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122 勇者

「吾輩の時代ッ!! キタ――――――ッ!!」


 勇者との合流のため王城の謁見の間に足を踏み入れると、フルプレートの小太りの青年? ――すでに謁見中の勇者様(と聞いている)がこちらを凝視し、大声で叫んでいた。



 ◇◇◇



 王城へとやってきて勇者と面会するための事前の段取りなどを確認するのだが、その前に、宰相さん達にダン子とフェン子を紹介した。

 フラン夫人の紹介状のおかげですんなりと王城に入ることが出来た。持つべき者は権力者のコネである。

 と言っても、フラン夫人には色々と聞かれたし(嘘発見器のような魔道具を設置して)、おそらく私たちの目に触れないところで調査もされたのだろうが、別にやましいことはないので問題ない。フラン夫人には「この国をどう思うか」とか「人間の法を遵守する意思があるか」など結構な時間をかけてかなりの質問を受けた。今考えれば人格や思想面も突っ込んで聞かれていた。



 なお、フェン子やダン子については何の実績も無い状態だったがフラン公爵夫人やメープルローズ伯爵家、アリシアさん、カーマインさんの推薦で勇者の仲間に割り込むことが出来た状態となっている。勿論王様にも会ったことなど無い。事前の顔合わせなど無く(時間が無かった)、王様は書類だけ渡されている状態だ。



 今この王城では勇者様と王様が謁見の間にて話をしているらしい。そうしてそこに私たちが入っていき紹介されて、一緒に出発と言う流れだとか。

 派手なパレードも考えられていたようなのだが、勇者様が断ったらしい。目立ちたくないのか上がり症なのか何か他の理由があるのかは不明。

 まあ私としては大勢の人に注目されるのは緊張するし疲れるのでその方が良い。お金は欲しいが、名声はあまりいらないかなといった感じだ。


 私たちは別室にて戦闘装備にて待機している。私は鎧を着ており剣と盾を装備、ソレイユちゃんとティーアも以前ダンジョンに潜ったときと同様の装備をしている。

 王様の前で武装しているのは本来まずいのだが、今回は魔王討伐に出発するため戦闘装備で王様からの言葉を受けることになっている。

 ダン子はフリーハンドで魔法を使い、フェン子は爪や牙が武器なのでここに来た時と変わりないが。

 そのため私が一番露出が少ない格好となる。フェン子はノースリーブシャツにホットパンツとなにげに露出が多いが手足の先がモフモフなのでそこまで変に見えない。



「おほほほ! ノワール来ましたわよ!」

「お久しぶりです」


 その者赤き衣を纏い、金色の髪を大いなる螺旋の導きに(以下略)アリシアさんとカーマインさんが待機部屋にやってきた。


 この後の勇者様との顔合わせの後、王様の言葉を受けて、という流れになるのだが、その際にはかなりの数の貴族も立ち会うらしい。

 パレードは出来なかったが、貴族達には周知し大勢の中で王様と勇者様が言葉を交わす。と言うことで自身の立ち位置を盤石にしようみたいな考えがあるのだろう。

 そこにはアリシアさん達も呼ばれている。まあ、謁見の場で声を掛け合うことは無いだろうし、その後は魔王討伐に旅立ちと言うことで、アリシアさん達と話すことが出来るのはこの待機室ぐらいだ。後は魔王討伐から帰ってきてからになる。

 口々に挨拶を交わす、ダン子とフェン子も人化前は面識があるわけだし、ちゃんと顔を覚えていたようで挨拶をしている。

 逆にアリシアさん達は人型ダン子達とは初対面になるため、少し驚いているが。


「この子達がダンジョンコアとフェンリルですか。……なかなかきわどいですわね。そういうのが流行っているんですの?」


 アリシアさん達もやはりダン子の格好については思うところがあるのだろう。いや、だってコイツだけ異様に露出が多いんだもの。ちびっ子なのでセクシーとはほど遠いが。


「王のご友人におかれましては、ご健勝そうで何よりです。息子は元気にしておりますでしょうか?」

「ええ、あの子はとても元気ですわよ。少しやんちゃですが私が立派なフェンリルに育てて見せますわ」

「おお、力強いお言葉です。よろしくお願いします。」

「ええ、任せておきなさい」


「相変わらず妙な髪型じゃのう。覚えやすくて良いが? おぬし達は今回は一緒には行かんのか?」

「ええ、私たちは少々忙しく。ノワール様達が行くのであれば問題ないでしょうし」

「全く私たちも行きたかったですのに。貴族というのも思ったより面倒ですわね」

「お嬢様、これでも(仕事が)少ない方なんですよ。伯爵様を継がれた際にはこの倍以上の仕事がありますよ」


 カーマインさんにそう言われたアリシアさんが「うへぇ~」みたいな顔をする。




 そうして少し談笑していると、扉がノックされ執事さんっぽい人(以前から何度か見ているが名前も役職も知らない)が入ってきた。


「ノワール様達は準備をお願いします。アリシア子爵、カーマイン男爵は謁見の間にお越しください」


 入ってきた執事さんは一同を見回し、アリシアさん達がいるのを確認して……視線がダン子に行った時点で少し驚いていたようだが、さすがはプロ。すぐに何事も無かったかのようにしてそう述べた。

 どうやらもうそろそろらしい。

すると、アリシアさんがキリッとした表情で、


「ノワール、ソレイユ、ティーア、あなた達はこの私、アリシア・ショコラ・メープルローズが認めた人物です。必ずや使命を果たせると思っております。」

「そうですね、ノワール様達の強さは私たちはよく知っております。ノワール様は回復魔法も使えますがお気をつけて」


 真面目な様子でアリシアさんとカーマインさんが激励の言葉をかけてくれる。


「ああ、任せておけ」


 私はぐっと親指を立てた。


「大丈夫よぉ、ご主人様がいるんだからぁ」

「頑張ります」

「王の力となれるよう努力します」

「任せておくのじゃ。ワシにかかれば魔王などワンパンよ!」


「では先に、謁見の間に言っておりますわ」

「失礼いたします」


 そうしてアリシアさん達は先に部屋から出て行った。

 その後、執事さんが、


「準備はよろしいですか、では案内しますので着いてきてください」


 そう言って先導してくれる。私たちは完全武装にてその後ろをついて行った。


「……あの、そちらの少女の格好はもう少しなんとかならないでしょうか?」

「何じゃ? 文句があるのか?」


 これがいいらしいんです。勘弁してつかーさい。




 そうして城内を少し歩いて着いたのが謁見の間の前。豪華で大きな扉が目の前にある。その扉は現在閉じられており、王様の合図でこの扉が開き私たちが入場していくと言う流れだ。両脇には儀典用の槍を装備した2人の近衛騎士が立っており、いかにもな感じだ。

 アリシアさん達の他、フラン夫人などもこの中にすでにいて、おそらくレッドカーペットの両脇を固めているのであろう。残念ながら扉が厚く中の声などは聞こえてこない。


「もう少しで、国王様と勇者様の話も終わります。扉が開きましたらノワール様を先頭に一列で入場してください。その後――」


 一応この場で謁見のまでの動きの最終確認を執事さんから受ける。

 そうしてしばらく、扉の前で待機していると、


「扉が開きます。ご用意を」


 執事さんが言うと同時に謁見の間の大きな扉がギギッと音を立てて開いていく。なおギギッという音が出ているのは立て付けが悪いわけでは無く単純に重いからである。

 執事さんはさっと謁見の間から見えない位置に行ってしまった。


 開いた扉から見えたのは広々とした室内だった。レッドカーペットの両脇に兵士達が十数名立っている。そしてレッドカーペットの先には、全身鎧を纏った人物がおり、その先には玉座に座った王様とその両脇を固める国の重鎮達。

 扉が開いた時点でこちらを見ていないのは王様の方を向いている全身鎧の人――勇者様と思われる――だけだろう。

 ……あれ? アリシアさん達、貴族達はどこだろう。見届け人として結構な数が呼ばれていると聞いたが。

 と思ったら、両脇にあった仕切りのような物がするすると開かれて大勢の人が現れた。

 おお……壁にかかった飾り布だと思っていたら実はさらにその先に貴族達の待機室があったという妙なギミックである。

 開かれた部屋をチラッと見てみるとアリシアさん達もちゃんといて、こちらを見ている。あと、フラン夫人も見つけた。

 

 今までは変に勇者様に圧力をかけないように、また正直な話が聞けるようにと貴族達抜きで話していたようだ。勇者様も視線で周囲を見て状況を理解する。



 そうして両脇を固める貴族達が見守る中、謁見の間に入っていく。

 

 ああ、大勢の貴族達の視線が突き刺さる。ああ緊張する。


 ゆっくりとレッドカーペットを歩き王様や勇者様に近づいていく。


 勇者様も扉が開き、仲間と聞かされている人が部屋に入ってきたのを感じたのだろう、後ろを振り返った勇者様は


「吾輩の時代ッ!! キタ――――――ッ!!」


 私たちを凝視したまま大きな叫び声を上げた。


 その大声に一瞬で周囲の貴族達の視線が私たちから勇者様達の方に移動した。


「ゆ、勇者殿、ど、どうなされた!?」


 王様が慌てた声で勇者に聞いている。何か不手際があったのかと焦っている。

 

「わぷっ」


 叫び声で足が止まってしまったので後ろを歩いていたソレイユちゃんが背中にぶつかった。おっといけない。止まっている場合じゃ無いな。

 そう思い勇者の後ろまで歩いて行って少し右による。

 その後、縦位一列だった皆が勇者様の後ろに横一列に並びを変えた。


 しかしさっきの叫び声はアレだな。めっちゃ日本人っぽいな。そう思えば何か思い出しそうな…………ああ、確か以前どこかで見たAランクの剣のデザインと勇者様の鎧のデザインがよく似ている。……たしかヤマモトだったか? もしかして彼がそうなのだろうか。


 勇者様は首を限界まで曲げてこちらを凝視している。なんだかキモいぞ勇者


「ゆ、勇者殿、何か問題が!?」


 王様は相変わらず焦っており、勇者様に問いかけているが、勇者様は聞いていないのか返事を返さない。


「そ、そちらは今から紹介しようかと思っている物達なのだが何か問題が? かなりの実力者揃いなのだが……はっ! もしや、女性であることを気にしているのかな? そ、それであれば再度男性の中から候補者を選ぶという――」

「それには及ばないでござる!!」


 グリンッ! という擬音が付きそうなほどの勢いで私たちから視線を外した勇者様が王様の言葉を遮り大声で答えた。

 その大声で王様はビクッとし、言葉を失っている。


「失礼したでござる。全く! 全く文句などないでござる! 是非このまま行くことをおすすめするでござる!」

「お、おお、そうか……ゴホンッ! それでは紹介させていただくが良いだろうか……本当に良いだろうか? 何なら今からでも男性の候補者を――」

「しっかりするでござる、王よ! 吾輩達の目的は魔王の討伐、そしてこの世界の平和でござる! その願いに男女の差などいかほどの関係があろうでござろうか、いやないでござる!」


 何やら王様と勇者ともに必死の形相で駆け引きが行われている。政治的な話だろうか、それなら口出しできないのだが。


「おお、さすがは勇者殿。心強い言葉だ。で、では紹介させていただこう。まずは戦士ノワール」

「はっ!」


 王様に呼ばれたので、返事を返す。その際一歩前に出るのだが、前には勇者殿がいるので横に並ぶ形になる。


「彼女はこの国でも有数の冒険者であり、迷宮攻略者でもある、レベルも申し分なく必ずや勇者殿の力になってくれるだろう。」

「勇者様の力になれるよう全力を尽くす所存です。」

「うむ、期待している。続けて、ソレイユ」

「は、はい!」

「彼女はノワールと同じ冒険者パーティーに所属する槍使いだ。ノワールと同じくベテラン冒険者以上のレベルとそれに匹敵する経験を持っているといえよう。同じく勇者殿の力となってくれるであろう」

「は、はい。頑張ります。」

「次に、ティーア」


 ………………

 …………

 ……


「最後にダン子…………」


 王様がダン子を凝視したまま、固まっていらっしゃる。目をまん丸と開いている。

 ゴホンッ! と貴族の誰かが先をせっついたところでようやく我に返ったらしい王様。


「期待しておるぞ」

「任せておくのじゃ!」


 そうして私たち5人の紹介が終わり、勇者様を含む全員が横一列に並んだ。

話が全く進まない……

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