138 こちら魔王城前 2
今、私達の目の前に魔王城がそびえ立っていた。周囲を観察すると魔物や魔族の大群が魔王城の前に布陣している。
入手した情報の通りだ。
いわゆる古い戦争――密集陣形とか言うやつ。魔物が7に地面が3で集合している魔物達。
さらに空にも埋め尽くさんばかりの飛行能力を持つ魔物が多数いる。こちらは地上ほどの数では無いがそれでも多い。
さながら魔物の万国博覧会の様相を呈している。見た目が某有名エイリアンそっくりな魔物。見た目は人間なのにしれっと混ざっているヤツ。羽も無いのに空に浮いている球体。タコ型火星人。
一匹ずつなら片手で処理できる奴らでもこれだけ集まると壮観である。
私達の側は総勢8名と少ない。それでも魔王軍に対峙する形で横に並んでいる。中央は勿論、勇者ことヤマモトである。
「フハハハ、よく来たな勇者よ! 私がこの魔王城の主、魔王“しげる”である!!」
ここから少し距離がある魔王城、その最上階付近のバルコニーに豪華な椅子を持ち出しふんぞり返っているヤツがいる。その人物が今大声――おそらく拡声の魔法――で私達に話しかけてくる。
魔王らしくどっしりと構えている用で片手をついて頬に当てている。
外見的特徴として、浅黒い肌に2mを超えるかという身長。筋肉は発達しておりボディービルダーのようだ。だが、言ってしまえばそれだけで、どちらかと言えば人間のような見た目である。
発達した肉体を見せつけるかのように上半身裸なのにマントを羽織っている上に髪型はアフロ。ズボンとマントの至る所にスパンコールがついている。一昔前の黒人ダンサーのようだ。
その魔王の座っている豪華な椅子の周りには何人かの人間型魔族の姿が見える。アレは侍従だろうか? それとも魔王軍16将軍というのであろうか?
ちょっと〈鑑定眼〉を使ってみよう。
少し遠いな……ムムム……
真ん中の椅子に座っているのは魔王で間違いないようだ。レベルは311となかなかの強者。ただ名前が“しげる”となっている。日本人かとも思ったが見た目が日本人っぽくないし名字が無いので偶然だろう。もしかしたら『転生』と言う可能性もあるがそこまで考え出すとキリが無い。
そしてその魔王の両脇を固める10人だが予想通り魔王軍16将軍だった。
あの魔王城のバルコニーに魔王側の主戦力が集結している事になる。
「吾輩は勇者ヤマモトである! 魔王よ! 人間の敵よ! 今こそ吾輩と仲間達がその悪事を打ち砕こう! 世界の平和のために! 人類の平穏のために! 我が友が、愛する者が笑って暮らせるように! この場で恐怖に終止符を打つのだ!!」
ヤマモトの人間側の宣戦布告が魔王軍そして魔王城に響く。ヤマモトは魔剣を掲げ魔王を差し高らかに宣言する。
私達……特にアリシアさん達の士気が高まる。ダン子も暴れたくてウズウズしているようだ。
その勇者の声に応えるように、魔王はこちらを見下ろし、そして自軍に視線を移しながら言葉を紡いでいく。
「皆の物、機は熟した! 今こそそこにいる勇者を打ち倒し、人間共を駆逐するのだ!!」
「「「オォォォォ!!!!」」」
魔物から鬨の声が上がる。
そうして天地を埋め尽くさんばかりの魔王軍が進軍を開始する。
「皆、行くでござる!!」
ヤマモトも私達に声をかけ、臨戦態勢に入る。
今更なんだが、ヤマモト君未だにレベル100代半ばである。魔王軍16将軍はともかく魔王は厳しいのでは無いだろうか。
私だけ何だかずれた考えの元、今、戦いの火蓋が切って落とされた。
魔物の集団と言っても最前列は、重量級の魔物の軍団がまず突っ込んでくる。人間で言う所の騎兵である。
魔王軍側の布陣としては地上は最前列に大型で重量のある魔物、中央にオークなど汎用性の高そうな魔物、後列は様々なレベルの高い魔物がまとまっている。そうして最後尾――司令部は魔王城である。
空は……メチャクチャなので割愛する。
あまり統率はとれているのか分からない。とにかく突進してくるからだ。
さて私達の方であるが最前列はヤマモト、ソレイユちゃん、アリシアさん、カーマインさんである。ダン子とティーアは後方支援。私、フェン子は遊撃である。
魔王軍はともかく、後方の魔王と16将軍に当たる際には孤立することを避けるように事前に通達済みである。
「セイクリッドスラッシュ!」
ヤマモトが剣を振るうと斬撃が飛翔し最前列の魔物を切り裂く。
魔王軍と威勢のいい名前がついているものの所詮はちょっと強いだけの魔物だ。レベル100代半ばのヤマモトでも十分に相手が務まる。
「はぁぁっ!」
「たぁっ!」
両脇のアリシアさんやカーマインさんも負けては居ない。と言うかレベルでは勝っている。
アリシアさんはレイピアを目にも止まらぬスピードで振るい、魔物の大軍を端から細切れにしていく。
カーマインさんの振るうハルバードは大型の魔物も一刀のもとに斬り伏せる。
その後ろから、素早い連射で魔物を射貫くソレイユちゃん。矢についてはここに来るまでにかなりの量を生産していたので弾切れになることは無いと思うが。もしなってもソレイユちゃんは片手槍もちゃんと携帯している。
「行くでござる!」
そう言って走り出すヤマモト。しかしそれを妨害する者が現れた。飛行能力を持つ魔物である。
私達の中で空を飛べるのはティーアだけである。まあ言ってしまえばティーア一人でも対処は可能であろうが何せ数が数である。
と言うわけで、後方から魔法の対空砲火で地道に削って言っている最中であるのだが、どうも間に合わなかったらしい。
「くっ! このっ!」
上空から一撃離脱で繰り出される攻撃。ハーピーなど小柄な魔物の攻撃ならばまだ捌きようはあるし、カウンターで一撃を入れているのだが、ワイバーンなど大型の魔物からの一撃などは苦戦する。上から重量を乗せた攻撃はなかなかに辛く、踏ん張る方向を間違えると重量差により簡単に吹き飛ばされてしまう。今のところミスは無いようだが、いつ集中が途切れるか分からない。
私? 勿論働いていますよ?
◇◇◇
「フフフ、勇者も焦っておるわ。このまま攻撃を続行しろ。アレさえ倒してしまえば魔族に敵はいない。」
魔王は、眼下の魔王軍の戦いを見て勝機を見いだす。確かに彼等勇者達は強いが数の暴力の前に崩壊も時間の問題だろうと考えている魔王。
「お前達もこのままでは暇だろう? 出撃して削ってこい。」
「「「はっ!」」」
両脇で控えていた魔王軍16将軍は魔王の言葉により一人また一人と前線へと出撃していった。
◇◇◇
「スペ○ウムビーム!」
ダン子のクロスさせた腕から黄金色の魔法光線が発射され空の魔物を次々となぎ払っていく。
「なかなか減らないわねぇ。【榴散弾・煉獄】」
ティーアの周りに発生した多数の光弾が空に向かって放たれる。数が多すぎるため全く躱すことが出来ず多数の魔物がズタズタに引き裂かれ落ちていく。
「くっ! これでは魔王の元にたどり着く前にバテてしまうでござる」
もう何匹目か分からない、魔物を剣で切り捨てるヤマモト。
既に彼の周りは魔物の死体で埋め尽くされようとしていた。
ようやく魔王様登場!
アリシア:Lv355
魔王:Lv311 ← ココ
ティーア:Lv305
カーマイン:Lv290
フェン子:Lv275
ソレイユ:Lv220
ヤマモト:Lv146
ダン子:Lv10ぐらい?