134 再会
平成には間に合わなかったじぇ。令和もよろしくお願いします。
「おーほっほほ!! 遅かったですわね!」
「お久しぶりでございます。」
「…………なぜここに?」
あの後、アガバンサスの城門をレベルにモノを言わせた腕力でこじ開け中に入ると、予想通りの人物が二人いた。周囲には血しぶきと臓物が飛び散っているが魔物によって血液の色が違うらしく、ペンキをぶちまけたみたいにカラフルな風景となってしまっていた。
予想外だったのは装備品だろうか。
黄金の鎧に黄金の縦ロール。紅い髪に紅の大型武器と鎧。めっちゃ格好いいやン。
アリシアさんなんて髪のボリュームと相まって黄金勇者のスーパーモードみたいになっている。覚醒後のモードを既に手に入れてしまっている。
「久しぶりねぇ」
「お久しぶりです。」
「ピカピカで格好いいのう。そっちも紅くて格好いいのう」
「ど、どちら様でござるか?」
皆、久しぶりの再会で気軽に挨拶しているが、一人だけ混乱している。ヤマモトである。ヤマモトはこの二人と面識は無かったからな。私にこそっと聞いてくる。
「まあ、そちらが勇者様ですわね! お初にお目にかかります。私、ここエドクス王国にて子爵の位にあります、アリシア・ショコラ・メープルローズと申します。お見知りおきを。」
「初めまして、カーマイン・レッドアップルと申します。」
ヤマモトに目を留めたアリシアさん達がこちらに近づいてきてヤマモトに自己紹介をしている。差し出された手をぎこちない様子でヤマモトが取っている。
カーマインさんの方も自己紹介をしたのだがどうやら家名を付けたらしい。レッドアップル男爵と言うことになる。
「おお、ご丁寧に。吾輩、勇者を務めております山本圭太郎と申すもの。よろしくお願いいたす。」
「それで、2人はなぜここにいるんだ?」
握手の手が離れた後、アリシアさんに聞いてみる。アリシアさん達は高レベル者であるが、国の重鎮の娘であると言う事などにより勇者パーティーや魔物討伐には参加しなかった。カーマインさんの方はアリシアさんを補佐するために同じく残っていた。
確か私達が旅立った後、彼女たちは与えられた領地に向かいそこの統治などを行うと人づてに聞いた。
「あら、冷たいですわね。せっかくこの私が加勢に来てあげたというのに。」
「逃げてきたのですよ」
「ちょっと、カーマイン!」
胸を張りながらアリシアさんは加勢に来たと言うが、その後のカーマインさんの言葉にアリシアさんが慌て出す。
「逃げてきた?」
首をかしげる。彼女たちが逃げ出すようなことがあったのだろうか。
「実は――
カーマインさんが言うには、聞いていたとおりあの後アリシアさんは国から与えられた領地に行ったらしい。ちなみにカーマインさんは男爵位を得たが元使用人であるためアリシアさんの補佐として、書類上はアリシア子爵、カーマイン男爵の共同運営という珍しい形式らしいが、まあとにかく両名は領地に向かった。
与えられたのは特に特徴も無い領地。比較的小さめだが豊かでも貧しくもなくと言ったところだそうだ。といってもその土地は別に彼女たちが来た際にいきなり出来たわけではなく古くから存在しており、勿論行政機関や文官も以前から存在する。
そして云々かんぬん……まあトップが変わったからと言って彼等の生活が変わるわけでもないし、仕事がなくなったりするわけでもなく……普通に運営が続いていった。さてそんな領地であるが、アリシアさん達の仕事はというと、トップとして書類の最終決済だけであった。来る日も来る日も書類に目を通して判を押す日々。
まあ、良い意味でアクティブなアリシアさんが耐えられるわけもなく、数日で決済判を代官に渡して逃亡した。
「私にこんな地味な作業は似合いませんわ!」とか言いながら、「そうだ! 魔王討伐に参加しよう!」とやってきたそうだ。
まあ分からなくもない。デスクワークは腰がつらいと言うし、体を動かしていた方が良いこともあるよね。
特にアリシアさんなど確か16歳だったはずだ。そんな青春真っ只中の時期に書類仕事は確かに嫌かもしれない。私が16歳の時は高校時代……なにやってたっけ? なにかこちらで過ごすことが多くなり思い出も増えていったので、相対的に前世の記憶が薄れていっているような気がするな。高校時代……うーん高校に通っていた? ……当たり前だ。
特にこれといった事件もなく普通に過ごしていたな。強烈な出来事でもないとなかなか思い出せない……小学生時代に先生をお母さんと間違えて呼んだのは思い出せるのに……
ま、いいや。
「領地に帰らなくても良いのか?」
「大丈夫ですわ!」
「まあ、特にこれといった問題も無い領地ですので代官がいればある程度回るでしょう。」
大丈夫らしいな。
「そういったものなのか。まあ私は討伐参加は歓迎するが……ヤマモトはどうだ?」
そう言ってヤマモトの方を向く。彼は私達が親しく話していたところを見ていたのだろう、先ほどの少し距離を置いた態度では無くなっていた。
「勿論大賛成でござるよ! 是非とも吾輩と共に世界を平和に導こうではござらんか! (グフフ、金髪お嬢様と言えばツンデレと相場が決まっているでござる。それに赤髪の人は年上スレンダーお姉さん系でござるな。ティーア殿とはまた違った魅力があるでござる)」
「まあ、勇者様からそう言って頂けると私達も気合いが入るというものです!」
「よろしくお願いいたします。ヤマモト様。」
ヤマモトが歓迎の意思を示すと、アリシアさんがぱぁっと明るくなった。非常に嬉しそうだ。ヤマモトは決してイケメンではない。アリシアさんの好みとは違うと思うのだが……勇者という肩書きのせいだろうか?
この世界の勇者というものはおとぎ話の英雄のようなものと違い実在する人間だ。勇者が魔王を倒すというのは前世では創作話であるが、ここでは実話であり、それ故、尊敬や憧れと言った物がより具体的で身近に存在する。
まあ、そんなこんなで魔王討伐に2名様が追加された。計8人パーティーだ。少し多いような気もする。前衛7人(ヤマモト、私、フェン子、ダン子、アリシア、カーマイン、ソレイユ)、後衛2人(ティーア、ダン子)、回復1人(私)(重複有)と前衛が過剰気味なパーティーである。
拳銃も開発したしライフルとか作って後衛に移ってみるか? とも思ったがとりあえず保留である。
今から移動するとどこで夜になるのか分からないので、この都市で1泊することにする。大きな要塞都市なのだが人がいないため何というか不気味な感じがする。占領されたのはつい最近なのでゴーストタウンと言うほどでもない。
あと、アリシアさん達が暴れまくった結果至る所に魔物の死体が散乱している。
「今日はここで一泊するのが良いだろう」
「そうでござるな。宿屋でもあれば良いのでござるが……人がいないから営業してはいないでござろうが」
「それならあそこに見える城塞が良いですわ。あそこなら高級士官用の部屋もあるでしょう。」
アリシアさんがそう提案しながらこの都市の魔族領側にある大きな城塞を指さす。
別に反対意見もなく、そちらに向かい一泊することになった。
城塞に到着したのだが、このあたりは魔物の死体はなかった。アリシアさんによれば、まず人間領側の城壁にいた魔王軍16将軍を倒した後は、自分たちの方に魔物が寄ってきたため戦闘は基本的に人間領側(街の南側)で行われたため魔族領側(北側)の建築物などは破損や死体がない。ただし、どうやら建物類を魔族も使用していたらしく、かなり散らかされている。
その中でなるべく使用されなかったであろう部屋を見つけて今夜の寝床とした。
魔族支配地域と言う事で不寝番を誰にするかと言うことであったが、
「吾輩がやるでござる。さすがに女性にやらせるわけにはいかないでござる。」
「あら、勇者様は私達の能力をお疑いですの?」
「いや、決してそういうわけではないでござる。」
「フフ、分かっております。しかし私達は勇者様のお力になれればと馳せ参じたのです。この程度何のことはありませんわ」
ヤマモトは格好を付けて自分がやると言ったが、さすがに1人で徹夜はマズいだろう。翌日の昼間に力が出なくなる。そういったことで、話し合いの結果交代でやることになった。
一応ヤマモトを立てて、一番厳しい時間帯を任せることになった。
そうしてそれぞれに割り当てた部屋に向かう。さすが大きな要塞だけあって個室が沢山あった。とはいえ、あまりバラバラになると困るので隣り合った部屋に全員がいるのだが。
そして不寝番の引き継ぎの時間になればそれぞれの部屋の扉をノックして起こすという形だ。
今日はアリシアさん達がアガバンサス内の敵を全て片付けてしまっていたので、少し肩すかしを食らった感じだ。
さらに今後はパーティーに加わると言うことなので、1人あたりの仕事が減ることになる。それ自体は喜ばしいことであるが、意気込んで出発した手前少し物足りなさを感じる。
個室に入った私はそのままベッドに横になった。なお私の不寝番は最後だ。じゃんけんで決めた。
その時に、この世界にもじゃんけんがあるんだなと思ったが深く考えないようにした。「最初はグー」から始まって長い前置きがあったので誰か過去の勇者(異世界人)が広めたのだろう。
…………
……
うーん、眠れん。
このアガバンサスで一戦あると思って気を張っていたからだろうか、目が冴えている。
こういった場合は無理に寝ようとしても眠れないものなので、ベッドから起き上がり【ライト】の魔法を唱える。
すぐに魔法が起動して、部屋が照らされる。部屋は1人部屋。8畳程度でベッドの他、机や椅子、クローゼットなどがある。なおクローゼット内には誰のものか分からないが軍服のような細工の施された服があった。ベッドのシーツはそのままだったのでありがたく使わせて貰っているわけだが少しカビ臭い。
アイテムボックスから持ってきた本を出してペラペラと捲る。本を読んでいたら眠くなると言う安直な考えだったのだが、どうもダメなようだ。
仕方が無いので今日は寝るのは諦めて、色々と考えてみるか。
そうして色々な事に考えを巡らせていた結果、一睡も出来なかった。
ただ、体が若いせいだろうか、徹夜をしたのに翌日に響くと言うこともなく、すこぶる健康であった。
フフフ、謎の戦士の正体はアリシアさん達だったのだ。これは読者も予想できなかったに違いない!