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129 ちょっと良いこと 3

フェン子視点

 私の名はフェン子。偉大なる我らが王であるノワール様より頂いた名です。我が王は配下の者に非常に寛容で有りまた慈悲の心が(以下略


 さて、私はダン子と同時期に人間社会と関わりを持ったのですが、ダン子はダンジョンコアという特殊な生い立ちであるために私以上に人間社会への適合が心配です。王もその辺りを心配しておられます。


 ここは私が頑張る場面ですね!


 勇者――ヤマモトと言う個体と一緒に魔物の王なる者(我らが王を差し置いて王を名乗るとは厚かましいですね)を倒す旅の途中に寄った街で、早速ダン子が一人で行動し始めました。これはいけないと思い私もついて行くことにします。自然界でも部下の不始末でリーダーが面倒事に巻き込まれることがあります。「記憶にございません」等と言っても許されない場合も多々あります。


 とはいえ、そこまで心配することは無いかも知れません。ダン子は肉体を手に入れたことで食を楽しんでいます。ダンジョンコアの際には食べるという行為は無理ですから。

 と思っていたらダン子は何やら他の物――孤児に興味を示し始めました。そうして彼等の住処に連れて行くようにと言っています。孤児達は最初は知らない人に云々と難色を示しましたが、食べ物を与えるとグルリと態度を変えました。

 そうして、私とダン子は孤児院と呼ばれる施設に案内されます。ここは親のいない子供達を集めて育てている人間社会最大の群れである国に所属する機関です。

 同族の子供が死ぬのを見るのはつらい物があるのでしょう。私も少しですが分かるような気がします。


 さて、そんな孤児院ですが建物の前で何やら揉めています。話し声からどうやらお金に関するトラブルのようです。あまり関わるのもどうかと思うのですが、ダン子は積極的に関わろうとしているのか目が興味津々といった感じです。


「浮気現場というヤツじゃな!」

「違うと思う」


 ダン子が持論を展開しましたがおそらく外れです。よい機会です。ここで私の理解力の良さを示しておきましょう。


「アレは多分金貸し。人間社会は貨幣経済で成り立っている。女の方がお金を借りて返せないから揉めている」


 結局、そんな私の推理も虚しく、数度のやり取りの後「お母さん」と呼ばれる人間の暴力により幕を閉じました。

 はて? 人間社会では決まり事が明文化されておりややこしいと聞いたのですが、間違いだったのでしょうか。私達と同じ実力社会(物理)なのでしょうか。


 その後、孤児院にお邪魔してスープをごちそうになりました。


 ◇◇◇


「ワシはのう、この悪事を解決しようと思うのじゃ」


 何か言い出しましたよ、このダン子が。


「と言うわけで行くぞ!」


 ダン子は、件の金貸しの居に乗り込もうとしているようです。孤児院の責任者――先ほどお母さんと呼ばれていた女性――にその位置を聞いて勇んで孤児院を出て行きました。

 なぜか私の腕がダン子により引っ張られています。


「まずは装備品集めじゃ。人間社会では見た目の威圧感なる物も重要だと聞く」


 そう言って周囲の人間に聞き込みを開始しています。確かに見た目は強さを判別するための情報の一つです。



 しかしよくよく考えてみれば悪いことでは無いのでしょう。むしろ件の金貸しはかなりあくどい輩ですので義は私達の方にありといえるかも知れません。


 やがて我が王は世界を支配するでしょうから(そんな予定は無い)、腐った芽は摘み取っておいた方がよいでしょう。

 ……ふむ、そう考えれば良い事のような気がしてきました。積極的にとは行かなくとも目に付いた悪事を潰す程度はしておいた方がよいでしょう。



 やがて通行人の評判の良い冒険者御用達のお店とやらに到着しました。外の看板には「エリーゼのお城」と書かれていますが、冒険者の武器防具からポーション類まで販売する総合店です。


「あらん? 可愛いお客様ね。エリーゼのお城へようこそ♡」


 迎えてくれたのは、ピンクのエプロンが可愛いアフロのおじさんでした。筋肉ムキムキマッチョマンですが、妙に清潔感が漂う男性です。私も爪の手入れ等は欠かしませんが、この男性の爪も綺麗です。ですが目の動きや歩き方で分かります。この男デキる!と

 向こうも同じようで即座にこちらの実力を見抜いたのでしょう。一瞬、眼光が鋭くなりました。すぐに微笑みに変わってしまいましたが、あの目の動きはよく知っています。


「ん? おぬし、確か宿屋におらんかったか?」

「あら? トムの宿屋のお客様なの? 私はね、トムの妹なの。エリーゼって言うのよ。よろしく♡」


 後、妙にくねくねしていますね。妹……男性に見えるのですが、間違いだったようです。私も人間社会に馴染んでいない証拠ですね。


「とりあえず、交渉事をしに行くので……そうじゃな、サングラスと指輪と葉巻が欲しい」

「うーん、ここは冒険者のためのお店なのだけれど、まあ良いわ、少し待っていなさい」


 そう言ってエリーゼさんは多くを聞かずに店の奥の方へと言ってしまいました。おそらく何が起きても私達ならば問題ないと感じたのでしょう。さすがは実力者です。王には到底及ばないですが、ああいった人間が普通にいるのであれば人の世も安泰でしょう。


「おぬしも何か買ったらどうじゃ?」

「私はこの牙と爪があればどうにでもなります。悪人の喉を食い千切れば良いのでしょう」

「……爪はともかく、今のおぬしに牙なんて無いじゃろ」


 ダン子と話していると、エリーゼさんが奥から戻ってきました。


「はい、これね。付けて見せて」


 持ってきてくれたのはオーソドックスなサングラスに、金メッキに綺麗な石をはめ込んだおもちゃの指輪、そして葉巻の形をした麩菓子です。


「おもちゃでも良いのよ。肝心なのは内面からにじみ出るオゥーラよっ! あと、お嬢ちゃんにタバコはまだ早いわ」

「うむ、残念じゃのう……どうじゃ? 似合うかの?」


 サングラスをかけて金の指輪をはめて麩菓子を咥えたダン子は……非常に胡散臭いですね。サングラスをずらしてパチリとウインクしています。


「グゥレィトよ。後はもっと胸を張りなさい! ハッタリは大事よ。」

「こ、こうかのう?」


 服を着ていないダン子が胸を張り格好を付けます。ジョ○ョ立ちっぽいです。


「そっちのビィーストガーゥはどうするのかしら?」

「いえ、私は今のままで問題は無いので」


 そう言ってエリーゼさんは私の方を指します。ですが私は別に武器を持って戦ったりはしませんので特に何かが必要と言うことはありません。


 「またきてねー」というエリーゼさんの見送りと共に店を後にしました。


 ◇◇◇


「ここが悪の居城か」

「なるほど、悪そうな雰囲気がしますね」


 裏路地の一角に有る建物。空気が澱んでいるような気がします。

 玄関とおぼしき扉の側にはガラの良くない男性が立っています。


「先手必勝おらぁ!」

「ほごぉぉぉ!!」


 どうやって取り次ぐのかと思っていましたが、ダン子はその見張りの男性に駆けていき正拳突きを炸裂させました。ただ、身重差の関係で拳は股間を直撃。男性は地面に沈みました。


「よし、行くぞ」


 そう言って、ダン子は正面入り口から堂々と入っていきました。


「なんだてめぇ!」

「おいおい、なんでガキがいるんだ!」

「ここがウイスキーさんの家と知ってるのか!」

「うひひ、ようじょ」


 さすがに正面玄関から入ると、様々な人間に見つかります。ちなみにウイスキーさんとはここの金貸しのトップです。


「あひぃん!」

「おひぃん!」

「ふひっぃぃ!」


 それらの並み居る敵をバッタバッタと得意技のパンチで沈めていくダン子。おや、ダン子の腕にうっすらと魔力が纏っているのが見えます。なるほど、アレはおそらくベースとなったティーア様の業の一つでしょう。サキュウバスにはエナジードレインや魅了などの能力があると言います。いくらダン子が男性の急所を狙っていても、皆が皆、一撃で沈むのは不自然だと思っていたのですが、どうやら魔法を乗せた拳を使った格闘技のような物を習得していたようです。

 倒れた男性は皆一様に白目をむき、股間にシミを作りながらビクンビクンと痙攣しています。

 なお、今のところダン子だけで対処できない相手は現れていないため私は後からついて行くだけになっています。


 そうしてあっさりと建物の最上階、一番奥まった部屋の前までやってきました。


「おそらくこの中にヤツがいる」

「なぜ分かるのですか」

「ボスである自分が一番奥におり、手下を各ポイントに配置する。ダンジョンとそう変わらん」

「なるほど」


 そうしてバンッ! と扉を勢いよく開けます。その部屋は非常にキラキラと光る置物が沢山有る目に痛い部屋でした。その奥ででっぷりとした人物が椅子に座っています。光景だけ見ればいかにもなのですが、その太った男は青い顔でガクガクと震えておりあからさまな空元気であるだろう声を発してきました。


「きっ、貴様等、何やつだ! ここをワシ、ウイスキー金融商会の店と知っての狼藉か!」

「ふっ、悪党に名乗る名前などない! 行くぞ【アルティメットダークドレイン】!」


 説明しよう。アルティメットダークドレインとは相手の精気、その中でも特に悪意を多く吸い取る物で悪人には効果てきめんの魔法である。かけられた物は精神を壊されるという恐ろしい魔法である。ちなみにサキュバスの使用する魔法の一種である。


 まあとにかく、問答無用でダン子が魔法をかけましたね。相手も自分を悪の親玉だと名乗っていたので問題ないのかも知れませんが。


 ダン子はジョ○ョ立ちで相手を指さし、サングラスをずらし視線を固定します。すると瞳がピンク色に光り魔法発動が――


 ぺろーん


「おっと、いかんいかん。前張りがはずれてしもうたわ」


 激しい動きをしたのか、ダン子の股間部のガードがはずれてしまいました。街中で裸をさらすのは痴女と言う恥ずかしい行為なのです。いそいそと直そうと姿勢を崩しています。


「ハハハ、この魔法耐性のある――――んほっぉぉぉぉん♡♡!!」


 何かを言いかけていたウイスキー氏ですが、なぜが嬌声を上げた後、泡を吹きながら、海老反りブリッジをキメて、逆さになった頭で目を見開きこちらを見ています。ビクンッビクンッ! と痙攣しながら気を失っているようです。

 後、何か股間から体液がドクドクとあふれています。


 どうしたというのでしょう?

 股間を弄っていたダン子もいきなりの事に驚いています。


「…………よしっ、悪は滅びた!」


 こうして私達の世直しの旅は幕を下ろしたのでした。

終わり♡


次で始まりの町を旅立つ予定。

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