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121 準備

お待たせ……_(:3 」∠)_ゲボォ……

 さて、フェン子とダン子だが、いきなり王城に連れて行っても「誰だ?」状態になるし、勇者に同行する仲間として問題ない強さがあると事前に示しておく必要がある。


 まずはフラン夫人に紹介状みたいな物を書いて貰おうと思っていったのだが、私達全員で集団面接みたいな質疑応答を行った後、彼女自身が王城に事前に報告しておいてくれることになった。(ちなみにメリノ君は学院に行っていて留守だった)

 フラン夫人は公爵夫人と言うだけでなく王城で働くエリート官僚であり王様にも一定の発言権があるという超大物である。

 彼女から話を通して貰えば問題なく私たちの仲間として今回の依頼のパーティーに加わることが出来るだろう。


「この子があのフェンリルですか……そしてそちらがダンジョンの(コア)……ノワール達といると退屈しないわ」とはフラン夫人の言である。




 そうしてその後は、冒険者ギルドに言ってカードを発行して貰うことにした。この世界ではレベルは一種のステータスである。たとえ出自が不確かでも高レベルであれば一目置かれるし、何をするにも有利になる。(と言っても営業職などレベルがそこまで関係してこない職業もたくさんあるが)


 そんなわけで審査が一番簡単な冒険者ギルドにてカードを発行して貰う。

 審査が一番簡単だと言っても別に軽く見られたりはしない。単純に、名前とレベルしか記載されていないためで、そのレベル検査もちゃんとした魔道具で行うためだ。


 冒険者ギルドには王都と迷宮都市を巡る乗合馬車にて向かうことになった。(いわゆる市バス的なヤツである)

 なんせこの王都と迷宮都市はそれなりの大きさがある。今まではお金の節約のため徒歩で向かっていたが今はそんなことは気にしなくて良い。お金持ちだから!

 

 さて、乗った馬車だが勿論他の客も多数乗っている。

チラチラとそれなりの数の視線を感じていた。まあ、見られているのだが。視線のほとんどは冒険者と思われる人たちからだった。おそらくダンジョン攻略者として顔が売れているためだろう。

 そうして私たちを見た後、隣を見てギョッとしたり凝視したりしている。


「おいおい、あれってたしか――」

「ああ、ギルドにあった攻略者の――」

「生で見ると一層美人だな」

「後ろの可愛い子達は新しいパーティーメンバーか?」

「痴女タンハァハァ……」


 うーん、目立っているなぁ。特にダン子が……


「無礼な、王に好色の視線を向けるとは」


 フェン子は私のことになると少し沸点が低くなるようだ。まあ口に出すだけで今のところお上品にちょこんと座っているが


「何じゃこいつら……ワシの姿が珍しいのか? 人間とそこまで変わらんと思うのじゃが」


 ダン子は自身の格好など全く気にしていなかった。大股開きで「ガハハ!」と笑い出しそうな座り方をしている。女性に化けたのだからそんな格好ははしたないと注意すべきだろうか。


 まあ、とは言え2人とも同乗者にちょっかいをかけたりはしていない。そもそも2人ともそれなりの年月を生きているので人間社会の常識についてもある程度知識として持っている。なので、一から教えると言うことにはならなかった。せいぜい人間社会の常識の照らし合わせた行動をするようにと言い含めたぐらいである。

 同乗者もチラチラと視線を向けてくるだけで声をかけてくる勇敢な者は居ないようだ。


 しかし迷宮都市側に来るのも久しぶりだな。この雑多な雰囲気は好きだよ。王都にいたときは貴族外の家にこもっていたため静かだったし。

 王との貴族街に比べるとやはり賑やかだ。


 しばらくすると冒険者ギルド近くの停留所に着いたので降りる。都市内を移動する馬車と言うことで速度はそれほどではないが座っていられるため疲れずにすむし、周囲をゆっくりと眺める時間もあった。お金を取られるが少額だしこれからも利用しよう。



「おお、ここが冒険者ギルドじゃな! 人間共が話しておったので知っておるぞ! たのもー!」


 冒険者ギルドに着いたとたんに、真っ先に駆けだしたダン子が扉をバァン! と勢いよく開けた。

中にいた冒険者達がその勢いと音で振り返り「あぁん? なんだぁ?」的な視線をダン子に向けてくるが、ダン子自身は分かっていないのかズカズカと建物内に入っていく。


「おいおい、お嬢ちゃん。ここに何の用だぁ」

「その格好誘ってんのかぁ?」

「ママのオッパ――え、お前、こんなガキもいけんの?」

「ち、ちげーし、俺年上専門だしぃ」


 なんともテンプレ? なやりとりをしながら何人かの柄の悪そうな男達がダン子の行く手を塞いだ。


「おお、おぬし等も冒険者じゃな。知っておるぞ。浅い階層でウロチョロしている奴らにそっくりじゃ」


 Oh、ナチュラルに煽っていくなダン子。


「ダン子、あまり先に行くな。後、煽るなよ」


 その後ろから私たち4人が扉をくぐる。



「なっ、あなた達は……」

「ま、まさか!」

「何だと! あのダンジョン攻略者達グローリアスオブビューティーか!」


「…………」


 何かよく分からないあだ名が付いているんですけれど!?


「姉さんの知り合いとは知らずに、へへへ、すいやせん」

「ナマ言いましたわ、失礼」


 まあそんな変な驚き方をした男達は私たちの顔を確認するとすごすごと併設された酒場の方へと戻っていった。


「……王の威光を理解しているとはなかなか見所のある者たちです」

「いや、多分違うんじゃないかなぁ」


 まあとにかく、ダン子とフェン子の冒険者登録を済ましてしまおう。

 そう思い、受付の方に向かう。相変わらずダンジョン攻略者の私たちの肖像画と名前がデデーン! と張り出されている。

 周囲からの眼差しは、羨望3割、困惑2割、エロい目3割、嫉妬2割、誰アイツ2割、合計120%……計算が合わない。



「おう、お嬢ちゃん達久しぶりだね! またダンジョンへ行くのかい?」


 受付近くへ来るとギルドマスターのおばあさんが横手から声をかけてきた。なんでいるんだ、この人? 暇なの?


「いや、今回はこの2人の登録をするためだが。あと私たちの冒険者カードの更新だ。」


 そう言ってダン子とフェン子を指す。


「おや、新しいパーティーメンバーかい? アリシアのお嬢ちゃん達はどうしたんだい?」

「あっちは貴族になったんで忙しいそうだ。こっちの2人は人間族ではないが問題ないよな?」

「今更何言ってんだい、ティーアちゃんだって登録してるだろう。おーい、新規登録者だ。」


 受付の方に声をかけると、一番近い受付嬢がすぐに登録用紙を用意してくれる。

 それを2人に渡し内容を記載するように言う。


 そうして2人はその用紙を眺めながら、ダン子はさっさとペンを持って書き始めたのだがどうも難しい顔をしている。どうしたのだろうかと、覗こうとするとクイックイッと服の裾が引かれるのでそちらを向くと


「どうかしたのか?」


 フェン子が登録用紙を手に持ったまま困った顔でこちらを見ていた。


「王よ、私は人間の文字が書けないのですが……」


 ああ、なる。フェン子はフェンリルだからな。人間の文字を習う機会など今までなかっただろう。冒険者などを見て聞き取りなどは問題ないとしても読み書きは出来ないのであろう。

 となると、


「ダン子、お前文字書けるのか?」

「フン、ワシを誰だと思っとる。余裕じゃよ」


 余裕綽々の様子でスラスラ? とペンを走らせてゆくダン子だが、それを横から覗くと


氏名:ノ〒レヌ才ブルーゾュ=工リザべー十=上ヮイソ∩|L

年齢:|2Oo0ち\\

性別:おNな

種族:タ”ソジ∋ソコ了

…………


 メチャクチャ字が汚かった。正直読めない。後、名前欄がすごく長くなっている。お前ダン子だろう。

 ダン子もか。まああの球体ボディーで文字の読みはともかく書くことはないだろうからな。


「字が汚いぞ。ちょっと貸せ。書いてやるから」

「ああ! 何するんじゃ! せっかくのワシの素晴らしい経歴が」


 用紙を取り上げると、ダン子が叫びながら用紙を取り返そうとしてくるので頭をつかんで引き離す。


「あ、やめて、握りつぶす気でしょう! この前みたいに!」


 失敬な、握りつぶしてはいないぞ。


 そうして2人分の登録用紙を私が書き込んでいく。そしてそれを提出し、レベルを計ってカードを発行。それで終わり。と思っていたのだが、


「ダンジョンコアとフェンリルだと? コレは本当かい? 経歴を偽装するのはいいがこっちではそれが本当の経歴(・・・・・)として登録されちまうよ。フカすんならやめときな」


 ギルドマスターが2人の『種族』について疑問を持ったようだ。なので説明することになった。と言っても簡単に説明して終わりにしようと思っている。

 ギルド登録時に経歴詐称はたまにあることだ。ただし個人情報はギルドで厳正に管理されており謎技術により2重登録は出来ないし登録情報が『公の情報』として残ってしまう。このため詐称した際にデメリットが大きいのは本人側の方なのだ。(例えば『太郎』と親に名付けられた人間が『花子』としてギルド登録したら、公的には『花子』の方が本名、『太郎』が偽名となってしまうわけだ。)


 と言うわけで簡単に説明。ダン子はダンジョンコアの分身 (のようなもの)、フェン子はフェンリルが人化の魔法を使えたのでと。

 ダンジョンに関しては特にダン子がいるからと言って変わることはないと説明。


「まあ、種族に関してはそれで納得するとして……ダン子ちゃんはレベル1でいいとしてフェン子ちゃんのレベルが計測不能だね。いくらだい? ゴールドカードで計れるか? ……ちょっと鑑定師を呼んできておくれ」


 フェン子の方が計測レベル上限99の通常カードで計れなかったため、鑑定スキルを持った男性が奥から出てきた。


「おう、鑑定して貰いたいってのはどいつだ?」


 男性は初老にさしかかったという所だろうか。短い髪を刈り上げてなかなかの体つきをしているおっさんだった。引退冒険者か何かだろうか。


「ああ、こっちの白いお嬢ちゃんだ」

「ほう、お嬢ちゃんかどれどれ」


 そう言っておっさんがフェン子を凝視すると、目を見開いた。その後目をこすって再度フェン子を凝視する。そしてゴクリと喉を鳴らして、


「……コ、コイツはすげぇ、レベル275なんて初めて見たよ」

「レベル200越えだって! またかいっ!」


 おばあさんの方も驚いている。周りからも「おおー!」や「さすが攻略者」と言う声が聞こえてくる。


 そういや金のカードってレベル200までしか計れなかったんだよな。ならあの黒いカードでいいんじゃないかな


「ブラックカードは品切れだよ。とりあえずゴールドカードを出しておくとして、ギルドの方には今計測したレベルを記録しておくよ」

「ああ、頼む」


 そうして、フェン子にはゴールドカードが渡された。記載レベルは200+だ。


「何じゃ、おぬし達のカードは黒いのか? ワシは銀……こっちの方がキラキラして綺麗じゃの」


 そう言って、ダン子はシルバーカードを見ている。フェン子もこういったことは初めてなので、ゴールドカードをまじまじと見ている。なくさないようにと言い含めた後、


「私たちの冒険者カードも更新してほしいのだが」

「分かっているよ」


 私たちの冒険者カードも更新して貰った。これで公式に私たち3人はAランク冒険者になったわけだ。

ダン子とフェン子はFランクからのスタートだ。


 これで準備は出来た後は王城へ行って、事前に宰相さんとかと話をすりあわせ、勇者と面会という形になるだろう。


 そうして悠々と私たちは冒険者ギルドを後にした。


 その後、後ろからドンガラガッシャーン!! という派手な音が聞こえてきたのだが、はて、何だろう?






 ノワール達が背を向け冒険者ギルドから出て行こうとしたときだった。


「おい、あっちの黒髪のお嬢ちゃんの鑑定をしてくれるかい」

「いいけど勝手にやると怒られるんじゃ?」

「まあいいからやっておくれ」

「はあ……」


 鑑定スキル持ちのおっさんがノワールを凝視する。すると――


 ガタガタガタガタ――


 足が震えだし……いや、全身が見たこともないような震え方をし


「おい、どうしたんだい?」


 ジョババー――


 勢いよく失禁し


「――ひ、ひぎゃぁぁぁああ!! た、助けてクれぇぇぇ!!」


 そんな聞いたこともないような大声で叫びながら足をもつれさせ、それでも全速でギルドの裏口の方に逃げるようにして走って行った。途中足下がおぼつかず何度も転げながらも……


 その後、彼は1週間ほど行方不明になり、教会の前に倒れていたところを保護されたがその理由を決して語ろうとはしなかった。


 まあ、どうでもいい話である。

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