14 帰るまでが冒険です 1
ブクマが100超えてました。ありがとうございます。
「楽しい楽しい部位取集~」
歌でも歌わなければやってられない。
今私は、倒したゴブリン百匹超の右耳を切り取っていた。討伐証明部位になるからだ。そういや魔石も取らなくちゃな。確か心臓近くにあるんだっけか。面倒くさい。
ちなみに、倒したのはゴブリンだけだと思っていたが鑑定してみると、ボブゴブリン、ゴブリンアーチャー、ゴブリンメイジ、ゴブリンハイメイジ、ゴブリンキングというのがいた。ボブゴブリンというのはちょっと見分けがつかないが、ゴブリンアーチャーというのは弓矢を使っていたやつで、ゴブリンメイジというのは魔法を使っていたやつ、ゴブリンハイメイジは私の足に怪我を負わせたメイジより威力の高い魔法を使うやつ、ゴブリンキングは最後に出てきたデカい奴だろう。
とりあえず、討伐証明部位はすべて切り取った。魔石も取り出した。心臓に手を突っ込むというのは結構気持ち悪かったが。
全部は持てないな、というか持ちたくない。すべてアイテムボックス行きだ。あとゴブリン以外が常時討伐依頼だったか確認していない上、討伐証明部位がわからない。さらに、見た目で判別がつかないので、すべての死体をアイテムボックスに放り込んでおく。帰った後、討伐依頼が別に出ていたらそれを受けたということにしてもいいしね。
手甲も服もブーツも返り血でべちょべちょだ。血って落ちにくいと聞いたことがあるが、洗濯したら落ちるだろうか?
しかもゴブリンハイメイジの魔法によってブーツは片方、ズボンは片足のひざ下が完全に燃えてなくなってしまっている。買ったばかりなのに。
少し周囲を回ってみたら、どうやらここは廃村みたいだ。そこにゴブリンが住み着いたんだろう。村だったならと見て回っていると、井戸を見つけた。水もそれを汲むための桶もある。とりあえず桶に水を汲んだ後、裸になって体についた返り血を洗い流した。周囲に気配はないのでまあいいだろう。髪とかについた血が固まると面倒くさそうだからな。
乾くまで裸でいようかな? 人が周りにいたら痴女だな。なので、アイテムボックスからタオルを出してさっさと体を拭いてしまう。
その後、代わりの服と下着をやはりアイテムボックスから出して着て、返り血の付いた手甲と服、下着を水を張った桶に放り込んで洗った。手甲は革の表面に何かのコーティングがしてあったみたいで、洗ったら血はすぐ落ちた。ただ、服のほうは布が血をばっちり吸い込んでいて、ちゃんとは落ちなかった。ブーツは片方しかないため廃棄して、予備に買っていたもう一足を履いた。
そんなことをやっていたら、もうすでにあたりが暗くなり始めていた。
「どうしようか。今から帰ると夜中になるな。宿屋は閉まっていそうだな。いやそれ以前に街門は開いているのか? ここで野宿か?」
しかし野宿となると、不寝番とか必要になるんじゃないだろうか? 私は1人だから寝込みを襲われると対処できないんだが……そういえば一軒だけ2階建ての家があったな。
そう思い至り、2階建ての家へ向かう。
「あったあった」
壁や屋根が一部剥がれ落ちているが二階の床板はちゃんとある。まずは2階へと上がる階段を殴ったり蹴ったりして潰しておく。その後、2階へジャンプして登る。
これなら、野犬とか魔物とかが来ても問題ないだろう。念のため隅っこの屋根の残っている部分に隠れるように座る。ここなら地面からも空からも見えないだろう。
とりあえずは、もう暗くなっているし、昼食べられなかった保存食をかじる。固いし、しょっぱいがまあこんなもんだろう。食べ終わったらもう寝よう。
◇◇◇
「知らないてんじ――あ、本当に知らない天井だった。」
周囲が明るみだしている。もう朝か。
起き上がって周囲を見回す。特に昨日と変わったところはない。周囲に大型の生き物の気配もないな。血の匂いとかで肉食獣などがよってくるかもとか考えていたが来ていないようだ。
今日はもう帰るだけだ。さっさと準備してしまおう。
井戸のあったところに行き、多めに買っておいた保存食をかじりながら水で流し込む。相変わらず固くてしょっぱい。あとは昨日井戸の淵にかけておいた服と下着を回収する。血の汚れは落ちていないがちゃんと乾いていることを確認するとアイテムボックスに放り込む。この服はもう捨てないとダメかな。
「忘れ物はないな。」
というか忘れて困るものなんて財布とショートソードぐらいだろう。マントをアイテムボックスに入れたまま忘れているが。
帰りは来た時より時間的に余裕があるので歩いて帰ることにする。とりあえず方向さえ間違えなければ日暮れまでには街につくだろう。先ほど2階建ての建物でジャンプして街のある方向は確認している。着地の際、2階の床板を踏み抜いてしまったが。
特に道なき道を進んで行く。時折、木の上に登ってさらにジャンプ。街の方角を確認しているから、迷子になることはないはずだ。しかし〈脚力強化〉は役に立つ。たぶん木に登らずにジャンプしても街が見える高さまで飛び上れるんじゃないか?……やってみたら普通にできた。
さらに数時間後……というほどでもないか。何事もなくただ森の中を歩いているので退屈で仕方がなかったため盛ってしまったが1~2時間ぐらいじゃないだろうか。森の中を歩いていると、結構な数の気配があった。
すぐに木の枝にジャンプしてそのまま木の枝から枝へ飛び移り、気配のあった方向に行く。
気配のうち3つは人間のものだ。そして後の10匹は魔物だろう。となると冒険者が魔物討伐を行っているのだろうか。せっかくだから他の冒険者がどうやって魔物を狩るのか見学させてもらおう。
「ノリーカー大丈夫か!!」
「だ、大丈夫……」
「おい、デュロックまずいぞ!!」
3人の冒険者が10匹のオークに囲まれていた。あれ? これピンチってやつじゃないか?
3人の冒険者のうち1人が大けがをしている。というか右腕がちょん切れている。あとの2人も大なり小なり怪我をしていて、さらにそれを取り囲むオークが10匹。あと、オークの死体が4体。これは助けに入った方がいいんだろうか? しかし、勝手にやってあとで獲物を取られたといわれても嫌だな。
そんなことを考えているうちに、冒険者の1人が剣でオークを切り裂いた。しかしすぐ横にいたオークに剣を叩き落された。時間はないな。
「大丈夫か!!」
大声で叫ぶ。
「誰かいるのか!助けてくれ!!」
返事があった。助けて問題ないようだ。ただ、声を出したことでオークがこちらに気付いた。
すぐに木から飛び、一気に1匹のオークの上に飛び降りると、肩に足を置きもう片方の足で頭を蹴った。
グキッ!
蹴られたオークは頭が180度回転した後倒れた。
その後、地面に降りるとすぐにショートソードを抜いて隣にいたオークの首を切った。
残り7匹がこちらを向く。遅いな。一気に2匹の間を駆け抜けると2個の首が宙を舞った。何匹かがその舞っている首のほうに向いていたのでそっちを優先した。蹴りで足を砕き膝をついたところを突き刺した。その後蹴りを入れて反対側に倒すとその後ろにいた奴に剣を投げつけるとともに駆け出す。目に突き刺さった剣をすぐに抜き取るとさらに反対方向にいる残り3匹になった時点でもう相手側はオロオロしてどこを見ているのかわからない奴もいたので非常に簡単だった。スピードに物を言わせて相手の死角から首をはねていく。ほどなくして9匹の死体ができた。3人組が倒した分と合わせて14匹だ。
その死体の真ん中あたりでは、3人の冒険者がポカンとした目でこっちを見ていた。
「大丈夫か?」
「「「…………」」」
「大丈夫か!?」
呆けていたので、ちょっと強めに声をかけた。
「あ、ああ、大丈夫だ。」
「……本当か?」
え? お前ら怪我してんじゃん。しかも1人は片腕切断の大怪我だ。まだ頭が働いていないのか?
「え、あ、いや、怪我人がいる。」
「そうか、見せてもらえるか」
「は? 見せるってどうかできるのか?」
「ああ、回復魔法が使える。」
「おお、それは助かる。おい! ノリーカー!」
「あ、ああ……」
右腕がない奴が腕を抑えながらこっちにくる。失血死とかしていなかったな。よかった。
右腕を向けてきたので回復魔法をかけてやるんだが、切断面がグロい。刃物で切断したみたいではなく、のこぎりで切断したようにぐちゃぐちゃだ。
ミドルヒールでは駄目だな。なら、
「ハイヒール」
すると右腕の傷口がぽわぁんと光りながら、出血が止まり、そして傷口がふさがって――ってふさがっちゃダメじゃん。
「エクスヒール!」
もう一段階強い奴をかけてやった。すると、傷口から右腕がにょきにょきと生えてきた。骨が生えて、筋肉が生えて、皮膚が生えてくる。
うわっ気持ち悪っ!
「なっ! す、すげぇ」
「おいおい、なんだよこれ」
「お、おれの腕がも、元に戻った!!」
ノリーカーと呼ばれた男の腕が完全に元に戻った。
「ふむ、あとは――エリアヒール」
他の2人も重傷ではないが怪我をしていたので範囲回復魔法で治してやる。
「お、おれの怪我も」
「すげぇ」
「ふむ、これでもう怪我はないな。」
「え、ああ」
「じゃあ私はこれで」
そう言って去ろうとする。オークはあいつらの手柄にしてしまっていいだろう……そういえばせっかく着替えたのにまたオークの返り血で汚れてしまった。くそぅ、あいつら今度見かけたら服代請求してやろうか。
「「ま、待ってくれ!」」
「待ってください姉さん!」
姉さん? 私はまだ18歳だ。
一応、今回出てきた冒険者3人組の自己紹介は次回にあります。