蹴られた犬面だが首をコキコキさせながらダン子の方を睨み付けながら、ボクシングのような構えをする。武器を持っていないので素手で格闘するのだろう。
「くらえっ!! 栄光の右フック!!――「隙ありぃぃぃ!!」――グワァァァ!!」
ダン子に注意を向けたところを、後ろからヤマモトに斬られるという失態を犯していた。
「ナイスアシストである、ダン子殿!」
「うむ!」
ヤマモトとダン子がサムズアップし合っている。何か通じあっているようだ。
そんな戦闘シーンであるが側面から攻撃しようと回り込んでいる敵が居た。ロックゴーレムという岩で出来た人形である。ゴーレムというと魔法で作られ魔法使いが操る物なのだが、どういうわけかこの16将軍所属のロックゴーレムには自我があるようで、攻撃に最適な位置取りをして――
「むぅん!」
がしっ!! とそれに気付いたフェン子とパワー比べをすることになってしまっていた。
そして――
「ぐぉぉぉ!!」
腕を握りつぶされていた。……フェン子のレベル275だよ? 100をやっと超えた程度の相手が敵うわけが無いのである。
フェン子はそのまま握っていた左腕を引き相手の体勢を崩させると、放した右腕で二○の極みを胸部中心にたたき込む。
ゴパァァン!! と言う轟音と共に、ロックゴーレムは上半身を砂状にまで砕かれることになり、息絶えた。
息はしていなかったと思うが。
「グフフ、このファットマン様にここまで抵抗したのはお前が初めてだ!」
「吾輩はこのようなところで負けるわけにはいかないでござる。お前ごときなどすぐに倒し魔王を討つでござる!!」
ヤマモトとファットマンとやらは未だシリアス空間に居るようだ。
ちなみに周りはもう戦線がガタガタである。
「まったく不甲斐ない。ここは魔王軍一の暗殺者の私が――ムグッ――
「3匹目~♪」
スパッ! ブシュッ――!!
そんな声を発しながら後ろから口を押さえ、悲鳴を上げさせずに倒される何か喋っていたヤツ。勿論やったのは私だ。2匹目と同じように後ろから不意打ちすると面白いように簡単に討ち取れた。
アリシアさんもスライムをレベルのゴリ押しで何とか倒したようだし。カーマインさんは1体目を倒した際に核があるのを気付いていたみたいだ。
少し下がった位置からヤマモトに投擲武器を使用しようとしていたヤツはソレイユちゃんにヘッドショットを決められていた。頭から矢が5本ぐらい生えたまま倒れている。
周囲のザコ魔物達はティーアの広範囲魔法で片付けられていた。
そう、今、戦線に立ってのは勇者パーティーと敵側はファットマンだけなのである。
魔王は……未だ魔王上テラス席にて観覧中。ずいぶんとお気楽なヤツである。
魔王軍16将軍戦ほぼ終了。次はいよいよ魔王戦です。