123 出陣
キタ! キタでござる! 吾輩の時代が!
どんなマッチョマン達と一緒に旅をするのかとヒヤヒヤしていたでござるが、なんと可愛い女の子が5人! コレは吾輩の日々の行いの良さが実を結んだのでござろう。そして、なんと気の利く王様でござろうか。エドクス王国、こちらで過ごすのもよいでござるな。
横をチラリと見ると、非常に整った顔の女子達の横顔を拝むことが出来る。
ほわぁ~なんと幸福な時間でござろう。
しかも全員タイプの違う美人さんでござるよ。いやー、コレは迷ってしまうでござるな。
いや、焦るな、吾輩でござる。これから旅を一緒にするのでござるから一緒にいる時間など腐るほどあるでござろう。
そう思いをはせるヤマモトであった。
◇◇◇
その後、王様のありがたい演説とやらを立ったまま聞かされて最後に「行くのだ、勇者達よ! 見事魔王を討ち果たしこの人間の世に平和をもたらすのだ!」と言う決めゼリフと共にバッと腕を振り上げ、それに対して私たちが「はっ、必ずや」とか言って終了となった――――はずであった。
「ところでノワール……とその仲間達よ。今からでもワシの側室に入らんかね。なあに、勇者殿には他の有力な候補……ほれ、こちらの騎士団長などどうだ? 彼は我が国でも高潔な人物で――」
「王よ! 彼女達は一流の戦士でござる! 吾輩の人を見る目は確かでござる! 吾輩の旅に無くてはならない存在になるでござろう! 吾輩は彼女たちとならば魔王討伐という偉業を成し遂げられると信じているでござる!」
「――う、うむ。そうであるか。勇者殿のお墨付きをいただけるとはありがたい。仕方ない。ノワール達よ勇者ととともに旅立ち必ずや魔王を討伐してくるのだ!」
「はっ!」
そう言って頭を下げる私たちだが、どうもこの王様は先ほどの提案を本気でしようとしていたようで非常に残念そうな顔をしていたらしい。
周囲の貴族からはちらほらと拍手が聞こえてきた。
う~ん
◇◇◇
今回の勇者パーティー出立に際しては国がバックアップをすると言うことで、馬車と各種物資類は無償で提供された。
馬車は2頭引きの幌馬車だがこれは長旅における整備性や拡張性などを考慮した結果である。別に貧相というわけでは無く構造はしっかりし、木製の車体はシンプルだが綺麗に塗装されている。馬も特殊な血統の物で通常の馬よりも速度に劣るが力が1.5倍以上あるらしい。
装備品については自前の物があるが、日用品や食料品、その他は国の支援ですでに馬車に積み込まれている。
「ではこちらが国からの支援金と手形となります」
そう言って宰相殿から金貨の入った袋を受け取る山本君――もとい勇者ヤマモト。各関所などをスムーズに通るための許可証みたいな物も貰っている。手形の効力はこの国では王族直接の依頼のため非常に効力があるし、他国でも一定の効力がある(水戸○門ごっこが出来るぐらい)。
「はっ、必ずや皆の期待に応え、そしてこの世界に平和を取り戻してみせるでござる」
「さすがは勇者様。期待しておりますぞ」
そう言うやりとりがあり、いざ出発となるが出発して早々何か起こるはずも無くしばらくはのんびりとした時間が続きそうである。
特に王都周辺や各都市への主要街道など治安の良いところを通って前線に向かうため、道中に危険などそうそうありはしない。
とりあえずの目的地は北にあるこの国の対魔族最前線である城塞都市「アガバンサス」である。
この都市は既に魔王軍によって陥落させられているとの情報があるので、まずこの都市を奪還、対魔族用の防衛線を構築し、その後私たち勇者パーティーが特殊部隊よろしく単騎で敵陣中央突破(勇者殿は正々堂々とするべきだというアピールらしい)、敵陣に陣取るトップ(魔王)とその周辺の魔族を倒し指揮系統及び主力を破壊する。ここで私たちの役割は終わりとなる。
あとは人間の軍により残党魔物の撃破が残ってはいるのだが魔王が倒れればそこまでの脅威では無いだろうとの試算だ。
さて、旅をするに当たって、王様から貰った家なのだが、これについてはフラン夫人に頼んで維持管理の人員を紹介して貰っているので問題ない。まあ、家を貰ってからすぐに魔王討伐と言うことであの家に住んでいる期間も短かったのが心残りだ。せっかくのマイホームだったのに。魔王討伐から帰ってきたらあの家でゆっくりしよう。それに色々と魔導具を買いそろえて快適な居住空間に改造もしたいし。
「おお、ほんに家畜が引いておるわ」
「ノロいですね。王よ、私に乗って頂ければ最速で駆けてみましょう」
「いや、そう言うのいいから」
たしかフェン子とダン子は以前街馬車に乗ったことがあったはずなのだが。
ダン子は嬉々として馬車を引いている馬を見ているし、フェン子は自信の方が馬車を上手く引けると対抗心を燃やしている。
ちなみに御者をしているのはソレイユちゃんである。
勇者殿は……なんだか馬車の中から期待した目でこちらを見ている。チラチラと視線がダン子のほぼ丸見えの尻に向かっている。
そんなこんなでゆったりと馬車に揺られながら私たちは王都をあとにした。
◇◇◇
―某所―
「勇者一行が王都から出発したようです。なお、今回エドクス王国から新たにパーティーに加わったのは5名。すべて女性のようですが内3名はエドクス王国迷宮都市のダンジョン攻略者であるそうです。」
細身の男が手にした資料を読み上げる。
この場に集まった人々はゆったりとした椅子に腰掛けながらその報告を聞いていた。
「少しいいかね?」
この場で最も年老いた男性が声を上げる。
「そのパーティーなのだが、勇者を含めてレベルはどの程度か分かるのかね?」
「正確な数字までは、しかしダンジョンを攻略した3名に関してはギルドにてゴールドカードを発行されていることを確認したとの報告がありますのでレベル100以上は確実かと」
「ふむ……そうか」
「やっかいですな」
男性の声にパラパラと声を上がる。どれもがその高レベルを厄介がる言葉であった。
「今度は本当に大丈夫なんだろうね! 以前のようでは困るのだよ!」
豪華な衣装を身に纏った中年男性が立ち上がり声を荒げる。その体格は良くそんなに勢いよく立ち上がれるなと言うほど太っていた。
以前この男達はグランドドラゴンを手なずけ意のままに操ろうとした。しかしその目論見は失敗しさらに対象のドラゴンも行方不明という有様である。
投資の失敗において少なくない財が失われた。この場にいる老人や中年女性にとってははした金でも、その他大勢にとっては家が傾くほどの散財であった。
「ご安心ください。今回は準備も万全です。必ずや目的を果たせるでしょう」
「ふんっ! ならさっさとするんだな!」
そう言って男はどっかりと椅子に座る。椅子のきしむ音が聞こえるが誰も突っ込もうとはしない。
「まだ以前のことを根に持っているのかね。」
「全くドラゴン一匹程度で。器の小ささが知れますわよ」
同じく椅子に座っている老人と中年の女性が太った男に対して声を掛ける。
「くっ!」
太った男は老人達を忌々しげに睨んだ。
場の空気がピリピリし始める。だが、先に視線を外したのは老人の方だった。そして老人は報告役の男の方を向き声を掛ける。
「とはいえ、そう何度も失敗することはあってはなりません。これは聖なる行いなのですから」
「はっ、はいっ! もちろんです。今度こそ目的を達成できるでしょう。」
「ふふ、期待していますよ」
そう言うと老人は目の前に置かれているグラスを掲げる。すると示し合わせたかのように皆が同じようにグラスを掲げた。
「全ては教会による真の救済のために!」
「「「乾杯!」」」
ようやくです。ようやく魔王退治に出発ですよ! 奥さん!