閑話 勇者ヤマモト 7
久しぶりに王都に帰ってきた。
魔王を倒す旅の途中で引き返すことになってしまったがこれには理由がある。
これから王城に行き報告しなければならないことがあるのでござるが、そのことを考えると頭が痛いでござる。
◇◇◇
ヒャロンとリタが結婚。同じくガウリールとゲイルが交際中。オルフはぎっくり腰。
結果勇者パーティーは解散になってしまったでござる。
「国王陛下、このたびの件、大変申し訳なく思います。」
「申し訳ありません。だがヤマモト様も我々に賛同してくださいました。」
「教会には私の方から事情を説明し、代わりの人材を回してもらう予定ですのでなにとぞお許しください。」
寿退社する3人がそれぞれ王に言葉を述べる。(リタは元奴隷のため黙っている。)
「そ、そうであるか……」
ほ、ほら、王様も困惑顔でござるよ。どうするでござるかこの空気。
「ゆ、勇者殿はそれでよいのか?」
こっちに話題を振らないでほしいでござる。王様なんだからそっちで決めてほしいでござる。
「はっ、吾輩は問題ないでござる。もともと我々は魔王を倒すことを目的としていましたが、それは目的ではなく手段であったと考えるでござるです。では最終的な目的とは何か? それは人々が安心して幸せに暮らせるようになることでござろうと吾輩は思いますでござる。」
「う、うむ。確かに勇者殿の言うとおり、魔王討伐は目的ではなく手段と考えてもいいな……」
「はっ、であればそれぞれの幸せを見つけた4名はその目的を達成したのではと考える次第でござります。」
「う、うむ?」
「それに考えてみれば、魔王討伐とは非常に困難な任務。死ぬことすらあるでござろう。そのようなところに伴侶のいるものを送り込むのは吾輩としても気が咎めるでござる」
これは言外に次パーティーを組む際は独身女性を入れろということを含んでいる。
以前見た聖女様とかが良いでござるね。
「そ、そうか。さすがは勇者殿だ。そこまで考えてくれるとは、国民を代表する者としても嬉しい限りだ。……分かった。ガウリール、ゲイル、オルフ、ヒャロンのパーティー離脱を認めよう。勇者殿には申し訳ないが再度手練れの仲間を集めるまで我が城で休んでいてほしい」
「はっ、分かりましたでござる」
こうしてパーティー解散は正式に認められることになった。
そうして数日後、再び謁見の間にて、王とヤマモトは向かい合っていた。
「勇者殿はなぜこのカモンヴェール王国が勇者召喚を行ったかは話したのだったかな?」
「いえ、しかし仲間たちよりおおよそのことは聞いておりまする。」
この世界には複数の国がある。その中の一国であるカモンヴェール王国が勇者召喚を行った理由それは、表向きは各国の話し合いによる決定であった。
魔王が現れ、魔物が活発化した場合、各国は軍や冒険者に魔物に対応させるとともに、勇者により大元である魔王の討伐を任せてきた。
勇者を召喚するということについては、大きな戦力を国に抱え込めるというメリットはあるが、儀式のために多大な資金がかかるという事と魔王を倒さなければならないという義務が生じる。
資金の捻出できない小国にとっては他国に任せたい事柄であった。逆に大国にとっては名を上げるまたとないチャンスとなっている。
なお召喚の条件として〈聖女〉の存在があるが〈聖女〉は教会の所属であるため各国の話し合いで決まった国に出向させ儀式を行うと言うことになっている。
数百年前には各国ともに平等に義務を負担しようと、各国が資金を出し合い、教会から派遣された〈聖女〉により複数回の勇者召喚を行っていた時期があるらしい。その際は一度、勇者たちが纏まって、魔王を素早く倒したそうなのだが、そういった例はそのときのみで、その後は、それぞれの勇者が勝手に動き連携できず、さらに資金を出したのに勇者を擁する国が手柄を独り占めにするのではと国同士が足の引っ張り合いをした結果、儀式による国庫の疲弊と魔物の被害が相まって、復興までに多大な年月がかかったということが起きている。
その教訓を踏まえ、現在では各国による話し合いの元、資金的余裕のある大国のうち一国が一人の勇者を召喚し他の中小国はバックアップを行うと言う事が通例となっている。
今回勇者召喚を行ったカモンヴェール王国は領土的にはそれほどではないが交易の中継地点として名をはせる裕福な国の一角である。
なお勇者たちが過去一度連携出来た際には〈勇者王〉と呼ばれるスキルを持った、勇者が他の勇者達をまとめ上げ魔王に対抗したのだという。
「それで、我がカモンヴェール王国の友好国である、エドクス王国から打診があった。彼の国は勇者殿に勝るとも劣らないレベルの人物を擁しているらしい。その者たちを勇者の供として加えてはどうかとな。」
中小国にとって勇者召喚は行いたくないが魔王討伐の栄誉はほしい。勇者召喚を他国に取られた大国は何とか巻き返しを図ろうとする。
であればどうするか。魔王を自国で討伐すればよい。そのためには、一つは自国にいる人材で魔王を討伐することであり、もう一つは勇者パーティーに加わることである。実際にカモンヴェール王国は何ヶ国からも打診を受けている。
各国がこのタイミングで声をかけてくるということは勇者パーティーの解散がどこかから漏れたのかもしれない。しかし実際問題として、勇者パーティーは解散しその補填の人材を集めなければならない。
そのため、各国の中では友好国であり比較的不利益の少なそうなエドクス王国の打診を受けることとなった。
「現在のエドクス王は賢王と名高い。ただの親切心ではないであろうが、そこまで心配することは無かろう。勇者殿、貴君は今からエドクス王国に行きその人材を見極めてきてほしい。そして問題が無ければその者たちをパーティーに加えて魔王を討伐するのだ!」
「はっ! 了承いたしましたでござる。」
そうして勇者ヤマモトはエドクス王国へと旅立った。
◇◇◇
エドクス王国へは数週間かけた旅路だったものの、国王への謁見は素早く行われた。
カモンヴェール国王が旅路の用意とエドクス国王への書状をしたためてくれたためであるが。
「疲れたでござる」
馬車に数週間揺られていたヤマモトは思った。ゲームみたいにもっと素早く移動できる手段は無いのでござろうかと。ワープ機能とまではいかないまでも、竜や飛行船などRPGには様々な乗り物が登場するのに。
そうこうしているうちに衛兵に国王陛下への謁見が許され、謁見の間へと通される。
「そなたがカモンヴェールの勇者ヤマモトか?」
「はっ! そうでござる」
国王と思わしき壮年の男性が玉座から声をかけてくる。こちらは玉座から伸びるレッドカーペットの上で片膝をついたまま答える。
「そうか。カモンヴェール国王より勇者殿はすでに100レベルを超え、魔王の腹心すら倒したと聞いている。それ故に今回のパーティー解散の件についてはワシも残念に思う。」
「ありがとうございます。しかし彼らは自身の幸せを見つけたのであれば、どうか、残念がるのではなく祝福してやってほしいのでござる。」
「ハッハッハ! 今代の勇者殿は誠に人格者であるらしい。ならばこちらも安心して彼の者らを預けられるというもの。」
王様はそう言うが、吾輩は嫌な予感をひしひしと感じているのでござる。近衛兵と思しき鎧を着こんだ者たちが両脇に並んでおり、国王の両脇には貴族っぽい老人と鎧を着こんだ屈強な人物。おそらく文官と軍人の代表であろう。近衛兵も含めてこの部屋には今、男しかいないのでござる。
誰がパーティーに加わってもバッドエンドである。
「来ていただいて早々で悪いが、勇者殿に同行させてほしい者を紹介するとしよう」
「はっ!」
はっ! とか言ったでござるが心の中はどんなマッチョマンが出てくるのかびくびくでござる。
今も、隣の軍人さんと国王様がアイコンタクトでウンウンとやっているでござる。あの軍人さん自らが名乗り出るのでござろうか。
「ふむ、では将軍。」
「はい、では皆、入ってきなさい」
そう言うと、後ろの扉が開かれ――
「吾輩の時代ッ!! キタ――――――ッ!!」
ついに勇者王の謎が明らかに。
あと「閑話 勇者ヤマモト」はここで終わりです。ここから主人公さんと合流する予定。(閑話自体は後1話予定があります)