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103 暗躍する者たち

シリアスがあります。ご注意ください。

 王城内アレックス王子私室――


「くそっ!!」


 アレックスにより投げつけられた書物が大きな音を立て壁にたたきつけられる。

 国王に王位継承権の剥奪を言い渡されてから彼は荒れていた。

 周囲には乱雑に扱われた家具の類が散乱しており、破損した家具類なども見受けられる。


(全てアリシアの罠だというのになぜ皆わからないのか! さらに私とエリナを罰するだと!)


 彼は自分達は悪くない、すべてはアリシアの罠だという考え……妄想にとらわれており周囲にもそれを主張した。しかし今更耳を貸すものなどいない。

 すでにアレックスの継承権剥奪と左遷は王宮の隅にまで知れ渡っており、使用人まで彼を腫れ物に扱うかのように対応している。

 この部屋にも数日間にわたり使用人が入っていないため掃除などをする者がおらず、散らかり放題となっていた。

 扉の向こうにはいるのであろう使用人は彼の生活の補佐と言うよりは監視目的でつけられたものである。それらも今現在は最低限の人数となっている。


「おやおや、荒れていますね」


 不意に室内に男の声が響いた。

 アレックスがいぶかしんで声のした方を見ると部屋の片隅にローブを目深にかぶった人物がぽつんと立っていた。


「誰だ、貴様?」


 アレックスがその不審人物に対して質問を投げかける。

 そもそもこんな怪しい恰好をした人物などこの王城内にはいない。


(なんだこいつは? 使用人ではないな)


 すぐにアレックスもその答えに行きついたようで、疑問が頭を占める。

 そもそもいくらイライラしていたとはいえ、誰かが扉を開けて入ってきたら気付くはずである。


「貴様、使用人ではないな。どこから入ってきた?」

「まぁまぁ、そのようなこと、いいではありませんか」


 男はフードからわずかに見える口元に笑みを浮かべながらアレックスへと話しかける。


「今俺は機嫌が悪い。さっさと出て行け!」


 そのような態度にいら立ちを覚えたアレックスが男に怒鳴る。


「分かっていますよ。あなたは悪くない。悪いのは国王陛下だ。そうでしょう。」


 そのローブの男はアレックスの言葉には答えず、ねっとりとした言葉を王子に投げかける。

 

「う、うむ…………まて、だから貴様は誰だ!?」

「それは重要なことですか? 王子、彼らを見返してやりたくはありませんか」

「何? そのようなこと……」

「出来るのですよ。簡単なことです。そうしてあなたが王太子となりエリナ様と結ばれることも可能なのです。」

「何、エリナと!?」

「ええ」


 そう言いながら男が近づいてくる。アレックスは王位継承権を剥奪されたとはいえ未だに王族であることに変わりは無く怪しい人物を不用意に近づけていいものではないのだが、先ほど会話に出てきた王太子とエリナ言う言葉により警戒感を薄めていた。


「こちらをご覧ください」


 男が目の前まで来て懐から黒い水晶玉のようなものを取り出し、アレックスの目の前に持ってくる。


「なんだこれは?」


 アレックスはその水晶玉を覗き込むが一体何なのか分からない。表面は凹凸もなく綺麗な球形なのだが何も映らずただただ黒い。


「もっとよく見てください。……そうです。もっと!」


 アレックスが覗き込んでいる水晶が突如輝き始めた。


「な、何だ!?」

「目を逸らしてはいけません。受け入れるのです。そうすればこの国はあなたの思いのままとなるでしょう。エリナ様との恋も成就するのです。」


 突然のことに、あわてて顔を逸らそうとしたアレックスだが、ローブの男が顔を掴み固定する。それほど強い力ではないにもかかわらず、アレックスはそれに従いさらに水晶を覗き込み――



 ◇◇◇



 貴族用地下牢――


 王城に近い施設にある地下牢にエリナは収監されていた。

 あの日、国王に自身の企みが明らかにされ、死罪を言い渡されてから刑が執行されるまで牢屋の中で震える日々を送っている。

 精神的にすっかり疲弊しているようで、頬はやつれ、目の下には隈ができている。

 貴族用とうたってはいるが、地下牢というのは日も届かず、湿気が多い。

 精神を疲弊していればやがて肉体を壊すのは時間の問題であろう。


 エリナのいる牢の前を人が移動する気配がする。

 近づいてくるにつれ足音も聞こえてくる。その足音はエリナのいる牢の前で止まった。

 次の瞬間ギィという重い音と共に牢の扉が開かれる。

 何かと思いエリナがその方向へと顔を向けると、


「エリナ!」

「……アレックス!」


 扉を開けてその場に立っていたのはアレックスであった。

 エリナは意外な人物の登場に驚きその名を呼んだ。


「ああ、エリナ、愛しのエリナ」


 アレックスはエリナに近づき、その体を抱きしめる。


「アレックス、助けに来てくれたの!?」


 エリナは驚きを隠せない。本来ここは王族であろうとも気軽に来れるような場所ではないのだ。もし面会が認められたとしても必ず監視のための見張りがつくことになっている。しかし、今ここにはアレックス1人だけで来たようだ。扉の向こうにも人がいる様子はない。


「ああ、そうだよ。エリナもう君を放さない」

「ああ、アレックス、有難う。早く逃げましょう。」


 どうやったのかは知らないが、アレックスはエリナを助けに来てくれたようだ。ならば警備の兵に見つかる前にここを逃げることを提案する。しかしアレックスは、


「何を言っているんだい? 逃げる必要なんてないんだエリナ」

「え?」


 エリナは何を言っているのかわからないといった風に首をかしげる。対照的にアレックスの顔には自信に満ち溢れていた。


「エリナ、僕はね、力を手に入れたんだ。圧倒的な力をね。この力を持って父上を見返すんだ。そうして僕がこの国の王になる。一緒に来てくれるね、エリナ」

「? どういう事、……今更そんなこと出来るわけないわ」

「大丈夫だ、エリナ。さあ、僕と一つになるんだ」

「ア、アレックス?」


 エリナにはアレックスの言っていることが理解できない。今更そのようなこと出来る筈がない。すでに男爵家は取つぶしとなりエリナは死罪となっている。アレックスも王位継承権を剥奪された。それらをひっくり返すなどどれほどの取引材料をもってしても出来ないだろう。

 アレックスは何を言っているのか? 私を助けに来てくれたのではないのか? と、エリナは必死に考える。


「さあ、エリナ」

「ひっ! ア、アレックス……な、なに?」


 瞬間、アレックスの瞳が黒く光り、闇が伸びてきた。アレックスの瞳はすべてが黒く染まり、エリナを抱きしめていた腕はエリナの肌と同化する。

 ズブズブとエリナの体がアレックスの体に沈んで行く。

 どんどんと沈んで行く体。初めてエリナはアレックスの異常に気が付いた。だが時すでに遅しである。 抱きしめられ密着していた体はアレックスに同化している。引き離そうとするも、まるでくっついているように――いや、実際にくっついているのだが――離れることができない。

 どんどん、どんどんとアレックスの体に沈んで行くエリナ。

 エリナは叫び、助けを呼ぼうとするが誰も来る気配がない。

 人間の体がまるで液体のように混ざり合い一つになっていく。


「い、嫌ぁ! な、何が……アレックス……止めて! た、助けて! 誰か! ……たす……たす…………た…………」


 やがて2人は混ざり合い一つになった。

シリアス! (`・ω・´)キリッ

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