112 お引越し
――1日目
屋敷の掃除をしようと思う。まずは家具類を運び込む前に徹底的に綺麗にするつもり……だった。
私たちは自分たちで掃除するつもりだったのだが、どうやら貴族――貴族街には掃除専門の業者と言うのがあるらしい。
まあ確かに高価な物とかもあるだろうし、早々素人には任せられないのだろう。でも、普段屋敷の掃除なんかをしているのは使用人だと思ったのだが……
日常的な手入れは使用人が行うが、年に数回とか大規模な模様替えの時には呼ばれるらしい。
フラン夫人の邸宅を掃除している業者を紹介してもらった。
そうして業者の人たちに掃除をしてもらって、私たちは基本見ているだけだった。
家具も何もないから指示のしようもないしね。
前世なども掃除サービスなどは利用したことが無かったが、さすがにお金を払っているだけあって丁寧かつスピーディーにピカピカにしてくれた。
床なんてワックスがかかっているし、天井や屋根裏まで掃除してくれた上に、井戸の内部の苔掃除なんかもしてくれたようだ。庭も不要な雑草を抜き綺麗な芝生が広がっている。
門や柵などの金属部分もピカピカになって新品のようだ。
そうして1日かけて我が家は新築のようなたたずまいとなった。
――2日目
フラン夫人が選んでくれたお店に家具を買いに行った。
さすがに貴族御用達と言うだけあって高級感のある店構えに、広い売り場面積を誇っていた。一応サンプル品なども展示して見て選べるようになっているので、広い面積が必要なのだろうことはわかるが貴族街にこれだけ大きな店を構えるのは結構かかるのではないだろうか?
フラン夫人の紹介状を見せるとすんなりと店内へ案内してもらえ、色々と店員さんが勧めてきた。
「ご主人様ぁ、あれなんかいいんじゃないかしらぁ」
そう言ってティーアが眺めているのはベッドだった。キングサイズ? ベッドなんてよく知らないが5人ぐらいが寝れるようなビッグなサイズのベッドが飾ってあった。
大きな部屋なら入ると思うんだがあれだけ部屋数があるんだから別に一緒の部屋じゃなくてもいいんじゃないのと思う。安宿に泊まっていた時ではないんだし。
「広いベッドは良いと思うが、別に全員で同じ部屋に居る必要もないんじゃないか? あれだけ広い家なんだし。」
「だからよぅ、一人でいると寂しくなるじゃない?」
「そ、そうですね。」
ソレイユちゃんも乗り気らしい。まあいいか。
そう思い、この店で一番大きなベッドを買う。
ちなみにこういう大型家具をどうやって家に運び込むのかと言うと、アイテムボックスである。特にここは貴族御用達の店なので、アイテムボックス保持者が従業員をやっている。扉や窓から入れられないような大型家具もアイテムボックスなら難なく部屋の中に入れられる。
平民の家具店などだと分解して運び込んだ後、部屋の中で組み立てたりするらしい。
他にも衣装タンスや本棚、ドレッサー、ソファーに絨毯など買っていく。
ダンジョン攻略者でお金持ちな私たちは値段など確認しないのだ!
そうして思いつく限りの家具を購入した。足りなければ後日また買いに来ればいいだろう。そう急ぐものでもない。
「ありがとうございます!!」
店を出るときには従業員一同でお見送りしていただいた。まあ、1つの家の家具全てをここで一気買いしたからね。お金も結構使ったからね。
その後、魔道具店に行って、家の状態を見てもらうようにする。さすが貴族の家らしくあの家の照明は魔道具だったのだ。そのため、照明から魔力を通す配線が延びて家の中央バッテリー(削り出した魔石)につながっている。魔力が無くなったら交換するのでバッテリーというよりは電池のようなものだが。
今からやると夜になってしまうため、明日確認に来てもらうよう依頼しておく。一応追加料金で夜に工事をすることもできるようなのだが、私がちゃんと睡眠をとりたいのでやめておいた。
――3日目
昨日、家具を買った後、アイテムボックス持ちの従業員に家に来てもらい、家具を置いて行ってもらった。一番大きな部屋をベッドルームとし、そのほかには私専用の書斎も作った。あと、冒険者用の装備品関係を置く部屋も作ったが、基本的に武器類はアイテムボックスか持ち歩くのでいつもはガランとしている。
それでも部屋が余った。
今日は、家の中に家具がそろったのでアイテムボックス内に入れてあったアイテム類を家具に仕舞っていく。
着替え類は寝室のタンスへ、調理器具や食器はキッチンへ等。
本棚はスカスカだ。本は持っていなかったからね。これから揃えて行こう。
それと、魔道具店の技師に家の照明関係の配線も確認してもらい問題ないことを確認した。ただバッテリーの魔石は古かったので交換してもらった(有料)。
その後、このあたり一番だと有名な菓子専門店の菓子折りもってメリノ君の家に行った。山吹色のお菓子は仕込んでいない。
「今までありがとうございました。」
「ありがとうございました(ぁ)。」
「いえいえ、また何時でも来てもらっていいのよ」
今日から、私たちの家で暮らすためメリノ君とフラン夫人にお礼を言い家を後にする。
「あ、あの! 本当に、何時でも来てもらっても、何なら明日でも!」
「いや、さすがに明日は……」
メリノ君がなぜか必死に呼び止めてきたが、さすがに明日明後日にこちらに戻って来るなんてことにはならないだろう。
とにかくお別れを言いメリノ君たちの家を後にした。使用人の人たちも玄関に出てきて見送ってくれた。
いい人たちだったな。メリノ君は寂しがりなのかもしれないし、また遊びに来るのもいいかもしれない。
そうしてようやく我が家へとやって来て、
あ、食料がない……
食料品の買いだめなんぞしていなかった。保存食類はダンジョンに潜っている間に消費してしまったし、その後はメリノくん家でお客様として食事は用意してもらっていたので。
仕方がないので夕食は外食とした。この貴族街ではそれなりに有名なレストランらしい。
「さすが高いだけはあるな。美味しい。」
うむうむ。完全個室で専用のウエイターがつくという高級店だけあって、店の内装も上品だし、料理の味もいい。
「ムードがいいわねぇ」
「おいしいです」
お金持ちの私たちにはこんなことも許されるのだよ。お金って良いよね。
夕食が終わった後は家に帰ってベッドにダーイブ‼
むろん着替え済みだ。風呂は……今日はいいや。風呂関係はこの世界に来てから少しズボラになっているみたいだが気にしない。
前世で毎日ヒゲをそっていたり、少し風呂に入らなかったら体臭を気にしていたのが懐かしい。どういうわけか、今は数日風呂に入らなくても普通に女の子の香りがする……女性フェロモンの強さだろうか?
「うぉう!」
見ると、ティーアがスケスケネグリジェを着てベッドに……まあ肝心なところは隠れていますが。こう、フェチズム的なエロさがありますね。
私とソレイユちゃんは薄手のタンクトップ(っぽい物)にハーフパンツ(っぽい物)を寝間着代わりにしている。
ソレイユちゃんは、健康的な美しさというやつがあるね。
そうして大きくお高いベッドで初めての夜を過ごすこととなった。
みんなで川の字になって眠りについた。
エロい事? ありませんが?
ただのお引っ越し回です。
なかなか次の「魔王討伐編」に進めない……