114 王様の相談
「おお、よく来てくれた。座ってくれ、さっそく話をしよう」
案内された室内ではすでに王様が席についていて、私たちにも席を進めてきた。その後ろには前に見た宰相さんと近衛騎士団長さんの他、兵士の人や魔導士っぽい人が立っていた。
ただアリシアさんやフラン夫人はいなかった。仲のいい知り合いがいないのでちょっと緊張する。
「では失礼します」
そうして私たちが向かいの席に座ると、
「後ろにいるのは、……こちらの2人は面識があるな。その他は我が国の将軍や宮廷魔導士たちだ。」
「はあ……よろしくお願いします。」
後ろにいる人たちが目礼してくるので、こちらも返しておく。
「それで、早速ですが相談と依頼というのは何でしょうか?」
「そうだったな、相談が1件、依頼……というか勧誘が1件あるのだが、まずは――」
そういって目配せすると後ろにいた人の一人が手に抱えていた荷物――お盆に乗っているような状態で布をかぶせて隠してある――を私たちが座るテーブルの上に置き、布をとる。
現れたのは人の……いや、腕のような形をした、しかし色は黒くプルプルとしたゼリー状の物体であった。
「実は以前のパーティーの際に魔物が王城に侵入しようとしてな。すぐに近衛兵が対応してくれたおかげでパーティーも無事に終わり、大事には至らずにすんでいた。そして、これがその魔物の一部なのじゃが……」
そうして目の前にある腕ゼリーを示す。
何だろうかこれは……最近ご無沙汰だった〈鑑定眼〉さんを使ってみる。
名称:ジェミニスライム
種族:魔物
レベル:80
能力:擬態
状態:死
説明:スライムから派生した特殊個体。捕食したものに擬態する能力がある。記憶等も一部模写されるため人間種に化けた場合言葉をしゃべる。特殊個体だけあって数は非常に少ないが、擬態を見分けるのは非常に困難である。
なんじゃこれ? 初めて見る魔物だ。珍しい魔物らしいがこれがどうしたのだろう。あと何気にレベル高いな。
「うむ、これはジェミニスライムという種で文献では捕食したものに化ける能力があるらしい。そしてこれが我が息子……元第二王子のアレックスに化けていたという証言を対応した兵士たちから聞いておる。そしてアレックスを調べた結果、数日前から姿を見た者はいないと確認した。……ここからが問題なのじゃが、ただ単にスライムに偶然捕食された、事故としてみれば何も問題は――息子が死んだのだから問題はあるのだろうが、政府として問題はない。だがこれが何者かによる事件だった場合が問題だ。現在近衛兵たちにも調べさせておるのだが、お主たちは様々なスキルを持っていると聞く。もし事件解決に何か有益な情報があるのであれば協力してほしい。」
おおっと、かなりヤバいぞこれ。これって事件だった場合、第二王子が殺されたってことだろ。王族殺しとか極刑物だろ。
まあ、容疑者として呼ばれたんじゃなくて捜査に協力しろってことなんで、最悪わかりませんとか言っても問題ないんだろうけれど。
大体、第二王子ってアリシアさんと婚約破棄したってことぐらいしか知らないし、面識すらないんだぞ。
そもそもどうやって協力したらいいのか分からない。このスライムの正体もわかっていたようだし、第二王子の部屋とかにもプロの捜査の手が入っているだろうし。
うーん……〈鑑定眼〉さんの出力を高めてみるか。実は私、たぶん〈鑑定眼〉の能力を十全には使っていない。〈気配察知〉と同じで全能力を使用すると情報量の多さで脳がパンクするからだ。以前それでブラックアウトしかけたことがある(18話参照)。
ちょっとずつ高めていくような感じで……ムムム
まずは名称の部分……変わらず。
次に種族とか他のものも……ムムム
種族:人造魔物(魔法によって作られた人造魔物。製作者:グロロバー)
能力:擬態(アレックス・フィレ・エドクス/エリナ・アン・ローズに擬態可能)
徐々にスキルを強めていった結果、まず変化したのはこの2項目だった。……グロロバーって誰だ? あとエリナ何とかさんは……聞いたことがあるような……ムムム
製作者:魔王軍16将軍グロロバー(知の悪魔)
……うん?
それ以上見ようとすると頭がズキズキとしてくるのでこの辺りが限界だろう。
「なあ? 魔王軍にいるグロロバーって魔族知ってる?」
「え? えーと……確かそんな奴がいたような…………待って、確か魔法研究とかしてるやつだったわぁ。昔、立ち寄った街で見かけたことがあるような……確か『僕はグロロバー! 偉大なる知を求める悪魔だ!』とか言って道端で叫んでいた変な奴がいたようなぁ……」
ティーアにコソッと聞いてみたら、どうも知っていたようだ。ティーアさんどんだけ顔広いの?
「えーと確か、青い肌で金髪だったかしらぁ……うーんそのぐらいしか知らないわぁ、別に知り合いでもないし」
……よく覚えているな。まあ肌や髪の色とか年齢で変わるものでもないので言っても大丈夫だよな。
「王様、私の〈鑑定眼〉を使用した結果ですが、まずアレックスの他にエリナ・アン・ローズという者も捕食されています。あとこれは人造魔物……魔族が作った魔物です。製作者はグロロバーという魔王軍の魔族ですね。ティーアによれば青い肌に金髪だったと……その程度でしょうか。」
「なんと! ノワール殿の〈鑑定眼〉はそこまで詳しく分かるのか。しかし……魔族に作られた魔物だと! となると今回の件は魔族による陰謀か? おい! まずは確認だ。エリナ・アン・ローズは……確か牢にいたはずだ。調べるように部下に言っておけ!」
「はっ!」
将軍だと紹介された人にエリナという人を確認させるらしい。ていうか、エリナってホント誰だっけ?
「あと、そのグロロバーとかいう魔物だが魔王軍16将軍というのは間違いないのか?」
「えっと、私も〈鑑定眼〉で見た結果ですので……信じる信じないはそちらの自由ですが」
「ふむ、魔王か……厄介だな。」
そうして王様は考えこんでいるようだが、少し考えこんだ後に、
「いや、ありがたい。それだけ分かっただけでも良しとしよう。魔導士長、今の情報は聞いたな。今の情報も頭に入れ捜査を続行してほしい」
「はっ、わかりました」
今度は同じく後ろに立っていた魔導士の一人が返事をした。あの人が魔導士のトップらしい。
「さて、まずは相談事が片付いたな。」
「このぐらいでよいですか? 遺留品の捜査などはプロの方に任せた方がよいと思いますが。」
「うむ、十分だ。」
王様のお墨付きもいただき、これで相談事というのが片付いた。