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101 魔道具

お……遅くなりました。

 さて皆さん、お忘れかもしれませんが、私には〈魔道具技師〉と言うスキルがあります。これは、魔道具の作成においてその技術を上昇させるものであるのですが。

他にも〈鍛冶〉〈細工師〉なども持っています。


 ……この口調に違和感があるな、戻そう。


 王様のパーティーは準備や参加貴族の調整などで10日程度かかるらしいので、その間のスケジュールだが魔道具について勉強していこうと思う。


 魔道具というのは魔法の効果を道具を使って代替するという物だ。基本的に魔道具は魔石やその周囲の構成部品に魔法陣や魔法言語などを刻んでそこに魔力を流し魔法を発動させるという物であるが、レーザー加工技術や旋盤などない今日、それはほぼすべて手作業で行われる。そしてその刻む魔法陣などはシビアな精度を求められウンヌンカンヌン……

 とにかく、魔道具を作るには非常に高度な技術――職人としての手先の精度と魔法使いとしての魔力制御技術などが必要になってくるため、作れる人は非常に少ない。

 そのことが価格の高騰を招いていたりする。さらに材料費やデザイン料など加わるため非常に高価な品となっている。


 ティーアもネックレス型の魔道具を装備している。効果はバリア的な機能だがその性能は擦過傷やひっかき傷程度しか防げない。これは腕や足などが露出する服を着ている関係で購入したもので別に戦闘での防御を考えているわけではない。そして、その程度のしょぼい効果のものでもそれなりに高い。


 さて私、〈魔道具技師〉スキルLv10なので大抵の物は作れるんじゃないかと思っていたが……

 技術力はあったし、完成品に刻んである魔法陣を見れば効果は分かるんだが、「こういった物を作りたい」と思った際、じゃあどんな魔法陣を刻めばいいのかというのは勉強しなければならなかった。


 古代魔道具(アーティファクト)を除く、現在の人間に作れる魔道具のバリエーションというのは実はそんなに多くない。基礎さえ押さえれば、覚えることはそれほどなかった。さらに生まれ変わった際に18歳になったせいか、今の体は物覚えがいいので1週間ほどで基礎となる魔法陣及び魔法言語などを学び終わった。それにもし忘れても本を見ればすぐに思い出すだろう。

 各種応用については各魔道具作成者が秘匿しており、試行錯誤が必要だろうが。


 そして、魔道具に関する基礎技術の描かれた本だが、メリノ君が買ってくれた……

 私が「魔道具作りたいなー」とか呟いているとそれをどこからか聞きつけ買ってくれた。ちょろいぞメリノ君。君の将来が心配になりそうだ。

 メリノ君は以前からの交流を通して弟みたいに思っている。素直だしな。いい奴だよ。まあ相手は公爵家子息なので私が勝手に思っているだけだが。




「おう、メリノ君! 今から風呂か? 一緒に入るか?」

「い、いいです! ひ、一人で入れますー!」


 夜、メリノ君とすれ違った際に声をかけたのだが真っ赤になって逃げて行った。

フッ、もう思春期に入ったのか? 「お風呂は一人で入る」的な。

 まあ、年齢的に小学校高学年だもんな。そんなもんか。「姉ちゃんと一緒に風呂入ってんのダセー」とかからかわれる歳なのかな。

 裸の付き合いはまた今度にしておくか。


 ちなみに、この屋敷にも風呂は完備されている。しかも湯沸しの魔道具付である。私たちもお客様ということで使用することができる。

 すごいぞ貴族。さすがだ貴族。

 ちなみに私は前世でもあまりお風呂にこだわったりする性格ではなかったので、こちらの世界でもなんとかやれている。さすがに寒い日に冷水で水浴びはキツイが、お湯で体を拭くだけでも割とさっぱりできる性格だったようだ。とはいえ、たまには湯船にのびのびと浸かりたい。そういった意味でメリノ君家は非常に居心地が良い。




 魔道具の実践を行う。

 まずは初めてなので、1㎝程度の小さい魔石を買ってきて円盤状(片側は円錐状になるように)に加工、そこに魔法陣を刻んで行く。

 魔石は「石」と付くように加工方法は石に近く、金属のような粘り気が無く割れやすい。

 円盤状に加工するのはそこまで難しくは無い。最初だし真円にする必要はない。まあ、正確であればその方がいいのだが。

 その後、ちょっとずつちょっとずつ魔力をレーザーみたいに照射して魔法陣を刻んで行く。

 これのヤバイ所は、あまり細かくしすぎると文字が潰れてしまったり、魔石が欠けたりするところ。だからと言って大きくすればいいというわけでもないが。それに線の太さも均一にしなければならないという非常に精度が必要になる。

 そしてやり直しがきかない。ちょっとでもミスれば買ってきた魔石ごとパーになる。

 そのため繊細な魔力制御が必要になる。


 そうして出来上がったのが、


「なんですかこれ?」

「ブローチか何かの飾りかしらぁ?」

「でも尖ってますよ?」


 ティーアとソレイユ、それにメリノ君たちに見せた最初の反応だ。まあこれだけでは分からないだろうな。


「まあ、待ちなさい」


 そう言い、加工した魔石に魔力を流すとくるくると回り出す。そうしてスピードが上がっていくと、円錐状の先の部分を起点に自立するようになる。

 そう「コマ」である。

 刻んだ魔法陣は単純に「回転する」という単純なものであるが。


「わぁ、立ちましたよ」

「回ってるわねぇ」

「えっと……回してどうするんですか?」

「別に? これはこうやって魔力を流して遊ぶものだからな。そもそも最初だしそんな難しいものは作らないよ」


 別に最初からそんな高度なものを作ろうなんて思っていない。最初だし、ちゃんと作れるか試しただけだ。

 まあこの回転というのがミソだ。たぶんこれを大きくすれば、モーターみたいなことができるんじゃないかと思っていた。最初にこれを選んだのもそのためだ。


 結果は成功。


 このまま進化させれば、これをタイヤに応用し魔力で動く自動車なんかも作れるかもしれないという野望があったりする。


 あと、銃火器なんかも憧れる。ゆくゆくは作ってみたい。男の子の憧れだよね(今女だけれど)

このようなファンタジー世界――レベルによって防御力が上がってゆく世界で銃など意味があるのかと思うかもしれないが、十分にある。厳密にはレベルが上がるにつれ、決まった威力しか出せない銃は徐々に効果が無くなっていくのだが、それでも生物の肉体というのは案外脆いモノである。正直、拳銃弾ですら生身で受け止めるには最低でもLv200ぐらいは必要となってくる。そのため、Lv50以下が大多数を占めるこの世界において銃火器の有用性というのは元の世界とあまり変わらない。それに効果が無ければより威力の高い『砲』を使用すればいいのだし。現代の主力戦車砲であれば仮にLv1000であっても生身で防ぐのは困難だ。

 というわけで、銃火器の作成も野望の一つに入れておこう。




 ちなみに皆、普通に見ているが、先ほどのコマの作成だけでもすごい事である。魔道具は効果が低くても加工できる職人がいるというだけで独立して店舗を持てるぐらい希少であり、そして儲かるのだ。しかもノワールは1週間の勉強でいきなり1㎝の円の中に魔法陣を描いて成功させたのだから、その腕は人外レベルと呼んでも差し支えない。これを知る工房があれば「ぜひうちに!」とスカウト合戦が繰り広げられる程度にすごい。



 ◇◇◇



 ギルドに頼んでいた解体が終わった――わけではないが、詳細な査定が終わったという連絡を受けて、ギルドに向かうことになった。

 昼食が終わって間もない時間帯。ギルドの解体場に来るように連絡を受けた。

 はて、解体は別の場所でやっていたはずだが?



「おや、アリシアさん。久しぶり、と言うほどでもないか。」

「あら、ノワール。あなた達も呼ばれていましたの?」

「ああ」


 ギルド横の解体場にはギルドマスター他、アリシアさんとカーマインさん、それに使用人と思われる人たちも一緒にいた。たぶんアリシアさんの取り分を運ぶ人たちだろう。


「おう、きたね。あんたらの取り分はそっちにまとめてある」


 そう言って、ギルドマスターが指した先にはこんもりと山になった肉塊が……これがドラゴン3匹分の肉か。

 生肉を屋外放置ってやばくない? 一応下には藁のようなものが敷いてあるみたいだが

 まあ、すぐにアイテムボックス行で、食べるときは焼くからいいんだけどさ。

 アリシアさんの取り分も同じ場所にあるようで、呼ばれていたアリシアさんが今1m四方近くあるドラゴンの逆鱗を持ち上げてまじまじと見ている。剥製にすると言っていたやつはすでに加工するための専門店に持ち込んでちょうど今現在加工中らしい。

 メリノ君へのお土産分の竜の牙とかもちゃんとある。切断面もちゃんと綺麗にしてあるしこのまま壁に飾っても映えるだろう。大きめの鱗なんかはお皿を立てるヤツで飾ると見栄えがいいかもしれない。


 そうして私たちの取り分は私がアイテムボックスへ、アリシアさんたちの分は一緒に来ていたアリシアさんの家の使用人やカーマインさんが外に乗りつけてある荷馬車に運んでいっている。


 素材分の代金については私達3人で分配していいという事なので、アリシアさん達とは解体場で顔を合わせ多少話をした程度で別れた。



 その後、ギルドへと案内され応接室と思しき部屋に通される。

机に着くと早速明細書を渡される。

 今回も同じくすぐに現金を用意できないので、ギルド側に預けてあるという体裁をとる。


 あと、ギルドホールを通る際に掲示板を見たが、そこに迷宮攻略者として私たちの名前と似顔絵がでかでかと貼られていた。あと迷宮に関する詳細なども書いてあった。

 もともとアリシアさんなどは名前を売る目的で潜ったからいいんだけれど、似顔絵なんていつ描いたんだろうか? なお、白黒ではあるが非常に正確に描写できていたと思う。

 今も何人かがその掲示板の前にいて、「へースゲーな」「おいおい、女ばかりじゃねえか」「俺のパーティーが一番に攻略するはずだったのに!」とか言っている。それに、併設された酒場で飲んでいる人たちが、私たちに気付いてヒソヒソと話したりしている。「おい、お前声かけてこいよ」「え、俺っすか!?」とか聞こえてくる。


 ここ数日で私たちも迷宮都市限定ではあるが結構有名になった。

 迷宮攻略者が出たという事や、最下層までの地図が出回り始めたことで、迷宮都市ギルドも活気づいたらしい。実際ここ数日の間に40階層以下に潜る予定のパーティーがいくつか出てきたり、深階層に潜るための準備に走り回ったりするパーティーがいたりと、わりと騒がしいそうだ。

 ただ、迷宮攻略を行ったのが年頃の女性ばかり、しかも全員美人ということでギルドのヤラセを疑う人達もいるそうだ。



 そのようなギルドのホールを通り会議室に通される。

 以前と同じ会議室だが、今回は部屋の中に私たちとギルドマスター、会計の人の5人のためわりとゆったりとしている。前回など10人を超える人が集まっていたからな。


「ほら、これが今回の明細だ。以前も言ったが現金は用意できていないから、急に全額欲しいとか言うなよ」


 そうして今回も明細書を各人に配られる。

 明細書に書かれていた素材の買い取り金額なんと計67億6500万フラム!

 一人当たり22億5500万フラムか

 なるほど以前の魔石分と合わせると――


「私の貯金いくらあると思っているの? ……35億!」(振り向きながらキメポーズ)


 …………

 まあ、ソファーに座っていたので振り返っても誰もいないんだけど


「ご主人様は何を言っているのかしらぁ?」

「えっと、私たちのために計算してくれたんじゃないでしょうか?」


 まあ、異世界だしな。

 とにかく私達個人の貯金は一人当たり35億フラムとなったわけだ。

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