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105 アホが一匹

「ほう、こちらが『宝』ですか。」

「思ったよりも質素ですな」

「君、これはどういった物なのかね?」


 王家へと送られたアイテム類がパーティー会場にてお披露目されている。

勿論、盗難防止のため、各アイテムは台座に固定されており、更に1つにつき1人の衛兵が説明係兼警備としてついている。


 その一つを見ながら貴族の男性数名が説明を求める。見ているのは今回飾られている中では一番質素に見えるもので、正八面体の形状をしている。


「はい、こちらは結界を張る魔道具。そのレプリカとなります。」

「レプリカだと?」

「はい、こちらの魔道具により張られた結界は魔族や魔物に対して絶対の効果を発揮するため、調査が終わり次第王城の警備に使用されております。ですので、申し訳ありませんが現在飾られているのはレプリカとなります。本物は表面が虹色に輝いており非常に美しいのですが。」

「ほう」


 ここにあるアイテムは本来であれば本物を飾るので予定であったのだが、この結界を張る魔道具のみは王城の警備に非常に有用なため、鑑定が終わり次第使用している。

 そのため現在はパーティー会場にあるのはレプリカになっている。


「ふむ、一度見てみたかったですな」

「ええ……君、魔物に対する結界と言う事であったがどの程度の物なのだね?」

「宮廷魔導師の鑑定結果ではLv300代であっても魔物であれば侵入は不可能な結界を張れるとのことです。また細かな設定なども可能であるため、今回のパーティーでは参加されているティーア様が除外対象として設定していると聞いております。」

「ほう、Lv300! それならば魔王が襲ってきても安心だな」

「そうですな、しかし……君、先ほどティーア嬢といったか? 彼女は?」


 貴族男性が警備兵の言葉を聞き疑問に思う。ティーアと言うのは今回のパーティーの主役である冒険者の一人であったはずだ。そう思い先ほどティーア達のいた場所に視線が向けられる。


「はっ! ティーア様はサキュバスであると伺っております。」

「な、なんと!」

「あの美貌で……くっ、ぜひとも家に欲しかった――」

「そ、それは、ぜひとも夜のお相手など――」


 警備兵の説明したサキュバスと言う単語に反応した周囲の貴族男性達の顔が一気にだらしなくなっていった。


「まさか他の者も……」

「いや、あのノワール嬢といったか。彼女は獣人だろう? ソレイユ嬢は人間か?」

「すみません、そこまでは……」


 他の物も興味が湧いてきた男性が警備兵に聞いているが、彼はそこまで物知りではない。


「まあいずれにしても、公爵が囲っていなければ側室にしても問題ない美しさですな」

「フフフ、お若いですな」


 と、魔道具から少し話が脱線していくことになるが、立派なコミュニケーションの場となっていた。


 ◇◇◇


 王城正門――

 

 本日の近衛兵はかなりの人数を動員して警備にあたっていた。

 正門へ来るのはすべて大物貴族やその子息であり、ある程度の貴族のマナーに精通している必要がある。

 

 基本的の近衛兵は位の高い者――貴族の子息など出自が確かな者のみを受け入れており、現在正門を警備している兵たちも腕っぷしだけでなくある程度の学を持っている。

 とはいえ肩書は一兵士であり王城内で今行われているパーティーには無縁の存在だった。


「あーあ、今頃は王城内で美味いもん食ってんだろうなー」

「そう言うボヤキはもっと小声でやれよ」


 王宮近衛兵と言えば兵の中でも憧れの部署の一つであるが、今警備している者はあまり熱心ではないのかもしれない。


「俺も行きてーな。綺麗な令嬢たちとダンスを踊ってさ」

「いや、だからそう言うのはっと――」


 そんな話をしていると、正門に近づいて来る1人の影があるのを兵士の一人が見つけた。


「止まれ! 王城に何用か!」


 すぐさま兵士たちは仕事モードになり手に持った槍を交差させ正門の通路を塞ぐ。パーティーに参加する貴族であれば馬車で来るため、現れたのが一人でしかも徒歩ということで警戒する。

 そうして誰何した兵士たちの前に現れたのは――


「――っ、ア、アレックス王子!」

「やあ、お仕事御苦労さま」


 アレックス王子が暗闇の中から出てくる。その姿はいつもと変わりないように思えた。そうまるで王城内を移動するような軽装で。


「し、失礼しました。……あの、アレックス王子御一人ですか? 供の者などは……」

「いや、僕一人だよ。父上は王城にいるんだよね?」


 兵士達は王子がこのような時間に城の外に一人でいることを不審に思いアレックスに質問をするがアレックスはなんでも無い様に答え、逆に兵士たちに質問を返す。


「は、はい、今はパーティーの最中かと」

「そう……通ってもいいかな?」

「し、失礼しました!」


 アレックス王子が問いかけると、兵たちはいきなりの事に槍で通路を塞いだままだったのを思い出し、あわてて道を開ける。


 そうしてアレックスは、両脇に寄った兵士の間を堂々と通り抜け、王城に入ろうとして――


「アババババ――


 バチュン!!


 ――爆発した。



「――!? え? お、王子!?」

「……な、何だ!?」


 無論、周囲にいた兵士はパニックである。王城に入ろうとした王子がいきなり爆発したのだから。


 王子が通ろうとした王城の敷地の境界には青い光が波打っていた。


「な、なんだこれ!?」


 何があったのか分からない兵士たちが騒ぎ始める。


 そうして混乱している兵士たちの横で、破裂したアレックスの体のパーツがウネウネと動き一つに纏まろうとしていた


「え、な、なんだこれ!?」

「これってあれじゃないか!? 対魔族用の結界だ。確か冒険者が陛下に献上した魔道具が数日前から使用されているって聞いたぞ!」

「お、俺も聞いたぞ!」

「じゃ、じゃあ、あれは王子じゃなくて魔物だったてことか!?」


 そんなやり取りをしている間に、形が崩れた元アレックスの各パーツは徐々に集まって行き巨大な黒いゼリー状の物体となった。


「おのレぇぇべぇ!! 人間ゴとギがぁぁぁ!!」


 黒い物体から人の顔のようなものが生えてきて、高音や低音の混じり合った言葉を発する。

 その顔はアレックスの形をとったと思ったらすぐに形を変えエリナの形をとり、そうしてまたすぐに別人の顔になった。


「なっ…… 魔物だ! 王子に化けた魔物が侵入しようとしているぞ!」

「応援を呼べ!!」


 すぐに慌ただしくなっていく正門前で元アレックスであった魔物が暴れはじめた。

ネタバレですが、アレックスさんの魔物はこのまま兵士たちに倒されました。


103話とこの話は主人公は関わりません。

この話は主人公のいないところでも物語は進んでいるということと、兵士だって仕事するんだということで書いています。

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