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130 転生者達

 部屋に皆が戻ってきて、そろそろ夕食に行こうということになった。どうやらかなり没頭していたらしく、気付けば辺りはかなり暗くなっていた。



 1階の食堂兼酒場は既にかなり賑わっており、冒険者達の他愛ない話が聞こえてくる。


「おいおい聞いたかよ、あの悪徳金貸しのウイスキーが捕まったらしいぞ」

「へぇ、いつか捕まると思っていたが……証拠でも出たのか」

「いや、どうやら本人が自首してきたらしい。」

「はぁ? あの悪人が? 信じらんねぇ」

「何でも爽やかな顔で「私が間違っていました。これからの人生は罪と向かい合って生きていきます」とか言ったそうだ。隠し金庫の場所や裏組織との繋がりなんかも全部ゲロったらしい」

「マジかよ」


 酒に酔った者がすでに何人かいて大声の話し声が聞こえてくる。


 ちなみに宿泊客は食堂の一角に専用の席が用意されており、そこに案内される。

 オーダーを取りに来たのは宿屋の受付をやっていたアフロのオッサンだった。


「おお、トム。おぬし給仕のまねごとなどやっているのか?」

「従業員、今日病気で休んだネ。仕方なくミーも手伝いよ」


 何やらダン子が気安くオッサンと会話している。いつの間に仲良くなったのだろう。

 夕食は少し固めのパンにイノシシに似た動物のステーキと具沢山のシチューだった。非常に美味しかった。さすが勇者の仲間だけはある。今後もこのレベルの宿屋に泊まりたいものだ。

 夕食で腹一杯になったのでベッドへダーイブ! ……では無くてこの後は勇者ことヤマモトと話し合いがあったのだ。



 さて、そろそろ良いだろうか。本を読んで少し時間を潰してから、ヤマモト君の部屋へと行こう。


 時間は午後8時ぐらいだと思うが、この世界に電気など無いため基本的に皆、早寝早起きである。ここは、そこそこ高級な宿なので取り付けられているランプの魔導具により部屋は明るいがそれでも夜遅いと言われるような時間帯である。


「ちょっと出てくる」


 私はそう言い残し、女子部屋を出てヤマモトの元に向かおうとすると


「あら、こんな時間に出ていくなんて夜這いかしらぁ」

「なに、おぬしあんなデブが好みなのか?」


 あらぬ疑いをかけられてしまった。仕方が無いのでヤマモト君をこちらに呼んで話をすることにした。この部屋は4人部屋だが6人いても問題ないぐらい十分広い。

 魔王討伐に関する打ち合わせと少し前世の世間話をするだけで、別に聞かれて困ることなど無いはずだし。


 ヤマモト君の部屋をノックすると「ひゃい!」という奇妙な返事が返ってきた。その後すぐに扉から出てきたヤマモトだったがなぜか少しズレたおしゃれな服を着ていた。


「悪いが、私達の部屋に来てくれないか? そっちでしよう」

「…………え! い、いいい、いきなり5人でござるか!? ど、ど、童貞にはハードルが高いでござるよ!」


 妙にどもって何かを言っているのだが、さっさと来いと促す。


「お、お邪魔しますでござる。」


 私の後を着いてきたヤマモトであるが、なぜか縮こまっていた。


「とりあえずそこの椅子に座って」

「あ、はいでござる」


 備え付けの椅子が空いていたためそちらに座らせる。ティーア達はベッドの方に座っている。ダン子など既に寝転んで首だけこちらに向けていた。皆こちらをガン見しているがそんなに面白い話はしないのだが……

 ヤマモトはこちらを向いている椅子に座り手を膝の上にのせ非常に緊張しているようだ。なぜ緊張する必要が……もしかして対人恐怖症など何か理由があるのだろうか。もしそうなら悪いことをしたな。


「さて、勇者殿をここに呼んだのは――」

「わ、わわ、分かっておるでござる。風呂には入ったでござる。歯も磨いたでござる」

「――? 何を言っているのか分からんが、魔王討伐の件に関する簡単な打ち合わせと、まあ前世の世間話などしたいと思っているんだが」

「勿論分かってましたが、なにか?」


 なぜか挙動不審だったヤマモトが急に真顔になり標準語で話し始めた件。


 …………


 そうか、忘れてしまいがちだが、男にとって女の子の部屋というのは一種の聖域だもんな。ヤマモトもラッキースケベイベント的なものを期待していたのかも知れない。


 俺も男だったし分かるよ……分かるか? うーん、この体になってからわかりにくくなったのかも知れない。


「さて、まずは魔王討伐の件だが、勇者殿はレベル100台半ばと聞くが?」

「あ、はい、現在レベル146でござる。……あ、ヤマモトでいいでござるよ。何なら圭太郎でもいいでござる。」


 一応、ヤマモトがこのパーティーのリーダーなのだが、妙に萎縮してしまっている。

男1人に女5人。端から見ればハーレムっぽいけど、当事者になると非常に気まずいと言うか居づらいと言うか。


「とりあえず私達はダン子を除くと一番低いソレイユちゃんでレベル220、ティーアがレベル305だったかな。後、先代の魔王がレベル200台だったらしいので、ヤマモトは魔王に挑む前に魔王16将軍? とか言うのがレベルが高いらしいのでレベリングしてレベル250程度にしておいた方が良いだろうと思うのだが」

「そ、そうなんでござるか……吾輩が一番低いのでござるか」

「いや、一番低いのはダン子のレベル1なんだが」


 ヤマモトは自分がレベルが一番低いと聞き、落ち込んでいる。一応レベル146でも人間にしてみれば非常に高いので、これから上げていけば問題ないと思うのだが、どうだろうか。


「ヤマモトは魔王について何か情報はあるのか?」

「おそらくそちらと同じ程度でござる。魔王城の位置も過去情報からの推測でござるし……。あ、今向かっている城塞都市には16将軍のうち2人がいるそうでござる。」

「うーん、じゃあレベリングしつつ地道に魔族を倒しながら北に向かっていくしか無いのかな」


 魔王軍16将軍の何人かはヤマモトが倒したらしいのだが、肝心の魔王の詳細や魔王軍の配置など、不明なんだよなぁ。一応以前の魔王の討伐記録などからある程度推測可能とは言っても、今回も絶対同じとは限らない。

 基本は行き当たりばったりになりそうである。


 その後、話をするも魔王軍に関しては特に情報の齟齬は見つからなかった。

 ヤマモトの以前のパーティーが寿解散したことも聞いていたし……しかもヤマモトが既婚者を戦場へ連れて行けないと猛プッシュしたらしい。イイハナシダナー



「さてと、とりあえず今後の方針など決まったわけだが、あとヤマモトとは個人的に話をしてみたくて今日尋ねようと思ったんだ」

「何でござろうか?」

「ヤマモトの本名は山本圭太郎で良いのか? 外見は……日本にいたときと同じか? やはり死んでこちらに来たのか?」

「ん? 何で知っているんでござるか? そうでござる。山本圭太郎でござる。日本出身でござるが。」

「ああ、私も元日本人なんだ。一度日本で死んでこちらに来たんだ。転生というのか。ただこちらに来た際には18歳の狐人族にされていて……これは転生管理事務所のミスだと思うのだが。」

「あ、転生管理事務所。吾輩も行ったでござる。外見などは死んだときのまま転生させられたでござる。そのときに吾輩チートをくれるというので、剣や鎧を貰ったでござる。」

「へえ、やっぱりそうなのか。私はアイテム類は無くしたら困ると思ったので、回復魔法などの能力系にしておいたんだ。」

「そ、そうなのでござるか。……はあ、同郷の人でござったか。確かに吾輩――」


 やはりヤマモトも同じように転生管理事務所に行ったようだった。あのザマス天使に会ったのだろうか。

 あと、やはりアイテム類では無く能力を選んでいて正解だった。ヤマモトは魔王16将軍との戦闘中に貰ったチート剣を紛失したらしい……ん? 何か引っかかるな……

「――あの時は吾輩も焦ったでござる。16将軍による罠によりなんとかかんとか――」


「それで、ヤマモトは召喚されたみたいなことも言っていたようだけどあれは? 転生で良いんだよな」

「あ、そうでござる。ちょうど召喚の儀式と被っていたのでそこに転生させてくれることになったのでござる。ノワール殿はどのような転生の仕方だったのでござるか?」

「私は……湖の近くの原っぱにいたな。装備無しの状態でいきなりゴブリンとエンカウントしたぞ。」

「それは……何というか……」

「そういえば、他にも転生者っているのか? 私はヤマモト以外知らないが」

「吾輩も知らないでござる。と言うか吾輩だけだと今まで思っていたでござるが」


 この世界に来ている人が他にもいるかと思ったが、ヤマモトも知らない。しかし2人はいると言うことは3人目もいるかも知れない。



「ノワール様って勇者様と同じ街の出身なのですか?」

「街じゃ無くて国……て言うか世界? あー……過去の話とかしなかったからなぁ」

「過去の事なんてあまり気にする人はいないんじゃないかしらぁ」

「まあ、この世界じゃ学歴だの出身地だのは平民だとあまり意味ないしな」


 ヤマモトと話していたら、ソレイユちゃん達も少し話に入ってきたが、基本過去の話なんてこの世界では地球ほど重視されない。貴族だと血統とかを重視したりもするが、平民の場合そんなものに意味は無いし、そもそも出身地の村の名前など言っても「どこ?」状態だ。



 さて、魔王についてはもう良いだろうし、前世についても日本出身と言うだけで顔見知りでも無いのでそこまで話すことも無かった。

 後は……ラッキースケベイベント?


「ヤマモトは恋人や婚約者などいるのか? 一応、勇者として魔王を討つんだろ。お姫様と婚約とかそう言う報酬があるの?」

「……いや、特に聞いていないでござる。おそらく貰えるのかも知れないでござるが、詳しくは話していないでござる。」

「特定の好意を寄せる人などいるのか?」

「いや、いないでござる。」(おや? この流れはもしや……いきなり告白イベントでござるか! 高ぶってキタでござる!)

「……好みの女性などは? このパーティー内を参考にしても良いが」

「パーティーの皆が(性的に)大好きでござる!」

「そうか……」


 この辺りは聞いておかないとな。もし、お姫様と婚約しているのに他の女性との浮名など流すと勇者の名に傷が付くから、この辺りは安心か。

 それと短い付き合いのパーティーメンバーを好き(like)と言い切ってくれるとは嬉しいことである。今までの態度から見ても性格は穏やかな感じだ。


 もしかして硬派な性格やホモだったらどうしようとも思ったが、一応そうだったときにはイベントには紳士的な対応をするだろうと思い、場を和ませる程度のイベントは何か無いかと考える。


 何だろう? パンチラ……私とソレイユちゃん、フェン子はズボンの時が多い。ティーアに期待するか。でもウチにはダン子というパンモロ以上のヤツがいる。

 今もヤマモトがチラチラとダン子に視線を送っている。男色家では無いようだ。


 性欲と言えば私も元男なんだがもう遠い過去のような感じが……うーん? 性欲……あるのだろうか。男と付き合うとかはまだ考えられないな。女性相手ならどうだろうか……ティーアはまだエロい目で見れる……か? でも同室でも意識しなければ本当に気にならないしなぁ。


 とりあえず初期イベント要員は……私は、まあやっても良いが見ているのも面白そうなのでパス。ティーアは多分ヤマモトは守備範囲外。ソレイユちゃんはやらん! フェン子は既婚者。


「とりあえず今日はこの辺で……ダン子、体育座りしてくれるか? あ、ちゃうちゃう、ヤマモトの方向いてね」

「は? 何でじゃ?」


 そう言いつつも素直に体育座りしてくれるダン子。

 眼圧の上がるヤマモト、チラ見の回数がアップしている。股間辺りに集中している視線だが、足の位置が上手いことダン子の色々を隠してくれている。

 興味が無いわけでは無いな。むしろ興味津々である。ヤマモトは高校生だろうか。性欲旺盛な時期だな。


「うーん、ダン子、ヤマモトの膝の上に座ってくれる?」

「だから、何でじゃ?」

「フォォォ!」


 そう言いつつもちゃんと座ってくれるダン子。いや、ちゃんとじゃ無くて前から抱きつく感じに座っている。

 そうして奇声を上げるヤマモト。膝の上に座ったダン子に対してどうして良いのか戸惑っているヤマモト。手がウロチョロしている。

 そのまま抱きつくなりすれば良いのに。


「はい、そこでヤマモトを上目遣いで見て、ハイ! 『お兄ちゃん、お尻に何か固いのが当たっているよ』」

「お兄ちゃん、お尻に何か固いのが当たっているよ(純粋な目)…………何じゃこれは?」

「フギョォォォ!!」


 ダン子が指示通りに無垢な顔でそんなことをのたまう。正直、元を知っている身からすれば違和感しか無いのだが。何気にダン子の手が変なところに伸びている。尻の下の固いものを探っているのだろう。


「おい、ヤマモトの様子がおかしいのじゃが?」


 膝の上に座っていたダン子がそんなことを言うので近づいてみると、薬物中毒者のように挙動不審だったヤマモトはカッと目を見開き、ダン子を抱えて床に下ろすとスクリと椅子から立ち上がる。


「では皆さん、明日も早いので私はこの辺りで失礼します。」


 じゃ! と手で合図しながら妙な口調のヤマモトは部屋を出て行った。「捗るでござるぅ」とどこかから聞こえてきたような気がした。



 ヤマモトが去ったことで、今日はお開きとなった。

次回は最前線の町へ

道中とかはイベントが無い限り書く予定は無いと思う。

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