106 レッツパァリィィィ! 2
1~2話更新といったな。あれは嘘だ。
「アリシア様!」
「アリシア様、お久しぶりです。」
パーティーが始まると、アリシアの周りにご令嬢たちが集まってきた。アリシアってモテるの? とノワールは思ったりもしたがどうやら違うらしい。
「あら、お久しぶりですわ……もうエリナ様の方はよろしいのですか?」
アリシアが挨拶を返しているが、多少声がトゲトゲしている。
「あのような犯罪者のことなどもう良いではありませんか」
「婚約者がいる男性に言い寄るような女性のことなど話題にもしたくありませんわ。」
「今思えばアレックス様も不誠実な方でしたわ」
そのようなことを口々に言いながら近づいて来るご令嬢たち。それに対して、少し嫌そうな顔をしたアリシアだがすぐに笑顔に戻って対応している。
「あら、都合がよろしいのね」
「何を言いますの、アリシア様。私は最初から信じておりましたわ」
「ええ、私もですわ。」
まあ、あのパーティーの場で率先してアリシアと糾弾したのは王子を含め取り巻きの貴族令息数名で、その他は賛同するようなことはあっても明確に立場を示したものは少なかったためこういったことを言ってあっさりと手のひらを反してくるのだろうが。
アリシアとしては心の中で「プライドは無いのか」と毒づいていた。といっても、それを口に出さない程度の常識はわきまえているが。
「ふう、まあいいですわ。ここは祝いの場。皆さん楽しみましょう。」
「ええ、そうですわ」
「あちらに私の両親がいますの。ぜひアリシア様に挨拶をと言っておりましたわ」
「あ、ずるい。わ、私の両親ともぜひ!」
そう言いってアリシアは令嬢をひきつれてパーティー会場を移動していった。
◇◇◇
「カーマイン男爵。少しよろしいですかな?」
「はい? ゴホンッ!……失礼しました。オルガ男爵」
急に貴族の人に話しかけられて変な声を出してしまったカーマインだったがすぐに立て直す。
「ハハハ、そう固くならず。新興とは言えもう貴女も貴族の一員なのですから」
「そうですぞ。もっとどんと構えなされ。」
また別の貴族がカーマインに話しかけてくる。
「あ、はい、すみません。慣れないもので……」
「ハハハ、まあそうでしょうな。」
周りの貴族の同意に、カーマインは苦笑いを返す。こういった場とは無縁の彼女であればこういった態度も仕方ないのかもしれない。
「おい、来なさい。」
「は、はい!」
そう言って、先ほどの貴族が呼ぶと年若い青年が返事をして近づいて来る。
「は、初めましてカーマイン男爵。」
近づいてきた、年若い青年は緊張した面持ちでカーマインに挨拶をする。
「こちらは、私の息子なのですが、ぜひともカーマイン男爵と懇意にと思いましてな……失礼ですが、カーマイン嬢は良い相手はいるのですかな?」
「いえ、お恥ずかしい話ですが、この年になってもまだ……」
「おお、それはよい。どうですかな家の息子は? こう見えてなかなかに優秀なのですが」
「な、ずるいですぞ! おい、こっちにきなさい」
また別の貴族が、息子と思われる青年を呼ぶ。そうして呼ばれて寄ってくる別の青年。
「私の倅です。実はこの年になっても良い話の一つもないというのが困りものでしてな」
「は、はぁ……」
カーマインさんの近くには貴族とその息子が群がってくる。それに対してどう対応していいのか分からずオロオロとしているカーマイン。
頼みの綱のアリシアはすでに令嬢と共にどこかに行ってしまっている。
この場は自分で乗り切るしかなかった。
◇◇◇
「さて、私たちはどうしようか?」
「お料理美味しそうですね。」
「これってパートナーがいた方が良かったのじゃないかしらぁ?」
アリシアさんは令嬢たちとどこかに行っちゃったし、カーマインさんは他の男爵家等家柄の近しい者たちに囲まれている。
アリシアさんはどうやら嫌いな人に囲まれているのだろうか? 少し不機嫌な様子だ。
カーマインさんはこの場で結婚相手が決まりそうな勢いでイケメン貴族令息たちが群がっている。
私たちはどうしよう。
ソレイユちゃんはお料理に目が言っている。いつから食いしん坊キャラになったの?
「おお、あなたが件の冒険者ですな」
「冒険者と言うのはもっと粗野なものかと思っておりましたが」
「陛下から直々にお言葉を賜るとは素晴らしいですな」
「なかなかにお美しい、どうですかな? 私にエスコートさせていただけませんか?」
私たちの周りにも貴族たちが群がってきた。といっても、私たちはアリシアさんやカーマインさんのように名前どころか貴族位すらも分からない。
全員貴族かその子息で私達より上の立場と言う事しか分からない。
「ぜひともお話を――」
「どうですかな? 今度我が家でパーティーが――」
「実は息子が――」
色々と話しかけられてくるが適当に切り抜ける。一応内容をちゃんと聞き変に失礼にならないように曖昧な返事をしているがキツイ。
顔に張り付けた笑みもちょっと痙攣してきた。
そんな話が続くのかと思いきやBGMが変わってきたことに気付いた周囲の者の動きが変わってきた。
「おや、どうやらダンスの時間のようですな」
「ではひとまず失礼を、」
「ハハ、家も妻がいるのでね。ノワール嬢、また後で」
私たちの周囲にいた人たちも何人かはちゃんとしたパートナーがいるのであろう。パートナーたちの所へと戻って行った。
数名残ってはいるが、この人たちはパートナーがいないのだろうか。
「どうですか、私どダンスでも――」
そう言って誘ってくる男性がいた。どうやらパートナーがいないようだ。こういう場合は断るべきなのだろう。壁の花という物を聞いたことがあるが、さっさと壁際に移動しておくべきだったか?
そんなことを考えていると、ザワッ! と周囲がザワついた。
決してうるさいわけではない。なんというのだろうか空気が緊張したというか張りつめたというか。そう言う感じがする。どうしたのだろうか?
その時周囲の人だかりが割れた。
……誰だ?
その割れた人垣の中を悠々とこちらに歩いてくる人物がいる。
年のころは二十歳ぐらいだろうか。淡い金髪のイケメンである。
ホントにお前誰だよ!?
ただ、周囲とは明らかに一つ格が違う。何が違うのかと言われても答えられないのだが、雰囲気とかオーラが違う。
そうして、その男性は私たちの方にゆっくりと歩いて来て――
――ティーアの前で跪き手を取りその甲にキスをした。
「レディ、私と踊っていただけませんか?」
やっべ、初めて見たよ。何あれ?
その青年は乙女ゲームの主人公のようにキラキラしたオーラをまとって、上目づかいでティーアを見ていた。
対するティーアは――
「あら、よろしくてよ」
微笑みながら堂々とダンスのお誘いを受けていた。
そしてまた周囲がザワッ! となった。
◇◇◇
ダンスの一番目の相手というのは色々と意味があるのだが、今回の場合それぞれのパートナー、つまり妻であったり婚約者であったりと一番近しい相手ということになる。
ただそれに当てはまらない者もいる。今回パートナーを連れてきていない者たちだ。未亡人であったり、婚約者がまだいなかったりと理由は様々ではあるが。
そう言った者たちは一番ではないがそれなりに親しいものにまずダンスを申し込む。日頃から懇意にしていたり、子供であれば学院で仲が良かったりと。
ただしそれは周囲から邪推されないように周知されている必要がある。
なおメリノ君はこの分類である。
メリノ君は母親の手を引き――身長差があるが――ちゃんと踊っている。
さて、それすらもいない人たちはどうするか。観客になるのである。
実際、一定数は今のダンスタイムになると壁際に移動し始めている。踊る際邪魔にならないよう端から眺めるためである。
◇◇◇
「これは美味しいです」
ソレイユちゃんがモッキュモッキュと料理を食べている。さすがに1番初めにダンスに誘われるようなことはなかったため壁際で観客として、手にした料理を咀嚼しながら他人のダンスを見ている。
私も、今は壁にもたれかかりながらワイングラスを傾けている。
と言っても中身はブドウジュースだけれど……
この世界に来てからは18歳になったのでアルコールは避けている。この世界ではアルコールに関する取り決めは無いのだが習慣として。元々それほど飲酒する方でもなかったし特に酒をくれぇ~という状態にはならない。
当然、ダンスはソレイユちゃんと同じで1番目に踊る相手というのはいない。
私とソレイユちゃんは一応騎士爵であるが名誉称号であるため、さすがに1番親しいとされるお相手に選ぶ者もいなかったようだ。本パーティーの主役ではあるが、ぽっと出の名誉貴族と噂になるのは避けたいようだ。それに、フーカ公爵家への配慮という面もあるのだろう。
一応興味の視線だろうか、チラチラと感じていたので2曲目か3曲目には誘われるかもしれない。
ダンスのレッスンはフラン夫人から受けているので私も最低限踊れる。
なお、観客となって見ているのはティーアと謎の男性、それとメリノ君と母親。あとは……アリシアさんは誰か知らない男性と踊っているな。誰だろうあの人? 歳のいった渋めのオジサンなのでさすがに恋人とかではないと思う。と言うか婚約破棄されてからそういった話を聞いていない。
カーマインさんは同じく壁側で観客としてアリシアさんの方に視線を向けている。
ティーアは……あのイケメン誰だ? 本当に。1番目にダンスに誘う意味と言うのは私も教えてもらって知っている。が、ティーアにあんな知り合いがいたというのは知らない。私が知らないだけで、実は交友関係が広かったりするのだろうか? 私たちの知らない場所で密会していたり……う~ん、分からん。
パーティーの主役なのにダンスは観客側の主人公さん……