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119 それぞれの日常

第三者視点

ノワールが銃を作っているときのソレイユとティーアの行動についてです。

 ノワールが銃制作に精を出している頃、ソレイユとティーアも別々ではあるがそれぞれの日常を送っていた。

 彼女たちは奴隷や従魔から解放されて一市民として冒険者登録をしており、またダンジョン攻略により十分な資金も持っているため1週間程度収入が無くとも問題は無かった。

 3人一緒に行動することの多い彼女たちだが無論プライベートな時間もある。今回のように1週間も単独行動をすることは無かったが。



 ◇◇◇



『マダムスキュラの今でしょ教室』

 今、平民の間で話題の成人~中年の女性をターゲットにしたセミナーの一種である。その内容はメイク術から料理の裏技、倦怠期の夫婦がベッドで燃え上がる方法など多岐にわたる。講演料は平民相手では割と高めの設定だが大人気で毎回定員以上の申し込みがあるという。

 ちなみにこういった私塾のような物は実は結構存在する。その中でも一番人気がこのマダムスキュラの教室である。


 何を隠そうソレイユも受講者の一人である。初日こそ定員オーバーで受講できなかった物の2日目は少し早く到着することにより見事受講することに成功した。


「ハ~イ、レディース! 今日のレッスンを始めるわよ~」


 そんな声と共に教壇側に登場したのは紫の髪をこれでもかと縦方向に盛り付けたスタイルのよい女性だった。

 彼女がマダムスキュラ。御年50にもなろうというのに20代後半程度の若々しい姿を保っている。しゃべり方は若干アレだが、その美貌やテクニックを求め女性達が群がるカリスマ講師だ。

 勿論ソレイユも女の子でありこういったことには興味があった。特にソレイユは現在14歳(精神年齢のお話。ダンジョンで生き返った際にステータス上は0歳になっている)と思春期も始まっていると思われる。奴隷時代はそういったことを考える暇はなかったが、ノワールに拾われて多少の余裕が出てくると、お肌の手入れ(お金のかからない簡単な物ではあるが)にも多少気を遣ってきた。そう、ノワールの知らないところでソレイユやティーアは女子力高めの事をしていたのである。

 

 マダムスキュラの講座は30名ほどが入る教室のような場所で行われている。前には黒板があり、そこに色々書き込んではたまに実践を交えつつ進んでいく。

 ソレイユは黒板の内容を真剣に持参したノートに書き記し、実践時には積極的に質問をしていった。


「あら~、お嬢ちゃんのようなヤァングな若者に興味を持ってもらえるなんてうれしーわ~」


 マダムスキュラはそう言っているが、実際今教室の中にいる中ではソレイユが一番若かった。




 次の日にソレイユはティーアを誘いマダムスキュラの教室に来ていた。


「ふぅん、人気の教室なの?」

「ええ、すごく評判がいいんですよ」


 そんな話をしていると、マダムスキュラが教室へ入ってきた。


「ハ~イ、レディース! 今日のレッスンを始めるわよ~っと昨日来てくれたレディが何人かいるわね~ありがと~」


 そんな挨拶により本日の講座が始まった。本日も昨日に引き続き女性をより美しく見せる化粧法についてだった。

 今日もソレイユはノートを熱心にとっており一言一句を聞き逃すまいとしていた。対するティーアはノートなどはとらずに聞いているだけであった。ティーアは自身がそれなりに化粧など女性的なことに詳しいことからマダムスキュラの言葉から有用だと思われることだけをピックアップして記憶している。逆に知っていることや、無用な情報はスルーしている。


 そうして講義が終わった後


「どうでしたか? 私も女性ですしお化粧などした方がいいと思ったんですけれど」


 ソレイユがティーアと一緒に来たのは客観的な評価がほしかったためだ。一応世間で評判とは言え、化粧法から料理法まで人によって個人差や好みが存在する。大衆に受ける方法であるかもしれないが自身には向いていないかもしれない。


「そうねぇ、今日の内容だとソレイユちゃんはあまり意味がないかもねぇ。ほら、今日のメイク術って若く見せて綺麗にっていう趣旨だったでしょう。ソレイユちゃんは元から若いし見た目もいいんだからああ言うのよりはナチュラルメイクの方がいいんじゃないかしらぁ。」

「……そ、そうですか」


 割とお値段のする講座だったので、ちょっとシュンとするソレイユ。


(やっぱり合ってなかったのか……)


「ソレイユちゃんは明日も行くの?」

「いえ、ティーアさんのその言葉を聞いて他の人の話も聞いてみようと思いました。なので明日からあそこには行かないと思います。」

「そう、大まかな予定は決まっているみたいねぇ」

「あ、はい。この休暇を利用して色々知識を深めようと思っています。」


 ソレイユとしてはダンジョンで十分にレベルを上げているため今回は知識などの習得を目標としていた。


「ティーアさんはどうなんです?」

「う~ん、私はダンジョンに行って魔法の練習かしらぁ」

「そういえばノワール様から魔法を習っていましたね」

「そうなのぉ。私、今後は鞭じゃなくて、魔法路線で行こうかと思っているのぉ。ほら、前衛はご主人様とソレイユちゃんがいるでしょ、なら後衛が必要かと思って」

「確かにそうですね。頑張ってください」

「ソレイユちゃんもねぇ」


 そうして次の日から期限までダンジョンに潜ってティーアの魔法の腕を確認することになった。



 翌日以降もソレイユは別の講義を行っている人物の元に向かって知識を吸収していった。割と人気上位の講座に参加したのだが講義内容を告知しない場合や一見すると内容の分からない場合もあったため当たり外れが大きかった。



「有名漫画家になるためにはどうするか」

「分かりません」

「そう! まずジャ○プで連載を獲得します」


 何が「そう!」なのか分からなかった。



 ◇◇◇



「【稲妻(ライトニング)】」


「【凍結風(アイスストーム)】」


「【岩弾(ロックバレット)】」


 魔法を唱えるたびに目の前にいる魔物が霧に変り、魔石を落として消滅する。


 魔法を唱えているのはティーアだ。以前のダンジョンアタックの際と同じ服と魔道具を装備しているがその手に持っているのは鞭では無く杖である。杖の先端には〈使用魔力減〉と〈魔力回復上昇〉の効果のある魔石がはめ込まれている、魔道具の一種である。

 勿論非常に高価な物であり、王都でも上位10本に入るような性能の物であるが今のティーアには問題は無く現金一括で購入した。

 あとはノワールがいないため最低限の荷物を小さなバックパックに詰めて持ってきている。


 ここは迷宮都市ダンジョン第11層。そこでティーアは魔法の練習をしていた。第11層ともなればそれなりに冒険者も少なく魔物とのエンカウントも高くなってくる場所である。魔物自体は今のティーアにしては弱すぎるがそれは我慢することにした。

 魔法に慣れるという当初の目的は果たされている。一撃の威力で言えばたとえ最下層の魔物を相手にしてもティーアならば大ダメージを与えられるだろう。最も最下層付近は今、ノワール達により魔物が刈り尽くされており、ダンジョンコアが大急ぎで立て直し中であるが。

 まあとにかく、現在の目的はダメージ重視では無く、移動目標に対する柔軟な魔法の行使である。案の定、ノワールに使い方を教わっただけで使い慣れていない魔法は当初、使用する魔法によっては命中率が50%を切る場合もあった。また属性による効果の増減などもあまり分からず、使用魔力の割には効果がショボい等と言うこともあった。

 だが、スキルを獲得しているだけ有り1日もすれば慣れてしまい、11層の魔物の素早さではもう百発百中に近づこうとしていた。



 さて11層と言えば以前のダンジョンアタックの際には何日もかけて到達した場所だが、今回の目的は宝の確保でもレベル上げでも無い。そのため、レベルに物を言わせた身体能力により全速力で駆け抜けることでわずか数時間で11層に到達している。


 なお、移動する際にティーアは翼を使い飛翔して移動したのだがその速度は時速500kmを超え、進路上にいた冒険者達を軒並み吹っ飛ばしてきたのだが本人は気にしていなかった。まあ仮にも冒険者であり防具も着けているので一番ひどい奴でも骨折ですんでいる。


「何だ、今のは!」

「大丈夫か!」

「ああ、致命傷ですんだぜ! ( • ̀ω•́ )b グッ」


 こんな会話が低階層の最短ルートを進んでいた冒険者の間で起きていた。




 11層で魔物にエンカウントする度に魔法にて対応してきたティーアであったが、徐々に魔物の数が減り始め、そしてぱったりと出会わなくなった。

 仕方が無くティーアは12層に移動しそこでまた同じように魔法の練習をするが、また同じように魔物が少なくなりそしていなくなった。

 探知にも魔法を使用し最速でアタックしていたためそれこそ1分で2~3体の魔物を屠っていた。今も魔物を狩るペースは同じだが1体ごとの移動距離が大きくなっていくのだ。


 ティーアはダンジョンとはこういった物かと割り切って、13層に移動しようと思っていたときである。


『オイこらぁ! なにやってんじゃぁ!』


 周囲に聞き覚えのある声が響いてきた。


「何かしら?」


 最初は誰か別の冒険者がいるのかと思ったティーアであったが周囲を探ってみてもそれらしき姿も気配も無い。


「うーん、空耳な訳はないわよねぇ。はっきり聞こえたしぃ」


 指を顎に当て考える仕草をする。と言うか、ちゃんと考えているのであるが。


『そこを動くな、こっちに転送するからのう』


 声がまた聞こえてきたと思うと、ティーアの足下に魔方陣が浮かび上がる。ティーアは一瞬迷ったものの、この声の主を思い出しその指示に従った。



 そうして一瞬の後に景色が暗転すると、ティーアが転移させられたのは最下層、ダンジョンコアの間であった。


 殺風景な部屋の中央の台座には以前と変わらずダンジョンコアが存在していた。


「やっぱりあなただったのねぇ、なにか用かしらぁ?」

『何か用か? じゃないわぁ! すごいスピードで魔物が減っていくから慌てておったのに! ワシがコツコツと貯めてきた魔力で作った魔物達じゃったのに』


 ダンジョンコアは怒っているような口調であった。


 ダンジョンコアというのはダンジョンにいる生命体から魔力を吸い取ることで魔力を蓄えそしてその魔力を利用し魔物や宝箱などを生み出す(吸い取る魔力は少量でいきなり全部吸い取ったりはできない)。無論ダンジョンコアには人格があり支出より収益の方が上回るように計算している。維持にも魔力が必要なため、基本的にダンジョンは生物に来て貰ってナンボな部分がある。

 だがこの迷宮都市にできたダンジョンは少し違い、ダンジョン上部にある街――迷宮都市にいる人間からも微々たる量ではあるが魔力を吸収することができた。そのため世界でも有数のダンジョンに成長することができたのだ。

 一時的に魔王の支配下に入りダンジョンで好き勝手した時期があり、少し魔力の支出が大きくなったがそれでも蓄えは十分にあった。


 その後ブツブツと文句を言い始めた。『長年ワシが冒険者からチューチューしてきた魔力で作ったのに』とか『ダンジョンの上に街ができたときはウハウハじゃった』とか


「で、結局何が言いたいのかしらぁ?」

『あんな速度で魔物を狩られては配置が追いつかないじゃろうが』


 配置が追いつかないと言うこともあるが、1層分の魔物が(リポップまでの間だが)完全に居なくなると言うことは前代未聞であった。

 冒険者から吸い上げる魔力よりも魔物を作成して消費する魔力量の方が大きくなるなどと言うことはあまりない。ティーアが活動していたのは低階層であるし、その辺りであればたとえ1層分の魔物が全滅しようともダンジョンコアの貯金魔力であれば問題ないのであるが、異常事態には違いなく調べたところ、以前面識のある高レベル者だと判明したのでここに招いたのだ。


『大体何しに来たんじゃ、おぬし。もう宝やったじゃろ、帰れよぅ……』


 ダンジョンコアは涙目であった……ただの球なので表情は無いが。


「そうなのぉ? ごめんなさいねぇ、魔法の練習をして起きたくってぇ……ほらぁ前にここに魔王がいたじゃ無い。アレじゃ無いけど魔王がでたらしくって、討伐に行くことになったのよぅ」

『詳しく』


 ダンジョンコアがなぜか乗り気であったため、ちょっとしたおしゃべり感覚で事情を話していく。特に口止めなどもされていないので問題は無いし。

 当代の魔王が存在していることや、ノワール、ティーア、ソレイユが異世界から召喚した勇者と共に魔王を討伐しに行く話、そのために魔法の練習をしていることなど。


『ふむふむ……あやつも魔王じゃと言っておったが、他にもおったのじゃな』


 あやつとは以前ダンジョンコアを支配下に置いていたラグナドロスアルタミココスと名乗る魔族の男のことである。


「アレは先代の魔王ねぇ。この世界、〈魔王〉っていう称号持ちがたまに生まれるのよ」

『なるほどのう……よし、決めたぞ。ワシも魔王討伐に力を貸してやろう』


 ダンジョンコアは魔王討伐に乗り気であった。というのも以前の魔王の金づかいならぬ魔力使いが非常に荒い上に、ダンジョンマスターになったのだから命令を聞いて当然と言うなんとも高圧的な人物であったので、一発殴りたいと思っていた。まあそれは叶わなかったのだが、他にも同じような奴がいると聞くと途端にイラッとしてくる。


 無論それだけでは無く、様々な考えや打算が込められているのであるが。


「どういう風の吹き回しかしらぁ? ……そもそもどうやって力を貸してくれるの?」


 ダンジョンコアは喋れはするがただの球体である。自力で移動すらできないのにどうやって魔王討伐に力を貸すというのであろうかと、ティーアは疑問に思った。


『フム、それについては当てがある。おぬし、ワシに手を置くのじゃ』


 そう指示されたティーアはいぶかしみながらもダンジョンコアに手を置く。

もし何か仕掛ける気配があれば即座に握りつぶせるように、いつでも手に力を込められるように、相手の言動や魔力の質に注意しながら。


『そうじゃ。そしてワシに魔力を譲渡するのじゃ。』

「それにどういう意味があるのかしらぁ?」

『それをするとワシの魔力貯金が増える。そうするとワシの出来ることが広がるのじゃ。ダンジョンの魔物を生み出せると言うのはおぬしも知っておろう。その他にも魔力があれば様々なことができるのじゃ。無論魔王討伐に力を貸すこともできる』


 怪しいことは怪しいのであるが、それ以上に好奇心が勝ったティーアが魔力をダンジョンコアに流し込んでいく。

 ティーアは魔力を奪うことは出来るが渡すことは出来ない。だがダンジョンマスター側の能力で魔力譲渡が出来るのである。


 そうしてどんどんと魔力がティーアからダンジョンコアに移っていき


「まだ? 半分くらい魔力使っているわよぉ」

『うーん、駄目じゃ足りん……もっと必要じゃ』


 ティーアは魔力回復ポーションを飲みながら魔力を譲渡し続けた。

 ここには魔法の練習をしに来たので魔力回復ポーションはある程度持ってきている。ちなみにこの国で一番高級な品であり、Lv100の魔法使いでも全快できる品質がある。なおティーアのレベルは305なので3本以上飲まないと全快にはならない。

 結局持ってきた魔力回復ポーションを全部飲んでお腹がタプタプしてきた時にOKが出た。


『いい具合にたまったのう。もうよいぞ』

「はあ、痛い出費ね。で、どうなの? これでショボい効果だったら怒るわよ」

『ハハハ、そんなことはない。とくと見るのじゃ……あ、ちょっと離れてね』


 そうしてティーアが少し離れると、ダンジョンコアが赤く輝き――


 ティーアが警戒態勢をとったが杞憂に終わった。


 ――その輝きが赤い靄を形成し……そしてその靄が徐々にダンジョンコアから伸びていく。伸びていった靄はコアの前にたまりそして人間大の大きさになり、

 さらにそれは密度を濃くしていく。


 そうして誕生したのが――


「じゃーん! ワシ! 誕生!」


 幼い少女であった。

追記)ソレイユちゃんステータス上14歳じゃ無いので()で補足

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