117 王様の茶会2
「それで、ダンジョンの話だけれど続きを聞かせてちょうだい」
「あ、はい」
あ、そういえば話の途中だったな。剣と盾を手に入れたところまでだったのでそこから、ダンジョンクリアまでを語っていく。といっても30層からは70層まで一気にワープしたわけだが。まあ、ソレイユちゃんの死亡とか衝撃的なこともあったしアリシアさんも何度か死んでいたはずだ。あの強敵――カエルの魔物との死闘……など無かったがそれらも語っていく。そうしてフェンリルも仲間に加え、レベリングし、宝を手に入れダンジョンクリアと。
そうして話し終えたところで一息つく。
紅茶が美味しいぜ。
横ではソレイユちゃんがお茶請けのビスケットをサクサクと食べている。
そうして一息ついているときにさっき出て行ったメイドさんが戻ってきた。そうして王妃様の横にススッと寄ってきて紙を手渡した。王妃様がその紙に目を落として
「フーカ公爵家のメリノ様ならば『僕は十分な物を貰いましたので、残りについてはそちらで好きにして貰ってかまいません』だそうよ。あとメープルローズ子爵とカーマイン男爵も『ノワールさん達の好きにしてかまわない』って」
おっと、どうやらこの短時間でメリノ君達に聞きに行っていたらしい。王妃様を間に挟んだしどうやら怒られなかったようだ。
「そ、そうですか。……ではこちらの説明をしていきましょうか。こちらの指輪が防御力上昇の効果を持った魔道具で――」
そう言って私はそのアクセサリー型の魔道具の効果などについて説明していくのだが、大丈夫だろうか。先ほどの通り、王妃様の身につける物としてはいささかシンプルすぎるのではないだろうか? まあ、私が気にすることではないか。
「あ、そういえば、ギルドにダンジョンの深階層の魔石を大量に売ったので、それらも売りに出されますよ。結構な大きさがありましたし、宝石に負けない輝きとかも――」
「そっちはもう主人におねだりしていくつか確保しているのよ。」
こんなシンプルな魔道具よりは見た目が宝石のような綺麗な魔石の方が興味があるんじゃないかと思って聞いたらすでに手を回していたらしい。
といっても王族といえど自由にできるお金には限りが有るようで、何でもかんでもというわけではないそうだが。
「うーん、そうね。ではこれをいただけるかしら。」
そう言って示してきたのは、最初に出した金色のリングが特徴的な指輪だ。模様が彫ってあるが宝石などは付いていないシンプルな奴で効果は防御力上昇だったが。
「分かりました」
「ありがとう。おいくら?」
「は? いえ、別にタダでいいですが。」
「さすがにそういうわけにはいかないわよ」
おっと、この辺はしっかりしているようだ。しかし本当にタダでいいんだが。というか価値とか分からないし。
「いえまあ…………ダンジョン攻略記念と言うことで、プレゼントします。」
「そう? ありがとう。なんだか悪いわね」
「悪いな、ノワール殿。ありがたく頂こう」
そう言うと、王妃様はちょっと遠慮した物の受け取ってくれた。
残りの宝類は今度ギルドに行ったときにでも売ってしまおう。武器防具類は手持ちであるし、アクセサリー類も以前パーティー用のドレスを買った際に一緒にそろえた。不自由はしていない。というかこの宝類は魔道具としての価値の方が強いからアクセサリーとして使うより売った方がいいだろう。
さてと、ここでお話も終わったし、お開きかなと思っていたが、
「以前も聞いたが、ノワール殿は蘇生魔法を使えるのだったな」
「あ、はい」
「まあ、ノワールさんはそんなこともできるのね」
王様が話題を変えてきた。王妃様は初耳の情報に瞳に好奇心をにじませている。
おっとこの話題かよ。嫌なんだよなぁ、回復魔法関連は教会なんて宗教組織が絡んでるらしいし。
「ノワール殿は教会には所属していないんだったな、なぜか聞いても?」
「まあ、特に理由はありません。強いてあげるなら冒険者の方が向いていると思ったからです」
というのは嘘で、教会というのがよく分からなかったからである。変に話を聞いて勧誘とかされても面倒だし。確か以前見た回復魔法の使い手は病院みたいなことをしていたし……せっかく色々貰って転生したのに会社みたいに一カ所に留まって延々と同じ作業をやらされるのもなぁ……給料とか安定はしているのかもしれないが。
「そうか、まあ別に強制ではないし問題ないのだろうが。そういえば蘇生魔法が使えるのならばアレックスも生き返るのかね?」
アレックス? アレックスってあのスライムに食べられた第二王子だっけ
「いや、さすがにあそこまでなっていますと――」
肉体やら魂やらの蘇生魔法の使用できる限界を話して聞かせる。蘇生魔法と行っても万能ではない訳で。
「そうか……死んでも問題ないとはいえ、やはり親としてはな……」
「お力になれず申し訳ありません。」
「いやいや、蘇生魔法の使用できる知り合いができただけでもよかったよ。人の死というのは避けられないのだろうが、国として死んでほしくない人物というのはやはりいるのでね。何かあった際には頼らせて貰おう。」
「分かりました。」
さて、今度こそ終わりだろう。長かった。紅茶は美味しかったけれど、王様の前なのでそれなりに緊張していたし、
「さて、もう結構な時間が過ぎてしまったな。ノワール嬢今日は色々と話させて貰ったが是非また機会があれば、お茶をしようじゃないか。」
「ありがとうございます。機会がありましたら」
え、嫌だよ。王様とお茶とか。茶葉だけ頂戴。
「またお話を聞かせてくださいね」
「はい、私でよければ」
王妃様もこれで終わりの様子で声をかけてくれる。
そうしてお茶会も無事に終了――
「父上! なぜ呼んでくれなかったのですか!」
――では無かった。
そう声を上げながら中庭にやってきたのは、以前パーティーの際に見た王子様だった。
割と早足でこちらに向かって来ているようだが、下品な感じはしない。イケメンって早足でも絵になるんだな。死ねばいいのに。
ただ、周囲のメイドさんなんかは予定になかった来客に慌てているようで、
「こ、こらっ、ルーカス! 何用だ!」
「そうよ、ルーカス。お客様の前よ。ちゃんとマナーを守りなさい」
王様や王妃様がやってきた王子様に注意した。王妃様は落ち着いた感じで注意しているが王様は非常に慌てている。何だろうか? 王様、めっちゃ汗かいているし
「申し訳ありません。気がはやってしまいました。父上、母上、せっかくのお客人です。私もこの歓談の場に混ぜていただきたいのですが」
「だ、駄目だ! おまえは仕事中だろう、早く戻りなさい!」
王様がめっちゃ焦りながら息子さんの参加にダメ出しをする。
「あら、別によいのでは?」
王妃様はよく分かっていないようで、参加に肯定的だ。私も王様が食い気味に否定する意味が分からんが。
ん? 視線をひしひしと感じる。
ふと見ると王子様が熱い視線を私に投げかけて…………いなかった。視線は私を通り越してティーアの方を向いていた。
……なん、だと……このスケべぇめ。やはりスタイルか!
その熱い視線はまさに凝視しているかのごとく――
「ゴホンッ!」
「――っ、失礼。父上、こういった交流の場を持つことも仕事ではないでしょうか?」
「他意は無いと?」
「もちろんです!」
ムムムと難しい顔をする王様。そうして出した結論は……
「こんな所に! まだ仕事中ですよ!」
王様が結論を出す前に、場に乱入してきた人がいた。
白髪の目立つ割とガタイのよい初老に男性が息を荒げながら私たちがいる場所に小走りでやってきた。
「王子、さあ、戻りますよ!」
「は、放せ爺、私にはやらねばならぬことが!」
「仕事のことですね。分かっております!」
そう言って王子の襟首をひっつかみ引きずっていった。
「ああー、せめてお話を~」
…………何だったんだ?
「す、すまない」
「い、いえ……」
場に気まずい雰囲気が流れる。
「ルーカスはよい王子だった――」
そう言って王様が唐突に語り始めた。
「ルーカスには婚約者がいるのだ。相手の令嬢は人柄が素晴らしく、家柄も全く問題ない」
さいですか、で?
「しかしあやつはなぜかアレックスと同じ道に走ったのだ……」
アレックス……確かアリシアさんの婚約者だっただろうか。そいつも王子様だっけ。
「時にティーア嬢……ルーカスのことはどう思う?」
……嫌な予感だよ、これは
「そうね、外見は整っているけれど内面はまだよく知らないわぁ。まぁ、私の好みでは無いわねぇ」
「そ、そうか、それを聞いて安心した」
王様に面と向かって「おまえの息子趣味じゃねぇよ」とか言っちゃうの。大丈夫?
「ふむ、ティーア嬢は気づいていると思うがアレは貴殿に惚れておる」
……え、ええー!? マジで
ほら王妃様やソレイユちゃんがびっくりした顔してるじゃん。私もビックリだよ。
「あの態度ならねぇ。でもさっきも言ったように失礼だけれど好みでは無いし、王様の懸念しているようなことにはならないわよ」
そうすまし顔で答えるティーア。本人は気づいているらしい。優雅に紅茶を飲みながら余裕の態度である。
「ティーア嬢がそうであれば問題は無い。これからも奴のアプローチがあるかもしれないが撥ね除けてくれ。多少の暴言程度ならば問題ない。」
「大丈夫よ。それにしても苦労しているのねぇ」
「おお、分かってくれるか」
私たちを置いてきぼりに、ティーアと王様が分かり合っている。王様はいかにも苦労していますと言った風な雰囲気を出している。
第二王子の王位継承権を取り上げた今、王妃様との子はあのルーカス第一王子だけらしい。それ以外は側室との子になる。 ……あ、ちゃんと側室とかいるんだ。
そのためこの事が知られると第一王子の継承権まで危ぶまれる。そうして側室の子の継承権が上がると伝統ある王家の血筋が云々かんぬん――
とにかく、第二王子を処分してしまったので第一王子も同じようにとは行かない。王様としてはなんとか本人に諦めて貰い正当な婚約者との仲を、と思っているそう。
「ホ、ホホホ、そ、そ、そうですわね。あの子にはちゃんとした婚約者がいるのですから、そのような、う、浮気のようなこと……」
ほら王妃様、カップを持つ手がプルプルと震えているし。どうやら事の重大さに気づいたらしい。
絶対、ぜーったいに断ってよ! とティーアに言い含める王様。
「と、ところでどうかな? ティーア嬢、いっそ私の側室に入るというのは」
「ごめんなさぁい」
「そうか、残念――いたぁっ!」
おっと、どういう流れかここで王様がティーアを口説き始めましたよ。本当にどういう流れなんだろうか。なんか王様が本気で残念そうなのだが。
そうして、その後王妃様の肘打ちが脇腹に決まったようだが。
まあ、そんなこんなで今度こそお茶会はお開きになった。