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127 ちょっと良いこと

第三者視点

 本日の宿に到着し、夕食までの時間は自由時間となったわけだが、未だに太陽は高い位置にあり夕食まではかなりの時間があった。

 ノワール達が現在訪れている街は非常に大きな規模の栄えた街であり、街中には活気があふれていた。その街の名は「オースルト」。王国三大都市の一つである。


 街中の道路には様々な物資を運搬するための馬車がひっきりなしに走り、道路脇では店の売り子達が声を張り上げていた。

 そんな中を2人の少女が歩いている。ダン子とフェン子である。


「ここはワシん家の上と同じくらい活気があるのう。人の街というのは皆こうなのか?」

「人間社会と言う物は複雑と聞いています。このような場所ばかりでは無いでしょう」


 ダン子が社会見学という名目で外出し、それを追って出てきたフェン子である。ダン子は珍しい物見たさという目的で、フェン子は王であるノワールがダン子の行動を心配そうに見つめていたのを覚えており、ダン子のお目付役(だと自分で思っている)として出てきた。


 ソレイユとティーアも各々外出している。ヤマモトは街の公営浴場にて今晩のために念入りに体を磨いている最中である。


 さてダン子とフェン子であるが街の人々は彼女たちを(ダン子を)見ると一様にギョッとしたり二度見したりするが、基本的にスルーである。

 これほどの大都市になってくると酒に酔ったストリッパーなど日常茶飯事……とまではいかないが1日に1件ぐらいいて衛兵のお世話になることも珍しくない。


 ただ昼間からこのような格好をしている者は珍しく、


「ママー、あのお姉ちゃん、なんで裸なの?」

「しっ、見ちゃいけません」


 と、小さな子供を連れた親子が隣を通り過ぎていく。

 フェン子については獣人の血が多く出た亜人と言うことで通じるかも知れない。ただ、フェン子程度の真ん中程度の獣人というのは実は珍しく、大体はほぼ獣の見た目をした獣人か、もしくは耳や尻尾等にその名残がある亜人の2種類に分けられる。とはいえ、ここは様々な地方から人が集まるので「そういった者もいるのか」と言う認識ですんでいる。

 逆にダン子の方はサキュバスとしての外見はともかくその格好はこの街の人の目にも奇異に映る。局部シールのみというのは攻めすぎだろう。

 たまに、男の子が赤い顔をしながら前屈みで通り過ぎていくがダン子は特に気にしていない。知識はあってもそれと目の前の行動を結びつけられないからだ。


 これは人間社会の常識に関してもいえることで、ダン子、フェン子とも知識に関して言えば人間の常識と言う物は持っている。それを実行できるかどうかは別として。


 その二人であるが街を見物がてら出店を覗きながら進んでいく。そうして肉の焼ける良い匂いをさせる屋台の一つにフラフラ近づき買い食いなどをしていた。


「おう、親父ハゲ! 儲かってそうじゃの、今焼いているのを2本くれ!」

「まいど! 2本で40フラムだ。……うぉっ! 嬢ちゃん凄い格好してるな」


 買い食いなど初めてだというのに慣れた手つきで代金を渡し、肉の串焼きを受け取るダン子。

 尚、以前のダンジョンでのパーティー分断の経験からある程度の物資を各自で持ち歩くことになっている。お金についても王城で貰った資金の一部を共有財産とし、後は各自に分配している。ダン子フェン子共に腰に巻いたウエストポーチにお金の他、ギルドカードやポーション、煙粉(狼煙を上げる際に煙に色を付けたり煙を多くしたりする粉)などを入れている。


「ほれ、おぬしの分じゃ」


 2本購入したうちの一つをフェン子に渡しつつ、ダン子は串焼きにかぶりつく。


「うむ、美味いのう。この体は味覚があるからの。食事は楽しみじゃ」

「そうですね。肉の周りに付いているのも美味しいです」

「ガハハ、そうだろう。ウチは秘伝のタレを使ってるんだ。そこいらの店には負けねぇよ!」


 モッシャモッシャと頬張るように食べるダン子とハグハグと賢明に味わって食べようとしているフェン子。この辺りは食に対する認識の違いである。今まで食事が必要なかったダン子は楽しむことを主体にしており、逆に野生動物であったフェン子は食の重要性をある程度理解しているため胃にためる事を主体にしている。(トリビア)


 そうして串焼き片手に露店を眺めながら歩いて行く2人


「おう、親父デブ! そこに売っているのを2つくれ!」

「まいどアル! ハァハァ……この白いタレをかけてしゃぶりつくのが通アル」


 そうしてまた美味しそうなものを売っている屋台を見つけては、購入していくダン子

 そうやって屋台巡りをしていると、ふとダン子は視線を感じた。


「ん、なんじゃ?」


 視線を巡らせると建物と建物の間、細い路地に何人かの子供が集まってこちらを見ていた。子供達は見る限りかなり汚らしい身なりで皆痩せ細っていた。


 じ~


 しばしの間、ダン子とその子供達が見つめ合う。

 いや見つめていたのはダン子の方だけであり、子供達の視線は手元の屋台で買った串焼き他の食べ物に注がれていた。尚、フェン子の方は食べるのが遅く両手に持ちきれなくなりつつある。

 ダン子が手に――指の間に器用に挟んでいる4本の串焼きを右に動かす。

 ススッと動いていく視線

 今度は左に動かす。

 またススッと動いていく視線

 子供達の目の前で動かしていたそれをそのままパクリと自分の口に入れる。

 ああ~

 そんな声が聞こえてきそうなぐらい残念そうな顔をする子供達。でも口には出さない。


「あはは! 面白いの」


 そんな子供達を見ながら、笑うダン子。単純に相手の気持ちだとかが分かっていないのである。ダン子が目の前で美味しそうに口に運ぶ度に残念そうな顔をする子供達。

 フェン子は後ろで我関せずといった感じで佇んでいたのだがふと思い至り言葉にする。


「ダン子、アレは孤児(みなしご)では無いのですか?」

「うん、何じゃそれ?」

「親のいない子供のことです。自然界では子供だけでは生きていけませんが、人間達は他人の子供を育てる組織があると聞いたことがあります。」

「ほうほう、そんな奇特な組織が……」


 ダン子は子供達をじっと見る。汚らしい身なりが目立っていたがじっと見ていると皆が痩せ細っている――ちゃんとエネルギー摂取が出来ていないのはダン子にも理解できたようだ。

 一方のフェン子は初めから分かっていたが自身が人間では無くフェンリルであったため孤児への扱い方が違う。基本的にフェン子達は兄弟姉妹の子であっても親を亡くした子を他者が育てるということはしない。そのため基本は放置だ。


「人間のガキ共は食事でエネルギー摂取できるんじゃったな」

「大抵の生物はそうですが」


 フェン子はともかくダン子はダンジョンコアであったため食事に対する認識というものが生物とはかなり違う。こうやって言葉に出してみても今一ピンときていない様子だ。


「よし、ガキ共! ワシが食い物をおごってやろう。その代りおぬし達の住処に連れて行くのじゃ!」


 ただダン子は、先ほど言った『奇特な組織』に興味があったため、食べ物を餌にそれらを見ようと思い至った。

ダン子フェン子の番外編みたいな物です。これがなぜか続くという。

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