102 お化粧
魔道具作りなどをしていたら早いもので、王様主催のパーティーの日となった。
すでに褒美については事前の打ち合わせで決まっており、アリシアさんは子爵位をカーマインさんは男爵位をもらうことになったらしい。
カーマインさんの方はいきなり貴族になるわけで、本人がかなり遠回りにお断りの姿勢を入れていたが、宰相に押し切られたようだ。(打ち合わせは宰相さんと行った)
さらにカーマインさんを近衛騎士か王宮侍女にという話もあったようだが、そちらはアリシアさんに仕えているということで何とか断ることができたようだ。
私達にも、男爵位をという提案があったのだがメリノ君の母親が「あら? 彼女たちは当家の騎士になったのですよ。オホホホ」と言うと、宰相さんが悔しそうな顔をしていた。その後「今からでも遅くありませんよ? 王家に仕える気はないですか?」と言ってきていたが。
何か宰相さんとメリノ君母――フラン夫人との間で視線によるやり取りがあった。
なお、騎士爵について詳しい説明をされたのはその時だったが、今更特に変える気もなかったのでフーカ公爵家の騎士でいいと言ったら宰相さんが残念がっていた。
結局、私たちへの褒美は、王様からのねぎらいの言葉と、王都の貴族街に拠点となる家(あわよくば王都に定住してほしいという意図がある)、いくらかの現金ということになった。
パーティー出席用の作法についてはフラン夫人によるレクチャーを受けて最低限の物は形にすることができた。
ちなみに一番時間がかかったのが私なのだが。……ティーアはともかくソレイユちゃんもものすごく物覚えがよく、1度教えられただけでマスターしてしまった。
正装もフラン夫人にコーディネートしてもらった。お金はあるので支払おうかと思ったがフラン夫人が「遠慮なんてしなくていいのよ」と言って払ってくれた。持つべきものは貴族の知り合いである。
なお、私たちはあくまで『迷宮を攻略した冒険者』として謁見するため、比較的シンプルな見た目のドレスとなっている。謁見するとはいえ、さすがに平民が他の貴族よりも豪華なものを身につけていくのはマズいと。(一応、騎士爵はもらったが名誉称号のため自分たちより下に見る貴族が多いのだとか)
ソレイユちゃんはフリルが多めで、可愛らしい感じだ。顔立ちも幼く可愛いので、結論、すごくかわいい。
ティーアは逆に色気のあるドレスという感じだな。といっても、貴族のパーティーなので足を必要以上に出すのはNGらしいが。その分胸元とかを強調するドレスを着ている。結論、美人だ。化粧も合わせて妖艶さがぐっと増したような気がする。これで中身が伴えば完璧と言えるだろう。前世の私であれば目を奪われるだろう。
ちなみに私は、髪の色もあり少し暗い色のドレスを着ている。年齢的には18歳なので可愛いよりは落ち着いた美人といったほうがいい。自分で言うのもなんだが今世の外見は整っている方だと思うので。
「ノ、ノワールさんお綺麗です!」
「ああ、有難う。メリノ君も……大人っぽい服装だな。うん、似合っているぞ。」
「ほ、本当ですか!」
メリノ君一緒に行くため、お化粧の終わった私達と面会したのだが、会ったとたんに褒めてくれた。うん、自分で言うのもなんですが高貴さが溢れている感じ? イケウーメン万歳(キラリン☆)
メリノ君はスーツ? タキシード? のような正装をしていていかにもお坊ちゃんといった感じだが、シックな色合いのスーツと淡い化粧によっていつもより少し大人びて見える。
私の横にはもじもじとするソレイユちゃんと、威風堂々とたたずむティーアが。メリノ君は2人の事も褒めてあげるのかな? と思っていたのだが、なかなか次の言葉が出ないらしい。なので、私から褒めておこう。
「ソレイユちゃんかわいいよ。」
「あ、ありがとうございます。ノワール様も素敵です」
ソレイユちゃんがはにかんだ笑顔を見せる。パーティー用にお化粧もしているので魅力が3割増し位になっている。いや普段のソレイユちゃんも十分可愛いのだが。
「ご主人様ぁ、私にはないのかしらぁ?」
「ティーアも……綺麗だな?」
「なぜ疑問形なのかしらぁ、でもありがとう。ご主人様も似合っているわよぉ……今晩はこの格好でし・な・い?」
バチコーン!(無言で尻をたたく)
「あふぅん♡」
パーティーは夕方から夜にかけて行われるらしく、午前中に準備をしてからの出発となった。
こういった場合にはパートナーがいる方が見栄えがいいのだろうが、メリノ君は決まった相手がいないのか、父親の代わりにフラン夫人をエスコートするらしい。
私たちは、個別に紹介される賓客――今回の主役なので特にエスコート役は居なくてもいいそうだ。アリシアさんやカーマインさんも二人だけで来るらしい(途中までは使用人がいるが)。アリシアさんの両親は招待客として別に会場入りしている。
「ノワールさん、ティーアさん、ソレイユさん、王城内ではくれぐれも注意を。安易な発言は避けていただくようお願いしますわね。」
「ええ、わかっております。」
フラン夫人からさんざん言われていたことを、王城に向かう馬車の中でもう一度確認される。いくら、私たちがフーカ公爵の後ろ盾を得たとしても、それでも功績やレベルなどからお近づきになろうという貴族は現れるだろうと。善意からや興味本位程度ならよいが、中には本気で引き抜き工作をしてくるものもいるかもしれない。そういった奴らには十分に注意するようにとのことだ。
といっても、ある程度知識にはあるがそう言った権力闘争には馴染みが無いので変な言質だけは取られないようにしよう。
「それと、ノワールさんはアイテムボックスを使えると聞いたのだけれど?」
「あ、はい、使えますが」
「そう、必要な物はアイテムボックスにしまっておかないようにね。王城では魔法が使えなくなるから、アイテムボックスも使えなくなるわよ」
「分かりました」
王城では魔法の使用を妨害する魔道具が使用されており魔法が使えなくなるらしい。まあ、確かに王城で魔法が使い放題となったらテロ対策とか大変だもんな。
王城内でも、簡単な魔法なら使用できるらしいが(一定出力以下の魔法)、それは火をおこしたり水を作ったりする魔法など生活に関する魔法を使用するためらしい。
その辺は生活の利便性との兼ね合いだろう。
あと王城でも宮廷魔法使いなどのいる個所はその魔道具の範囲外だそうな。彼らは魔法の訓練や研究をしているので、そこまで魔法禁止にしてしまったらいろいろ実害があるのだろう。
やがて、メリノ君や私たちを乗せた馬車が王城に到着した。
そこでメリノ君たちとは別れた。メリノ君は母親をエスコートして先に会場入り。私たちは待合室へ行き、パーティーの最中に王様から紹介されて会場入りするので。
◇◇◇
「あら、ノワール。早いですのね。」
「…………こんにちは、アリシアさん。今着いたのか?」
私達がメリノ君と別れた後、別室に案内され待機していると、部屋に誰か入ってきた。一瞬誰か分からなかったが、よく見るとアリシアさんとカーマインさんだった。
今日はさすがに貴族のパーティーということでお化粧&お洒落で少しの間分からなかった。
「……すごい……その、2人とも雰囲気替わったな」
「そうでしょう? まあ、私はあのアリシア・ショコラ・メープルローズですわよ。私の美しさにかかればこの程度のアイテムは着こなして見せますわよ。オホホホ」
「私には必要なかったのですが……」
アリシアさんは迷宮都市で会った際に着ていたドレスから3回り位ゴージャスになっている。キラッキラした宝石を埋め込んでいると思われるボタンや、レースがふんだんにあしらわれたスカート、二の腕まである手触りのよさそうな手袋、大きな宝石の付いたネックレスとすごい。いかにも金持ちの令嬢といった感じである。
イメージカラーはもちろん黄色だ。
ドレスも黄色をメインにしており他の色はアクセント程度しか使われていない。
顔はばっちりメイクしており、ダンジョンに潜っていた時とは肌の艶が違う。口紅も色合いがよく、一種の色気が出ている。
唯一変わらないのがその髪型だ。今日も今日とて冴え渡るドリルロール。とは言え、その鋭さはますます磨きがかかっており、髪の色艶と合わせて黄金の螺旋は一種の神器のようである。神をも殺せそうなドリルを持つその姿はさすが伯爵令嬢である。
一方のカーマインさんだがこちらは私たちと同じで比較的落ち着いた感じのドレスだ
これは新興貴族なので周囲に配慮しているためであろう。
ただ、それらを差し引いたとしても結構目立つ。イメージカラーは赤である。
現メイドの立ち振る舞いに対して、赤髪のショートカットに加え、ドレスも赤系統の色で統一しており、落ち着いた雰囲気と活発そうな雰囲気を同時に与えるという見た目となっている。
とはいえ、カーマインさんも美人でその上今日はお化粧までしているのでさらに磨きがかかっている。
アリシアさんに言われていた結婚相手なんかもその外見だけですぐに見つかりそうである。さらに今日をもって男爵にもなるため相手には困らないだろう。
「あなた方もなかなか似合っていますわよ。……髪が綺麗ですわね。」
「ああ、これか? 回復魔法の応用で髪質を整えたんだよ」
そう、私やソレイユちゃん、ティーアは今日、髪はサラッサラである。元の世界でキューティクルだのトリートメントだのと聞いたことはあったが、その際は男だったためそこまで気にしたことはなかった(ちょっとした整髪程度しか経験が無い)。
こちらの世界では髪用の洗剤――シャンプー等に変わるものは一応あるのだが質はイマイチだし、そもそも日頃あまりお手入れしていないのにいきなり良くなるわけがない(女性としてのお手入れは行っているが貴族が行うようなことはやっていない)。
というわけで何とかならないか……赤ちゃんの肌みたいに髪も新品なら良いんじゃね?……そうだ回復魔法で戻せないか?
ということでやってみたのだが、通常の怪我と髪の傷みは違うようでどうも最初の方はうまくいかなかったのだが、数度の試行錯誤で何とか『髪の傷みを回復させる』魔法という物が出来上がった。私スゲー!
ちなみに肌もその応用で古い角質を取り除きプルプルピカピカにしている。
「そうなの、私もやってほしいですわね。」
「……アリシアさんはその髪に合わせてコーディネートしてきたんだろ? さすがに今から髪だけ変わると微細な変化でも合わなくなるんじゃないか?」
「たしかに……残念ですわ。」
「それに、アリシアさんはダンジョンに潜っていたときならともかく、今はちゃんとケアできているんだろう? なら問題ない。」
「そう……ああ、遅れて申し訳ないのだけれど、皆さんドレスも似合っていてよ。色選びのチョイスがいいわね。……私としてはもう少し派手でもいいと思うのだけれど。」
「あ、ありがとうございます」
「うふ、ありがとう」
「ありがとう。まあそのあたりはメリノ君の家の人のセンスだけれどね。ティーアなんかはともかく私はドレスなど今まで着たことが無いしね。」
「あら、ご主人様ぁ。私も結構久しぶりなのよ。それに人間の間の流行りは知らないしねぇ」
そうなの? でもティーア普通にオシャレしてるじゃん……
和気藹々キャッキャとお喋りしていると、部屋の扉がノックされた。
「はい、どなたかしら?」
入ってきたのは、私たちをこの部屋に案内してくれた執事っぽい人だった。
「失礼いたします。もう間もなく陛下よりご紹介がありますのでご準備願います。」
「あら、そうなの。では皆さん行きましょうか」
執事の人の案内でアリシアさんを先頭に私たちはパーティー会場に向かって行った。
今更ながらパーティーで褒美を渡すって変じゃね? と思い始めてきました
でも修正せずコレで行きます