13 戦う心構え
朝起き、朝食をとり、準備万端でギルドに行く。しかし相変わらずここの食事は味が薄いな。香辛料とか高いんだろうか。
昨日買った手甲やブーツ、ナイフは装備済みだ。防具が無くて普通の服なのが心許ないが、お金がないのでどうしようもない。それ以外の必要なものはすべてアイテムボックスに放り込んである。
ギルドに行って、Eランクの依頼を見ると採集依頼と、討伐依頼が半々といったところか。採集依頼はFランクより難しくなって、ちょっと森の奥までいかないといけないものだな。まあ今回は、討伐依頼を行うつもりなので関係ないが。
えーと、討伐依頼はと思ったが、ゴブリンについては常時討伐依頼になっていた。常時討伐依頼とは繁殖力が強い魔物に対していちいち討伐依頼を出すのが面倒なので、狩ってきた分だけ報酬を出しますよ。という依頼だったと思う。たしかギルドに登録したときに説明していたような気がする。ただ、ゴブリンは弱い魔物なので1匹あたりの報酬額がしょぼい。これは数を狩らないと生活できないだろ。他にはコボルトの討伐なんてのもあった。コボルトってたしか日本だと二足歩行する犬みたいな奴だったよな。こっちでも同じなんだろうか? あとは、オークか、こっちはちょっとだけ報酬がいい。あれ? よく見るとDランクという文字が見えるな。こっちはDランク用か? いや、よく見ると単体の場合はE~Dランクで、群れの場合はD~Cランクと書いてあるな。
これは狩ってきた後に依頼を受けてその場で達成にしてもらうみたいなことはできるのだろうか? ちょっと横で同じく依頼を見ていたおっちゃん冒険者に聞いてみたら別にそれでもかまわないらしい。ただ、朝にあった討伐依頼が、他人が受けて無くなっていたなんてこともあるのでそこは自己責任だと言われた。
とりあえず、ゴブリン、コボルト、オークに絞って狩ってみるか。討伐証明部位はすべて右耳となっており、魔石は心臓付近にあるらしい。あと、コボルトは毛皮、オークは肉が売れるらしい。となると、狩った後は死体ごと持って帰ってくるか。解体は、ギルドにお任せで。
ギルドを出ると、東に向かって歩き出す、途中東の街門をくぐるとき、昨日と同じ門番の人が挨拶してきたのでギルドカードを見せて依頼に行くことを伝えると普通に通してくれる。
その後、森の入り口についた。……周りに人はいないな。なら、
そう思い、一気に駆けた。〈脚力強化〉のおかげで速い速い。ただ、森の中、木々が乱立しているのを避けながら走っているので、トップスピードには程遠いだろう。
ジグザグに走っていると方向がわからなくなりそうだ。町は少し高台にあるし、それなりに高い建物(何の建物かは知らない)もあるので一応、森の中からでも見えるのだが。
途中から面倒になって、木の枝に飛び乗ってそのまま、木の枝を足場に直進した。こっちの方が速いな。
しばらくすると、何か見えた。……ゴブリンか? となると森の深部に着いたということだろうか。速かったな。さすがスキルさん。……しかし1匹しかいないな。もう少し奥に行ってみるか。この森どの程度深いんだ。
少しその場で木のちょっと上までジャンプしてみて、周りを見渡してみる。町はもう結構遠いな。あと森はもっと奥まで続いている。……うむもう少し奥まで行ってみるか。
そう思い、また同じように木々の枝を飛び移っていく。と――
「ん? あれは」
木の上から何か集落のようなものが見えた。なんだ、こんなところに人が住んでいるのか? それにしてはボロいな。まさかゴブリンとかの魔物が作ったのか? ……しまったな、双眼鏡でも買ってくれば良かった。
仕方なく気づかれないように近づく。もし、魔物が作ったものならちゃんと確認してから挑みたいしな。
集落? の近くの結構生い茂った木の枝から確認する。
「ふむ、すごいいるな」
そこにはゴブリンが集団でいた。何匹いるんだろうか? 粗末な建物の中にいるものは分からないが、外に出ているのだけでも百は超えているんじゃないだろうか? これは挑んでも数で潰されるか? 一匹一匹は弱いんだがな。
いや、臆するな私。これから冒険者でやっていくんだろう。ならこれくらいの困難は乗り越えておくべきじゃないか。
とりあえず落ち着け。ゴブリン自体はザコだ。それが百匹だ。――問題ない。注意することは焦ったりパニックにならないことだろう。ちゃんと落ち着いて対処すれば問題ないはずだ。それに、〈回復魔法〉もある。傷を負ったらすぐ回復すればいい。即死さえしなければどんな傷でも治せたはずだ。試したことないけど。
「ふ――、よし、行くか」
マントと財布は邪魔なのでアイテムボックスに放り込んでおく。手甲と靴の状態を確認する。戦ってる最中に靴が脱げましたとかシャレにならんからな。よし問題ない。腰のショートソードを抜く。
「いち、に、さん!」
潜んでいた木の枝を蹴って、ボロい集落の前に着地する。その勢いのまま目の前にいたゴブリン2匹の首をはねる、返す刃でもう1匹。
その3匹はもう見ずに、一気に駆ける。駆ける途中にいた数匹も同じように首をはねる、ストップして方向転換、呆けていたゴブリンをさらに何匹か切り捨てる。
ようやく、ゴブリン集団があわただしくなってきた。もう武器(といっても棍棒だが)を構えている者もいる。だが、そんなものは関係ない、
「シッ!」
さらに数十匹の首をはね、体を袈裟懸けに切る。スキル〈剣技〉のおかげで、ショートソードをどのように動かせばいいのか、どう動かせば効率がいいのか、どうすれば敵を倒せるのかを『理解』している。切る。斬る。キル。
おかげで、今のところ問題なくゴブリンどもを屠れている。このままいけばいい。
「はぁっ!!」
棍棒で殴り掛かってきたゴブリンの腕を落とした後、喉を切り裂いた。剣の柄で眉間を打って、倒れたゴブリンの頭を踏みつぶした。柄で打った反動で剣を前に突き出す。喉を貫かれてさらに死体が一つ増える。後ろから迫ってきた奴がいたので、とっさに剣を逆手に持ち直し後ろに向けて突き刺した。横に振りぬきそのまま前にいたゴブリンの首を飛ばした。
順調だ。
横から、棍棒で殴り掛かってくるやつがいた。剣を持っている手と反対の手でガードすると棍棒のほうが砕けた。そのまま腕を振りぬき裏拳を顔面にたたきこんでやった。頭の骨がつぶれる感触がする。気持ち悪いとか思うな。今は戦いに集中だ。
そのまま順調にゴブリンどもを屠れると思っていた。
「ッ!」
左肩に痛みが走ったかと思うと熱くなってきた。見ると矢が刺さっていた。何!?
矢の飛んできた方向を見る。何匹かが弓矢を扱っている。
「チッ!そういうのもいるのか!」
第二射が来たのでいったん距離を取った後、肩の矢を抜く。木を削った単純なもののようだ。反しなどはついていない。そこまで深く刺さったわけでもないようだ。よかったというべきだろう。
「ヒール!」
傷が回復していく。やはり〈回復魔法〉は便利だ。ちなみにスタミナヒールというものもありスタミナも回復できる。ただ、失った血が回復するのかは不明だ。なるべく〈回復魔法〉のお世話にはならないようにしたい。それに精神力は回復しないしな。
〈腕力強化〉の能力もある程度分かっている。弓兵に向かって走っている途中、石をいくつか拾った。コントロールに集中している暇はない。前に向けて一気に全部投げた。さながら散弾のようになった石が弓兵を襲う。何匹かが倒れた。それと同時に当たらなかった奴らも動揺して矢を射るタイミングを逃した。十分だ。これで、
ドォン!
目の前が爆発した。今度はなんだ!?
また違う方向にローブらしきものをかぶった集団がいた。そいつらが杖を前に出すと火の玉が形成される。
「おいおい、異世界おなじみ魔法ってやつかよ!」
それが一斉に発射される――正直あまり速くはない。これなら見ながら避けられる。ならば!
意識を少し魔法の火の玉のほうにやりながら、先に弓兵を屠っていく。ショートレンジに近づかれた弓兵など素手と変わらない。すぐに全滅した。
「次っ!」
火の玉をかわしながら、ローブ姿のゴブリンに近づいていく。こちらも弓兵と同じく中距離専門だったらしい。近づいたら魔法を打つのをやめて杖で殴り掛かってくる奴と、おろおろしだす奴に分かれた。これなら問題ない。すぐに全員の首をはねてやった。
「あと何匹だ!?」
周囲を見渡す。すると、ボロい建物からひときわ大きいのが現れた。あれもゴブリンか?まあいい、どうせ殺すんだしな!
駆けようと思った時に足にさっきの火の玉が着弾した。
ドパンッ!!
「がっ!」
駈け出そうとしていたときだったのでそのまま前に転んでしまった。見るとさっき殺したと思っていた魔法使いのゴブリンが一匹、息があったらしい。杖をこっちに向けていた。
「くそっ!」
影が差したので上を見るとさっきのデカい奴が棍棒を振り下ろすところだった。転がってかわす。
ガンッ!
うまくかわすことができた。しかし、立つことができない。膝から下がひどいやけど状態で出血もしている。威力はかなりデカかったようだ。
「ヒール!」
回復しない!? いや、回復はしているが、かなりゆっくりだ。
「ミドルヒール!」
中位の回復魔法を使用するとあっさり治った。しかしそんなことをやっている隙を相手が見逃してくれるわけはなく。
ドンッ!
「がぁ!」
再度振り下ろされた棍棒をかわし損ねて腕に受けてしまった。……痛いと思って「がぁ!」とか言ってしまったがあんまり痛くなかった……〈肉体強化〉のおかげか?
とにかく、チャンス! 寝転がったままだったので剣を振って相手の両足を切断してやった。ってこっちに倒れてくるんじゃねぇ!
あわてて立ち上がると倒れてくる相手との相対速度を利用して首に剣を当ててやった。すると自重の関係かすっぱりと首が切れそのまま倒れて動かなくなった。
「フウ――」
ッ!しまった!デカい奴を倒したことでつい気を抜いてしまった。あわててあたりを見渡す。
「あれ?」
動くやつがいない。死体ばっかりだ。気配もない……どうやらこのデカいので最後だったようだ。
「っっはぁ~」
大きく息を吐く。どうやら終わったようだ。緊張を解く。
再度周囲を見渡した。死体が散乱している。手を見てみる。返り血で真っ赤だ。体……というか服も返り血を吸ってどす黒くなっている。
「これを私がやったんだよな」
魔物――それも二足歩行の人間に近いといってもいいかもしれないものを大量に殺した。心にあるのは高揚感だ。断じて罪悪感などではない。実は、ちょっと心配していたのだ。今まで魔物を殺したのは、襲いかかられたり誰かを助けるためだった。なので自分から進んで魔物を殺すということに何か嫌な気分になったりしないだろうかと。だがそんなことは全然なかった。むしろちょっとテンション高かった。アドレナリンとか出ていたんだろう。
「なるほど、これが魔物を殺すという感覚か」
戦闘シーンが1話で終わっちゃいました。ちゃんと書いたつもりなのに結構短くなってしまいましたね。